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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第五幕-2

「追い出されたからといっても、流石に3日とたたず帰ってくるとはな」


「しっかし、3人だったのがこんなに増えるとはな!お前ら元気だな!」


「いやー、本当に申し訳無いとは思っているんですけどね…」


 マヌエラとレナートゥスは目の前にいる荷車や大荷物でごった返す正面玄関を見つめた。そのごった返す玄関で指揮を取るカイムは、マヌエラの困る顔とレナートゥスの"家だと思ってくれ"と主張する視線を一身に受けた。


「しかしこれだけの人数が…親衛隊だっけ?にいるとはな」


「まだ訓練生です!」


「訓練…か?」


「はい!これから親衛隊隊員になります」


 荷車から荷物を下ろして運び出す若者達の姿にマヌエラが驚いて呟くと、近くを通ったギラがすかさず返事をした。その言葉に驚く彼女は、ギラの輝く様な表情を見ると、呟きながら表情でギラが自分の苦手なタイプの人物だと主張した。


「部屋なら山ほど有るしな大部屋なら全部の階に3つくらい有るからよ。好きに使いな!」


「おいレナートゥス、大部屋は実験に使うと…」


「ケチケチすんなって。いっぱい有って一階のなんて埃まみれだろ?そんなに言うなら、使っていない1階の2つの大部屋を使うと良い」


「たまには掃除している…」


 ギラの発言に引くような身振りを見せるマヌエラを横目に、レナートゥスは尻尾で地面を叩きながら気前の言い声で元気よく言った。その内容はマヌエラには納得できず、猫らしく毛を逆立てながら唸った。だが、レナートゥスは大いに笑いながら怒りの感情を向ける彼女をあやす様に撫でた。撫でられた事や彼の付け加えた言葉によって、マヌエラは目を細め納得いかないと言う表情で小声の反論を呟くのみだった。


「全員、1階に男女別で荷物を運び込め!」


 レナートゥスの同意を受けたカイムの号令に、訓練生達が荷車から荷を下ろして研究所の玄関に殺到した。その光景にもう何を言っても覆らない事を理解したマヌエラは、撫でられるつつも諦めて肩を落とした。


「はぁ、まぁいいか…研究実験室に立ち入らせなければこの際構わん。だが食料何かはそんなに…」


そう言いかけたマヌエラだったが、運ばれる荷物に大量の食料を見ると目を細め丸くした。


「野菜、小麦に干し肉!これだけの量をどこから」


「城に有ったものを徴収しました。あの城はいる人間に対して物資の量が多いんですよ。食料の他に布等の衣料品に本なども…」


「強奪したのだな。それらはスラムの奴らへの品だろうな。まぁきちんと行き渡らんだろうし良いだろう」


 マヌエラの様子に疑問を感じたレナートゥスは、布の掛けられた荷車の荷台を覗き込むと驚きの言葉を漏らした。彼の驚く言葉に横を通り過ぎるゴブリンの女子訓練生が説明をした。その内容にマヌエラは口許を隠したが、苦笑いが隙間から漏れた。

 荷物整理の指揮を取っていたカイムは、マヌエラのその独り言を聞いていて彼女の元に歩みを進めた。


「それって、一体どういう事なんですか?」


「あのスラムには商業組合というのがあるが…まぁ君が関わる事も無いだろう。それに城から物資を強奪した以上、当分スラムから先には近づけない」


「"強奪"って言い方は納得出来ないですけど…まぁ…その通り近づけませんよね」


 マヌエラは手のひらを顎に付け、少し悩んでから尋ねてきたカイムに言った。その説明を受けて更に詳しい事を聞こうとしたカイムを彼女は左手で振って説明をかわした。そのかわし方や釘を指す一言に、カイムはそれ以上何も聞かなかった。


「それよりも、これだけの人数の訓練を1人でするのか?」


「私はさっぱりなので格闘術とかはブリギッテが、それ以外は自分が担当します。それと…レナートゥスさん」


 頭を掻くカイムにマヌエラは今後についての疑問を投げた。作業する訓練生に目を向けるマヌエラに、カイムは説明をすると口調を改めレナートゥスを呼んだ。

 突然変わる口調に何かを感じ取ったマヌエラは口をへの字に曲げ、それに反してレナートゥスは笑みを浮かべてカイムに見つめた。


「何だ?銃の他に何創りゃ良いんだ?何でも創るぜ」


「安請け合いするな!どんな難題吹っ掛けられるか」


「その難題に答えてデカイ顔するのが技術屋の"快感"ってヤツだろ?"解かんない"なんて言わせないぜ。同族なんだからよ」


「はぁ〜…君には何も言わないよ…」


 レナートゥスの声は明るく創作意欲に溢れる反面、マヌエラは気の乗らないものだった。だが、彼の言う考えを否定しない彼女はカイムに"さっさと話せ"と言わんばかりに手招きした。


「彼らの装備の金属部分だけを創ってもらいたい。それだけです」


「なんだ、また鍛冶仕事か。別に良いけど鍛冶仕事ばかりでなぁ。たまには他の創作活動もしたいもんだ。何か無いのか?」


「十分多いだろ…君の創作意欲には感心するよ」


 カイムの依頼に残念がるレナートゥスとそれに呆れるマヌエラの掛け合いを見ながらカイムは他の依頼を考えた。彼の考えた中で鍛冶以外となると限られるが、ただ一つ重要な物が1つ有った。


「訓練の為の障害物をお願いします。取り敢えず今はこれくらい。後でまとめておきます」


「よし!任された!」


「結局、安請け合いか…」


 3人が話していると、犬系獣人の訓練生の1人が駆けてきた。食事を取っているが、やはり体力的には平均以下であり男であっても荷物運びで息切れを起こしていた。


「荷物の、運び込みが、完了しました」


「ご苦労さま。ついでに全員へ伝令だ。"訓練生全員で相談して男女の部屋を分けたまえ。その後はゆっくり休め"と伝えてくれ。明日からはきついぞ」


「了解しました、総統閣下!」


 訓練生の言葉を聞くとカイムは少年の肩を軽く叩いて労い、ついでとばかりに伝令を命じた。その伝令を聞き終わった訓練生は右手握り拳を左胸に付け、肘を水平にすると息を整えて返事をした。

 玄関へと駆けて行く訓練生の後ろ姿を見ながら、マヌエラはカイムに彼と同じ身振りを付けて聞いた。


「これは…何だい?」


「親衛隊式の敬礼ですよ」

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