第6幕-1
趣味で書いているので温かい目で見てね。
「いや〜、美味しかったなぁ!"生魚とお米を一緒に"って聞いたから少し怖かったですけど。"まぁ、お前の胃袋なら何食っても大丈夫だろ"ちょっと聖剣、それはヒドくない?」
ウミネコやカモメが青い空を飛び回り、桟橋のあちこちに大小様々な漁船が潮風と波に揺れるフランブルク州都コンダムの街で、剣聖ハルは右手に海と左手に繁華街を見ながら歩いていた。
総統カイムの就任記念に伴う帝国全土の視察に同行したハルは、州庁で開かれた式典を早々に離れて街の観光に向かった。
コンダムの街は半島でありあちこちに港町がある一大水運海洋都市であった。なだらかな斜面に様々な商店街を持つ街並みは白や黄色など明るい外装の建物で鮮やか見え、輝く太陽と突き抜ける海風はハルの好奇心を刺激し、彼女は港の食堂で空腹を満たすまでそこかしこを歩き回ったのだった。
「海鮮丼を10杯たいらげて、まだ買い食いするってんだから凄いよなぁ…」
「わっ、わたっ…私…現金、これ以上持ってませんよ?屋台の支払いってクレジット・カード使えないところが多いんですよね?ですよね!」
「安心しなよ少佐。現金はさっきある程度下ろしといたから」
「あっ…ありがとうございます、大尉。よかったぁ…」
漁師や屈強な男達を呆然とさせるハルの食事ぶりは凄まじく、昼食を取り終えて食堂を出た彼女はそのまま魚市場やその周辺屋台で買い食いを始めた。
袖をまくったシャツに腰のくびれたパンツルックのハルが肘に買った料理の袋を山のように下げ、どうやって両手に持っているのか理解できない量の料理を器用に平らげる様は街ゆく人々から驚きの視線を集めた。
そんなハルの少し後ろでは、護衛として帝都から同行するパトリツィアが彼女の大食いに驚き、呆れるように呟いた。
そのパトリツィアの隣に立つズザネも驚きの視線を向けていたが、彼女はハルの食いっぷりやその凄まじさに気を良くした屋台の店主達のオマケの量、食欲に反する美人さよりも猛烈に減ってゆく財布の現金の方に驚愕していた。その驚きようは手に持っている財布が震え、冷や汗が滴る額を私服の裾で拭う程だった。そんな焦るズザネの怯えた一言にパトリツィアが胸焼けしたように着ていた赤いシャツの胸元を開いて襟を扇いで風を通すと、その余裕そうな態度や言葉に彼女は少し安心した。さらに、同情するように頷きながらタピタが肩を叩くと、完全に落ち着いた彼女は持っていた財布をしまいつつ濡れた袖の後を擦るのだった。
「ねぇ、ジーグルーンさん。貴族の士官ってみんなあんな感じなのかな?」
「クレメンティーネ、貴女いままで高級士官と一緒にいることってあった?」
「ないよね〜ジーグルーン?」
「なら、私が知ってる訳ないでしょ…」
そんな士官三人のやり取りを後ろで見ていたクレメンティーネは、呆れ顔でハルと三人を交互に見つつ魚の串焼き頬張りながら呟いた。その一言にハルの食欲を前に貰い胃もたれを起こしたジーグルーンは少し青い顔で質問し返すと、アルマは携帯の写真で風景と自撮りをしながら茶々を入れるように答えた。そんなアルマの言葉に、クレメンティーネは嫌がらせのように串焼きをジーグルーンの顔に近づけ、嫌がりながら結論を言う彼女に薄っすら笑いを浮かべながら再びそれを頬張った。
「そういえば、イルメンガルトさん」
「はいはい、なんでしょ?」
「このコンダムの街ってなんだか帝国の街とは建物や街の造りが違うような気がするんですけど。"そういや、建物の色使いとかがなんだかタリアーノ王国とかエスパルニアの港町みたいに見えるな"そうそう、私もそう思った!建物は白とか黄色みたいな明るい色の石造りが多いし、窓は小さいし」
「ええっと…それは…あのぉ…」
財布の中身で談笑するパトリツィアや自分達の上官達の姿に呆れるクレメンティーネ達を他所に、ハルは街の景色と買い食いを堪能しながら通りをあるき続けた。
