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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
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第一幕-5

「それで、君達はどうしてここに来た?できれば簡潔に説明してくれ。何となくなら、理由も解るけど…」


 研究所と突如現れたスラムの少年少女の集団との中間地点に、カイムは椅子とテーブルを出して話し合いの場を設けた。その席には代表として名乗りを上げたオークの青年と死霊の少年にハーピーの少女の3人は、カイム達の服装や彼等の後ろに見える研究所、どこから取り出したのか解らないヴァレンティーネのティーセットに目を輝かせていた。

そんな少年少女3人にカイムが質問すると、彼等は真面目な表情に戻り席に座り直した。


「僕…いえ私達を貴方の仲間に入れてください!」


 カイムは自分の予想した青年の言葉に、人員不足を補える喜びと1つの問題への悩みに複雑な表情を浮かべた。その表情は少年少女3人を不安にさせたが、カイムよりギラの表情の方が彼等を不安にさせた。彼らがカイムに仲間に入れてくれと言ったとたん、ギラは険しい表情で彼等3人に威嚇をしたのだった。


「閣下、彼等は親衛隊に相応しくありません。スラムに帰らせましょう」


 睨みを効かせるギラは突き放すような言葉を3人へとかけた。その3人は席から立ち上がり理由を問おうとしたが、それより先にアロイスがカップの紅茶を飲み干してテーブルの上のソーサーへと音をたてて置いた。

 その不快な音に少年少女3人とギラが驚き、全員がアロイスに視線を向けたのだった。


「そのティーカップ(ティータッセ)、良い品なんですけど」


「それは、すまんなっ…本当にすまないが、こうした方が言い合いを押さえられるからな。ギラ訓練生、何でそこまで拒絶する。人手不足だ良い事じゃないか?」


 ヴァレンティーネの苦情を表す視線8つを全て受け、カップに傷が無いか調べながらアロイスは彼女に謝りつつギラへと疑問を言った。その内容に腕を組み露骨に代表3人へ蔑む目線を送りながら、ギラはただ黙って紅茶に口を付けた。


「彼等は閣下に"仲間にしてください"と言いました。仲間とは対等な協力関係。自分達の主、総統に頼むのにこのような口の聞き方。親衛隊に相応しいと思えるの?」


「私達とて最初は似たようなものだった」


「アロイス訓練生。仮とはいえ親衛隊が形になったの。それを見て言葉を選べない者は、私達の足を引っ張ります。そんな連中を加えてもたかが知れてます!」


 持論を述べたギラに対して、その内容から言い合いを止めようとしていたアロイスも彼女と白熱した言い合いを始めかけたために、カイムは軽く手を挙げ2人の会話を止めた。

 森に響く鳥の音が聞こえる程全員が沈黙すると、カイムは静かに紅茶を飲み始めた。カイムの行動から、慌てて席から立ち上がろうとした代表の3人も、中途半端に立ち上がろうとした態勢で見詰めてくるアロイス達3人の圧を前に何も喋れず席に座った。その沈黙は深く、死霊の少年に至っては自身の発言がギラの反発を産んだ事から口を縫ったように黙るのだった。その為、彼等3人は目配せでお互いに話を切り出す者を押し付けあう状態となった。

 何より、3人は親衛隊がカイムをトップダウンとした軍隊組織である事、ギラという悪魔の少女が組織で上位の人物であるという事、そして自分達が余り歓迎されてない事を状況から理解した。

 誰も口を開かない茶会にて、カイムが静かに紅茶を飲みきりゆったりと息をつきながらカップを置いた。ヴァレンティーネが新しい紅茶を注ぎ始めると、それに軽く礼をしながらカイムは手を組みテーブルに置いた。


