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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
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第六幕-3

「成る程な…私達が居ない間に、帝都ではそんな事が…」


「何だかんだで良かったんじゃねぇのか?」


 親衛隊は正式設立してから、まるで引き寄せられてゆくように様々な問題が立て続けに起きていた。

 ハルトヴィヒやアマデウスの行った大規模募集で突然に候補生が増えることや、それだけならまだしもヨルクやローレの説得によって北方貴族連合なる組織が協力を申し込んで来た時には、それぞれの立場や役割分担に今後の方針を決めるためカイム達には寝る暇どころか食事の余裕すらなかった。

 とは言え、北方権力者達が会議で見せつける為に連れてきた人員を一時的に首都復興へ動員できた事や、今後の兵器生産や兵員訓練などの拠点が増えた事はカイムにとっては重要なことであった。

 特に北方貴族達が連れてきた騎士などは、組織業務や軍事訓練の基礎能力が有った為に、カイムの仕事は増えるどころか大幅に削減された。有能な現場指揮官に増えた人手でカイムの行動には大幅な自由が増えると、その時間を使って彼は長らく出来なかった重要な事をしようとした。


「総統閣下!親衛隊第一通信分隊全員揃っています!」


 執務室と同じ階にある通信隊の大部屋の中には、数人の親衛隊隊員がローテーションで常駐していた。襟章のドッペルリッツェンをレモンイエローの兵科色で色付けされた彼等は、現状の情勢下では出番は少ないが彼等の活動が今後重要になるとカイムは考えていた。

 そんな親衛隊通信兵達が敬礼するなか、それに返礼するとカイムは目の前の机に数台置かれた金属の箱を一瞥した。


「既に無線は繋がっています」


「済まないな…基礎訓練修了式もしてないのに早速仕事ばかり」


「構いません!閣下の為ならば何でもするのが親衛隊です!」


 親衛隊に降りかかる様々な出来事から、カイムは訓練生達の基礎訓練課程修了式も行うことなく任務に従事させていた。というのも、親衛隊においては式典を行うほどの時間的余裕がなかっただけでなく、カイムには親衛隊員全員に最低で二等兵、最高で準尉の階級を与えてそれ以降は、士官教育を少しずつ現場での活動を踏まえて行うという考えがあった。

 そんなカイムも苛烈な訓練を終わらせた親衛隊員達を労うためにも式典やパーティーの一つや二つ行いたいのが心境であった。そんな過酷な現場で早速仕事を熟すかれらのカイムの謝罪を受けると、親衛隊員達は慌てて敬礼しながら彼を庇うように返答した。

 そんな隊員達に改めて敬礼で返すと、カイムは無線機の受話器を取った。


「よう、坊主!元気にしてるか?まぁ、問題あるから俺達に連絡するわけだよな?」


「レナートゥス!君では話にならんだろ…貸したまえ」


 無線機のマイクから流れる声は、ヨルクの領地であるメルクス=ポルメンに向かっているマヌエラ達のものであった。彼女は緊急事態に連絡出来るようにと研究所にて無線を数台作っていたのだった。

 その懐かしい声と、手紙や伝令兵を跳ばす必要が無くなった事に感動したカイムだったが、直ぐに親衛隊に起きた出来事と現状をマヌエラ達に伝えて始めた。

 その波乱の展開を全てを聞いた上で、短期間での首都の激変や組織の拡大を驚いたマヌエラとそれを良しとするレナートゥスの声が無線機から被さって聞こえたのだった。


「それは良いとして、連絡の理由はただ愚痴を溢したいかだけかな?」


 だが、マヌエラはカイムの通信の意図をなんとなく悟っており、その本当の目的を早く話すように促してみせた。その一言に、カイムは溜息をついて数回頭を振ると、軽く深呼吸してから再び無線の交信ボタンを強く押した。


「出来るだけ早く、戦車の完成と量産をお願いしたいんです。願わくば、一両でもいいので製造開始から一ヶ月以内にこちらへの輸送開始も願いたい」


 カイムは無線の向こう側には表情が伝わらないのを理解した上で苦い表情を浮かべつつマヌエラに頼み込んだ。その声は苦々しさと心労が入り混じった同情を誘うものであり、マイクの向こうのマヌエラ達に数秒の沈黙を産み出した。その沈黙から一瞬だけマヌエラの唸る声が聞こえたが、数分は沈黙のままだった。