その途中、ハルはコンダムの街に着いてから感じていた違和感に眉をひそめると、海鮮の入った炒めた麺料理を食べつつ左隣で観光ガイドを見つめながら魚介のサンドイッチを頬張るイルメンガルトに話かけた。すると、彼女はハルの言葉に口の中のものを飲み込みつつ返事をすると観光ガイドから顔を上げた。
インメルガルトがハルに顔を向けると、彼女は少し前までの楽しげな表情から疑問が滲み出る顔をしていた。そんなハルの質問に彼女の背負う釣具ケースの中に入った聖剣が納得したように感想を付け足した。
聖剣の言葉に頷くハルが更に尋ねかけると、答えに困ったインメルガルトは困惑の声を漏らしつつ、白いワンピースに溢れかけたソースをサンドイッチごと口に運んで後ろを振り向いた。彼女の視線を受けたズザネやパトリツィア、タピタがお互い顔を見合わせると、パトリツィアは黙っていた自分の顔を親指で指さした。
その身振りにインメルガルトがサンドイッチを食い千切って首を振ると、タピタとズサネが後ろにいたジーグルーンが見えるように身を反らした。
「解った、私が説明する!」
インメルガルトと完全に目があったジーグルーンは黙って急かすように頷くクレメンティーネや構わず自撮りを続けるアルマの姿に頭を抱えると、インメルガルトへ軽く声を張って答え彼女の元へ駆け寄った。
「ありがとう、ジーグルーン。私、文系だけど国語とか文学の方が好きでさ」
「いいよ、それくらい。あんだけチラチラ見られたら、やらない訳にはいかないだろ」
駆け寄ったジーグルーンにインメルガルトは軽く礼を言ってハルの隣を譲ると、彼女はインメルガルトの最後に付け足した言い訳に皮肉で返すと少し早かった歩調をハルに合わせ彼女を軽く一瞥した。
「ハルさん、東側はヒト族の侵攻の一大防衛拠点だったことは覚えてますよね」
「あっ、はい。"その度に制圧されて、王国だのなんだのの兵はここから大陸中央へと侵攻してったんだろ"」
「そうです。ここはヒト族のジークフリート大陸における侵攻拠点であり、交易の拠点でもあったんです」
「交易…ですか?」
まるで教師のように話し出すジーグルーンに、ハルは薄っすらとカサンドラのことを思い出しながら答えた。その返事に頷くジーグルーンは、軽く弓形になった湾と港町を軽く指さしながら説明を続けた。その説明は淡々としていたが、それ故にハルはヒトとの戦争の歴史を語る彼女に悪感情があまりないことを不思議に思いつつジーグルーンの言葉を繰り返したのだった。
「初期のヒト族は、ジークフリート大陸への侵攻で得た戦果…つまり略奪品をここフランブルク州で集積し、侵攻が完了と共に去っていったんです。ですので、最初期には小さな建物しかなかったんです。ですが、この大陸で得られる戦果に目をつけたヒト族の王侯貴族や大商人達は、できるだけ早く略奪した金品や資材を得ようとこの大陸にやってくるようになりました。多くのヒト族貴族や商人はジークフリート大陸を広大な資源地と考えていたんだと思います。そのため、この地は兵達の生活拠点から貴族達や大商人達の…市場か観光地になったんです」
歩みを止めず語るジーグルーンの声に、ハルは少し前に見た博物館での記憶を思い出した。凄惨な戦争の足掛かりとなる嘗てのコンダムの地と、港町として栄える今のコンダムを重ね、彼女は自分の立つ石畳の上を軽く見ながら長く続く歴史を思うのだった。
「ひょっとして…さっき食べた…えっと…"ひょっとして“カイセンドン“ってやつか?"それもですか?」
「えぇ、確か…大和皇国とかいう国の魚を生で食べる文化がたまたま流入して帝国の食文化に残ったんです」
「文化が流入するってことは…"奴隷だの人身売買があったってことか"」
