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出発前

さあ、今日からスタートだ


そう意気込んで店での朝食を終えて立ちあがる俺に対して

アイリスは不安そうだった。


「明日からでも良いんですよ?

 色々と辛い思いもしたでしょうし......」


これから出発するということが、

先ほど決まったというのにまだ彼女は気遣ってくれた。


「ありがとうございます。

 でもホントに大丈夫です、あっちで鍛えられたくらいですから

 ゆっくりもしていられませんし......行きましょう!」


心遣いは受け取って元気な素振りをしてみせた。

ホントはもう一度フカフカのベッドで寝てから行きたい気持ちはあるが、

時間が無いのも確かだ。


牢屋の中で、もはや置いて行かれていることも想定していた自分にとって

二人が待ってくれていたことは嬉しい限りだ。


新しい用心棒でも雇って一緒に旅に行っててもおかしくないくらいに、

彼女は時間に追われている役目を負いながらも待ってくれていたのだから

それに応えねばなるまい。


......まあ、本当に代わりの存在を連れて取り残されていたとしたら

数日は立ち直れなさそうであったから心底安心している


「そうそう、コイツもこう言ってるんですから大丈夫ですよ~

 この街も見慣れてきちゃったし......

 行きましょうよ、姉さま」


アメルに関しては1日たりとも待ってくれそうにないが


「ふぅ......分かりました。

 しかし、少しでも無理がたたったらすぐにでも私に言ってくださいね?」


淡泊な先輩に比べて慈愛に溢れた勇者様に感激しながら

しみじみと頷いた。


「分かりました」


街の中心地で俺の旅支度が終わって

遂にこの街の出口に向かう。


相も変わらず人と賑わいに溢れた空気に

様々な出店やレンガ造りの綺麗な街並みを見ながら、

もう出て行かなければならないことを惜しみつつ

出入り口が見えてきた。


「遂にですね、姉さま」


自分と違ってすぐにでも冒険に行きたがっていたアメルは、

興奮が抑えられないとばかりに目を輝かせて声を掛ける。


「ええ、そうですね」


それを真剣な表情で返すアイリス。

彼女は旅たちがいよいよ近付いてくるのに従って顔が険しくなって見えた


緊張を......しているのだろうか


そんなことを思うと伝染したかのように

急にこちらもドキドキしてきた。



絶えることなく人の出入りがなされている大きな門の前に立って、

アイリスは立ち止まり

そして振り返った。


俺をじっくりと見てから一息ついて、アメルに視線を移した。

何かを語る前触れに、彼女がこれから話す内容が自分には分かった気がした


自分のいない間にも結局打ち明けられなかったのだと思われる。

おそらく、勇者の力のことだろう



「アメル、貴女に告白しなければならないことがあります」


そう言われた彼女はまるで予期していなかった発言に

一瞬、俺を見た。


どんな表情をしたら良いのか分からなくて、目を合わせられなかった


「それも私を師匠として着いて来てくれる貴女には

 非情な酷なことですが聞いてください」



真っすぐでオブラートに包まれることもない宣告に

アメルには似つかわしくない不安の色が表情に出始めていた。



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