第五幕-3
帝国歴2413年3月29日のまだ日も昇らない朝の事であった。親衛隊候補生達が寝泊まりしている親衛隊教育本部の候補生用宿舎第1棟に無数の怒声が響いた。
「総員、今すぐ練兵場に集合!急げ、急げ!」
軍曹階級に略帽を被った親衛隊員が候補生達の居室に入るなり、金属のゴミ箱をあらん限りの力で叩き騒音を出した。普段より圧倒的に早い時刻に起こされたとはいえ、ラッパで起床し訓練生に近い行動を要されていた候補生達の動きは寝起きの割には早かった。
一部屋に10人で生活していた候補生達が雑嚢一つ分の荷物を持って出る頃には、廊下は集合命令を出された候補生でごった返していた。そんな状態も数分後には正された列が出来上がり、全員が駆け足で候補生用宿舎の階段を駆け下りていった。
候補生用宿舎は拡大建設された親衛隊本部の首都訓練所内部に併設されていたが、訓練生用宿舎を挟んでいたために練兵場までの長い距離を走っていった。
「何をもたもたしとるかぁ!さっさと並べ!」
候補生達が練兵場場につくと、入口両端の親衛隊下級軍曹が怒鳴りつけるように白線に1列に並ぶように命令した。練兵場の端の訓練生宿舎にちかいところには長い白線が引かれ、その周辺には軍曹達10人が立っており、候補生は続々と整列し始めた。
号令を出す軍曹達は様々な種族で構成されており、男女それぞれ5人づついた。
「列を正せ!」
リザードマンの下級軍曹が候補生達へ号令に全員が一斉に右を向き、服の肘が隣の候補生に当たる程度まで近づき横隊を整えた。
「点呼!右から番号!」
更にリザードマンの軍曹が号令を叫ぶと、候補生達は右から順に全員が番号を唱え始めた。総勢500人の候補生の点呼が終わると、彼等の前に1人のオーガが立った。
そのオーガの男は他の軍曹と違い、曹長の階級章と少し多い勲章が制服についていた。そのオーガは黒く太い眉を吊り上げ、割れた顎を数回撫でると大きく息を吸った。
「総員!頭、中!」
低く響くオーガの声が号令を伝えると、候補生達がが全員一斉に彼の方向へ顔を向けた。多少ぎこちなさが有ったが、事前に配った基礎教練本の効果に少し安心してから、オーガの曹長は腰に手を当て胸を張った。
「本日から、君達第2期親衛隊訓練生の教官代表を勤めるハルトヴィヒ・ガイエル曹長である!」
ハルトヴィヒは威圧感を大いに発した態度の力強い言葉を発すると、候補生達全員が肩を震わせた。今まで彼等は親衛隊隊員になるため候補生として労働に従事していた。その生活に慣れてきたとはいえ、ハルトヴィヒの言葉に本来の目的に近づいた事が多くの者に喜びを与えた。
そんな候補生達の機微を見たハルトヴィヒは太く凛々しい眉間にシワを寄せると頭を振った。
「勘違いしないでほしい。諸君等はただの訓練生だ。更にはいくらでも代わりの効く、掃いて捨てられる程度の塵でしかない!その諸君等を総統閣下の剣にして盾!延いては帝国の戦士へ足らしめるのが我々の仕事である!」
ハルトヴィヒの言った"いくらでも代わりの効く"という言葉は候補生達の現状を示しており、彼等全員の表情は一瞬で不安の色に染まった。
その不安を機敏に察知したハルトヴィヒは、その不安を宥めるように身振りで軽く示すと咳払いをした。
「安心したまえ諸君!例え、今は役に立たない屑の塵であったとしても、私達が鍛え直そう!どれだけ無能でも、帝国ただ1人の親衛隊隊員に仕上げて見せよう!」
そのハルトヴィヒの熱の入った言葉と表情は候補生達に決意を与えた。その表情を見て、ハルトヴィヒは候補生達を鋭い目付きで睨み付けた。
「これから諸君等が受ける訓練は苛酷極まりない。時には情けなくも脱落し、時にはそのまだ価値のない命を落とすかも知れない。それでも!総統閣下の為に、帝国の為に命を捧げその身に大いなる誇りを求める者は3つ数えるまでにその白線の前に出ろ!」
ハルトヴィヒが候補生達へ檄を飛ばし終わると、500人全員が一斉に雑嚢を背負い彼を見詰めた。
「1つ!」
ハルトヴィヒ掛け声に候補生達全員は一斉に左足を踏み出した。それを見た軍曹達も内心不安しか無かったが、遂に始まる教育隊活動開始に覚悟を決めた。
教官として任につく軍曹達も、つい2日前の早朝にハルトヴィヒに呼び出され成り行きで教導団に属する事となったからであった。
訓練生となった候補生達の前で語るハルトヴィヒでさえ、それまでは中途半端な覚悟だった。そんな自分達と訓練生達に言うように、ハルトヴィヒは天にも響くような声で自分もいつか言ってみたいと思っていたカイムの言葉を叫んだのだった。
「お前達を命令無しに泣いたり笑ったり出来ないようにしてやる!覚悟しろ!」