「そうです。王侯貴族や大商人がこの地に来るようになってからですので…第3次とかですかね。その頃から"人間狩り"なんてことが多発し始め、多くの人々が連れ去られました。大抵はこの街の建設や設備関係の強制労働や…女性や子供は…その…"そういうこと"に使われたそうです。過酷な環境だったそうで、怪我や病になれば家畜のように殺され、生き残った者達は奴らの国まで運ばれ、売り払われたんだとか?」
「そう…なんですか…"カサンドラの婆さんから聞いていた通りだが、目の当たりにすると…なんとも言えんなぁ…"」
ジーグルーンの話が一段落したところで、ハルは彼女の説明から気になっていたことを話かけた。それは、以前から多少なり感じていた帝国の文化からは発生しにくい食や事物についての違和感についてだった。彼女の質問に答えたジーグルーンは一瞬上を向いて考えると、直ぐに思い出した答えを説明した。
その答えにハル聖剣が交互に話して尋ねかけると、ジーグルーンは再び長々と説明を始めた。その説明口調で語られる内容はハルに言葉を失わせ、聖剣さえもどう声をかければいいのか解らなくなり言葉を濁すのだった。
「この地から生き延びた人々が、苦しみと悲しみの記憶の中から少しでもいい部分を引き出して広めた結果、この国には少しヒト族の文化が由来な物があるんです」
「それの一つがこの街で、“ヒト族の残していった建物や街の造りをそのままなにして流用した“ってことですか?」
「そうですよ。当時の帝国は街の再建設や難民の収容場所の確保も出来ませんでした。なので、"耐え難きを耐えて"この街をそのまま使ったんです。多くの魔族の屈辱的な扱いの記憶に耐えながら…苦しいことも多かったけど、決して全てが悪い訳でもない。だからこそ、今の帝国があるって訳です」
返す言葉に困るハルと聖剣を横に、ジーグルーンはそのまま語り続けた。その口調は歴史を趣味とする故に熱が入り始め、内容もある程度明るいものになり始めた。その話の内容からハルは聖剣が気まずい雰囲気を解消してくれると考えた。
だが、何も言おうとしない背中の聖剣を前に諦めたハルは、なんとか波風立てない言い方でジーグルーンへと尋ねかけた。そんなにハルの思惑に、ジーグルーンは少し早口になりながらも説明に明るいオチが付きそうな流れを作った。
「この街は…"非道なヒト族の爪痕"と…"異なる文明で発展した跡を残す街"と言いますか…」
「非道な…ヒト族…」
だが、ハルの予想に反してジーグルーンの付けたオチはハルの反応に困るものだった。何より、"魔族の人間に対する深層的悪感情"を見た気がしたハルは、思わず彼女の一言を声に出して反芻したのだった。
「あっ!すみません、その、別にハルさんがその連中と同じと言った訳では…」
「えぇ、解ってますよ。気にしないでください。そういったことを知るのも私のここに来た理由なんですから」
ジーグルーンの言葉を声に出してしまったハルは気まずそうに話す言葉を選ぼうとするも、結局何も思いつかず誤魔化すように練り物の串焼きを頬張った。そのハルの反応を見たジーグルーンは、歴史趣味の勢いで言ってしまった軽率な発言を反省して謝ろうとした。
だが、ジーグルーンの言葉に少し黙って口の中の咀嚼物を飲み込んだハルは、あえて明るい笑顔と共に彼女へ笑って返した。その表情にジーグルーンは黙って頭を下げ、顔を上げるよう促すハルに苦笑いを浮かべた。
「おい、カフェ・シュロスは後に行く予定だろ?」
「おろ?こっち先じゃなかったっけ?」
「なぁ、あれが離水するのは当分先だし、見る前に飯食わね?」
「無駄遣いするなよな」
そんなジーグルーンの肩越しに見るコンダムの坂道街の景色に、ハルは数人の男達を見た。年齢は彼女には解らなかったが、種族は悪魔、サメのような見た目の魚人、イルカの顔をした獣人、リザードマンと統一性がなかった。仲よさげに話す彼らは路面電車や多くの人が行き交う中で当たり前のように存在し人々も気にしてはいなかったが、ハルには彼らの白いセーラー服姿は目にとまるのだった。
