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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第6章:死にゆく者に花束を
310/325

第7幕-3

 カイム・リヒトホーフェンの総統就任記念日は11月9日である。

 本来であれば、カイムが帝国総統として正式に帝国議会で承認されたのは帝国南北戦争宣戦布告時である7月2日である。つまり、その日が正当な就任日であった。

 しかし、内戦直後の帝国ではこの正当な就任日で式典を行えるほど治安は安定しておらず、国内では様々な騒動や混乱が続発していたのである。そのために、カイムは国内情勢安定を見計らいつつ敢えて総統就任の議会決議をもう一度行ったのであった。

 そして、ガルツ帝国における総統就任記念日はカイムの総統就任が可決された11月9日となった。


[本日、総統カイム・ヒリトホーフェンの総統就任記念日に、この場へ出席できたことを快く思う。以下省略]


ささぁあげぇぇえ(捧げ)つぅつ()!」

 

 その総統就任記念日の会場である帝都デルンのシュトラッサー城周辺の大通りでは、2日後の式典本番に備えたリハーサルが行われていた。それには当然のように総統であるカイムも参加しており、演説用の壇上に立ちマイクの高さを調整する彼は整列して微動だにしない多くの親衛隊員や国防軍人の敬礼を受けていた。

 特に親衛隊員の教練動作は、式典のために選抜された国防軍から選びぬかれた兵士達以上に洗礼され、まるで1つの生き物のように揃っていた。指揮官の出す号令に即応するその動きは寸分違わず、体の芯に針金でも入っているかのように微動だにせず、均一化された漆黒のその姿は一種の狂気さえ感じさせるものである。

 その式典会場の舞台袖には親衛隊の黒服に身を包むハルが佇んでおり、腰に帯剣した聖剣を撫でつつ会場で整列する隊員達を呆気に取られながら見つめていた。


「"キショいくらいに揃ってるな"凄い……こんなに統率の取れた集団行動なんて、ブリタニア陸軍もできないでしょ」


 舞台袖で誰にも見られていないということから、聖剣はハルの表情を借りて苦笑いを浮かべつつ親衛隊へと感想を述べた。その内容はハルもすぐに頷く程であり、彼女は数年前に見たことのあるブリタニア陸軍のことを思いだした。

 ハルの記憶の中のブリタニア軍は、最前列に盾を持つ魔導兵士隊を置いてその後ろに騎士や魔術師隊

、槍兵隊や弓兵隊員を置くという横隊密集陣形を得意としてた。つまり、彼女は戦闘において集団の統率を取ることが何より重要であることを理解していた。

 その密集陣形に秀でたブリタニア陸軍さえも霞むほどの親衛隊の一糸乱れぬ動きは少し感想を述べるだけで、ただハル達にじっと彼等を見つめさせることしかさせなかったのだった。


[それでは、式典における演説の予行を終了します。皇帝陛下、誠にありがとうございました。そして、参加された議員や企業の方々、ありがとうございました]


 そんなハルが関心を通り越して不気味にさえ思いながら見つめていた式典の予行は、彼女が親衛隊員の整列や訓練動作を見つめている間にいつの間にか終わった。解散のアナウンスが流れる中でも、親衛隊員達は号令を出す指揮官の元で機械の如き合わさった動きで行進と共に分かれていった。

 その親衛隊員の間を大企業の役員や国会議員が縫うように分かれる光景を横目に、ハルは式典に参加することになった本来の目的である帝国皇帝アポロニアの姿を見ようと舞台の方へ顔を向けた。

 しかし、そこには既にアポロニアの姿はなく、最後に演台の位置を確認する親衛隊士官達の姿しかなかったのである。

 そのことに肩を落とすハルだったが、すぐに自分へ向けて近づく気配を感じると彼女は舞台近くから舞台袖の奥へと振り向いた。


「ハルさん、こっちです」


 ハルが感じていた気配はティアナのものであり、舞台袖より更に奥にある機材や配線が並べられた舞台裏で手を振って呼びかけていた。そんな彼女は親衛隊の黒服に飾り紐や勲章を付けており、制帽を目深に被る姿は普段の童顔からくる幼い雰囲気を吹き飛ばしていた。

 そのギャップに片手を上げて応じながらも目に映る慣れない感覚から言葉に詰まったハルは、少し開いた口を閉じて黙ってティアナへと駆け寄ったのである。


「あの、ティアナさん、私達はあの列に列んでなくて良かったんですか?国防軍の高官とか親衛隊の皆さんとか、沢山並んでるのに"帝国の皇帝が予行練習に出てくるとなりゃ、あれぐらいするか。とはいえ、行ったところで俺たちゃ大いに浮くだろうな"」


「ハルさんは総統付きですから、あれで良かったんですよ。次の行進も、総統閣下の隣で立っていれば大丈夫ですから」


 式典の舞台裏は制服姿でスケジュール監理や配置の確認をする親衛隊員やツナギ姿で機材を操作する作業員が慌ただしい様相で駆け回って作業を続けており、予行で有りながらも本番さながらの緊張感で作業を続けていた。

