決戦に向けて
「やっと出てきたか。
まあ、ここは眺めが良いからそんなに退屈でもなかったけどな」
「ああは言っても強がってるのよ。
きっと寂しい想いをしてたに違いない。
あの人は器の大きいお方なの。
お前と違って信頼ある関係が長いから、アタシには分かるの」
「それくらいのこと、付き合いの短かったアタシでも分かるわ」
「おい、聞こえてるぞ。
本人の前くらい小声で話せ、小声で」
魔女たちだけで盛り上がって、
アイリスと自分は蚊帳の外だ。
しっかり自分たちの相手もしてもらわなきゃ困る
「ゴホンッ!」
「ん? なんだい、そのわざとらしい咳払いは?
構って欲しいのかもしれんが、そんなに話すこともないぞ」
「何言ってんだ。
仙人様に俺の指南役も任せられてるだろ?」
「うーん、というよりかは伝言係に近いな。
お前達に関しては」
何故か自分とアイリスだけが一括りにされた。
魔法使い差別であろうか。
ただ、その魔法使い二人も不思議そうな顔だ。
四人で修行を受けるものだと彼女たちも思っている
「あ、そうだな。
まず言っとくべきことがあった。
何もアタイは贔屓だとか差別をしてるんじゃあない。
これは区別だ。
そうするように奴に言われた」
「仙人様に......組み分けを?」
「そうだ、アイリス。
アタイの専門分野は魔術だ。
体術でも剣術でもない。
そんなのが師匠でもお前ら困るだろ?」
そう言われても、それこそ困惑するだけだ。
思わず、アイリスと顔を見合わせてしまった
「あの人から俺達に適した修行法は託されてるんだろ?
それで師匠役を魔女が任命されたっていうなら、
魔法絡みのなんかとか――」
「全然、違う。
魔法の才能がそこまでお前達はないそうだし、
アタイが魔法で特に何かしてやる必要性はないようだ。
だからハッキリ言っとくけど、お前達はかなり原始的な訓練だぞ~?
おっと、脅すような言い方はやめろと事前に言われていたのだった......」
反省しているとはとても思えない意地悪顔だ。
根っからの魔女である
「とりあえず言いたいのは訓練コースは二手に分かれる。
魔法使い組、そして......勇者組でいいか。
この二つでアタイは前者を主に受け持つ」
「俺達は?」
「自主練だな。
多少は言い預かってるから、それをこれからやってもらうが
いずれは己で磨けだとか、おのずと習うべき相手が現れるとか......
そんな感じのことを言っていた......はずだ!」
「大丈夫かよ......」
呆れてしまうような目の前の適当女を、
師と仰ぐくらいなら先生役はいらないかもしれない。
ともかく与えられた最初にやるべき訓練をこなすだけだ
「よし、じゃあ教えてくれよ。
さっそく俺は取り組みたいんだ」
「私も準備はできています」
自分と隣の彼女の熱い視線が魔女に送られる。
すると承諾したように頷いてから浮遊し、
自分達の背後に降り立った
「では、発表しよう。
お前達の修行法は――」
ズイがこちらに手の平を向けた。
そして気付くと、
足場を失っていて下を見ると
急斜面の山肌と奈落の暗黒が見える。
「自力でこの地点まで登って来ること。
それだけだ。
開始ッ!!」
魔女が指を鳴らすと浮力が消えて、
真っ逆さまに落ちていく。
男女二人の絶叫が闇の底まで共鳴し、
耳には猛スピードで墜落する者のみが聞く
風の轟音を受けて、
辺りの景色がドンドン遠くなっていく。
天に近い山頂付近には心配そうに覗き込む二人と、
高笑いしてこちらを見下ろしている性悪女が見えた気がした。
その三人も小さくなって見えなくなるほど、
深くにまだまだ落ちていく。
更にすぐそばにいたはずの仲間も、
自分の身体さえも、
見えなくるほどの暗黒に沈んで行った。
何も見えず、
何も聞こえない、
恐怖のどん底に身体が向かうことを
抵抗することも出来ず、受け入れるしかなかった




