育み合う力
空中戦から地上戦へ、辺りを照らしていた夜の淡い光は朝の日差しへ。
いつの間にかアメルとマイ、そしてズイの三人は
慣れ親しんだ訓練場にまでもつれ込んで、
今までにないほどの激戦を繰り広げた。
魔女でさえも、遂に肩で息をし始めた
「はぁ、はぁ......ここまで、やるとはね」
当然二人も疲労はピークを迎えていた。
着の身着のまま、戦い合ったアメルとマイは今度は手を組み
足元にも及ばないと思っていた魔女を追い詰めている
「あと......もう少しよ」
「ふっ、アンタは休んでてもいいのよ......アメル?」
「こっちのセリフよ......足震えてるじゃない」
立つのがやっとであるのは互いにそうであった。
次で勝負が決まる。
少しでも連携がずれることがあればどちらかが倒され、
均衡は崩れて弟子組が負けるのは火を見るより明らかだ
ここ一番で最高のコンビネーションを出せなければ、
勝利は無い。
「方を付けさせてもらうよ、アンタら......」
魔女の手と手の間に稲妻が走る。
特大級の雷撃魔法が繰り出されることは明白であった
「どうする......マイ」
「......仕方ないわね」
「え?」
「アンタの援護に回ってあげるわよ」
そう言うと同時に風魔の力が膨れ上がった。
まだアメルには彼女の意図が読めなかった
「アメルの得意は火炎なんでしょう?
だったらアタシの風の魔法で威力を底上げしてあげるって
言ってるの!」
「......ああ!」
「まったく......察しが悪いんだから」
呼応するように猛火が燃え上がった。
隣から供給される風に段々と火力を増していく。
二人の魔法の共鳴は、天にも届くような火柱を生んだ
それを見て、師匠は小さく笑った。
「ははっ、なるほどねぇ......
水と油の二人だと最初は思ってたけど、
コイツは火と油だ。
いや、それどころか火も風の力を押し上げていく......!
全力でいかなきゃ、こっちの身が危なそうだ」
耳をつんざくような音を出して、大気に電流が走る。
その対面では、他を寄せ付けない炎の勢いが暴風を発している。
両者の充填は完了した。
後は、とっておきを打ち放つだけだ
「天を裂けッ!!」
「「火竜風虎!!」」
雷と火風がぶつかり合ったかに思われたが、
吹き荒れる風の流れは魔女の魔法をも呑み込んで
止まることなく相手に直撃した。
爆発の衝撃は術者のアメルとマイも宙に浮かして吹き飛ばすものだった
上がり始めた朝日よりも激しく火の手が上がり、
しばらくして二人は立ち上がった。
あまりの一撃に師匠の命が心配だったが、
五体満足で倒れていた。
気は失っているように見える
そこでようやく二人の魔法使いは喜び合った。
「やったぁ!!」
「遂にあの人を越えたのねっ!」
「待ちなッ!」
歓喜の渦が巻き起こるかというところで怒号が飛ぶ。
ギョッとした二人組が見たのは、真っ黒こげな大地で
上体をなんとか起こして弟子に指をさす、ズイの姿があった
なんと、まだ意識はあった。
「ふ、二人掛かりで......これで勝ったと思うな」
捨て台詞を残して、力尽きたように魔女は倒れた。
すると、構わず歓声の続きをアメルとマイは上げた。
もう一人で超えるという部分にはこだわりを置かず、
何はともあれ勝ったことの興奮を共有していた。
そんな二人に煙を吐くように溜め息を付きつつ、
ズイは懐で光る物に気付いた。
取り出して見ると、思わず叫んだ
勝利の美酒に夢中になっていたアメルとマイは、
急に近くまで歩いて来ていた魔女に気付かず同時に身体を跳ね上げた。
アメルが杖を構えながら言い放つ
「ま、まだやる気!?」
「違う! これを見ろ!」
ズイが二人に見たものを突き出した。
彼女の小さな手にもフィットする水晶玉だった。
中には字が書いてある
「なんです......これ?」
「こいつは魔界で流通している携帯連絡用石英とも呼ばれ......
って詳しい説明は後だ。
書かれている文章を見ろ!」
「魔界の物をなんでアンタが持ってるのよ」
「魔界の人間だからだよ! そんなことより、読めッ!」
大事な事実がサラッと告白されたが、
それよりも衝撃の報告分が彼女たちの目に飛び込んだ。
「「時空の歪み!?」」
「そう、あの婆さんからだ。
間違いない、もしやすると魔界からの......!」
熾烈を極めた師弟対決の余韻も冷ますような事態が、
この間にも刻一刻と平和になった世界を再び侵食しつつあった




