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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第六幕-7

「全滅?10人のオーガが全滅?犬も連れてたのにか?」


 帝国首都のデルンの南側にある商業組合本部に組長の大声が響いた。デルン南部には比較的建物の被害が東部や北部より少なく、彼等は無事な建物を本部にしていた。とは言え、扉や壁に隙間が空いている屋内には組長の大声が良く響いたのだった。


「そうです。あそこには手練れが1人います。1人づつ、最後はまとめて殲滅されました」


「成る程、所詮チンピラとはいえオーガ10人に魔犬まで付けて全滅とは驚き」


 半口を開いて驚く組長を無視して、銀の首輪の少女はただ淡々と説明した。その冷静さの前に組長は冷静さを取り戻して椅子に座り直した。驚きや怒りの感情から一気に冷静になった組長は、テーブルに肘を突いて手を組むと気取った口調で納得するのだった。


「やっ…やはり、ここは穏便に済ますのが…」


「だが、あいつらアホっぽかったろ!その手練れってのもなぁ…そんなに強くないんじゃないか?」


 窓際の席に座る会計主任のゴブリンの男が弱々しく静かに言った。その口調は敵を恐れる臆病者と言った具合であり、その言葉を聞く組長は長い会議机を苛立ちから指で叩く音が室内に響いた。その急かす様な音により部屋の空気はみるみると息苦しい物になった。

 会計主任に苛立った人事部長のオーガの男が彼を遮るように怒鳴ると、銀の首輪の少女が暗いフードの下から睨み付けた。部屋に差し込む明かりが、少女の瞳を8つに輝かせた。


「いやっ、そうだな…ゔっうん…」


 少女の不気味かつ殺気の混ざった視線にはガタイの良い人事部長さえも気圧され、咳払いをしつつ彼は言葉を濁すのだった。


「私はここの誰より強いです。その私が言うんです。彼女は強いです」


「彼女…その表現だと、連中は女に負けたと?」


「馬鹿な!アイツ等が女相手に殺られたのか?」


 首輪の少女が彼女と言った時、全員が驚愕の表情となった。組長の確認に頷く少女の反応には出席者の誰もが黙って腕をくむばかりだった。

 その中でも、ばつの悪そうに座っていた警備部主任のミノタウロスが机に手を突いて立ち上がり荒ぶる口調で少女を問いただしたのだった。その言葉はその場の全員の思考と同一だった。


「しかし…たかだか森に火を放っただけで皆殺しとは野蛮ですな」


「ともすれば、その女にのみ警戒すれば良いという事だな?所詮は野蛮な私兵集団。組織だった我々には恐れるに足らずだな」


 冷たい空気の流れる会議で、会計主任は先程までの口調と変わりまるで台本を読むかの様に冷静に話題を変えた。それとほぼ同時に、人事部長の圧倒的戦力差についての発言が冷たい空気を少しだけ温かくしたのだった。それは、全員が組織が数人程度の死者で揺らぐ程に弱くないと理解していたからであった。

 何より、スラムでの権力という点では商業組合が圧倒的に上であり、そんな彼等にとっては警告に実力をもって反撃するという事が最も予想外の事態であった。彼等としても森に火を放った事は警告のつもりであったし、全面抗争をすれば自分達が勝つ事を確信していたからであった。


「皇女に報告して対応してもらうか?」


「馬鹿言うな!あの女に借りなんて作ったら、公爵に何て言えば良いんだ?あの人が"すみませんでした"で許す人か?お前今俺に死ねって言ったのと同じだぞ!」


「目的の為なら何でもする。敵は戦って潰す。成る程あの方の興味には合致する連中だな」


 人事部長が会議机をノックして意見を出した。その意見を聞いて組長は顔を赤くして人事部長を指差し批判した。冷静さを失った組長を無視して警備部主任が組合の言う"あの人"について呟くのだった。


「下手に争いになると、皇女の城下だ介入される危険がある。裏を調べられたら不味いし、見られたくない書類の山だよここは。ガサ入れも困る。穏便に頼みたいな」


「はぁ…営業部長、数人連れて彼等の元へ行ってくれ。交渉の段取りを付けてくれ」


警備部主任の言葉に全員が頷きつつ再び沈黙が漂うと、法務部長のサイクロプスの男が意見を出した。その言葉に結論を出しかねる会議に沈黙が流れると、諦めたように渋い表情を浮かべた組長は眉をしかめながら営業部長に言った。

 組長の言葉には、今まで黙っていた営業部長のハーピィの男が嫌がる様な顔を見せつつも、周りから飛んでくる刺すような視線に頷くのだった。


「なら…明日辺りに…」


「今すぐだ!」


「ひっ…はっ、はい…」


 組長の怒鳴りに、営業部長は渋々納得して頷いたのだった。


「それでは、会議を終了する。それと、お前も営業部長に付いていけ」


 組長が会議の終わりの合図として机を叩きつつ出席者へと宣言したのだった。全員が立ち上がりそれぞれの仕事に戻ろうとする中、組長は部屋から去ろうとする銀の首輪の少女を引き止めつつ指示を出した。

 それでも足を止めない少女に、組長はその態度から苛立ち彼女の首輪を乱暴に掴むと強引に営業部長の元へと引っ張ったのだった。少女はそれに抵抗こそしなかったが、そのフードの奥の瞳が鈍く輝いた。


「ええっと…よっ、よろしくね?」


 営業部長の戸惑う声に、少女はうっすらと笑ったのだった。

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