「あれ?あの人達って水兵さんですか?」
「あぁ、コンダムの近くに海軍兵学校があるんですよ。クルネウ海軍兵学校だったかな?多分総統閣下の"総統就任記念日"前の特別休みですよ」
「特別休み…ですか?"普通は記念日ってんだから祝日だろ?その日に休めばいいんじゃねぇのか?"」
水兵たちを見るハルの姿に彼女の視線を追ったジーグルーンは足を止めて通りで道を確認しながら辺を見渡す彼らの姿を見た。水兵たちを見たジーグルーンに、ハルは不思議そうに尋ねかけた。彼女が軍艦の中で見た水兵たちの格好は基本的にジャケットのような勤務服であったりツナギのような戦闘服であった。それ故に、故郷やファンダルニア大陸でも見たことのある水兵のセーラー服はハルにも懐かしく思えて、彼女はジーグルーンへと尋ねたのだった。
ハルの質問に水兵たちに苦い表情を浮かべていたジーグルーンは、その表現を慌てて戻しつつ作ったような明るい口調で説明をした。その内容にハルが相槌を打つと、それまで黙っていた聖剣はようやく口を開いての会話に参加してきたのだった。
「一般市民は祝日だ。でも、軍人や公務員に関しては当日に式典への参加義務があるから。総統が視察に来てるとはいえ、この機会を逃すと有給に当てられるし、そうなると新兵は激務から当分の間は有給消化なんて出来ないんだよ」
「だから“今のうちに休みを取らせてあげる“ってことですか“はぁ~、新兵ねぇ"」
不思議そうに尋ねかけた聖剣の言葉に答えたのは、何時の間にか止まっている二人に追いついたパトリツィアだった。その説明は不思議と忌々しそうであり、露骨に"休みを潰された経験"を表すのだった。
そのパトリツィアのマズルのある犬顔に浮かぶ苦い顔に納得したハルと聖剣は納得しつつ街の小道に消えてゆく水兵たちを見送った。
「ハルさん、先程のジーグルーンさんの話は出来るだけしないようにお願いできますか?」
「えっと…それはどうしてですか?"そりゃ、tabooって奴だろ?触れちゃならない話題ってことだろ?"」
「えぇ。それと、共和国だった頃の話も出来るだけ控えて下さい。昔のこととは言えど、市民感情的にあまり宜しくないので」
暫く背中から吹く潮風を受けながら人々と電車の行き交い活気に満ちた色鮮やかな街を見ていたハルに、辺を気にするように見回したズサネは気まずそうに羽角を下げながらそっと耳打ちした。その内容にハルも小声で聞き返したが、彼女の言葉の裏を察した聖剣が呟くと、ズサネもはっきりと理由を小声で説明したのだった。
「解りました。気を付けます」
「すみません、ご迷惑おかけします」
ズサネの説明から辺の人通りを見たハルはズサネへ笑って返事をすると、彼女もハルに誤りつつ気を使わせないように笑って返したのだった。
通りの中でハルはタピタから軽く背中を突かれると、ハルは立ち話が邪魔になりつつなることを理解して通りを再び歩き始めた。
「"どうしたよ、ハル?"いや、何でもない"おいおい、俺とお前の仲だろ?言いたいことは解ったさ"勝手に人の思考を読まないでよ!」
街の通りを歩きつつ山のように下げていた買い物袋の中の料理を胃袋に収めていったハルだったが、その表情は明るくもあり暗くもあった。
そんなハルの表情に、聖剣はハルの口を借りて心配する気持ちを隠すように彼女へと語りかけた。
だが、その既に自分の気持ちを理解しているかのような口調の聖剣にハルはぶっきらぼうに返事をした。その返事に聖剣が子供をあやすように更に尋ねかけたが、ハルは自分の脳裏に数分前の思考が過ると、聖剣との思考の共有状態に文句を付けた。
そのハルの声に彼女の周りにいたパトリツィア達が一瞬驚いて視線を向けると、彼女は軽く頭を下げた。
("スイーツァ王国みたいな亜人と人間の共存国家もある。文化が交われるなら、魔族と人間の講和や外交も出来るって言いたいんだろ?"