 それまで演説の予行にいた親衛隊員達は慌ただしさと相反する鉄のように冷たく機械のような効率を感じさせていた。そんな彼等も舞台裏へ来ると熱意と気合が感じさせられる程に勢いは凄まじく、下がってきたハルがその熱気に感化され手持ち無沙汰に肩を回し、彼女へ聖剣が呆れてあやすように呟くほどだった。

 そんなハルに笑いかけるティアナは通路を軽く片手で示し、彼女へ励ましの言葉をかけつつ目的地へ先導し始めた。その先導に頷きティアナの後を追うハルは、腰に下げた聖剣が狭い通路に置かれた機材や人、舞台セットに当たらないよう器用に避けつつ前へと進んだ。

 ティアナの足は演説のための舞台裏より更に奥へと向かっていた。

 総統就任記念日の式典は二部構成となっており、帝国皇帝であるアポロニアや総統であるカイム、宣伝大臣のアマデウス等の帝国重鎮達の演説で始まり武装親衛隊や国防軍のパレードで終わるという内容になっていたのである。

 そのために、演説舞台はパレードの舞台であるシュトラッサー城からまっすぐに伸びる"皇帝通り"という大通りの直ぐ側にある広場で行われる。ティアナはその大通りと舞台の間に設置されたテントへとハル達を案内したのである。

 そこには多くの親衛隊員達が物々しく辺を警戒し、中には装甲服を身にまとい手榴弾やガスマクスさえ装備する隊員がいるほどであった。


「それでは、少し用意がありますから待っててください」


「はい……"早めに頼むぜ、立ちっぱなしっても嫌でな"」


 要人の待機用や式典本部などの数多くのテントが設置された場所まで案内されたハルは、行き交う人の忙しそうな慌ただしさや物々しさに辺を見回していた。そんな彼女にティアナは一番大きなテントを指差し一声かけたのである。

 その言葉に直ぐ返事をしたハルだったが、遅れて物々しい雰囲気を漂わせる親衛隊員だらけの空間でしばらく1人きりとなることに気づくと、少しだけ目を細め眉を潜めた。

 そして、聖剣がハルの心情を露骨に口に出すと、ティアナは苦笑いと共に軽い頷きを残してその場を去っていったのだった。


「なんか、テントだらけだね"周りから内側が全く見えないようになってるな"警備も厳重だし……」


 ハルと聖剣は近くにあった木陰に立ち、何気なく話しながら辺を観察し始めた。親衛隊員は難関試験に合格し総統カイムへの忠誠心がある魔族であればどの種族でも入隊可能である。それ故に着ている黒服が同じであるという点以外は全てが多種多様であった。隊員の中にはダークエルフの隊員さえも見かけるほどであり、魔族の種族と言うものを人種のように理解していたハルは、仮でも自身が身にまとう制服の組織が自分の知っている人間世界の組織と根幹が違うという実感を覚えたのだった。

 ハルの人間世界において理解している組織というものは、エリート意識の強いほど人種や目に見える何かを求めたがるのというものである。

 だからこそ、目に見えぬ思想と忠誠によって種族の垣根を超えて強力に団結し機能する親衛隊という組織はハルに改めて異質さと僅かな不安を覚えさせたのである。


「親衛隊?"とは違うな、ありゃ。近衛軍ってヤツだろ"白い服って辺りが親衛隊との対比に感じるよね?"過去に一悶着あったみたいだしな"」


 そのハルの不安を拭うように、腰の聖剣は彼女へとにかく話題を振るようにした。その話題は彼女達の前を過ぎっていった1人オークの服装についてだった。

 そのオークは全身を真っ白い制服で身を包む軍人であった。さらに、その制服は親衛隊の制服を白くしただけに見える外観をしていた。その制服にハルは首を傾げ、その首を直す聖剣は空かさず会話を続けてハルの気を紛らわせたのである。

 それでもハルと聖剣の会話は早々に終わり、2人の間には暫く沈黙が流れたのだった


「ねぇ、聖剣?"んだぁ、そんな言い淀んで。わざわざ口に出さずとも、俺たちゃ意思疎通出来るだろうに"そういうことじゃないんだよ」


 多くの軍人たちが行き交う喧騒の中で口を開いたのはハルであった。彼女の言葉は僅かに口籠り、直ぐに話を切り出そうとしなかったのである。その彼女の気まずがる心情を感じ取った聖剣は敢えて戯けた口調でハルに語ってみせた。

 しかし、その言い方がハルに発破をかけると、彼女は腹の底に渦巻く感覚を振り払い口を開き、聖剣が身構えるような感覚を覚えたのだった。


「この前の、ティアナさんの言ったこと。親衛隊って組織についてだよ。聖剣、“全体主義”ってヤツに凄い敏感でしょ?ソシアのポーリア侵攻のときも“共産主義”がどうのって言ってたよね?それに、時々さ、聖剣の考えが流れてくるときに“ファシストって……”"ハル!"」


