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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第六幕-9

 商業組合会議室は明るい空気に包まれていた。組長命令より一日遅れの訪問とはいえ、営業部長が彼等にとって吉報を持ってきたと言ったからであった。


「"先の放火でカイムリヒトホーフェン?の親衛隊訓練生の多くが町へ移動。今はギラフィンケ?とアロイスベイアー?しか居ない"と…営業部長このカイムリヒトホーフェンってのは何だね?」


「なっ、名前ですよ。カイム・リヒトホーフェン。他の2つも名前ですよ」


「皇女の英雄は名前の有る、しかも名前を学んだ方と…かなり高貴な出身ですかな?」


 報告書を読み上げながら眉をひそめる組長の質問に、営業部は腕の翼の毛繕いを止め、慌てて立ち上がりながら説明をした。彼の説明内容は他の部署の責任者達からすればは突飛な内容であり、その場の全員が驚きの表情を見せた。

 驚く責任者達の中でも比較的冷静だった会計主任は訝しむ様に質問すると、営業部長は黙って困り顔の頬を掻いた。それを見た会計主任は溜息をつくと、もういいといった表情で手を振って回答を流した。


「とにかく、その…"カイム何たら"の周りはもう2人しか居ないんだよな?それなら勝ったも同然だ!」


「そうでも無いみたいですよ、人事部長。城から同行した騎士と執事、そしてアルブレヒト殿とあの鍛治士のリザードマン」


 人事部長の大声の安心したような発言に、責任者の多くは安堵の表情を浮かべた。たが、組長はその中でも渋い顔を浮かべつつ、報告書の内容をなぞりながら呟いたのだった。それでも、全員がカイム達との人数比の前に再び安堵の表情を見せ、余裕の有る雰囲気が会議室に戻ってきた。


「しかし、英雄殿も頭の硬い方だな。最初から仲間になりたいと言えば厚待遇で迎えたと言うのに」


「おいお前、営業部長に同行したんだろう?この書類の内容に嘘は無いだろうな?本当の事を言え!」


 営業部の報告書には、カイムの親衛隊訓練は順調だったが、放火の鎮火で被害を出した事で商業組合の警告を前に多くの者が研究所を脱走した。そのため、カイムは抗争を諦めて自身を商業組合に売り込みに来たいというものだった。

 安堵の空気が流れた会議室で誰とも無しに慢心した組合の中でも、組長だけは疑念の表情で銀の首輪の少女に語気を荒く尋ねたのだった。

 すると少女の銀の首輪が赤黒く光だした。その光に少女は一瞬苦しそうに藻掻いて見せると、必死に首を振って主張するのだった。


「これが隷属の首輪…魔法とは恐ろしいですな…」


「公爵閣下から賜りし魔法具だ。特殊な道具のため魔族でも使える優れ物だ!まぁ、この小娘はまあまあだがな」


 目を眩ませる程の光を放つ首輪に法務部長が慄きながら呟くと、組長は自慢気に話始めたのだった。その組長の言葉には多くが称賛の声を挙げた。

 だが、少女はその中でもただ一人マントやフード越しにも判る程、怒りに震えていた。その沈黙とナイフのような冷たい怒気に包まれた姿を見た営業部長は、背筋を凍らせつつ咳払いして話を切り換えようとした。


「書類の準備や相談が有るそうなので、カイム閣下の来るのが3日後となるそうです。私としては、中途採用なので各部署の責任者による会議に同席して頂き、採用の採決を取ると…」

 

「公爵閣下の事も有るし、採用は決定事項だ。だが話し合うのも大切だしな」


 営業部長の提案に対して、周りの役員からのお世辞に気分の良くなった組長は大いに頷きながら腕を組んで同意の言葉を述べるのだっだ。

 だが、組長の言葉にたった一人だけ会計主任が席から立ち上がると意見を言いたげに手を上げるのだった。


「待って下さい組長!書類の作成とか関係者での相談等は解ります。しかし3日は長すぎです!何か彼等は考えているのでは…」


「たった7…いや戦えるのは5人。それだけの人数で何が出来るというんだね?英雄とはいえ数で押せば何とかなるとも」


「それでは、手配の方お願いします。私は仕事が有るのでこれで…」


「あぁ、行き給え。さっさと終わらせてくれよ。残業代なんて出したくないからな。どうだ諸君、これが私の…」


 先程までの警戒が嘘のように消え、完全に調子に乗った組長は会計主任の言葉を無視し封殺した。他の部署も彼に同調する楽観的思考で頷くと、営業部長がゆっくりと立ち上がり一言告げると足早に会議室を去ろうとした。

 営業部長の態度に疑念の視線を会計主任が送る中、組長は二つ返事で彼を送り出し、他の部署の責任者に自分達素晴らしさを語り始めていた。

 組長の自慢話から逃げるように会議室から去り商業組合の本部を出ると、営業部長は日の落ちた薄暗い路地をただ一人周りを警戒しながら歩いて行った。

 その路地は被害が少ないとはいえ、スラムなためにボロ布を身に纏った浮浪者だらけの路地だった。


「稲妻…」


「うぇっ!あっ…らっ、雷鳴」


 その路地の途中、ボロ布を纏った浮浪者の中の一人が前を通ろうとする営業部長へと呟いた。その言葉に一瞬驚いた彼も、慌てつつそれに呼応するように返したのだった。


「上手くいきそうです。予定通り3日後でお願いします」


 営業は本部から持ってきた封筒をその浮浪者の前に置くと足早に歩き去っていった。

 その浮浪者も封筒を拾うと、営業部長とは反対側の方へと歩いていった。布の裾から伸びる靴は汚れ1つなく無く磨かれた黒革のブーツであった。

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