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お叱り

パチンッ


突如として響いたのは小気味良いくらいの音だが

こちらをひどく驚かした


仲間の二人と教会前で合流するやいなやの出来事だった


それは......



「姉......様?」


唖然として頬を抑えるアメル、

目に光るものが見えたようなアイリス、

開いた口が塞がらない俺。


目の前で起きたのは、勇者の闘魂張り手(ビンタ)だった


「全くどれだけ心配を掛けたと思ってるんですか?

 一人であんな危険な場所に行くなんて......」


そう言って彼女は小さな魔法使いを強く抱きしめた。


俺の安否も遂に確認できての行動であろうが、

さっきまで平然と一緒にいたアメルの驚きは俺以上のものだろう


それにしても温厚な勇者様のアクションとは思えず

あわやご乱心か、と疑ったレベルだ


そんな風に呆気にとられて眺めていると


「ね、姉さま......く、くるじい」


ひ弱な体が勇者の万力で締め付けられていることを見過ごすところだった。

咄嗟に止めに入った


「あ、アイリスさん

 そのままだと絞め落としちゃいますよ......」


肩を叩かれてハッとして放したアイリス自身、

動揺の色が見えた


「す、すみません......つい」


咽るアメルに笑いかけると

本当に危なかったことを伝えるかのような

睨みを返された


「ゲホッ、ゴホッ......い、いえアタシが悪いんですよ

 大丈夫です......ふぅ」


やっとお互い平静を取り戻すと、

それはそれで気まずい空気が流れ出した。


お互いがどう切り出したものか、とモジモジしている。

そういった微妙な空気感が俺は昔から嫌いだ


村でも揉め事の当事者の間でのやり取りなのだから、と考えて

その様な場は仲裁もせずに逃げてきたが

チームであり、知らない街で勝手なことは出来ない。


悪い集団のボスを倒したというのに、

まだ試練があったとは


「その......」


勝手に一人で戦闘以上の苦難に感じていると

勇者がしばらくぶりに口を開いた。


「今思えばさっきの行為は間違いだったかもしれない......

 貴女の気持ちを思えば私の元からどこへなりとも離れて行ってしまいたくなるのは当然のことだ。

 だから――」


「いえ、本当に姉さまは......何も悪くありません。

 勝手に弟子入りを頼み込んで、それを優しさで姉さまは良しとしてくれました...

 そのことをアタシは......更に伝説の勇者のパーティーに入れたんだって、

 思い上がって......」


またまたアメルは泣いてしまいそうだ。

割と泣き虫なのだろうか、

気の強い妹に似ているとも思ったこともあったが

性根の部分では真反対で繊細なのかもしれない


「それこそ私が悪いんです、貴女には強くなりたいという立派な志があった、

 だというのに欺いてしまったんです、この他でもない勇者である私が。

 だから――」


「いえいえ、本当にアタシが悪いんです!」


それにしても、この後も何度もこの流れを繰り返そうというのか


そろそろ俺が介入することも止む無しか、

大きく息を吸って、いざ!


という時に



「アメル!!」


話しかけるタイミングを潰されたと共に

ギョッとして俺とアメルが飛び上がるほどの凛々しくも力強いが一声が

アイリスの口から弾け飛んだ


「何もあなたが罪に思うことはない!

 それに感情的になって貴女をぶってしまったことは確かなる愚行だ!

 だから!!

 私に思い切りやり返しなさい!」


「「......え?」」


まさかの発言に揃って声が出てしまった。


「い、いやいや! そんな栄えある英雄にアタシが――」


「いいから! やりなさい! それも全力で!!」


もう一切の口答え・反論は許さない、という勢いで

小さな魔法使いに迫る姿は

もはや脅迫に近かった。


正直、ここまで来るとアメルが可哀想だ


今に、もっと泣きそうだ


「え、あ、その......」


「さあさ!」


フンと鼻を鳴らしてどっしりとした構えからの

顔の差し出し、

この一連の動きは大真面目に行われている


全くもって、笑ってはいけない。



「じゃ、じゃあ......えい!」


と、か弱いアピールでもするかのような

明らかな手加減ビンタは、


「......何ですか、今のは?

 本気でやれ、と言ったはずです!!」


「「ヒッ」」


周りを怯えさせるほどの覇気を引き出してしまった。


その後も


「駄目だ! もっと強く!!」


といった危険な叫びをする、

鎧を着た女がわざわざ顔を

幼気な魔法使いにポカポカと殴らせる異様な光景を作り出し、



終いには憲兵が出てくるまでの事態を生んでしまった


閲覧ありがとうございました。

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