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落着・3

まだ倒壊の傷跡が浅い建造物の中には、

病室らしいところもあった。

幸い利用者は今の所、少数に留まっている


しかし、穴からの救出活動も再開されることになると

更に数は増えるかもしれない。

自分と同じように変異してからの記憶が薄ければ、

ラッテを始めとした多くの者たちに空白の記憶がある可能性が高い


「ここです」


アイリスが指した先の中には友人の姿が見える。

どこか呆然としている様子だ


「近くで待ってます。

 これからの進路も話したいので......」


「夕食を済ましてきたらどうです?」


「そうしたいですが......あなたほど食欲は今はないです」


「ははは......」


自分は早々に食事を終わらせていた。

周りの者が青ざめるくらい喰らい尽くした気がする。

それほどまでに戦闘後の空腹感は異常であった


対して繊細な彼女は重大な情報を掴み、

勇者として複雑な心境なのだろう。

話を聞いてあげるのが一番だが、

まずはアイリスの厚意を受け取って

友人との話を優先させてもらう


戸を開くと、待っていたかのように

こちらを振り向いた。

元気はなさそうだが体調はそこまで悪くないようだ。


「よぉ、ウィン。

 相変わらず肌色が悪いな」


「それはお前もだろ......」


すぐ傍の席に着く。

まともに近くで顔合わせたのは実に久々な気分だ


「なんか......凄い疲れたなぁ」


「記憶とかあるのか?」


ラッテは力なく首を横に振った。

笑ってしまうくらい何も覚えていないのだろう


「分からねぇ......でも皆何かされちまってたんだろうよ」


「......奴らにか?」


「う~ん、色んな人にその話をされたが

 魔族とかいうのがいた覚えがない。

 でも指導者はいた気がする。

 ちゃんと人の姿をした」


どうやらこの結界内に着々と超人化した人間たちを

集め、育てていたらしい。

しかし、順序がおかしい


ここで何か行われた実験の被検体として強くなったなら分かる。

だが、化け物になったのは故郷にいた頃からだ。

一旦自分はここから脱走したわけではない


とにかく未知が多すぎる。

考えるほどの思考に靄が掛かるようだし、

竜が教えてくれたエスカル・デューテとやらに向かわねば


「どうにしろ、生きてて良かったぜ......ホントに」


「ああ、そうだな」


今一番喜ぶべきことをラッテは静かに語った。

生きていなければ、先に進むことはできない。

真実に辿り着くこともできずに志半ばで死んでいた


まさに今日はいつ死んでもおかしくない戦いばかりだった。


そして、友人を殺しかけたのもまた事実だ。

こうして生きて顔を合わせられたことは奇跡に近い


「ごめんな、ラッテ......」


「ん? なんで、謝ってんだよ。

 詳しくは知らないけど、お前達が救ってくれたんだろ?

 何から救ってくれたのかも分かんないけどな!」


「いや、俺は......」


底抜けに明るい男には頭を下げても笑い飛ばされるだけだった。

そんな性格に助けられている心情もある


「悩むべきはこれからなんだよな。

 そこでさ、オレ考えてみたんだよ!」


「何をだ?」


「せっかく同じ村のやつとか違う村の奴らが巡り会えたんだ!

 土地も開拓されてることだし、ここでオレらと同じ境遇の奴を

 迎え入れる場所にしたいのさ!」


「お前が探す気か?

 同じように変異してしまった人を?」


今度の首の横振りは力強かった。

そして大きな声を友人は上げた


「皆で助けて行くよな!」


そう叫ぶと周りの寝ていた者たちも呼応した。

既にラッテの考えに賛同している


「アイリスさん達だけじゃ探し当てられる人の量は決して多くない。

 確実ではあるけど、もっと人手が欲しいだろ?

 それにさ、多分救出や発見できてもお前達が面倒見るわけにも

 いかねえだろ?

 そこで、オレたちがここに作るベースキャンプの出番だ!」


「その役目を担ってくれるのか?」


「ああ、もちろん!

 この後やることも無いって話を皆と話してる時に思い出したのさ。

 だから、リーダーはオレだ!

 これから仲間になる奴らも説得するつもりだ」


目的に突っ走る逞しい意欲が、

瞳に宿っていた


「この場所を忌まわしく思うんじゃなくてさ、

 そう何て言うんだろうな......そうだ!

 この地を第二の故郷にしてやりてぇんだ!

 なにせ凄い力がオレ達には授けられたしな。

 良い様に操られてた分、自分達の意志で出来ることをしたいんだ」


未明にして呪いとも思ってきた力を

ラッテは前向きに使い、そして既に素晴らしい目標を築き

同志を得ている。


その時、

初めて親友に尊敬の念を抱き、

立派な男に成長したことを再確認した。

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