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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
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第六幕-1

「しかし、これ程復興しているとは…あれは水道ですかな?地下の再建まで進んでいるとは」


 ブラウンシュヴァイク=ヴォルフェンビュッテル東方大公は馬車の窓からデルンの街を見詰めていた。街の復興に伴う変化に違和感を感じた彼は部下の騎士であるハセマーを偵察に出し、その報告を待っていた。

 そんな比較的穏やかなブラウンシュヴァイクに反して、ザクセン=ラウエンブルクは腕を組みながら考え事に耽っていた。その表情は街の復興を喜び、目の前の幸福を満足そうに見つめるのであった。

 だが、ブラウンシュヴァイクからすると不思議とその笑みには虚しさや悲しみを感じた。そのザクセンの瞳には幸福から自分が切り離されて、手の届かないそれを羨ましそうに見るやるせなささえもブラウンシュヴァイクは感じたのだった。

 そんなザクセンを脇目に、ブラウンシュヴァイクは部下を引き連れたハセマーから見聞きしたことの報告を受けた。その内容は、"この復興はカイムと呼ばれる何者かとその部下である親衛隊という組織によって行われた"ということと"その親衛隊は貴族の軍にはあるまじき不埒な歌を歌い行進をしていた"という事実も判った。

 帝国貴族にとって威信を保つことは、皇帝と深い関係にある高貴な立場として絶対に必要であった。というのも、貴族とはテオバルト教会からの厳格な審査により高貴なる者と判断され、皇帝もしくは主からの命名式を受けて初めて貴族の称号を獲る事が出来る。そんな"選ばれし者"という立場を重要視する帝国貴族は、たとえ雇い入れた傭兵であっても過剰な発言や行動の締付けを行っていた。

 それでも、ホーエンシュタウフェンの膝元であるデルンの街で活動していることから、ブラウンシュヴァイクは親衛隊という組織は彼女が存在を認める組織であることも理解できた。そのため、彼はこの帝都デルンに起きている状態があまり掴み切れなかった。

 そんな不安を感じるブラウンシュヴァイクに反して、目の前のザクセンは目を輝かせながらその報告を聞いていた。時折見せる笑みは、まるでお伽噺を聞く子供の様であった。


「それで、その者達の中にカイムという男は居たのか?どの様な男だった?親衛隊というのは、その行進していた者達だけなのか?どうなのだ?」


「いえっ、そこまでは…大公やザクセン卿の身に何か合ってはと急いだもので…そこまでは…」


 輝く瞳でザクセンは矢継ぎ早に質問をハセマーへはなつと、彼は申し訳無さそうにたじろいた。そんなハセマーの曖昧かつたどたどしい言葉にはザクセンも残念がる様に上を向くと、彼は何かを決意した表情で座席から立ち上がった。

 魔人であるブラウンシュヴァイクの客車とはいえ、あまりも大柄なザクセンにとっては天井が低く、頭をぶつけそうになりながら彼は豪華に装飾された黒いマントと無駄に派手な赤い上着を脱ぎ捨てると、客車の扉を開け放った。


「ザクセン卿?何をなさるのです?」


 その突然のザクセンの行動にブラウンシュヴァイクは驚き、外へ出ようとする彼を止めようとした。

 だが、ブラウンシュヴァイクの慌てる表情や声に、ザクセンははにかむと客車を飛び降り、ブラウンシュヴァイクの手は空を切ったのだった。


「欲しい物は手に入れる、知りたい事は全て知る。これが私の主義だ!だがらそのカイムとやらに会ってくる!皇女には先に行ってよろしくと伝えてくれたまえ!護衛は結構自分の身は自分で守る」


 状態のわからない帝都だというのに、ザクセンは気楽にブラウンシュヴァイクへ手をふるとまるで散歩にでも出掛けるぐらいの気軽さで歩き出したのだった。

 そんなザクセンの豪胆さを前には騎士達も彼を止めることも声を掛けることも出来なかった。その中でブラウンシュヴァイクは客車の扉から半身を乗り出してザクセンへと戻るように手を降ったが、彼は全く気にしないとばかりに突き進んで行ったのだった。


「議会期日の半月以上も遅れて居るのに…皇女がお怒りになられますよ!」


「半月も遅れているのだ。数時間くらいなら気にもならんだろうよ!」


 引き止めてもみるみると離れて行くザクセンに、ブラウンシュヴァイクは声を上げて止めたが、彼は歩みを止めることなく、軽口と共にハセマーの駆けて来た通りの方向へ走っていった。

 上着やマントこそ派手だったが、それを脱いで人混みに紛れたザクセンは白いシャツに黒いズボンとありふれた格好である事にブラウンシュヴァイクは気付いた。

 上着の下に着る服も普段は派手なザクセンに比べると明らかに大人し過ぎる格好に不自然さを感じたが、曲がり角で姿を消すとブラウンシュヴァイクはそんな考えも直ぐに消え、先を急いで馬車を進めさせた。

 ブラウンシュヴァイクの馬車の扉と窓が勢い良く閉まる音を背に聞きながら、ザクセンは帝都の街を眺め歩いた。彼も他の貴族の例に漏れず、首都に対しては瓦礫の山や廃業の街というイメージしか無かった。

