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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第6章:死にゆく者に花束を
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第3幕-2

趣味で書いているので温かい目で見てね。

「それで、この…女を元の会話できる程度の精神に戻すためにあの剣がいると…」


「中佐、正気か?提督のいる前に武装したヒト族を連れてくるなど!」


「まぁ、皆。そう言うなよ。やつの言うことも一理ある。実際、あの剣には生命体の肉体を強化する特殊装置とそれを動かす精密機器に謎の電源、帝国も完成させてない量子電算機らしきものも搭載されているとなればな。"人が薬物に依存するかように、使用者にそれ無しでは知性さえも保てない障害を与える。その代わりに絶大な力を与える武器"というのも…ヒト族なら考えない話ではないしな」


 ガルツ帝国の排他的経済水域に侵犯したハル達は、紆余曲折の末に彼女達の考えていた流れとおおよそ異なる"拘束"という形とはいえは、見事目的である魔族との会合を果たした。そして、ガルツ帝国海軍第2艦隊も総統命令であるヒト族の拘束を完了した事で、後はハル達を近くの軍港ないし航空基地へと輸送するだけで任務は完了となるはずだった。

 その第2艦隊旗艦であるエアテリンゲンの会議室にて、ハイルヴィヒは周りの緊張を無視して気楽な雰囲気で下座に座りっていた。だが、彼女の余裕に反比例して緊張度合いは凄まじく、警備のため完全装備の警務班が会議室の長机の上座にて頬杖を突きながらコーヒーを啜るハイルヴィヒや高官達を警護しいた。

 そんなハイルヴィヒや高官達の視線と警務班の銃口の先には不安と恐怖に震えるハルが机の下座に小さく座っており、ハイルヴィヒは彼女を興味深そうに見つめていた。というのも、拘束したハルをそのまま帝国本土に護送すれば第2艦隊に課せられた突発的任務は完遂される筈だった。それをハイルヴィヒの「せっかく奇妙なヒト族を捕らえたのだから、話してみたいじゃないのさ」というさらなる突発的発言によって、第2艦隊提督と密入国未遂のハルは会談の席を設けられることとなった。


「とはいえです。知性が復活したとして、暴れ出さないという確証もないでしょうに?提督、危険です!」


「だが、参謀長。不審船の甲板での記録映像を見たが…あれは本当に敵対していたと言えるのか?私が見ても、あれは闇雲に飛び出していったベック親衛隊大尉が悪く思うがな?」


「それは…」


「それを理解した上で、ヘルムート中佐も彼女を連れてきたんだろう?何より、その"危険"を排除するための帝国騎士だ。彼等が同席して、私達の身に何かあると?」


 会議室の机にはハイルヴィヒとハルの他にも、艦隊参謀長などといった面々が居た。その参謀長が不安と危機感の表情を浮かべる高官達の意思を代表して発言した。だが、ハイルヴィヒの力強く反論を許させないと言わんばかりの口調を前にすると一気に失速し、ハルの側で不測の事態に備えて待機するヘルムートをジト目で睨みつけながら言う発言には誰も反論することが出来なかった。


「そんな頼りにされてる私の個人的見解ですが…1つよろしいでしょうか、ヴァルトトイフェル提督?」


「構わん、話せよ」


 ハイルヴィヒの悪戯めいた視線と高官達の刺すような視線を受けたヘルムートは、不測の事態に備えてハルの側に立ちながら気まずそうに身をよじらせた。そして、その視線から顔を反らすのようにうなじを片手で撫でると、会議室の冷たい雰囲気を壊すような気楽な口調で発言した。

 その発言を周りの参謀長などの野次が飛ぶ前にハイルヴィヒが通すと、ヘルムートは椅子の上で未だ震えるハルを一瞥したのだった。

 

「提督の言うとおり、この…"不法入国未遂者"は他のヒト族とは何かが違っていた。そもそも、ヒト族の艦隊運用からすれば、小型艦とて10隻程度の艦隊を組む。だが、彼女の乗る船は1隻だった。更には、艦隊の哨戒機が上空を飛び回っていたにも関わらず、彼女は一切攻撃をしなかった。そして、私達が甲板に懸垂下降しようとした時にも反撃せず、船の中には彼女1人しかいなかった。私の拙いネーデルリア語ですが"戦う必要"とか"否定"の意味の言葉も聞こえました。何より…」


「何より?」


 ヘルムートは何回かハルに視線を送りながら、高官達の刺すような視線に耐えつつ淡々と説明するだった。その説明は彼のゆったりとした態度に反して不思議と説得力があり、参謀長も含めた高官達の反応は静かなままだった。

