表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/227

浄化の剣

良かったらブックマークなど宜しくお願い致します。

「うわああッ!!」


悲鳴を上げてさっきまでの戦いぶりからは考えられないような

情けない声が出た。


身体を引いて腹部を探る。

一体どれだけの傷を入れられたのか......!


そう手で貫かれた部分を触っているはずだが先ほどから血も流れなければ

痛みも傷もない。

伝説の剣だけあって不思議な効果でもあるのか?


狼狽し混乱する俺に勇者は


「やはり、ですか」


納得した風に立ちながら呟いた。


「何がですか!?」


俺は動揺で大きく出てしまう声を止められなかった。


「見ててください」


そう言って彼女は自分の身体に剣を突き立てた。

悲鳴が声から出そうになったが

よく見るとおかしな現象が起きているのが分かる。


完全に剣の顎まで刺さっているはずなのに鎧を貫いた音も様子もない


そしてそのまま剣を上に振ったが

彼女の身体は裂かれるどころか何もなっていない。


幻覚効果でも受けてしまったのか


「分かって頂けたでしょうか?」


「......いや、全然」


身体を縮せた俺が素直に言うと

今度は剣を地面に突き立てた


はずだった


だというのに刀身が音もせず地面に埋まっている。


埋まっているはずなのに彼女が剣の持ち手を横に振っても

土は盛り上がることもなく、

スイスイと刀身が土の中を動いている。


理解の遅い俺は頭の中がクエスチョンマークに埋め尽くされた。


そんな呆けた姿が面白かったのかアイリスはクスクスと笑う


「ご、ごめんなさい......

 あんまりにも、フフッ、スッとんきょんな顔をしているから」


そう言われても俺の豆鉄砲喰らったような顔は変わらない。

彼女がやっと一息ついて落ち着くと

今度は自分の腕を剣でバッサリ切った、


かに見えたが腕は何ともない。


......まさか!


「刃の部分は―――」


「そうです。

 この剣は邪気を持つ者しか斬れません」


刃の部分は物をすり抜けると言いたかったが、

大体合っていたようだ。


「だからそれ以外のものは全て当たりも掠りもしないんです」


語りながら剣を振りながら鞘に納めた。

それを見て


「じゃあ、鞘に入るのは......?」


と恐る恐る質問した。


「ああ、これは先ほども言ったと思いますが神からの授かりものなんです。

 だから唯一この中には実体として納まってくれます」


そう言って持ち手をガチャガチャと動かして中で刃が当たる音が聞こえた。


「なるほど......

 ではさっきの最終チェックというのは?」


「あなたが呪いに掛かっているかの確認です」


今一度、腹を擦りながら話を聞く。


「この剣は退魔の剣というだけあって解呪も出来ます。

 貴方から感じる強力な力は咄嗟に出る呪いの効果かもしれないと、

 強引ではありますが確かめさせて貰ったんです。

 

 すると読み通り、

 貴方は私と戦う中で勇者の力をも上回る強さを誇った、

 そこで呪いが引っ込まない内に剣を刺すことによって何か

 変化があるか確かめたかったのですが......

 

 どうやら問題もなく、

 それどころか

 期待以上の結果が出てくれました」


その嬉しそうな期待に満ちた顔で解説されながらも

俺は首を傾げる。


「つまり、貴方は純粋に強いことが証明されたんです。

 それも勇者の私よりも」


最後の付け加えられた言葉が一旦耳を抜けて、

また帰って来て脳に直接ぶつかってきたような衝撃に襲われた。


「え、え!? 俺が!?」


驚愕をまさにジェスチャーも交えて表すが彼女は穏やかに微笑んで頷いた。


「もしかしたら本当の勇者様は貴方だったのかもしれません」


真っすぐに目を見つめられてそんなことを言われたので、

凛々しい王子様にプロポーズされた女の子ような気分で

顔が熱くなった。


「い、いやいやそんなことあるわけないですよ!

 だって俺は......!」


そうは言ってもお世辞でも嬉し恥ずかしな気持ちで彼女の言葉を否定していた。


そんな嬉しい気分でいたのに急に体調は急変した


なんだか顔だけでなく体も火照ってきた。

一体、どうしてしまったのだろうか


疑問に感じつつ力なくへたり込むとアイリスが傍らに寄り添った。


「どうしたんですか?」


「い、いえなんでも――」


言いかけて熱が急に体内で暴れだしたかのように痛みが全身に走った。


「グッ......アッ!」


俺は地面に倒れて痛みにもがく。

彼女が俺の傍に膝を着くと冷静に問いかけてくる。


「体が痛みますか?」


口から声という声が出せず、

激しく頭を縦に振った。


「分かりました、回復出来るかやってみます」


そう言うと彼女は剣を引き抜いて横に構え、

片方の手で顔の前に印を結ぶと


治癒(ゲル)


と一言唱えると急に体が冷却されて心地よい気分になった。


すると段々とまどろんできた。


「ゆ、勇者さん......眠気が......」


「大丈夫です、回復魔法の副作用みたいなものですから

 ぐっすり寝てください。

 私がしっかり貴方は運びますから」


そう穏やかな声で言われていることの意味もおぼろげの中

子守唄のように聞こえて


俺はあっという間に深い眠りについた。



この時


意識は消えることは何度も最近にあったが、

本当に久しぶりに睡眠に入れた気がして


安らかに

ゆっくりと夜の帳が落ちるように目の前が真っ暗になった。


閲覧ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