 ハルの口から出てきた言葉は、これまでに彼女が感じ取っても聖剣へと尋ねなかったことである。

 ハルは聖剣との感覚や思考をリンクさせているからこそプライバシーを大事にすべきだと考えて律儀に混ざる意識や思考も区切っていたからであった。そのため、ハルは今まで必要なとき以外で聖剣の過去をあまり詮索したり勘繰ったりしなかった。

 しかし、帝国に来てからの聖剣の様子の変化とこれまでに感じなかった彼からの感覚や僅かに流れ来る知識はハルに様々な疑問を抱かせた。

 それ故にハルは思い切って聖剣へと尋ね、彼に言葉を止められた。聖剣の言葉や流れ来る感覚に自身への拒絶こそないものの、ハルは自身の言いかけた言葉や彼女の抱いた疑問に対して彼は明確な不快感を覚えたと感じたのである。

 聖剣は暫く黙り、ハルは彼の言葉を待った。


「"それ以上は何も言わないでくれ。お前なら、俺の“感情みたいに見える何か”も解るだろ?"そんな言い方しなくてもいいじゃん!"うるせぇ、良いか俺は……"」


 だが、聖剣は何も語らず話をはぐらかそうとした。その口調は突き放すようにぶっきらぼうであり、自身を皮肉る言葉を付け足しハルが言い返せないようにするほどである。

 だからこそ、ハルは聖剣の態度に腹を立て、腰から聖剣を鞘ごと取り出すと柄の近くにある聖剣の意識がある水晶を目と鼻の先まで持ってきた。そして、ハルは聖剣へ怒鳴ったのである。それでも、彼女の声音には決して怒りの棘はなく、その瞳は真っ直ぐ聖剣を見つめていた。

 傍から見ればたった1人で剣の装飾を睨みつけ独り言を呟き続けるという奇行をしているハルであったが、彼女は周りから向けられる冷ややかな視線さえも気にならなかった。

 それでも聖剣はハルへと跳ね返りを強くした言葉を返そうとした。しかし、彼の言葉はゆっくりと近づく軍靴の音によって止まり、自身の口から聖剣の言葉が紡がれないことに眉を潜めたハルは足音の聞こえた斜め横を見たのだった。


「確かに、女性に対してそのような擦れた口を聞いたら大変ですね。どんな男あっても、女性から呆れた表情で引っ叩かれるでしょう」


 そこには親衛隊国家保安本部長官である"金の猛獣"マックス・ブシュシュルテが立っていた。彼は漆黒の親衛隊黒服に身を包みハルへ蔑むような視線と殺気のような猛烈に冷たい雰囲気を溢れさせていた。

 そんなマックスの尋常ならざる気配で反射的に聖剣を腰に戻しその柄を掴み抜刀の姿勢を取ろうとしたハルだったが、直ぐに彼から感じていた冷たさは消えさり、それまで向けていた蔑むような視線もなくなっていた。それどころか、マックスは整った童顔に軽く微笑みを浮かべながら丁寧な口調でハルや聖剣へと話しかけたのである。

 だが、マックスの目に見えない一瞬の変化はハルに猛烈な不気味さを覚えさせ、丸腰の相手に彼女は竦んで聖剣を抜けなかったのだった。

 そんなハルの抜刀体勢は周囲の視線を集めたが、マックスが周囲へと視線を向けて軽く手を振ると隊員達はそれぞれの仕事へと戻っていった。

 周囲を視線を集めたことで自分の正体が魔族ではないことが知られる可能性と反射的とは言えど抜刀という敵対行為に見える行動の危険性に遅れて気付いたハルは、視線を散らしたマックスの気配りに苦い表情を浮かべつつ頭の角のカチューシャや格好に乱れがないか調べたのである。


「えっと、総統万ざ……」 


「敬礼する必要はありませんよ、ハル・ファン・デル・ホルスト。貴方には総統閣下を拝する権利はありませんから。なにより、意志と反する行動ほど"目に付く"ものはないですから」


 一通りの確認を終えたハルは、眼の前のマックスに敵意はあっても危害を加える気がないことを理解すると、今更感を感じながらも親衛隊敬礼をしようとした。

 しかし、マックスはハルの敬礼を片手で軽く制止すると彼女を僅かに見下げながら丁寧な口調で語りかけた。その内容は口調に反して敵意以外を感じられないようなものであり、穏やかな表情も相まうとハルはいよいよ眼の前マックスという男が薄気味悪く感じられるのだった。


「近衛軍が多いこの場でこの格好と敬礼は目立ちますから、場所を変えましょう」


 そんなハルの気持ちを知っていながらも敢えて気にしないように振る舞うマックスは、無意識に彼の不気味さから頬を引きつらせるハルと彼女の瞳を借りて睨みつける聖剣に語り掛けると辺を見回した。その視線に従ってハル達が辺を見ると、多くの軍人達が仕事の為に行き交ってていた。

