決戦に向けて・7
「もっとゆっくり行きましょうか?」
「き、気にしないでください......!」
登り方を教える際も何かと、
先に行くように彼女に促されていた。
時間を掛けて貰うことが申し訳ない、という
アイリスらしい真面目さが出ているようにも思える。
しかし、どこか言葉の裏にはどこか意固地に
なっている部分があるように思えた。
出来るだけ手は借りず、
己の力だけで解決したいと思う気持ち。
それが仙人の意味深な発言が引き出されたとするなら、
そのままにしておくのがいいのかもしれない。
後ろ髪を引かれるが本腰を入れてペースを上げ始めた。
天から差す微弱な光が強まって来る。
ようやく頂きへの道のスタート地点には立てそうだ
そんな安心感からか、つい
下を見てしまった。
命綱な無しの高さの恐ろしさも
目の前に広がっている。
だが更に冷や汗が噴き出すような事態を確認してしまった。
アイリスの姿がどこにもない。
ゆっくり追ってきているにしても見える位置にいるはずの
彼女は忽然と姿を消した
この一大事に二つの決断を迫られる。
今までの努力をかなぐり捨てて、彼女の安否を確かめるために
下まで危険も承知で降りるか、
それともアイリスの珍しい頑固さに応じて先に行くべきか......
もし滑落などしていて怪我を負っていようものなら、
一人にしていては大変だ。
加えて巨大肉食植物がいるなど、この谷底の環境は魔境と
呼んでも差し支えないレベルである
今も何かに襲われているかもしれない。
しかし、見えなくなっているだけで無事であったり
考えがあって同じルートを通らなくなっただけで、
心配でアイリスに会おうものなら彼女は怒るだろう
ただ、頭でどう考えても彼女を放って置いて
行ける理由にすることは出来ず、
遂に壁に入れていた力を緩めることを決心する。
そんな時、声が斜め上から聞こえてきたのだった
「私はここですよ~!」
別の壁にアイリスはいた。
いつのまにか、ルート変更して自分の先を行っていたのだ。
杞憂に危うく体力も時間も浪費するところだった
「賭けではありましたが伝って行く道を変えてみたんです!
そしたら、運よくしがみつきやすく
ウィンに追い付くことが出来ました!」
「分かりました!
その調子で上まで行ってください!」
そう伝えると活力に溢れた様子で彼女は登っていく。
見ている場合ではない。
現に自分は追い抜かれているのだ
ほんの少し前とは打って変わって、
仲間に対抗意識を燃やした。
更に這い上がっていく腕の力を増していった
やっと崖から地上に脱出する頃には二人ともヘトヘトだった。
それでも合流して互いに健闘を称え、
顔を合わせると気力が戻って来ていた
そして共に見上げたのは、
首が痛くなるくらいに天を仰がなければ頂点さえ見えない
高みであった。
続けて先を競う様に、同時に走り出した




