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弟子として

「私が持っている勇者としての力は日に日に弱まっています。

 言ってみれば師匠としての威厳を失っているも同然です」


「......え?」


ポツリとアメルの驚きが口から出た。

無理もない


「じょ、冗談でしょう? ずっと戦ってなくて感覚が鈍ってるとか――」


「そんな些細なものであればどれだけ良かったことか......

 目に見えて普通の人間に戻り始めています。

 証明して見せることが出来ないのが申し訳ないくらいです」


アイリスは淡々と事実を伝える。

それはアメルが抱いていた憧れに冷や水を叩きつけるような事をしたいのではなく、

彼女なりに弟子に対して

真摯に向き合いたいという心の表れなのだと受け取る。


「......それでも私やコイツなんかよりはもちろんまだ強いんですよね?」


俺を指すアメルの声は震えている。

悪い夢が現実になり始めているかのように怯えているのかもしれない


掛けてやれる言葉が......見つからない。


「事実を述べるなら」


言葉を切ってアイリスはじっとこちらを見つめてきた。

それが何となく気配を探っているのだと感覚的に理解した


今一度、俺の力と彼女自身に残された力量を測るかのように



「出会ったばかりの時よりも、彼と私の差は歴然なるものとなっています。

 改めて確認しましたが、頼もしいくらいにウィンは成長していると言っても良いでしょう」


物言いからしてハッキリと明言せずとも、

勇者よりも俺の方が上であるという説明に

弟子の口は半開きになった。


「そしてアメル......

 貴女もウィンを待つ間、しっかりと鍛錬を積んでいるのを知っていますし

 それが間違いなく身になっています。

 もはや私が師匠を語るのがおこがましいくらいにアナタは強くなっています」


止めのような一言にアメルはたじろいだ。


弟子入りしてまだわずかで卒業を言い渡されたようなものなのだから、

そのショックは測り知れない。


「そ、そんな......」


愕然と落とした肩は大事な杖を手放しかけていた。


村人出身の自分には

誰かを師匠と仰ぎたくなる気持ちはこれっぽちも分かってあげられない


周りの喧噪が気になるくらいに

アメルが消え入りそうに思えた。


「......では、姉さまはもう特殊な能力も奪われてしまったのですか?」


虫が鳴くような声で彼女は問いかけた。


「いえ、それだけは基本的な能力と違って――」


「もう良いです、忘れて下さい」


急にぶっきらぼうにアイリスの返答を遮ったのを聞いて、

逸らしていた目線をアメルに向ける。


目深に被った帽子で彼女の表情が見えないが

きっと......


「ごめんなさい、アタシは......旅には着いて行けません」


そう言うとアメルは街の方に行き交う人を押しのけて走り出してしまった。


「え、あ、おい! 待てよ、アメル!」


伸ばした手も掛けた声も彼女には届かなかった。


ドンドンと遠くにトンガリ帽子が遠のいて人の波に消えて行く


「なんてこった......俺が追いかけましょうか?」


サッと振り返ってアイリスを見ると、

酷く悲しそうな顔をしていた。


「私には......それを指示する資格もありません」


完全なる意気消沈状態であった。

自分が今まで言えなかったことが弟子を苦しめてしまったことを

負い目に感じているのだと察した


今の彼女に正常な判断は出来ないと考えると


俺は独断で追いかけることにした。


「俺は追います!

 アイリスさんはここらで待ってて下さい!

 必ず連れて帰りますから!!」


人を押しのけながらアイリスの方を向いて言った。

呆気にとられた表情ではあったが俺の声は聞こえたはずだ


それを信じて前を向くと一目散に

周りを蹴散らさない程度に全力でチームメイトを追いかけ始めた。


閲覧ありがとうございました。

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