第二幕-1
カイムは召喚されてから、とにかく自分の出来ることをアマデウスと調べ始めた。戦闘力については、アモンに協力を得て即座に調べた。
「さぁ、来い!俺の盾は特注だ!どんな攻撃だって防いでみせる!」
アモンの自慢は、カイムの能力調査が進むにつれて崩れていった。腕力は振りかぶった拳1つでアモンを吹き飛ばし、彼は壁ごと隣の部屋へ倒れ込んだ。脚力も相当なものでシュトラッサー城の3階へ軽々とジャンプできるほどだった。その後も調査が続き能力の大半が判明した。
「さすがに魔王の体を使ってるだけはあるな、筋力が違う。技術さえ身につければ大貴族も易々と御せるだろうな」
アモンの言うとおり、殆どの能力は魔王の体が持っていたものをそのまま利用しているだけだった。この他にも強力な記憶力があったが、全ての能力が生物としての枠を越える程強力では無かった。
「ヒト族の勇者はその魔王を倒したのだ。結局魔王が蘇っただけというのではな…」
検証の結果、カイムの能力はアモンの一言に尽きた。カイム1人でヒト族の相手は不可能ということがわかった。この事実はカイムにとっては危機的な事実であった。帝国の状況から役に立たない人材を置いておくとは思えなかったからだ。
だが、カイムの予想とは異なり、彼は基本的な行動の自由と衣食住を保証された。
「言ったでしょ。姫様は優しいって」
アマデウスに言わたカイムは、少なからず何かしら行動をしなければならないと感じこの国の歴史や状態を改めて現存している書物で調べた。
この帝国はジークフリート大陸に有った4つの国が統合して遥か昔に建国された。建国には多くの貴族も賛同し大陸の魔族は平穏を好んでいた為に内乱も特に起きずに発展を続けていた。
だが、数百年前から唐突に隣の大陸からヒト族の王国が侵攻を始め、それは回数ごとに規模が大きくなった。魔族は抵抗したが最後の侵攻で首都が陥落すると帝国は崩壊。
帝国崩壊と同時に権力を取り戻した貴族が領地にて独自の法を施行し、国としての足並みは崩れかけていた。侵攻により多くの被害を受けた北と東の貴族は皇女や帝国への帰属意識があったが、微少の被害で済んだ西と無傷の南の貴族は独自の方針のもと元に行動していた。
とはいえ、崩れかけていても帝国は定期的に権力者を集めた帝国議会を行っていた。カイムが調べて解った現状はここまでだった。
ホーエンシュタウヘンはこの会議で英雄召喚を理由に帝国の再統一とヒト族への復讐を提案するつもりであった事はカイムにも想像できた。
「これは怒るだろうな…切り札が役に立たないなんて知ればさ…」
崩れかけた書庫で机に向かっていたカイムは、1部が焼け焦げている"帝国近代史"という本を閉じながらアマデウスに語りかけた。
「そりゃそうだよ。今じゃ権力の大半が南部の大貴族のザクセン=ラウエンブルク卿に取られてるんだから…このままだと南部に国がもう1つできちゃうよ。その国に帝国が飲み込まれてさ…」
向かい側に肘を突きながら座るアマデウスの声も暗かった。
「デルンや戦災都市の復興が出来てないのも、南部が食糧生産や物流の利益を独占してるからだし…貧しいこっちは餓えに苦しむしかないのかな…」
その言葉に、カイムの脳裏に同情と今後の自分の身の危険が過った。皇女に召喚された自分を南部の貴族は受け入れるとは思えなかったからだった。
「そういえば、ザクセン=ラウエンブルクって奴は名前が2つ有るのか?」
暗い空気の中、カイムはふと思った質問をアマデウスに投げた。質問されたアマデウスは、カイムの気の抜けた口調に溜め息をついた。
「貴族同士が結婚すると名前を繋げる事が有るんだ。貴族2つ分の力に潤った財政。とにかく強力過ぎるんだよ」
アマデウスの言葉に、当面の問題は南西貴族の連合となる事を理解したカイムは、立ち上がりながら頭に少しだけ浮かんだ無茶な打開策の下調べをしようとした。
「アマデウス、少し町を散策したい」