村先案内人・3
「アメル、アイリスを守るような形で」
「ええ、分かってる」
アイリスを挟むような形で背中合わせに周囲の密林を睨む。
より色彩と暗さを増した森は、
先ほどの人の通る道近くの獣道での不気味さを
優に超えている
どこから何が出てきてもおかしくない
「敵のことは分かりますか?
数や進行速度、向かって来てる方向とか...」
「数は10を超えてます、それもかなりの速度で。
更に方向は――」
ガサッ
答えを示すように自分から左の奥の方で音がした
かと思いきや右からも同様の音がする。
「全方向から、つまり包囲されています」
ご紹介に預かった通りに敵はその姿を現した。
律儀に全員が同時のタイミングで登場した
誰かが統率を取っているのかような動きだ
そして全貌を露わにした敵はどいつもこいつもが
まさにここ一帯の住人であることが分かるような容姿をしている。
目を離すと見失うような色をした体毛の獣に、
植物でありながら意志を持って動く化け物、
おまけに人間の部族のような大型の猿までいる。
その全てが人外且つこの世界ではない、
魔界なるものから来たものだと簡単に推測がついた
なんせ俺の幼き頃の愛読書『魔界生物全巻』で見た、
酷似しているものばかりだからだ。
「何だか気味悪いわね......この世の者とは思えない」
「その認識で間違いないかと...
彼らは異界の者に近い気配だと今、ハッキリ分かりました」
勇者が剣を引き抜く、
それは敵を魔族として捉えた証だ
「ということは容赦なくやって良いですか?」
いつになく殺る気満々な様子のこちらに
アイリスは少し驚いた。
自分でも変に意欲が湧いているのが不思議なくらいだ
「元々はただの動物であったりするものが異様な変化を加えられている可能性はある。
貴方のご友人もそうであったように、出来る限り無力化の方針で行きましょう。
アメル、準備は良いですか?」
「はい! もう、取り乱したりしませんから!」
アメルが俺に向かっている様な口ぶりを意にも介さず
肩を落として臨戦態勢に入る。
何をげんなりしているのか自分でも分からない。
特に今の所魔族に対する直接的な恨みがある訳でも無いのに
「!? 何か大きな気配がこちらに来ます!」
上の空になり始めた意識が警告によって我に返る、
彼女の指差した方から確かに大型の何かがやって来る。
今度は森の仲間達を引き連れて大魔女でも出てくるのか
そう心は身構えるも、あまり身体の方は緊張していないようだ
「ンン~...オマエラ オデヲオイテイクノ ヨクナイ」
話す言葉は異界のものかと思ったが
よく聞けばこちらの世界のものだ
「オオ ニンゲンミツケタカ カンシンカンシン」
満足げに唸りながら
人間の大男より一回りほど大きなオークか、はたまたオーガが現れた。
「ソレ二 イキノヨソウナヤツラ ウレシイウレシイ」
言葉通り上機嫌である内に観察してみると
体格は腹などがだらしないようでいて腕などは筋肉質、
顔辺りはオーク特有の牙とオーガによく見られる角を生やしている。
見れば見るほど判別が着かない
また不可解な事態は
「こいつさっきから何言ってるのか分からないけど、
早くぶっ倒した方が良いみたいね」
「彼らと私たちの言語は違います。
交渉は難しいでしょう」
彼女らの発言によって謎が深まっていく。
何で俺だけアイツの言葉が分かるんだ?