 その説明の途中で、ヘルムートは一瞬言葉に詰まった。その言葉の詰まりに空かさずハイルヴィヒが野次を入れると、少し考えたヘルムートはハルの座る椅子の背もたれに手をかけながら彼女を見下ろした。


「何より、彼女の太刀筋からはこちらに危害を加えるつもりが無いようにみえた。まるで…」


「まるで?」


「訓練で必死に私へ挑み掛かるコンスタンツェ見たいな感じですかね?おっと…噂をすれば…」


「来たか!」


 一瞬憐れむような視線をハルに向けながら呟くヘルムートは、はっきりとしない言い方で呟いた。その言い方にハイルヴィヒが急かすようにヘルムートへ問いかけると、彼もその言い方を改めたが未だに内容を濁すようなのだった。

 そんなヘルムートは、話題を変えるために会議室の扉を期待に満ちた目で見ながら呟くと、彼の意見を聞くことから意識の逸れたハイルヴィヒは笑みを浮かべながら扉に目をやった。


「ベック"親衛隊大尉"、入ります!」


「大尉、入室要領は構わん。さっさと"例のもの"を彼女に渡してやれ」


「では…皆さん、防毒面の装着をお願いします。そして、提督…」


 扉の前にて入室のための要領をしようとしたコンスタンツェだったが、急かすハイルヴィヒに促されるとその扉を勢いよく開けた。扉の向こう側には、5人の警備兵がフル装備で彼女の持つ大型のコンテナに対して警戒の視線を送っていた。

 そのコンスタンツェの持つ箱は強化樹脂と金属で厳重に作られたコンテナであり、外側は疎か内側に何が起きても壊れないと思わせる程の丈夫さを感じさせるものだった。

 そのコンテナを会議室に運び入れたコンスタンツェは、周りの高官達に身の安全を確保を促すと、コンテナをハイルヴィヒの前へと持ってきたのだったのだった。


「網膜及び静脈認証による封印の解除をお願いします…本当に宜しいんですね?」


「責任は海軍と私で取るさ」


「技研やあちこちが騒いでも知りませんからね!」


「コンスタンツェは真面目だな…」


「危機感を持ってるだけです!」


 防毒マスクを着けたハイルヴィヒの前にてコンスタンツェは、コンテナを彼女の前の机の上に置くと不安が滲み出る口調で最後の確認を取った。その確認を前にしてハイルヴィヒはまるで不安も何もないかの如くコンテナに手を伸ばすと、上面に付いていた機械の液晶パネルを器用に操作し始めるのだった。

 そのハイルヴィヒのマスクでくぐもりながらも気楽な一言と迷いのない手付きに不安を通り越して呆れたコンスタンツェが苦言を言うと、ハイルヴィヒは彼女に茶化すような一言を投げかけた。その一言で更に呆れた彼女は強い口調で一言主張すると、腰に下げていた防毒マスクを装着しハイルヴィヒから少し距離を取るのだった。


「それでは…"開けゴマ"っとな…」


 コンテナ上面の液晶画面に手をかざし、しっかり見なければ気づけないような小さなカメラに目を合わせたハイルヴィヒは、緊張を感じ取れる口調で一言呟いた。すると、コンテナは彼女の生体データを正常に読み取ったのか、その数々のロックを外し上面と側面の間に僅かな隙間を開き開放を完了したことを主張するのだった。

 コンテナの開放を確認したハイルヴィヒは、生唾を飲み込むとまるで虫の足の如く両手での指を激しく動かすとコンテナの上面に手をかけた。ゆったりとした動きでコンテナの上面が開けられ中身から顕になると、そこにはハルの聖剣が黄と黒の警告テープを着けられた状態で保管されていた。


「これが…"初陣かつ油断していたとはいえ、超能力紛いな事の出来る帝国騎士を吹き飛ばした"魔法の剣…か?」


「前置きは余計ですが…その通りです」


「思ったより装飾の類はないんだな。単純な造型というのは…良いな」


「形が見たかった訳ではないでしょうに…そこの被検体に渡す許可、お願いします」


「許可する」


 コンテナの中の聖剣をまじまじと見るハイルヴィヒは、その思ったよりシンプルな見た目に拍子抜けしながらも皮肉のこもった一言を呟いた。その言葉にマスクの下で眉を痙攣させながら怒りに瞳を釣り上げたコンスタンツェはあくまで平静さを保った返答をした。

 コンスタンツェの子供っぽい反応を楽しみながらも、ハイルヴィヒは改めて目の前の聖剣をしっかりと観察した。映像では見ていたが、実物は彼女の思っていた以上に在りがちな剣であり、謎の装置と言われていた大きな水晶も握り拳程度の大きさであり、ハイルヴィヒは兵器というより工芸品に対するような感想を呟くのだった。