 しかし、少し前のハルと聖剣の会話やマックスとのやり取りを見てこの場で仕事があるために留まる者達の中には近衛軍も多く、親衛隊と違って彼らはハル達を怪訝な目で見つめ続けた。

 その視線が気になったマックスの提案にハルは黙って頷くと、彼女は彼の後ろをついて行った。その行動に脳裏では聖剣の止める意思を感じたが、ハルはそれを無視して彼女の歩幅の差や辺を少し気にして見回すために遅れていることも気にせずに早足かつ大股であるき続けた。

 マックスが向かったのはパレードの予定地である大通りであった。そこで作業する者は行進の流れや機材の調整、会場設営の調整などで意識は他のところにはあまり向いていなかった。警備の隊員が視線を向けていても国家保安本部長官と総統付きの士官に詰め寄る程の度胸はなく、遠巻きから警戒する程度である。それはマックスにもハル達にも好都合であった。

 その好都合な場であっても、ハルは隣に立ちパレードの予行を楽しそうに眺めるマックスという男へ話しかける勇気がなかなか持てなかった。彼女も政治に関わることは多少なりともあり、腹の底の読めない人間とは何回かあったことがある。

 しかし、マックスという男は腹の底が読めないというものとも違う異質さがあるのだった


「あっ、貴方は……ブシュシュルテさんですよね?"”金の猛獣“か"」


「道具風情が私をそのあだ名で呼ぶか、不躾ですね。ホルスト嬢、貴方は礼節を知っているのならきちんと躾けたほうがいい。飼い主の意思に反する家畜など、害以外何物でもないですよ?」


 暫くの沈黙の後、ハルは覚悟を決めてマックスへと話しかけた。その言葉は、彼女自身が思っていたことと異なり、素っ頓狂な発言となった。そこに聖剣が憎々しげに一言付け足すと、ハルはいよいよ奥歯を噛み締め眉間にシワを寄せた。

 だが、最悪の印象を予想したハルが直ぐにマックスへ視線を向けるも、彼は至って笑顔であった。むしろ楽しげと言わんばかりのその表情に困惑したハルだったが、彼は浮かべる笑みと激しく温度差を感じさせる冷たい口調で彼女へと批判の言葉を述べた。

 ハルはマックスへより不気味さを感じた。そして、その不気味さの根本は自身を人間として見ていないことにあると理解したのである。


「あの……聖剣は“家畜”でもなくて“道具”でもありません。私の大切な家族です。あまりそういう言い方をされると、私も不愉快です」


 だからこそ、敢えてハルは自身の本音をマックスへとぶつけた。それは彼女自身が思ったそのまま包み隠さない言葉であり、声音の端々に敢えて露骨な不快感を示し彼の横顔へと刺すような視線を向けたのである。

 そして、その一言はマックスの瞳をハルへと向けさせた。顔こそはパレードへと向けているマックスの瞳がハルへと向くと、その金の瞳は瞬きすることなく彼女を見つめた。その瞳はまるで全て見透かしているとでも言わんばかりであり、横顔に笑みを崩さないことも合わさると、ハルは思わず視線を反らした。

 2人は暫くパレードの予行を見続けた。黙って見続ける2人の間には軍靴の鳴らす鉄の音が鳴り響き、指揮者の号令や走り抜ける車両のエンジン音はハルの話を続けようとう意思を掻き消したのである。


「これは失礼。物に愛着を持つ気持ちは解りますが、人工知能を生物のように扱う気持ちは理解できないものでして。所詮は電気信号が為せる生物の模倣ですから、気に障ったならすみません」


 しかし、ハルの消えかけた意志はマックスの言葉で驚きと共に蘇った。その反動でハルがマックスへと顔を向けると、彼は真顔で彼女を見ていた。正面から見る彼の顔は女性のようにも見える整い具合であり、そこから醸し出される無機質な雰囲気はハルにマックスを人形かなにかのようにも思わせたのだった。


「こうしてきちんと話すのは初めてですよね。はじめまして、ブシュシュルテ国家保安本部長官"ハっ、ハル!"聖剣は黙ってて」


 ようやくマックスがハルを人間とまでは言わずとも会話できる相手と意識して向き合ったことを逃すまいと、ハルは胸に手を当て恭しく頭を下げて挨拶をした。それは聖剣に取って不快そのものであり、彼は直ぐにハルを止めようとした。

 しかし、ハルは制止しようとする聖剣の意思を押し止め、彼が自身の口や表情を使おうとするのを止めさせた。その一瞬の主導権の取り合いで強張る顔に目を開いたが、マックスは彼女の言葉を受け入れたように親衛隊敬礼で返した。


