蠟燭の火が揺れる部屋で・3
ただ表情は徐々に曇り始める。
「あの時は十分過ぎる力を持ってると......自信過剰になってた。
それで少しでもギルドに入って粗方手頃な討伐クエストなんかで
自身の実力を確かめると共に金を稼いだ...
あの時はあの時で充実してたかもね、でも」
姿勢を戻しながら彼女の吐く息は長かった
「この街に行き着いて、たまたま強盗か何かに出くわして軽く戦闘になったのよ。
結果は当然アタシの勝ちだったんだけど、敵であり小悪党であるコソ泥にしては
使う魔法が見たことの無いような珍しいものだった......
だから敢えてそいつをあと一歩で取り逃がしたフリをして、
後を追いかけた...すると」
「たどり着いたわけだな? 地下に」
こちらの相槌に小さく何度も頷いた。
「うん、まさかこんな大きな街の真下にアジトがあるとは驚いたわ。
それで好奇心に駆られて尾行してたのも忘れてドンドンと奥へ、
そしたらボス...アイツに出会った」
「巨人の大魔女?」
「フフッ、人間よアイツは。
巨大化の魔法を掛けてただけだったと思うわ」
「自前じゃなかったのか......まあ考えれば、普通そうだよな」
しかし、そこで引っ掛かる部分があった
「でもさぁ、アイツは俺が完全に気絶まで追い込んだけど
人間を超えたサイズのままだったぞ?」
アメルは驚いた表情をした
「本当? へぇ...やっぱり凄い人だったんだなぁ」
「何が凄いんだ?」
「術者の意識無しに効果を発揮する魔法なんて聞いたことないもの。
見た目はああだけど、ズイはかなりの芸達者だったのよ
それを始めて会ったオーラの質から感じてはいたけど......
まさか、そこまでとは予想してなかった」
脱線しかけていることに
気付いて一言挟む
「それで、何でソイツの弟子になろうなって思ったんだ?
いくら興味のある分野のスペシャリストとは言え、相手は悪の親玉だぜ?」
「まあ、そうだけど......
当時のアタシにとっては自分が捕まるようなことが無ければ、
得られるものがあるなら多少の善悪には関心が無かったってところね」
「えぇ......」
流石は悪の傘下にいた過去を持つだけあって
清楚に見えても性根は...
といった軽蔑の念を込めて目を細めた
「な、何よ、その顔は...
別にアタシはそれ以前までにも悪いことしてないし、
せ、正義のスパイとして潜入してたもの! わ、悪い!?」
「ああ、はいはい。
話を続けて、続けて」
どうせ今に取り繕ったものであることは分かる、
年頃の女が悪い男に惹かれるようなものだと
年相応の対応を見せた
「うぅ...本当に心まで奴らに染まった訳じゃないわよ......」
このままでは繊細な魔法使いちゃんはいじけてしまう、
話題のリードで気分を変える
「それにしてもよく潜り込めたな、ラスケル...?
とかいうのに」
「え、えぇ、そうよ。
ズイもアタシの才能を見抜いて立派に外面だけは仲間になったわ、
アタシの真の意図は見抜けなかったみたいだけど!」
あくまで、その前提で推してくることにこちらも乗った
「ほんでスパイ活動にあたり、得られるものはあったのか?」
「それはもう、得るというよりかは盗んでやったわ!
異質な魔法という魔法をね!
他にもアイツらが『力』というものに執着してることとか色々な情報も」
そのフレーズに思い出すのは
狂ったように力に憑かれていたならず者たち、
地下に共鳴して響く叫び。
魔王が率いたとされる、人外の魔族は見たことはないが
奴らを形容するなら人間ではなく、
それに近いだろう
「どいつもこいつも、たかが外れてたわ。
そんな連中が更に数を増す出来事が起こった、
それが
勇者の登場、もとい魔王の敗北」
気付いた、
大魔女は言っていた。
戦争時には従軍としての役目を担えた前科者ども、
奴らが流入してきたんだ、と。
閲覧ありがとうございました。




