始動
「二人とも準備は良いですか?」
朝を迎え、身支度を終えるとアイリスは今一度確認をしてくる。
おそらく心の方だろう
やっと帰って来れたスタート地点、
俺が囚われアメルが逃げ出し
二度も引き延ばされることになってしまったが
決意は変わらない。
そして何より
「申し訳ないです。
俺が、悪いことした訳ではないけど...捕まって遅くなってしまって」
「アタシもです。
もう逃げることはしません」
まずは謝罪だ。
先を急ぐ旅でありながらリーダーに落ち度はなく、
それ以外のメンバーの不始末で遅れを出してしまった事は
まずアイリスに謝るべきだ
「仕方ないです。
ウィンは思いもしない捕縛を受けて辛い思いをした、
アメルは私の隠し事によって悲しい思いをした......
どちらも責任を感じる必要はありません。
むしろ私が感じるべきだ」
真剣な眼差しを受けて俺達は首を横に振る。
励ますように彼女は少し笑った
「元々少しの時間の余裕を作っての計画でしたから
これから大急ぎで頑張って、
3人で一致団結すればきっと皆を救えるはずです」
その激励に今度は首を縦に振った。
しかと承った、とばかりに目線を合わしながら
アイリスは俺とアメルの顔をそれぞれジッと見ると
前を向いた。
その背中についていく
そして俺は初めての都会というものを焼き付けながら歩く。
また来るか分からないこの地で
人々が多く集う賑わいの声、
見たこともないようなものを売ってる店、
村では考えられないような立派な建造物など
様々な初めてを五感に刻み込んでいく
気付けば前回と同じ、くぐりそびれたポピーラの出口の東ゲートだ。
俺が憲兵に聞いた南東に位置する山に住む不思議な婆さんの話はアイリスにしてある、
ルートとしてもそこまで大きく外れている訳ではないから寄ってくれることになった
ここから東に進みながら南の方角を目指せば山脈に近付く。
情報は漠然、探索は多くの時間を必要とするならば
かなり後回しにされるが......
今に助けを必要としている人と自分の過去のことなど天秤に掛けるまでもない、
俺の方は急がなくても良い
...もしかしたら自力で、思い出せる日が来るかもしれないのだから
新たに気持ちが引き締まる想いで一息吐く、
そしてアメルの手を握る
「え......?」
「ふっ...また逃げ出すかもしれないだろ?」
「もう逃げないって言ってるでしょ」
握り返す力に意志の強さを感じると
手を放した。
「さあ......」
遂にその時が来た
門をくぐる。
上には防柵が見える、
あれが夜には下ろされて怪しげな部外者を追い払うのだろう
その先の外へと今、
足を踏み入れた
「始まるのか......」
呟いてしみじみと冒険の幕開けを感じた。
未だに人が多く出入りする道にいるために、
まだ雰囲気を引きずってはいるが
遠くに見える森や山々は完全に今街の外に出たことを実感させた。
村の近くの森でさえ未知の領域に溢れているのに、
これからどれだけの未知と出会うのだろう
旅立ちの前の緊張は
高揚へと変わっていた
閲覧ありがとうございました。