「マックスで構いませんよ、ホルスト孃」


「なら、私もハルで結構です」


 ようやく2人は互いに挨拶するという会話の出だしに立った。

 だが、ハルが話をしようとしたときには既にマックスは再びパレードの方へ体を向け、会話を拒むように見つめ始めたのだった。そのことにハルは眼の前のマックスとの距離感の詰め方がわからなくなると、再び彼同様にパレードを見ようとした。


「どうですかな?」


「"どう"といいますと?」


「"総統閣下の帝国"ですよ。良き所でしょう?これほどに素晴らしい国は"未開の地"には"確実に"ないでしょう?」


 そんなハルの動きを遮るようにマックスは話しかけた。それまでの雰囲気と打って変わって、まるで同僚にでも話しかけるような気さくさはハルに言葉を失わせ、一瞬半口開けて動きを止めさせるほどだった。

 それでも、ハルはなんとか聞き返すことで会話を返した。そんな彼女に語るマックスの表情は彼が行進し去ってゆく兵士達の後ろ姿を見ようとしたために見えなかったが、口調だけは明るいものである。


「そう……ですね……ここまで法律が整備されて、魔術や魔導が使えるかどうかや貴族がどうとか、亜人かどうかなどで区別や差別されず生活が安定してる国はそうそうないですね」


 ハルはマックスという男がひたすらに不気味であった。腹の底が読めないというより、言動と行動、表情や感情に雰囲気の統一性がなく、敢えて自身の思考を理解させまいとするような言動が会話という状況に合っていないのである。

 しかし、マックスはハルと会話しようとするからこそ、その不気味さが一層際立つのだとハルは理解した。

 その不気味さの理由を理解したことで、ハルはなんとか会話に自身の思考をきちんと加えて説明出来るようになったのである。


「そうでしょう、これが総統閣下の威光が為せる技です。この大復興に貢献できたことは本当に我ら親衛隊の誇りです。ヒト族の野蛮な国家にはこれほどの大復興も大発展もできないでしょう。聞いた話では、ヒト族には電子計算機もなければ光回線、原子力発電所さえもないのでしょう?よく生活が出来るものだと思いますよ」


「ハハハ……"ちっ……"」


 ハルの言葉はマックスの表情に満足そうな笑みを浮かべさせた。その笑みは長くは続かなかったものの、マックスの語る言葉には嬉しさとも満足感とも取れる明るさが見えており、彼は行進する親衛隊員や電光掲示板、ハイテクノロジーを指し示して大いに語ってみせた。

 その満足気に胸を張るマックスの姿は一瞬子供が家族の自慢でもするかのような幼さをハル達に感じさせた。その姿は不思議と好感が持てるものであり、過去の悪逆との激しいギャップにハルは軽く相槌代わりに笑い聖剣は苦々しく舌打ちして見せたのである。

 2人の反応にマックスは数回黙って頷くと、再び黙って行進を見続けた。その横顔や彼の態度や発言から垣間見る思想に、ハルは胸に手を当て深呼吸すると、マックスへ向き合おうとした。


「その……親衛隊の方って、本当にヒト族が嫌いなんですね。私達のご先祖様達の行いを考えれば仕方ないんでしょうけど。」


 その勢いに合わせてハルはマックスへと話しかけた。その内容はヘタをすれば挑発とも取れるものであり、聖剣は直ぐに顔を青くした。

 だが、ハルから感じる強い意思を前に聖剣が彼女の内側へ引き下がると、彼女はいつの間にか自分へと向き合っていたマックスの瞳を見つめた。


「いや、嫌いとは違いますよ」


「じゃあ……一体……」


 視線が打つかり合うのもつかの間、マックスはハルが言った言葉に対して返事をした。その内容は彼が浮べる微笑も相間うと前向きに捉えられるものである。

 しかし、ハルは震える声で口籠りながら更にマックスへ尋ねかけた。


「憎悪です。総統の敵も、ヒト族も、マクルーハン人も、我等が憎悪するものです。だからこそ、この世から消し去るべきだ。それが、この帝国と人類、そしてなにより、総統閣下のためになる」


 マックスの目には増悪の炎しかなかった。語る言葉は丁寧であり、口調は静かで北部訛のある発音ながら優しささえ感じられるものである。

 しかし、マックスの語る全てには憎しみが溢れ出し、おおよそヒト族に対する悪意しかなかった。

 それ故に、ハルは何も言葉を発せなかった。何よりも、彼女は丸腰な眼の前の男に心底恐怖した。それは、これまで感じていた彼から溢れる猛烈な敵意がほんの一部でしかないと理解したからだった。


「あぁ、安心してくださいハルさん。貴女は総統閣下が直々に"庇護せよ"と命じられたのです。貴女はこの帝国にいる限り親衛隊が守り抜きますよ」


 その敵意そのままで自身に向けられるマックスの言葉はハルに猛烈な違和感を感じさせるも、彼女は怖気づくことなく彼と向き合い続けた。


「あの、総統……つまり、カイムさんはヒト族や自身に対して反対する勢力との戦争を望んでいるわけではないてしょう?あの人は自身の存在や意見に反対する人の存在は認めてるし、ヒト族とも戦う以外の道を探してます。それなのに、暴力で全てを解決しようとする貴方達は、本当にカイムさんの意思に従っているって言えるんですか?」


