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解呪

表情の見えない彼女が何を思ってそんな剣をかざすのか


突如の事態に俺は半分パニック状態で声を上げた


「アイリス、何を......!」


それも届かず

一切振り向くことも止まる事もなく

剣は振り下ろされた。


目を逸らすようなところを

顔も瞼も固定されたかのように一部始終を見届けた


剣は明らかに胴体を両断するが如くに

一閃した。


ただ普通の刃と違って勇者の持つ剣の刀身は鞘の他に

その動きを留めることは出来ない


胴体にも地面もすり抜けて

すぐに刀身は地から抜き出た


地面も切る事のないものだが

アレが斬るものは実体のあるものよりも、

悪そのものだ


悪に塗れた魔族は触れるだけでも浄化され、

善良なる者に宿る一抹の悪しき部分を取り除く。


我が友人は変わり果てた先に前者であるか、

未だ後者で踏みとどまっているか


アイリスが剣を鞘に収めるまでの間、

緊張が時の経過を遅らせた


ラッテよ、戻ってこい......!


「がああッ!!」


奇怪な叫びを上げて跳ね起きた友人に

俺が拳を

アイリスが剣を

アメルが杖を構えて


場は一旦制止した。


両腕を天に向かって突き上げて

顔も口を開けたまま、上を向いたまま


ピタッと止まっている


何が起こっているのか一瞬仲間達を見たが

誰も今の状況に動揺を隠しきれていない


そしてラッテに目を移した時、


目が合った。


「......ん?

 おお! ウィンじゃないか! なんたってこんなところで――」


俺は訳も分からず構えた拳で友人を攻撃した


吹っ飛んだ男はゴロゴロと転がっていった



「...え、今意識回復してなかった?

 アタシの気のせい? 何で殴ったの? ねえ、誰か答えて」


「......私も彼が言葉を話していたように思うのですが...?」


無言で疑問に頭を埋め尽くされる二人を残して

ゆっくりと歩み寄る


「い、いってぇ......なんだぁ?」


とぼけたように起き上がる男の俺は胸倉を乱暴にひっつかんだ


「......お前、ラッテか?」


その問いは最後の確認だ、

そんな深刻さを込めたこちらの表情とは正反対に

間抜けな顔をした男は


「ああ、そうだよ。 お前どうした――」


返ってきた答えに

帰ってきた友人に熱い抱擁を交わした


「馬鹿野郎!! 心配かけやがって!」


「いだだだだだ!! 痛いィィィ!!」


拷問のようなホールドに仲間が止めに入る。



「落ち着いてください、ウィン!

 私がアメルにした過ちを貴方も繰り返している!」


「そうよ!

 さっさと、離れなさいっての!! アンタの力強すぎ!」



必死の説得と介入によって数分掛かって暑苦しい再会の余韻は解かれた


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