「君達の意思は嬉しい。だが、ギラの言うことにも一理ある。親衛隊は私の私による私のための武装組織だ。故に彼等は訓練を行い、私の命令を忠実に実行する事が職務だ」


 語るカイムは明るい口調と笑顔であり、代表3人に幾らかの希望が見え笑顔を浮かべた。


「"忠誠こそが我が誇り"。これが親衛隊の基本である以上、ただ君達の思う"英雄物語に関われるかもしれない"なんてぐらいで考えると、直ぐに死ぬぞ」


 だが、突然笑顔を消して口調を冷酷で突き放す様なカイムの言い方に、3人は浮かべた笑顔を直ぐ消した。カイムの発言の"死ぬぞ"とい部分に即座に反応した代表達は確認の視線をアロイス達に向けた。視線を受けた全員が軽く頷くと、アロイスは左胸の金の勲章を指差したのだった。


「戦傷章金章だ。まぁ、親衛隊の初戦だったから軽い打撲でも金章だがな。これからはもっと酷くなるはずだ」


 戦傷章を前に若干嘲笑するギラに舌打ちしながら、アロイスは新しい紅茶をヴァレンティーネに頼んだ。そのアロイスの戦傷金賞を3人は見詰めながら、死ぬという事が現実性の高い事と理解して黙り込んでしまった。


「何よりもな、ここにいる彼等とてまだ訓練生だ。彼等の訓練課程もまだ半分さえも終わってない。君達の訓練はまだ先になる。しかも、今の教官は私1人だ。だから君達への訓練は教官育成のついでとなるし、訓練開始も遥か先だ。基礎訓練で10週間かかるし、この"荒鷲の巣"には500人近く収用する余裕もない」


「閣下、訓練所は"荒鷲の巣"にしたんですか!素敵な名前ですね!」

カイムの突き放すような言い方に、今まで黙っていたハーピーの少女が声を上げた。


「そっ、そんな…あの、アロイス様は良い提案と…」


「アロイス訓練生。君はどう思う?」


 カイムの質問にアロイスはただ頷いた。カイムの意志が親衛隊全体の意志なのだと解ると、3人の顔には絶望の表情となり、これからの不安に肩を震わせた。彼等のその悪い雰囲気は後ろに立つ志願者全員に伝播したのか、不安の混じった声によるざわつきが大きくなった。


「いっ、今更死ぬのがなんだ!そうだろ、みんな!」


「それは…そうだけど…」


「そうだ、そうだ!あんなところで死ぬくらいないなら戦って死んでやる!」


「英雄のもとで戦って死ねれば、惨めでもないだろ!」


 その群衆の1人の悲痛な声が少年少女達を鼓舞すると、その意志は周りに伝播し、最終的には群衆の全員がカイム達に歓声を上げながら集まってくるのだった。集団が後5m程という所で、集団の近くの木が大きく裂け音が響いた。


「リヒャルダ訓練生!何で撃ったんです?」


 少し遅れて防護壁の奥からブリギッテの声が響いた事から、威嚇射撃はリヒャルダが行った物だった。運良く纏まりかけた状況が悪い方に進み、カイムは危機感を覚えた。


「それなら、俺に良い提案がある。是非その話に混ぜて貰いたいが良いかな?」


 その状況下で突然に男の声が響いたが、それはカイムには聞き覚えが有る物だった。その声にカイムが眉間にシワを寄せると、彼等の左側にある茂みから、力強い歩みでアモンが現れた。ギラ達3人が護衛として前に出ると、アモンは慌てながら落ち着くよう手を前に出した。


「待ってくれ!俺は君達に害を為すつもりは無い!ただ君に謝罪と感謝を言いに来たんだ!ホーエンシュタウフェンも居たんだが、まだ来ていないみたいだ。だから、面倒に成る前に腹を割って話さないか?」


「謝罪に感謝ですか…追い出しておいていきなり…」


 アモンの言い訳のような言葉にギラは怒りや負の感情を剥き出しにして対応した。その反応にアモンも苦笑いを浮かべたが、それでも彼は歩みを止めずにカイムの元へと進むのだった。


「姫様!まだ出る時では!」


 二転三転する場の空気が更に複雑になり始めると、今度は右側の茂みから引き留める声と共に人影が2人分飛び出してきた。


「アモン…先程の発言は後で追及するけど、今は良いわ。その話、私も混ぜて欲しいわね」

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