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新たな進路

「何が大手柄だよ、依頼されてやった訳でも無いから報酬も何もないんだろ?」


「まあ、慈善活動の扱いになるかもな」


「はぁ......冗談きついぜ

 こっちが終わらした途端出てきやがって......」


そうは言いながらも互いの顔色は明るかった。


「大々的に広報の方には勇者に続く、強力な正義の味方現る

 って見出しを書かせておくか?」


「好きにしてくれ」


男は偉そうで軍服のような黒と赤のマントをはためかせて

気絶して泡を吹く悪の親玉の傍に歩み寄った


「コイツは流浪の怪盗・ズイか。

 やたらデカくなってるのは何故だ......?

 どうにしろこの体じゃ、足を洗わざるを得なかったってわけか」


「知ってるのか?」


辺りで消火活動や現場調査が多くの人員によって慌ただしく行われ始めた


「どれだけこの目で悪人を見てきたと思ってるんだ?

 特に、このズイはずっと追ってたデけぇケツだったさ......

 まさかホントにここまで太って地下にいるとは思わなかったがな」


軽く男が巨人の腹を叩く


この時点で奴が地下に潜んでいることを見抜いているようだ。

道路にど派手に空いた穴を知っていれば推測もつくだろうが


「なんだか知らんが魔王になろうとしてたみたいだぞ? そいつ」


「魔王......? ハッ、そりゃおっかねぇな」


嘲笑のように聞こえながらも

目は笑っていない。


割と素質はある難敵だったのだろうか


「コイツは真面目に生きていけば盗みなんかせずとも、

 もう少し稼いで生きていけるってくらい多彩なやつでな。

 魔王...ってのはオーバーだが、魔族の隊長格は間違いなかったかもな」


当たり前のように大魔女を浮かすと

嫌な覚えがある例の魔法手錠が、

人を超えた太さの両腕に簡単に形成された


それを見て


「そういうアンタもそれくらい強いんじゃないか?」


素直の感想をぶつけた。


興味があった、

この素性のまるで知れない男に。


「んん......否定はしないがね」


部下に指示を送って大きな犯人をフワーッと

どこかに連行させながら答えた


続けて問う。



「それに一番気になるのは......

 その目、だ」


今回の問いには

犯人の輸送を見送ったまま、背中は動かない。


どんな表情なのか、

反応は分からない



ほんの少しの沈黙の後

男はそのまま歩き出す。


結局、

その男のことも

見抜かれた自分の本質も

何も分からず、


進展もなく

この遭遇は終わるかに思えた時



「ここから南東に幾千里か、

 人を見抜く能力に長けておきながらも

 人嫌いで山に籠った婆さんがいるって話があるらしい。

 藁にも縋りたい思いなら、必死こいてそこを目指すんだな」



そう残して

彼は風のように消えた。


男が消えた先に見えるのは昼下がりで

日と影のコントラストが映える建造物の並ぶ道、


頬撫でる、横に吹く風は髪と服をなびかせて



これからの進路の靄を取り払うかのように、

その時だけは感じた


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