若き、猛り
「もうそろそろで半分くらいかな。
この調子なら追手が来る前に送り届けられるかも」
颯爽と森を駆ける中、
アイリスは浮かない顔をしていた。
アメルもまたナーハの実力に不足はないことは分かっていても
今のままでいいのかは迷いがあった
遂にアイリスの足が止まった
「......?
どうしたの、何かあった?」
すぐさま背後の失速に気付いて少年も止まる。
「これで、いいのでしょうか?」
「......何を迷うことがあるの?」
「私もあなた達ほどではありませんが、
敵性などを感知する能力があります。
そして今、分かった。
どれほど走ったか分からないほどの距離を
半分にするこの地点で、ハッキリした。
あなたの祖父が言っていたことは正しかった。
ナーハ、あなたを連れてはいけない」
「......それって、僕をみくびってるってこと?」
思春期真っ盛りの少年には甘くみられることが
酷く気に障った。
ただ、そんなことではアイリスは動じない。
相方はハラハラしている
「万が一、あなたが傷つくようなことがあれば
私は勇者失格です。
いいえ、まずあなたより年上であるからこそ
人としてそんな危険性が高いことには巻き込めない」
「ここまで来て、何言いだすんだ!」
今までの大人しさから一転、
表に出してしまった年相応の怒りを
一旦は収めて語る
「何もここから戻る事が面倒だとか、
そんな子供じみたことで怒ってるんじゃあない。
正直、僕はあなたたちより強い自信がある。
だのに下に見られることが許せない、それだけだ......!」
「いえ、あなたは私たちよりかは実戦の経験もはるかに浅い。
敵の強さを身を以て知ってしまった以上、
あなたを逃がすまで守りながら戦える確信まで潰えてしまった。
だから――」
「馬鹿にするな!」
本性とも言うべき、
剥き出しの感情を少年は隠すことはもうなかった
「ぼ、僕より歳が上ってだけで、
爺さんや女の人になめられっぱなしでたまるかっ!
皆、僕を子供扱いして......!
なんなら、ここで!」
腕をアイリスに突き出し、
紋様に触れた。
体全身の紋様が青白く光り、オーラが可視化していく
「実力を見せてあげるよ。
ほんの少し痛い目に遭うかもしれない......
謝るなら今のうちだよ?」
「ちょっと、争わなくても......!
姉様、ここは......」
仲裁しようとするアメルが見たものは、
仲間の臨戦態勢であった。
普段の温厚なアイリスであれば、こんな子供じみた挑発に乗るはずがない
「子供には言っても分からないことが時にある。
昔を思い出してきました」
今の彼女は勇者としてではなく、
一人の人間として彼を止めようとしていた。
まさに始まろうとする戦いを前に
アメルは縮こまることしか出来なかった。
未知の力を使う少年と、
いつもと様子が違う仲間の間に割って入れるほど
勇敢でも無謀でもなかった
どちらが先に仕掛けるか、
お互いが間合いを詰めようと踏み出した瞬間
空気が変わった。
森がヌシの到来を伝えるかのように
ざわめいた




