勇者と魔法使い
「そんな......」
「どうしました?
トンデモ食材でも見つけましたか?」
良からぬ事態に怪訝そうにする勇者に対して
魔法使いはあまりにも呑気であった。
手には怪しげなキノコやら薬草が抱えられている
「野宿となったらやっぱり私の解析魔法ですよねぇ~
精度はご安心ください!
運が悪くてもお腹下すだけなんでね」
得意げにしているが
一般の解析魔法は一切の危険因子を見抜くため、
運が悪ければ、などということはない
つまりアメルはこの魔法に関してまだ未熟であることは確かだった。
ただ、そんなことよりも勇者の興味は
探っている気配にあった。
彼女の気配察知は見事に魔法使いとの合流を成就させたが、
これは人気の無い上にアメルがのんびりとしていたが故にの成功であった。
高速で動く者に対しては精密な方向を読みづらくなり、
しまいには北か南か、東か西か程度にしか認識出来なくなる。
「かなりのスピードで移動している......
それに不可解なのがウィンの気配の近くにいたもう一つの存在...
あの人のはずだけど...性質が変わった......?」
「お、これは生でもいけそうですね!
ん~、でも良いとこ育ちのアタシとしては、ちょいと調理したいですかね...」
「アメル」
勇者と二人きりの時は途端に気が抜ける魔法使いの名が
真剣に呼ばれる。
「なんですか~?」
「あまり自然に囲まれてこなかったから貴重な体験に浮かれるのは分かりますが、
緊張感を持たざるをえない状況になってきています」
「......ああ! ええ、気を引き締めますとも!」
持っていたものを辺りに散らかして姿勢を良くした。
保護者に連れられて張り切る子供っぽさしか感じられない
「彼らとの合流まで食材を集めながらゆっくり向かうことは叶わなくなりました。
今彼らは移動しています、かなりの速度で」
「え!? もう~、本当に勝手な奴らですね......」
「何か事情があったに違いありません。
ウィンの気配が弱くなっているように感じることも気になります......」
気配の縮小・消失が生命の危機に瀕することで生じる現象であることは
アメルも知っていた。
ここでようやく緊迫した事態を彼女も飲み込みつつあった。
「そ、それならアタシの魔法で飛ばして行きましょう!
自分と姉さまくらいの軽さなら、そこそこのスピードも出せるはずです」
ふんわりと二人の体が浮かぶ。
魔法使いのローブがなめらかに靡く。
杖に付いた透明度の高い黄土色の水晶型鉱石・トパズの光度も高まる。
少しの魔力を通すだけで辺りを広範囲に渡って優しく照らす優れもの。
「これだけ明るければ気配察知できない物も目視で
避けながら高速でもいけそうですね!」
「はい、とりあえずこのまま進行方向にお願いします」
森はひんやりとしている。
それも夜中を高速で移動するとなれば涼しい、
という心地よさでは済まない寒さを含んだ風が吹き付ける。
そんな体全身を包む冷たさに触れてか、
アイリスは自身の成り行きを内心案じていた。
彼女は自分の体を労わるかのように摩った。
「速度落としましょうか?
やっぱり冷えますね、夜の森は特に」
「あ、いえ.....大丈夫です」
姉と仰ぐ勇者への心遣いにおいてアメルは鈍感ではなかった。
元気のない様子はすぐに察した。
「何か...悩み事でも?」
話すか話すまいか、
少しの間思案した後にアイリスは打ち明けることにした。