そう…だね。きっと出来ると思うんだ。だって頭も良くない私がここの人達と仲良く話せるんだもの。市場の人や漁師の人とも、ちびっ子とだって話せたんだよ?なら、きっと…)
会話を思考に切り替えた聖剣は、ハルが考えていた思考をわざわざ発言に変えて言い放った。その発言はハルの帝国にやってきて旅行生活を行ってから過り続けた考えだった。
自身の考えを改めて聖剣という他人から言われたことで、ハルはそれまでの生活で得た経験から持論を彼に述べた。その意思ははっきりとしており、最後には聖剣との意識が強く繋がり発言しようとしなくても伝わるほどだった。
「あっ…あれは!"なんだぁ、ありゃ!"」
「あぁ、あれですか。ウチの最新鋭兵器ですよ。名付けて"飛行戦艦"。その一番艦"ニーベルンゲン"…かな?」
「いや、あれば"アーカディーン"だな。二番艦だよ。確か母基地はゲッティスブルク空軍基地だけど、でかすぎるってんでこっちの造船所で組み立てたんだ。一番艦との違いは円環式砲塔移動装置が斜めってるのと、複葉機って点だ」
そんなハルと聖剣の意識下の会話は、ハルが何となしに見た軍港周辺の海に浮かぶ存在で打ち消された。その300mはあろう鉄の塊は、一見すると戦艦のようであった。
その形状は彼女が護送される際に見た戦艦とはおおよそ異なった異様な形をしていた。船体中央にある艦橋近くには、水面から半円状のレールのような装置が斜めに付いており、そこには巨大な砲塔が一輪に付き2つついていた。更に水上から見える上部構造部には機銃や誘導弾発射装置がみえたのだった。中でも、左右に伸びた大きな主翼のようなものとその途中から伸びる垂直翼なそれが船なのかさえ疑問にもたせる程だった。
その巨大な何かにハルと聖剣が驚きの声を漏らし、何時の間にかたどり着いていた港近くのショッピングモール入口近くにある見晴らしの良い場所まで駆け寄った。彼女の驚きは強く、転落防止の柵に寄りかかり見るその目には好奇心で満ち溢れていた。
驚くハルに説明を始めたのはズサネであったが、彼女も説明途中に怪しくなってくると最後にはパトリツィアへと視線を向けて尋ねかけた。その疑問にパトリツィアパトリツィア呆れるように答えつつ、部分部分を指差して説明をするのだった。
「飛行…戦艦?海の上に浮いてるのにですか?"あんなデカブツが空飛ぶなんてありかよ?航空力学を無視しすぎだろ!"」
「"リパルサー"だかなんだかを使ってるらしいですよ。私は物理がさっぱりですけど、バカにならない電力を必要とするから戦艦級の大きさに核動力を載せてるんです」
「"空飛ぶ反応炉付き弾薬庫"か…おっかないね。攻めて来られても迂闊に落とせないし、ほっといたら対地砲火で街が焼け野原になるって話だしな」
「ほんと…戦争も変わりましたよね…変わり過ぎてついてくのがやっとです…」
その説明の内容にハルは理解が追いつかずあまり理解できていないように尋ね返したが、聖剣は驚きに唾を飛ばすほどに尋ねるのだった。それに答えるズザネは一瞬どう答えるべきか思考をまとめると、大雑把に聖剣へと返した。その説明に、ハルの隣で柵にもたれ掛かりながらクレメンティーネが露店で仕入れたフリットのカップを受け取りながらパトリツィアはぼやいた。そのボヤき方はフリット片手に遙か先の飛行戦艦を突くようであり可愛げがあったが、内容は打って変わって物騒そのものであった。
そのパトリツィアのボヤきにクレメンティーネも釣られて呟くと、ハルは飛行戦艦という見た目から異様な存在が日常になり始めているガルツ帝国という国に圧倒されたのだった。
「"文明が戦争を産むのではなく、戦争が文明を作る"って聞いたことあります〜!」
「アホくさい。卵が先でも鶏が先でも、食べちまえば関係ないさね」
アルマの猫なで声の言葉にパトリツィアが冗談を言って笑い合う中、たった一人ハルと聖剣は着々と完成へと向かう見たこともない巨大兵器の姿に腹の底へ恐怖と不安を積もらせたのだった。
「解り…あわないと"人類が滅ぶな、こりゃ。良くて文明がなくなるな"」
一人呟くハルの言葉に聖剣が軽口で返すと、彼女はいつの日か来るであろう皇帝との謁見に早めに備えようと決めた。
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