 そんなハイルヴィヒが思わず聖剣へと手を伸ばそうとしたとき、コンスタンツェはその手を防護手袋をはめた手で抑えると、苦言と共に許可を求めた。そのコンスタンツェの瞳に、茶化すことを止めたハイルヴィヒは提督としての口調で許可を出した。

 その許可に頷いたコンスタンツェは、警備兵が剣に銃口を向け高官達をかばう中、鞘と剣の鍔の部分を握り込みながら慎重にコンテナから取り出した。緊張が走る会議室の中で、コンスタンツェはゆっくりと聖剣をハルの元へと運び出すと、彼女は会議机の上にそれを丁寧に置くのだった。


「Ah ... ah! Heilig zwaard! Het was veilig, het was goed!《あっ…はぁあ!聖剣!無事だったんだ、良かった!》」


「正気に戻った…というよりは…」


「"塞ぎ込んでいた"のか回復したって風に見えるな?」


 俯きながら暗い瞳で足元ばかり見ていたハルだったが、コンスタンツェが机の上に聖剣を置くとその音で視線を上げた。その視界に、苦楽を共にしてきた切っても切れない繋がりのある聖剣の姿を目にしたとき、ハルは血の気の引いた顔を一気に上気させると思わず興奮で上ずった言葉を発しながらその柄に手を伸ばした。

 その一瞬で変わったハルの姿は、ハイルヴィヒやヘルムートを含めた室内全員に"正気にを失っていた"訳ではなく、"ただ塞ぎ込んでいた"だけに感じさせ困惑させたのだった。


「Het was erg goed《本当に良かった》…Wat! Wat dit, waar どこ!うわっ!獣人の人がいっぱいいる!"落ち着け、ハル。こいつ等は獣人なんて生易しいもんじゃない。もはや魔族なんて気安く読んで良いかも怪しい連中だ"えっ、魔族?」


「なっ…」


「なんだ…こいつ?いきなり言語が変わった。それに口調も…」


「解離性同一性障害?いや、あの剣の何かが…」


 だが、会議室の全員はハルの喋る言葉がまで装置を切り替えたように突然ガルツ語を喋りだした事やまるで別人のように喋り方や表情まで変わることに驚いた。

 そんな周りの困惑に気づいたのかハルは流暢なガルツ語で聖剣に話しかけ、彼も今までの癖で彼女の顔と口を借りて彼女と会話するのだった。その会話は今まで黙っていた参謀長やその他の面々が感想を漏らす程の奇妙さであった。

 一人二役で話すハルに驚く海軍全員は様子を伺い、ハルは自分と全く異なり知らない種族である魔族に驚いて様子を伺った事で、会議室の中には珍妙な沈黙が流れた。戦闘が起こるというような緊張とも違い、まるで"友達の友達同士が初めて仲介無しに会う"かのような独特な沈黙であった。


「えぇい、まどろっこしい!なんだい、見合いか何かみたいに黙りこくってからに!喋り出しにくいじゃないか!」


「提督、貴女も黙ってたじゃ…」


「うるさい、ヘルムート!」


 奇妙な探り合いの沈黙を前に、ハイルヴィヒは何度か口を開こうとした。だが、彼女の口さえつむがせた空気は暫く続いた。だが、ハイルヴィヒの苛立ちが限界を迎えると、彼女は刺々しい言い方で沈黙を打ち破り机に肘を突いて頭を抱えた。そんなハイルヴィヒの行動に驚き肩を震わせたハルを横目にヘルムートが気楽な口調で茶々を入れると、ハイルヴィヒは頬杖を突きながら苦い表情をしつつヘルムートを睨みつけ、深く溜息をついたのだった。


「それで、そこのヒト族の…"ハル"とやら、単刀直入に聞こうじゃないか?帝国に何しに来た?」


 深く息を吸い込んで気持ちを切り替えたハイルヴィヒは、正面のハルに真っ向から向き合うと気風の良い言い方で彼女に問いかけた。その言葉に一瞬だけ戸惑うと、ハルは聖剣に目配せしながら深呼吸したのだ。


「初めまして…ええっと、魔族の方々で宜しいんですね?」


「そうだよ。ここにいるのはガルツ帝国海軍軍人。つまり、皆が魔族だ」


「良かった、ちゃんとこれたんだ…私は、ハル・ファン・デル・ホルスト。ネーデルリア三重王国の第2王女です」


「そうかい、そうかい!第2王女様とは…はっ?第2…王女?」


「はい、第2王女です。それで…」


 ハルの自己紹介により会議室に激震が走り、戦いの無い魔族とヒト族の邂逅が始まったのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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