 この機を逃すまいとハルは勢いに任せてマックスへと己の考えを伝えた。それは彼女が親衛隊というものを知って学んでから考え続けていたことである。

 ハルも国家元首の娘として国や元首を思い暴走する組織というものを知っているつもりであった。

 だが、それでも大抵の暴走というものはそこに属する者たちの理性によって想定より縮小されるか頓挫するかの二択であるのがハルの認識であった。その認識を凌駕する親衛隊の行動は彼女には反逆にさえ見えるのである。

 

「むしろ私には、"親衛隊こそカイムさんを苦しめてる"って思えますよ?」


 だがらこそ、ハルは自身の内側で聖剣が必死に止めようとするのを振り切って親衛隊を批判しきったのだった。

 しかし、ハルが思っていた以上にマックスは無反応であった。彼女はこれだけ親衛隊を批判し、その中に総統であるカイムの名前さえ出したことで烈火のような怒りをかうと考えていたからである。

 ハルが頬に一筋の汗を垂らす中、マックスは微笑んだ。


「総統閣下はお優しい方であり、決断できる方だ。その総統閣下が私達"親衛隊"を……それだけじゃない、"武装親衛隊"も"国家保安本部"の存続と拡大を認めたんです」


 マックスの微笑みから放たれる一言は、ハルの思考に一瞬の空白を生んだ。

 それと同時に聖剣から流れ来る整理された情報がハルの脳裏に流れてきた。確かに総統カイム・リヒトホーフェンはこれまでの戦死者たちへ哀悼の意を表しながらこれ以上の犠牲者を出さないという決意をしていた。その決意があるのならば当然親衛隊は過去に起こした反体制派の粛清事件で組織解体や縮小が行われるはずである。

 しかし、親衛隊はむしろ組織拡大を行い続け、武装親衛隊は一個軍団規模の機甲戦力を有し、全体を見ればカイムを中心とした1つの国家とも言える拡大を続けている。

 そのことを聖剣から理解させられたとき、ハルはマックスへ何を尋ねるかわからなくなり、ただ手と唇を震わせた。


「それって?"ハル、それ以上話しても埒が明かない。止めとけ"」


「何事にも建前は必要ですよ。そして、その建前を支える薄暗い本音が必要であり、それが我々だ」


 ようやくハルの口から出た言葉も、マックスの言葉と聖剣の情報が冗談と思いたい一心で出てきた言葉であった。

 その言葉も呆然とした表情のハルから険悪な表情へ切り替わった聖剣の言葉が掻き消したのである。その言葉に続くようにマックスが薄ら笑いを浮かべて肩を竦めると、彼は冷たい口調で現実をハルへと突きつけた。

 その現実は確かに理に適っているが、だからこそハルはマックスの言葉を否定するように何度も首を横に振ったのである。


「カイムさんが、貴方達が存在し続けるを望んだと?そう言いたいんですか?」


「閣下は誰よりも素晴らしい方だ。たからこそ、常に備えている。そして、私達がいる」


 ハルはマックスへ視線を反らさず再び向き合った。そんな彼女の睨むような視線から放たれる棘のある言葉を受けたマックスだったが、彼は彼女の質問へ端的に答えた。その口調は冷静そのものであり、まるで取り付く空きもない対応だった。


「だからといって、誰でも彼でも敵にしたら、誰もいなくなりますよ!それを知ってるから、カイムさんはこれまで自身の命じた残虐行為や貴方達の起こした"大粛清"の罪に苦しんで……」


 だとしてもめげないハルはいつしか親衛隊の存在を否定するために言葉を選び、眼の前の異質な存在を打倒しようと言葉を選んでいた。

 その自身の思考に気付いたハルだったが、既にマックスは彼女へ憐れむ視線を向けて肩を落としていた。まるで落胆するかのようなそのマックスの態度に、ハルは会った瞬間から今まで試されていた事実と己の感情に言葉を詰まらせた。

 マックスはハルの"善意"という"敵意"、"正義"という名の"排他性"を引き出した。


「本当に……御優しい方だ、総統閣下は……たとえ敵であっても慈悲を御与えになる……」


「その優しさを……」


「そう、その優しさを奴らは平然と踏み躙る。閣下の優しさに漬け込み汚職を行い、武力を集め、そして暗殺を企てる。この帝国を復興させたのも発展させたのも総統閣下だ。それに恩も感じず己の私欲を肥やすための邪魔になるから排しようとする者など、そもそも慈悲を受けるに値しない」


