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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第五幕-5

 訓練生達に指導を続けるカイムに予期せぬ事が起きたのは、訓練開始の4日目であった。


「総統閣下!大変です!」


「ギラ訓練生。一体何があった?」


「それが、ベッシュ訓練生ら4名が暴動を起こしています!男子部屋で騒音があったので行ってみたら、マックス訓練生が…」


 早朝30分の身嗜みを整える時間に、ギラがカイムの立つ研究所の玄関先に走って来た。その表情は明らかに緊急事態を表しており、彼女の説明に含まれた"暴動"という言葉には流石のカイムも危機感が煽られた。

 事態の確認を急ぐカイムは、足早に男子部屋に向かった。


「いい加減にしろよ!どうしてあんな奴に従うんだ!」


「他に道があるのかよ、ベッシュ!少なくとも、ここはあんな吹き溜まりよりゃマシだろ!」


「俺をそんな名前で呼ぶな!」


 半開きの扉からはアロイスの仲間の悪魔達の声が響いていた。扉の周辺には事態を察知したブリギッテや、騒音で目を覚ましたマヌエラも立っており扉の前での状況を伺っていた。


「おいおい総統閣下君…私は朝が苦手なんだ。早く解決したまえよ…」


「わかってますよ。遅かれ早かれ起こると思ったが…」


 眠気で頭を不安定に揺らしながら意識のはっきりしないマヌエラがボヤくと、その声に促されるようにカイムも一言言い放ち部屋に入った。だが。部屋は暴動と言うわりには荒れ果てても無く、アロイスとベッシュ訓練生がそれぞれ仲間を連れて対立しているだけだった。


「お前らだってわかるだろ。あんな所よりこっちが断然良いんだよ!」


「誰かの言いなりなんざ嫌だね!お前らは良いのかよ!こんなゴミみたいに扱われて!」


「ゴミよりゃガタイが良くなったろが!」


 アロイスと悪魔族であるベッシュの言い争いを聞いたカイムは、この事態の大まかな流れを理解した。つまりベッシュら4人はスラムでの自由気ままのチンピラ生活が良く、アロイスらは訓練生活を受け入れ4人の離反を止めようとしていたのだった。

 顎に傷跡がありソフトモヒカンという見た目から露骨な不良なベッシュとその仲間に、カイムは離反についての騒動が起きると確信していた。

 組織において考えの違いから来る対立は良くある事とカイムは理解していた。だが、それで友人同士が対立して争うという構図は、彼も見ていて気分が良くなかった。


「2人、いや8人か、とにかく落ち着け!何があった?まぁ、聞くまでも無いがな…」


「てめぇみたいな偉そうな奴の下につくなんざ真っ平だって言ってんだ!成り行きでここまで来たが、我慢できるか!」


「そうだ!人を"ゴミ"だ"クズ"だ言いやがって!」


「てめぇのがクズだろ!」


 言い争う8人を前に言ったカイムの言葉に、熱くなっていたベッシュは感情的に叫んだ。彼のその叫びに後ろに居た3人が野次を入れると、カイムとの間に険悪な空気が流れ始めた。だが、彼らの叫びを聞くとカイムは静かに訓練生のリストから4人の用紙を取り出し細かく破った。


「私は寛大だ!そんなに嫌なら今すぐ出て行け負け犬のグズ共め!二度と面を見せるな!」


「…そんなあっさりと切り捨てて良いのか…良いのですか!」


「先も行ったはずだが、私は忠誠を強要しない!どんな理由でも自ら尽くす者のみ受け入れる。それが親衛隊である!」


 あっさりと4人を切り捨てたカイムに、その場に居合わせた全員が驚きにより沈黙した。同じ訓練生が止められる事なく追い出される事にどう反応すればいいのか解らない為に、訓練生達はお互いを見合わすだけだったからであった。

 その沈黙を破るようにアロイスが発言の許可を求めた。だが、その内容にカイムは強い口調で突き放す様に言い切った。素の言葉を慌てて訂正しながらも除隊を止めようとしたアロイスに、カイムは言い終わるとベッシュを達を指差した。


「こんな奴等がいたら訓練に支障がでる。それとも、君はこんな奴等と共にここを出るか?負け犬達の巣窟で、無い力をみっともなく振るうか?自分より弱い奴等にデカイ顔をする情けない奴に戻るのか?」


「そっ…それは…」


 カイムは言うだけ自身の考えを言うと、破った用紙をアロイスに捨てるよう渡した。アロイスは迷いながらも、その切れ端を全て受け取った。

 仲間の離脱に苦しい表情を浮かべるアロイスだったが、彼の後ろから仲間の一人である茶髪の二枚目な顔付きのツェーザルが彼の肩に手を置き頭を横に振った。


「こいつらに構う必要はもうないよ。俺達はあんな所戻りたくない。それで良いじゃないか。諦めも肝心さ」


「くそっ…わかってるさ…」


 身長が175cmあるアロイスより少し背の高いツェーザルが呟き、アロイスが小声で呟くと彼の仲間4人は友人の離脱を慰めあった。

 そんなアロイス達を横目に、カイムは指の関節を鳴らして威嚇しながらベッシュ達を出口へ向かうように促そうとした。だか、ベッシュ達はカイムの威嚇にも構わず掴みかかろうとした。武術の類に長けていなくてもカイムは帝国でもかなりの強さであったために、組付く彼らを軽く吹き飛ばしてしまった。


「言っただろう。根性の無い負け犬に居場所はない!」


「くっそぉ…馬鹿力め…」


「これで終わると思うな糞野郎!こんなままごと直ぐに終わらせてやる!」


 カイムには吹き飛ばされ床に倒れるベッシュ達は、ギラやマックス達に拘束されると出口へ運び出された。だが、ベッシュ達は捨て台詞を残し、カイムは最後にベッシュの残した不敵な笑みに不安を感じた。

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