 だが、しばらくすると紙の擦れる音とレナートゥスの声が聞こえると、マヌエラの声も聞こえ始めたのだった。


「そうだな、戦車に関してはまだまだ完成は先だ。エンジン(モートァー)については問題ない。むしろ、ガソリン?という燃料から液化グロジニウムに変えてから出力や燃費が大幅に向上だ。1番問題なのは装甲の加工だ。ドラジウム合金装甲の加工に時間がかかってな」


 マヌエラの訳のわからない鉱物や物質名の入った説明に困惑したカイムだったが、エンジンの性能向上という言葉にはとりあえず素直に喜んだ。とはいえ、マヌエラから伝えられた戦車がまだ製造の段階にも入っていないということは事実であり、カイムは軽く頭を抱えた。


「戦車はまだだが、車両なら何両か出来てるぞ!戦車製造の練習ついでに予定より多く造ってな!要るか?」


「是非!お願いします!」


「ならよ、ついでに色々と作った物も持ってくから期待しとけ!」


 そんな暗いカイム達にレナートゥスからの朗報が聞こえると、カイムはついガッツポーズを取るほどに喜び、即座に彼へと依頼した。無線を聞いていた通話兵達も、戦車や車の詳細は座学で学んでいたため、それが首都へ来ることには喜んでいた。

 そんなカイムの喜びに満ちた言葉に気分を良くしたレナートゥスは更に付け足すと、そんな気前の良い彼に少し溜息をついたマヌエラの声も無線機に響くと、彼女は咳払いをした。


「まさか要件が戦車の製造を急かすだけとはなぁ…カイム、これだけじゃあないんだろう?話し給えよ」


 そのマヌエラの言葉はまさに図星であり、彼女の気取った態度に吊られたカイムも咳払いすると声のトーンを低くした。


「北の海運ギルドが船や船員を提供すると…それにともない一つ案を考えたんです」


「まさかとは思うが…君はこの国で海軍の再建でも考えてるつもりか?」


 数日前に北方貴族達から提供された人員や資材から、カイムは本題たる帝国国防軍再建の次なる矢をマヌエラに説明しようとした。そんな彼女は察しがよく、カイムの言葉から大体の話の流れを理解したのだった。

 そんなマヌエラの言葉に、カイムは無線を介した通信でありながら相槌として頷き、少し恥ずかしそうに頭を掻いた。


「そうです。だから、渡さなければならない書類をいくつか用意します」


「解った。何が来るか解らんが、準備だけはしておこう。ヨルクのおかげで好きに出来るからな。その気になれば、シュレースタインの造船所も使える」


「解りました。また連絡します」


「それじゃあ、またね」


「坊主!頑張れよ!」


「はい!」


 マヌエラの自信に溢れる言葉やレナートゥスの励ましの言葉と共に、カイムの初めて行った無線通信は良い結果で終わった。受話器を隊員に渡すと、カイムはその仕事の出来に彼等の肩を一人づつ労うように叩いて握手をしながら頭を下げると通信隊の部屋を後にした。


「カイム万歳!」


 通信隊の声を背に受け、カイムはまだまだ溜まっている仕事を片付けようと執務室へ戻ろうとした。鼻歌さえ歌いたい程の上機嫌な彼は、自分の元へ駆け寄り敬礼するヴァレンティーネを見付けた。

 そんな上機嫌なカイムは、ヴァレンティーネへ手を上げ明るく声さえ掛けようとしたが、彼女の表情が不快感や悪感情に満ちていた事から上げかけた手を直ぐに下げた。


「閣下!報告いたしますわ。入口にてドレヴァンツ枢機卿が面会したいとの…あのご老人あろうことか私服で面会を求めるとは…本部にも入ろうとせず外で待つと…」


 そんな怒りから額に青筋を浮かべ8つの瞳をわなわなさせるヴァレンティーネの報告内容に、カイムは枢機卿であるドレヴァンツの行動の意図が良く理解出来なかった。

 とにかく本人が来ている以上、会ってみるしかないと考えたカイムは、執務室へ向かっていた廊下で踵を返すとエレベーターへ向かった。


「フォッケ曹長、入口へ行くから同行してほしい」


 敬礼して返答したヴァレンティーネは黙ってカイムの後ろを影のように急いで付いていった。

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