 その廃墟の街であったデルンが今となっては見違える程であり、そこに住む人々にも活気があった。その急速な復興を成した街にザクセンは驚きと猛烈な興味を誘った。しかしながら、ザクセンの心には不思議と不穏な感情が積もっていた。


「妙に北の訛りが強い…」


 ガルツ帝国の共通言語であるガルツ語において、言葉の訛り方は"単語の発音"に出てくる。基本的に北訛りと南訛り、そしてその2つが中途半端に混じったデルン訛りという三つを基本としてガルツ語には訛りがあった。

 その独自の訛りであるデルン訛りがあるはずの帝都デルンで北訛りが多く聞こえるということは、この街で北方勢力が幅を利かせているという事実を表していた。その事に不快な表情を一瞬すると、ザクセンは足早に道を進んだ。

 歌と共に行進するという親衛隊の報告から彼等を直ぐに見つけられると思っていたザクセンは、活気に満ちた街の騒がしさの前に捜索を難航させていた。道を歩く人々の声や露店の呼び込みの声は明るく、この地がかつて廃墟の街だった事を嘘のように思わせた。それ故に、街は人が川の水のように多く通りを進み、ザクセンはまるで泳ぐように通りを進んだ。すると、彼は人通りの少ない小道を見付けると避難するようにそこへと急いだ。

 その人通りの少ない通りでもみくちゃにされた服装を整えるザクセンだったが、その通りの奥のその方向から人々の声援や歌の様な物が聞こえてきた。

 その声に期待を寄せながら、ザクセンは急いで走り出した。少しすると、小道に通ずる大通りに人だかりが出来ているのを彼は見つけ、人だかりより高い背のおかげて彼は通りを行進する集団が直ぐに見えたのだった。

 その行進する兵士達の姿は、ハセマーの報告以上の衝撃をザクセンに与えた。様々な人種で構成された集団が一糸乱れぬ動きで行進するというのは、荒くれ者が多い帝国兵士の対極に位置する様な存在であり、声援に対しても許可無く手を振る事も視線を向ける事もしなかった。ただ並び歩く指揮官の命令に従い機械の様に動くというのは、彼の考える理想の兵士像その物だった。足を曲げずに一歩を踏み出す独特な行進と鉄の鋲が地面を打ち付け鳴り響く軍靴の音は、彼の興味を更に刺激した。

 だが、ザクセンの耳に聞こえる彼等の歌う反貴族的ではなかったが、その歌は別な意味で彼に不快感を与えた。


「ローレ、ローレ、ローレ、ローレ。


微笑む彼女は美しい!


ローレ、ローレ、ローレ、ローレ


彼女は美しい!」


「貴方達!その歌を止めなさい!恥ずかしいから!お願い止めて!」


 "ローレ"と言う名前に、ザクセンは聞き覚えが無かった。だが、彼等を追うように走って来た人物には見覚えがあった。

 叫びながら親衛隊員と似た帝国国防陸軍の野戦服を着る兵士達を追い掛けていたのは、歌詞の中に歌われていたローレ・フォン・シャハト本人であった。自分の名前が出てくるどころか、べた褒めする歌で行進され、慌てて彼等を追いかけた事で民衆の声援まで受ける現状に彼女は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。

 そんなローレは歌を止める事に必死だった為、民衆の中にザクセンがいる事に気付かなかった。それでも、ザクセンはザクセンで物陰に急いで隠れた為に、親衛隊やカイムに対する興味や興奮から覚めて冷静になった。

 行進する兵士達が北方貴族の一人のであるシャハトに関する歌を歌い、その内容は否定よりは迎合的であったことや彼女の格好も親衛隊と呼ばれる者達と似た格好であった事から、ザクセンは親衛隊が北方貴族と手を組んでいるという事実を理解したのだった。

 知らなかった帝都デルンの激変と親衛隊の現状に少し焦りを感じたザクセンは、通りの奥に妙に豪華な建物を見つけた。その建物には旗が2つ立っており、片方は行進する集団が被っていた鉄兜にも同じ物が描かれていた事に彼は気付いた。


「彼等に関係する建物か…」


 一言呟いたザクセンは、少し周りを警戒するとその方向へ歩き出した。凝った装飾のされたその大きな建物は、彼からしたらありきたりな建物だった。だが、過剰とも思える警備員の数や、仕立ての良い服を着た者の出入りが多いことが、彼にそこが重要施設であることを確信させた。


「まぁ、行くだけ行ってみるかな?」


 そう言ったザクセンだったが、自分の格好を改めて確認するとその歩みを止めた。親衛隊が北方貴族と手を組む現状を打破するには、自分と手を組む方が利益が有ると思わせなければならない。その上で最初の印象は大切だと感じた彼は、服装や身だしなみを整えるために城へ戻る事にした。


「さて、どう連絡を付ければ良いのか…彼を使うのは出来るだけ避けたいのだがな…」


 独り言を呟くと、ザクセンは観光ついでに帝都中央のシュトラッサー城へ歩き出したのだった。

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