蠟燭の火が揺れる部屋で・5
しばらくの間お互いだんまりの時間が続いた。
頃合いを見て話し掛けるべきか、
もう先導するような気持ちで寝るべきか、
そんなことを考えていたら
いつの間にかアメルは泣き止んでいた。
恵まれた環境に生まれ、
いつしか独りで旅をして
その道中に新たな発見や素敵な出会いを通して
初めて彼女は挫折を知った。
だからこそ涙を流すようなことなど
今に至るまで何度あったことだろうか
自分のやってきたことに向き合って
反省したり後悔しているのを止める必要はないはずだ。
本来一人の部屋で様々な葛藤をして忍び泣くところを
たまたま二人部屋になってしまっただけのこと、
反対に誰かに想いを吐露出来て楽になってくれてれば良い。
そういった思いやりから何も言うまい、としていたが
何かアクションを起こしてやるべきなのだろうか...?
「ごめん、話を中断させちゃって......」
目元を腕で擦りながらアメルが沈黙を破った。
「そう......それで当てもなくアジトに向かったって
さっきは行ったけど、少しは目的意識があった」
一瞬目線が合ったが
泣いた後の顔を見せるのが恥ずかしいのか顔を逸らした
「走りながら抱いたのは、このままじゃどこにも居場所を失ってしまう恐怖。
だから一旦アジトまで帰ってから気持ちの整理を付けたかった。
当然ラスケルの方は門前払い...あるいは裏切りの報復をされる可能性もあった、
でもそれでも良かった...少しでも暴れて気分が晴れる上に
こんな危ない集団を野放しにするくらいなら、敢えて大騒ぎにして憲兵さんとかに
知らせようって......傍迷惑にも考え付いた」
相変わらず体格に似合わず、行動は豪快だ
「でも意外にも穏便にアタシは受け入れられた。
それはアンタが戦った...マーガって人が出迎えてくれたから、
アタシの気配をいち早く察知して待っててくれてた......」
「......親し気に呼んでたよな」
「......うん」
アメルにとっては姉貴のように感じていたのだろう、
最後は豹変した姿を見せていたが
それまでは仲間として、妹のような扱いで俺から守ろうとしていた
「アタシが裏切るような発言をしたことであの人は態度がガラッと変わっちゃったけど...
仲間想いの人だったんだと思う。
最初は冷たい態度を取られることもあったけど、
次第にあっちから歩み寄ってくれた。
だからこそ独りになってた時に優しくされたから......
一暴れしようなんて考え...フフッ、ちょっと無くなっちゃてさ」
自嘲気味に彼女は眉をひそめて笑った
「どうしたら良いか......分からなくなっちゃってた。
本来あそこには学びたい魔法があるから入ってただけ...
いつかは悪事の限りを尽くすなら、あんな集団にいちゃいけない...
いえ、止める側に回らなきゃいけないはずだよね......でも」
肩を落とした。
ただ今は一度泣いただけにリラックスして話せてるみたいだ
「一番傍にいたい、と思った......輝かしい人の隣にはもうアンタがいる。
あの人も伝説の勇者だとか、英雄だとか祭り上げられて孤独に感じていたのを
解消して上げる存在は...もう別にアタシじゃなくても良いって
卑屈にも思って、それならこのままいっそのこと......」
「お前がそっちを選ばなくて本当に良かった」
紡ごうとした言葉に詰まっている時に
察して言わずにはいれなかった。
きっとアメルは、ヤケになって俺達の敵側に回ることも考えていたはずだ
「......うん、そうだね...って言えたら良かったのに」
「え......?」
意味深な語りに身を乗り出す。
「どういう...ことだ?」
「正直に言うと」
彼女はゆっくりと指先を俺に向けた。
「アタシの意志で迷いを断ち切ったんじゃない。
ウィン、アンタが来てくれたからよ」
柔らかな笑みをたたえて
俺と目線を交わした。
「部屋に入ってこようとしてたじゃない、
その後アタシを連れ出そうとした。
覚えてるでしょ?」
「え、ああ...でもあの時お前は――」
「抵抗したのはアンタが幻でもなんでもなく来てくれたことが......
その、嬉しかったっていうか、恥ずかしくてというか...
と、とにかくこのままじゃ帰れないって思ったからよ」
またプイっとそっぽを向かれたが
今度は照れ隠しだ
「それにしても分かりづらかったぞ、お前?
本当に家には帰らない家出少女そのものの感じで嫌がられもんだから
帰ってくる気はないのかと...」
「だってそうでもしなきゃ、
アタシを子供みたいに肩に乗っけて連れてくつもりだったじゃない...」
言われてみれば話も聞かず強引ではあったかもしれない。
ただあの時は...
「時間も無かったからな。 それに隣の大部屋じゃ大乱闘中なんだから
今が好機、とも捉えるだろ~......と考えてみると」
「ん?」
「俺がぶっ飛ばされた後にアメルが大勢に向かって宣戦布告したのが......
お前なりの反省からの行動ってこと?」
「......」
今度はうな垂れて髪に隠れるまで下を向いてしまった
明らかな反応だ
「う~ん、まあ結構頑張ってたじゃないか。
自信家の割には泣いてたけど」
「!!」
覆いかぶせるように飛び掛かってきたのを抱きとめる
「蒸し返すんじゃないわよ!」
「ハッハッハ...いや、ホントに勇気ある行動だったよ」
ゆっくりと華奢な体を降ろした
「ふん...どうせ、泣き虫だとか思ってるんでしょ」
「今日だけ、だろ? 明日からも泣き上戸でいるのはお前の性に合わないだろうし」
「......当たり前よ」
泣いたり怒ったりで、
アメルの顔は赤くなりっぱなしだ。
逃げ出してしまったことも、
ラスケルにいた理由も分かった
後はもうゆっくり寝かしてあげよう
なんせ...
「明日から3人での旅が始まるんだ、お互いスッキリしたことだし
もう寝よう」
「...そうね」
やっとベッドに楽な姿勢で倒れると
一気に眠気が帰ってきた。
ふかふかな感触が
心地よい安眠の世界へといざなう
そうして緩み切った気分に
「今日はありがとう......おやすみ」
隣人からの感謝と就寝の挨拶を聞いて
笑顔で瞼を閉じた
「どういたしまして、おやすみ」