 ハルの浅さを理解したマックスの表情に笑みは浮かばなかった。ただ害虫を見下すような視線で1人呟いた。もはや彼にとってハルは会話をする存在ではなくなり悪意を綺麗事で隠し誤魔化し付け入ろうとする敵でしかなかった。

 それ故に、焦るハルの言葉を遮ったマックスは己の持論を持ち出し語り続けた。その論はハルも確かに理解できるものであった。だからこそ、その極端過ぎる思考に彼女は肩を震わせた。


「その叛乱だって、貴方達が……」


「確かに、彼等が走り出す準備をしたのは私達です。ですが……」


 もうハルがマックスへ論破する方法はなくなった。彼は自己の意志を捨て去り組織や国家の意思に従い行動している。そこに主観性がないからこそ彼は迷いなく行動することができる。

 ハルの主張は全て個人の善意や意思則ったものであるからそこ、そもそも組織という集団や民衆の作る社会が求めることを粛々と実行するマックス達を否定することは出来ないのである。


「"最後に歩み始めたその一歩は彼らの意思"なのですよ?」


 国民や国家の意思の元に残虐なことも粛々と実行出来る親衛隊に、ハルは心底恐怖した。何より、眼の前のマックスという男に人の心が無いのかと思えると、ティアナを含めこれまで会った親衛隊員の腹の底に彼同様の意識があるということは彼女に狂気の沙汰と思わせたのだった。


「じゃあ……」


「確かに、国防軍や皇帝崇拝者からすればそう見えるでしょう。しかして、私達は装備や機会を与え尻込みしている者達に踏み出すきっかけを与えただけ。なら、真の悪は誰かと言えば……」


「"お前等が何もしなければ、そいつらは尻込みしてそのまま武器を捨てたかもしれないぞ"」


 だが、ハルは諦めず食い下がった。

 それでもマックスの論は止まることを知らず、過激な正論を持って彼はハルを封殺しようとした。

 そこに反論したのは聖剣であった。それまで黙っていた彼は、苛立ちや怒りを通り越して呆れた表情を浮かべつつマックスへ尋ねかけたのである。その内容はこれまで語っていたマックスの正論の根底を崩すものであり、ハルは内心聖剣を褒め称えた。


「"劣等種族(ウンター・メッシュ)"はいつもそう言うんですよ。"もしこうだったら"とね?」


 だが、マックスは聖剣の意見へ掃き捨てるように呟いた。その一言はまるで彼の本質を見せるように作ったものではない感情が見える一言であり、言い終わったマックスの表情はまるで感情を隠すように冷たかった。


「我々が見逃していたら、総統閣下のこの国は、再び廃墟と化していたかもしれない。再び間抜けな指導者達が覇を競う醜い大地だったかもしれない。それを私達は救った。批判する奴らは結果より過程ばかりを見る。"重要なのは結果"だと言うしか能がないくせに、ここぞとばかりにね」


 マックスはハルや聖剣に構わず話し続けた。もう、彼女達に会話は成立しなかった。彼らはただ意見をぶつけ合うだけだった。


「総統閣下は確かに優しい方だ。そして、強くもある」


「"カイムの奴を良く見すぎていたな。アイツはちょっとイキったガキって訳じゃないわけか"」


「口には気をつけろよ、電子部品無勢が。私達は"ハル・ファン・デル・ホルストの保護"を命令されている。持ち物にまでは言及されてない」


 その不毛さはハル達とマックスもとっくに気づいており、聖剣の挑発とそれに乗って突き放すマックスの一言で遂に二度と会話を再開出来ないような沈黙がその場に流れたのである。


「長官、探しました。式典の行進立付けがありますので……失礼しました」


「いえ、構いませんよ。話は終わりましたから」


 その沈黙を破ったのは1人の親衛隊の下士官の男だった。曹長の階級を着けた犬系獣人の彼は、駆け寄るときにズレた制帽を戻しつつ親衛隊敬礼をすると肩で息をしながらマックスに語りかけた。

 だが、直ぐにハルの存在に気付くと士官2人の会話に割って入ろうとしたことを深く頭を下げて謝罪しつつその場を離れようとした。

 そんな曹長の肩を掴み離れようとするのを止めたマックスは、彼の背中を労うように軽く叩くと予定の場所へ向かおうと歩みを進め始めたのである。


「"おい、待て!話は……"」


「止めましょう、そもそも、綺麗事ばかりを好んで世の道理を理解する気のなき者に話しても、私達は理解できないでしょうから」


 その場を離れようとするマックスに慌てて呼びかけようとした聖剣だったが、彼の敵意ある瞳にマックスは嫌気が指したように目を細め睨むと、それまでの会話と大いに異なる穏やかな口調をもってコバンだのだった。


「1つだけ、いいですか?」


「えぇ、ハルさん」


 離れるマックスの背中に奥歯を噛み締めた聖剣だったが、ハルは最後にマックスの背中へ呼びかけた。すると、彼はその場で止まり振り返ることなく返事をした。


「他人を踏み付けて得る平和って、大切ですか?」


「"それが総統閣下の意思ならば"、私はなんだってしてみせますよ。命を救って頂き、ここまで良くしてくださった総統の為だから、私達はどこまでも悪を行える。何より……」


