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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第2章:長い午後への扉
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第一幕-4

「北への道ってこんなに悪い物だったのね。森までくらい舗装しなくてはいけないわ」


 ホーエンシュタウフェン一行が城を出てから、既に3時間が経過していた。普段から城に籠っている彼女は、長く舗装されてない道を歩くことに慣れておらず、それ故に街を出るまでにもかなりの時間を費やした。

 そして、長時間の移動の末にホーエンシュタウフェン達はようやくマヌエラの研究所の有る森への道に出た。それでも、その移動は道程半の分手前であったが、彼女等の速度が遅いのはホーエンシュタウフェンの運動不足だけではなかった。


「アモン、さっきから脇腹を押さえてどうしたんです?」


「昨日摘まみ食いした干し肉にあたったかな?腹が痛くてな」


「そうか…ならいい」


「まぁ、そのうち治るさ」


 ファルターメイヤーが右脇腹を軽く擦るアモンに尋ねたが、彼女の疑問の通り彼の歩く速度は普段より遅いものだった。そんなアモンの速度も息も絶え絶えで額にうっすら汗をかくホーエンシュタウフェンに比べれば速く、彼の適当な回答も彼女を一瞬だけ疑念を抱かせたがそれでも納得させた。

 そんな話す2人を黙って歩き追い越しながらハンカチで汗を拭いた皇女は、今朝の出来事を思い出して1人苛立っていた。帝国会議がまもなく開かれようとしている首都デルンにおいて、親衛隊の行いは大きな衝撃となった。そんな衝撃を彼女が受けたのは日の出直後だった。

 ファルターメイヤーと入れ違いでアモンによってもたらされたその情報は、議会の演説原稿で忙しかった彼女に"カイムの暴動"を考えさせた。商業組合は彼女が復興物資分配を依頼した組織であり、半ば追い出したカイム達の反乱と考えたからであった。

 だが、ホーエンシュタウフェンの危惧とは裏腹に何時までたっても騒乱は起きず、それ故に彼女は事態の糾弾をする為カイムの元へと出向くことにしたのだった。

 そんな怒るホーエンシュタウフェンの糾弾意識を下げたのは、ファルターメイヤーの商業組合の悪事についての報告であった。街からの帰途途中で住民から少し聞き込みをした彼女は、帝国皇女3騎士という事から曖昧な回答を多く得ていた。だが、一部の市民は気品ある街娘への愚痴としてその真実を話したのだった。

 それをそのまま伝えられたホーエンシュタウフェンは出鼻をを挫かれ、カイムへと細かい事情を聞きに行く事になった。その道中でアモンは謝罪と融和的態度をと発言したが、彼女には聞き届けられなかったのだった。


「色々と勝手して!こっちは困るのよ!」


 自分達以外誰もいない道で、普段の鬱憤を張らすようにホーエンシュタウフェンは声を上げた。だが、ホーエンシュタウフェンの声より響く弾けるような音が森から聞こえると、ファルターメイヤーは聞き覚えの有るその音に驚きつつ森を見つめたのだった。


「この音…昨晩の」


 ファルターメイヤーが今朝見た光景が頭を過ったとき、突然自分の足が地面から離れアモンの左脇に抱えられたことに気付いた。彼女は右横に皇女の顔さえ見たため、ファルターメイヤーは何から先にアモンへと言うべきか解らなくなった。


「アっ、アモン!貴方という人は…」


「無礼は謝る!だがこのままじゃ何時までたってもつかないからな。姫様、駆けますよ!」


 流石のホーエンシュタウフェンもアモンに文句を言おうとしたが、鍛えられた上位魔人の全力疾走とその小脇に抱えられた状態が有無を言わせなかった。非礼を詫びるアモンの全力疾走により、彼等は森に予定より大幅に早く到着できた。しかし、腹痛を悪化させたアモンはゆっくりとした動きで森の木陰に向かった。


「すまない…俺はもう限界だ…ちょっと用をたしてくる」


 森の中で悲痛な声を出し早々に見えなくなったアモンを置いて、2人は北への道から左に伸びるマヌエラの工房への道を進んだ。

 だが、少し進むとその道は若い少年少女の人だかりで塞がれていた。それを遠方から見つけたファルターメイヤーはホーエンシュタウフェンの手を引き道の横の茂みをゆっくりと進んだ。


「ファルターメイヤー、何で…」


「姫様お静かに…無礼は承知しておりますが、姫様の御身の為です。彼等は私達の知らない何かを持っているので」


 ファルターメイヤーの静かながら強い言葉に、ホーエンシュタウフェンはただ臣下を信じてその後ろをついて行った。その2人が森の中で見た光景は、多くの市民集団がマヌエラの工房近くまで列を伸ばしていたおり、その先頭少し離れて見える程度の場所で止まっていた。


「あれが錬金術師アルブレヒトの工房?砦の間違いかしら?」


「姫様!あれを」


 ホーエンシュタウフェンの疑問を無視してファルターメイヤーは道の途中に指を指した。その指の先にはスラムの住人3人とテーブルを挟んで座るカイムとギラ、その後ろに立つアロイスにテーブルに座る5人に紅茶を配るヴァレンティーネが居た。


「2人以外は見ない顔ね…行きましょう」


「お待ちください姫様!少し様子を見ましょう…状況を掴み、優位な時に凛として立つのです」


 勇み足で進もうとしたホーエンシュタウフェンを彼女は止めた。その発言に一瞬ムッとしたホーエンシュタウフェンだったが、話し合いに見える状態からカイムの声が聞こえると、茂みに隠れその状態を見詰めるのだった。

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