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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
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第八幕-6

 ガルツ帝国首都であるデルンの中心、シュトラッサー城では再建時に新設された警報装置がけたたましい音を響かせていた。その慌ただしい空気に包まれた中で親衛隊隊員は金属の弾薬箱や手入れを終えた機関銃を持って走り回り、土嚢や銃座に設置しながら鉄条網でバリケードの穴を埋めたのだった。


「第3小隊迎撃準備!連中こっちへ来るぞ!」


 城壁上の第3小隊を指揮するツェーザルが双眼鏡片手にサブマシンガンの安全装置を外した。議事堂内のアロイスから第1小隊に突入命令が出た頃、城門の偵察分隊から通報があった。その内容は、帝都東側から武装した集団が大隊規模で接近中というものだった。武装についての報告が刀剣の類ではなく農具ということに違和感を感じた親衛隊の面々だったが、鎌や農具もその気になれば武器となるので、それらを農具としか捉えられなくなったことに隊員達でさえ武器に関する近代化の速さに驚きを感じていのだった。

 そんな驚きを心の底に置いて、ツェーザルはカイムからの迎撃命令に従い小隊全員を城壁の前に付設した柵に張り付かせ何時でも攻撃出来るようにした。


「ツェーザル小隊長、第4小隊のハルトヴィヒ小隊長からです」


「わかった。代わってくれ」


 東側街道を進む武装集団を双眼鏡にて再確認したツェーザルの後から、無線機を背負った幼い顔付きをしたゴブリンの通信兵が受話器を片手に報告してきた。実戦前の緊張で受話器を持つ手を震えさせる訓練生の頭を鉄帽ごと軽く二回叩くと、ツェーザルは軽く微笑み礼を言うと受話器を耳に当てた。


「第3小隊から第4小隊、ハルトヴィヒ何があった?送れ」


[第4小隊から第3小隊、城門上からだと街道正面しか撃てない。側面の敵を迎撃願いたい。送れ]


 雑音の混じる無線からハルトヴィヒの低い声が響いた。城の防衛を行う親衛隊は、城壁の上に1個小隊と城壁の前に1小隊という2小隊態勢で防衛に当たっていた。とはいえ、城の周辺は住宅や商店などの民間施設が数多くあるため、彼等の防衛行動は出来る限り建物に被害が出ない様にするのが前提であった。その上で、城門前の第4小隊は目の前に直線で広がる街道に対しては射撃できても横路から現れる敵には迂闊に発砲出来なかった。


「第3小隊から第4小隊、そもそもそれが俺達の仕事だ。1345通信手CA 了解。終わり」


 ハルトヴィヒの要請に答えると、ツェーザルは受話器を通信兵に返した。その兵は不安の表情を浮かべていが、受話器を受け取った手は震えていなかった。


「心配すんなって、大丈夫だよ。俺たちゃ親衛隊だぞ。あんな野蛮人相手に負けるわけない。それに総統の命令だ。俺達の誇りは?」


「忠誠こそが我が誇り!」


 ツェーザルの励ます言葉に笑顔を見せると、ワシ鼻を恥ずかしげに書いた通信兵は敬礼と共に持ち場へ戻った。未だ慌ただしく準備を進める小隊員は、2人の会話を聞いていたのか覚悟を決めた表情と共に手早く作業をしていた。


「ツェーザル!このMG(エム・ゲー)はも少し左の方が良いんじゃないか?」


 城壁左側に居たゲオルグがツェーザルに声を掛け、それに答えるように彼が手を上げ親指を立てると遠くから人の声が響き始めた。


「…は親衛隊です。ただいま総統閣下から厳戒態勢が発令されました。市民の皆様は屋内にて身の安全を…」


 遠くから装甲車を走らせ市民へと避難指示を流すリヒャルダの警報が響くと、全員の戦闘への意識が強くなった。そんな雰囲気の変化にツェーザル渋い顔をしながらしゃがむと、ポケットに忍ばせていた丸い缶からチョコレートを取り出すと一粒口へ投げ入れた。


「ホント、何で魔族同士でやり合いたいのかね…」


「世の中そんな上手くいかないんだよ。皆が俺達みたいに欲のない奴って訳じゃないのさ」


 そんな無駄口とサボりをするツェーザルの横からやって来たエリアスも、彼の横にしゃがむとツェーザルへ軽口を言いながらチョコレートをねだるように片手を開いた。


「欲がない…よく言うよ…」


 チョコレートをねだられたツェーザルが口をへの字に曲げながらエリアスへと一粒渡そうとした時、城門前の第4小隊が慌ただしくな騒ぐ声が聞こえた。


「敵襲!」


 城門上からハルトヴィヒの声が響くと、城壁の隊員達が土嚢の積まれた柵に殺到し銃器を構えた。その光景に二人は立ち上がると土嚢に取り付き銃を構えた。ボルトを引き弾を込めるエリアスの視線にも、街道からこちらへ向けて突っ込んで来る集団が見えた。


「お前ら、気張りすぎるなよ!正面は第4小隊に任せて、連中の撃ち漏らしを優先して狙え!」


 エリアスへ渡そうとしていたチョコレートを頬張ったツェーザルが、サブマシンガンのボルトを引いて言った。口の中に物が入ったその言い方に、全員の緊張や不安の糸が緩み冷静に銃器の点検を始める余裕さえ生まれた。機関銃手は給弾の確認をしながら照準器を調節し、全員が発砲の命令を待った。

 そんな親衛隊に迫るのは、格好こそみすぼらしい農民を装っているが明らかに戦う為に体を鍛えた男達の集団だった。街道を隙間なくうめつし突撃してくる集団を前に、第4小隊の新兵達は何時までも出ない発砲命令に焦りを感じ始めた。その焦りを理解したのか、城門上のハルトヴィヒは近くの機関銃手の元まで歩くと双眼鏡を覗いた。


「機関銃が4丁も有るんだ!ならば無謀に近づく連中を確実に叩く。猟師とは確実に獲物を仕留めるものだ。焦るな、そして怯えるな!」


 そのハルトヴィヒ激励が響くと、全員が改めて銃器を構え直した。直線の街道を迫る集団が300m程になると、ようやく彼は動き出した。


「小隊、狙え!」


 ようやく出たハルトヴィヒの号令に、第4小隊全員が銃のトリガーに指を掛けた。それぞれが迫り来る群衆に狙いを定めると、射撃手達は心を落ち着けるように息を深く吸い込むと、貯めるようにゆっくりと吐いた。迫る男達の姿がそれぞれの髭にまみれた顔を見分けられる程の距離になると、ようやくハルトヴィヒはその目を見開いて叫んだ。


「自由発砲!撃て!」


 響き渡るハルトヴィヒの号令に、第4小隊全員が一斉に引き金を引いた。響き渡る発砲音と銃口から吐き出される無数の弾丸が、群衆目掛けて直進し彼等の屈強な肉体を貫いた。

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