 こちらを向かないマックスの背中へ、ハルは最後の質問を投げかけた。それは、ハルが彼に一番聞いてみたかったことであり、彼女が聞かなければならない親衛隊の闇であった。

 ハルの問いかけに答えるマックスは振り返ることも微動だにせずただ淡々と語った。

 だが、マックスの語る国家保安本部長官としての言葉はゆっくり途切れ、最後には少しの沈黙が流れた。


「"そんなこと"で人類が永劫の平和を得られるなら、いくらでも踏みつけて見せますよ」


 ハルはマックスの一言に何も言えなくなった。それはマックスの本心が聞けたということだけでなく、親衛隊が抱える闇がヒト族や魔族も含めた人類が生んだ社会の闇であると理解したからであった。

 そして、ハルと聖剣は去ってゆくマックスの背中を黙って見つめたのだった。


「"狂ってる……"でも、この国の歴史を考えたら……"なんであんな奴らの肩を持つ!やってることは反体制派の虐殺とか言論統制だぞ!"そうだけど……」


 捨て台詞のようなマックスの台詞に言い返す言葉が出なかった聖剣は苛立ちの言葉を漏らした。一方で、ハルは親衛隊の存在を帝国の急速な再興によって生み出された不安や恐怖心の産物に思え、彼等が哀れに思えたのである。

 そのハルの考えを理解できても直ぐに認めたくない聖剣はハルに思わず突っかかり、彼女も彼の苛立ち不快に思う気持ちが理解できると言葉に詰まるのだった。


「あの人達は、私達の知らないような絶望からカイムさんに救ってもらった。だからこそ、あれだけ行動できる。そう思うと、あの人達はとても“可哀想な人達”って思えてさ。カイムさんも”もっと違う生き方“を用意していたはずなのに、敢えて自分を苦しめているみたいな……さ?」


 ハルが出した親衛隊に対する感想とも言えない言葉は、聖剣が反応することなくパレード予行の騒音の中に掻き消された。

 だが、ハルはカイムも語ったガルツ帝国の歪さを改めて理解したのである。


「ハルさん!探しましたよ!まさか行進立付けの大通りなんて反対側にいるとは思いませんよ。それで、こんなところで何してるんです?」


 ハルが1人考えを纏めているとき、彼女の元に手を振って駆け寄るティアナの姿が見えた。彼女はハルの前まで来ると辺を見回しつつ事情を苦笑いを浮かべながら尋ねた。

 そんなティアナの苦笑いにハルも苦笑いで返すと、彼女はどう説明したらいいか解らず頬を指で数回叩いて考えるようにして見せたのである。


「ええっと……"イカれた男と話してたんだよ"」


「イカれた……?まっ、まさか!ブシュシュルテ長官ですか!そんな、また危険なことを!」


 ハルはジェスチャーをしながら口籠っていたが、聖剣が苦々しい不快そうな表情をしながらあっさりと説明してみせた。

 その当事者を隠しているようで隠していない聖剣の表現にハルは頭を抱え、聞かされたティアナは目を白黒させて口元に手をやりつつ驚きの言葉を漏らした。その反応にハルは首を傾げて見せたが、驚きを通り越したティアナはいよいよ呆れて頭を抱えながら首を振るとハルの両肩を掴んで顔を寄せたのである。


「気をつけてくださいね?国家保安本部は親衛隊の中でも特に過激なんですから。聖剣さんなんて、下手したら即分解の可能性だって……」


「"あぁ、噛み付いてやったよ。そんで、お前のがまだマシに思えた"」


 軽く肩を振りハルに念押しして注意するティアナの目は真剣であり、彼女の語る言葉は冗談をあまり感じさせないものであった。それでも、彼女の注意へ聖剣が軽口で返して見せると、ティアナはいよいよ青い顔で天を仰いだのである。


「親衛隊だって一枚岩じゃないんですから。国家保安本部なんてその代表で、親衛隊内でもあまり好かれてないですもの」


「そんなに……"だよな"」


 青い顔で忠告を続けるティアナの言葉にハルは聖剣を見ながら言葉を濁し、聖剣はあっさりと納得したのだった。

 そんなハル達のやり取りを横目に、ティアナは2人を目的の場所に案内しようと手招きすると、そそくさともと来た道へと戻ろうとしたのである。そのティアナの歩みにハルがついて行くと、彼女は薄々感づいていた本題を迎えるときが来たと感じ取った。


「まぁ、ブシュシュルテ長官に会った後ならそこまで緊張することもないですよ。この後にはもっと凄い相手と会うんですから」


 その予測が確信になったとき、マックスとの邂逅で冷や汗をかきティアナに肩を捕まれ揺すられた制服の乱れを気にして今更のように整えようとするのだった。

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