第1幕-6
趣味で書いてるので温かい目で見てね。
「事情はわかりましたけど…貴女が、あの"ネーデルリアの剣聖"さんね…」
「おい、サンス!もっと礼節を持った態度をしろ!すみません、ハル様」
「いえいえ、大丈夫ですよ!私の知名度が思ったより低いのは最近理解したので…"フェルナンダとやら、それ以上こいつの傷を抉らんでやってくれ"五月蝿いよ、聖剣…」
ハルと聖剣はガリアからエスパルニアへ向かうまでの道中を徒歩で移動していた。路銀をケチるという目的で行った強行だったが、ハルの方向音痴を聖剣がサポートしきれずに遭難しかけるという事態になった。
そのハル達の遭難も、モンラートの森の中にあるマルシアルとミランダ、イグナシオが住む3階建ての豪邸に招待されたことで解決すると、彼女はミランダに促されシャワーを浴びたのだった。
シャワー後に部屋着へ着替えたハルは、ミランダの計らいで茶会へと参加することになった。その茶会には、状況を飲み込めないサンスや剣士として狼狽するフェルナンダも参加し、お互いに自己紹介を済ませるとハルと聖剣から長々と事情を説明されるのだった。
その説明にマルシアルやミランダ、イグナシオは納得したのだが、サンスだけは首から下げた十字架に半円のついたロザリオを指遊びさせながら疑念の表情を浮かべながらハルと聖剣を見るのだった。
そのサンスの視線は茶会に居ながらも腰に差した聖剣の柄を握り続けるハルの左手に向いていた。だが、彼の言葉に顔を赤くしたフェルナンダが彼を叱りつけたが、彼女を落ち着かせようとハルが自虐の言葉を呟き、聖剣が追い打ちをかけたのだった。
「なるほど…"ネーデルリアの生きた聖剣"は話に聞いていたが、まさか使用者の口を借りて会話まで出来るとは。グイリア法国の聖剣とはかなり違いますなぁ」
「"マルシアル…だったか?"ちょっと聖剣!」
「いやいや、ワシのような老人でも何百年と存在する…いや、生きている聖剣からすれば小童でしょう。それに、聖剣殿は私の発言に気を悪くした様子ですので、気になさらず」
「"わかってるじゃないか。なら、俺をあんな出来損ないの聖剣と一緒にはしないでくれよ。あんな“人を戦うためだけの道具に仕立てる野蛮な奴“と同列なんてゴメンだ"えぇっと…"なぁ、ハルよ、お前は食い物と剣以外にも世間を知るべきだ"」
茶会の席にて聖剣の腹話術を見たマルシアルは、興味深そうにハルを見た。そのマルシアルの視線や受け驚きの言葉に笑みを浮かべる聖剣だったが、彼の言葉の後半を聞くと眉をしかめて怒りの滲み出る口調で呼びかけた。その聖剣の言葉にハルは、空かさず彼をどやそうとした。
だが、マルシアルはそんなハルに対して穏やかな口調で止めに入り、聖剣を庇う言葉をかけるのだった。そんなマルシアルに機嫌を直した聖剣は、"グイリアの聖剣"に対する悪口を吐きながらカップのハーブティーを飲み干した。
その聖剣の話に疑問を持ったハルへ聖剣が助言をするという"一人会話"の光景は茶会の席にて一際目立つものだった。
「ハルさん…でしたか?ひょっとして話に聞く"ブリタニアの魔法使い"さんみたいな"魂が2つに別れてしまった病気"なんですか?」
「んっ?“ブリタニアの魔法使い“さんみたいな?“魂が2つに別れてしまった人“?"おいおい、イグナシオとかいう坊主、いきなり訳の解らないことを言うなよ。病気だぁ?お前は何でも解るわけじゃねぇんだ。まして、多重人格なんてのは病気じゃねぇんだ。少しはテメェの物差しだけで測って喋るんじゃねぇよ、失礼ってもんだ"ちょっと、聖剣!言い過ぎ…"礼儀がなってないだろ。事情を聞くにも流れがあるし、何より…"」
「いやいや、聖剣殿!孫の不躾な質問を許してやって欲しい。この子は私のわがままや息子のわがままで、この通り世間知らずになってしまって…ほれ、イグナシオ!」
「えっと…すみません、ハルさん、聖剣さん」
「"だとしてもよぉ、いきなり“ブリタニアの魔法使い“だの“魂が2つに別れてしまった病気“だとか言ってくるようじゃ、教育がなってないんじゃないか?"」
「全く、聖剣殿の言うとおりだよ。ねぇ、マルシアル?」
「うっ…そうだな…」
イグナシオは見慣れないハルと聖剣の姿を前にして、何気ない口調かつ何食わぬ顔で尋ねるのだった。その内容は数時間前に知り合ったばかりの人間にかけるべき言葉ではなかった。
そのイグナシオの言葉に対して、ハルはそもそも理解が追いつかず疑問を頭に浮かべた。だが、聖剣はその内容が良くないと感じドスの効いた声で怒りを顕にするのだった。
その聖剣の怒りを前に、マルシアルが気まずい表情を浮かべながら頭を下げて謝罪した。その謝罪や事情説明、マルシアルの申し訳なさそうな顔や彼に促されて謝るイグナシオを前に聖剣は仕方ないといった表情を浮かべた。
そのまま聖剣がマルシアルに批判の声を漏らすと、マルシアルの横のミランダは彼を睨みつつ同意の言葉を漏らすのだった。
「"それで、事情は説明したとおりだ。例の艦隊消失とそれについて詳しく聞こうじゃないか?それが済んだら、この変な二人組は直ぐにでもおさらばするからよ"ちょっと聖…むぐぅ…」
マルシアルやミランダ、イグナシオ達に奇怪なものを見るような視線で要件を急かす聖剣は、途中で口を開こうとしたハルの口を無理矢理閉じさせると彼等に話を促すようにジェスチャーをするのだった。
「そうですね…これについてはイグナシオが私とサンスの話を上手く擦り合わせて考えた予想が元なんです」
「"どんな話なんだ?"」
「まず、私からですが。エスパルニア軍王立騎士は陸軍と海軍陸戦隊にそれぞれ150人近い戦闘指揮官を提供してているんです。その中の古参騎士の数人から、"部下の陸戦隊数百人が突然招集をかけられて帰って来ない"って話を聞いたんです。それを海軍の文書保管庫で調べてみると、"特別出動"という形でポルトァへと出動していたんです。それでも、ポルトァの駐在員はそもそも過去30年の間にエスパルニアの軍は小隊規模でしか移動がないと報告してきたんです。それが気になって更に調べてみたら、同様に陸戦隊や陸軍部隊が急な移動をする国が何カ国もあったんですよ。そして…」
「俺が魔術省の部下から"グイリア法国の要請で各国が海軍の艦隊が上陸部隊を含んで編成された"と聞いた。マクルーハン教に仇成す連中の殲滅にしては、ブリタニアにネーデルリア、タリアーノ、そして我がエスパルニア。どこも海軍が強い。ソシアは陸軍大国だが、海から攻めるにしてはリリアン大陸との隙間を抜けるか、大和皇国側に出るしかない。エルフは亜人種だが、攻めるにしては友好関係過ぎる。フェルナンダの話を聞いて怪しいと思った俺は、グイリア法国の知り合いから話を聞いてみたが、連合艦隊はブリタニアのペンプール、島の西にある港だ。まして、大規模艦隊を集結させるには栄えすぎてるし目立つ。そして、その話の最後に"艦隊は航路を西に取って出動し"たと聞いてね」
フェルナンダは尊敬する剣聖ハルの顔で睨む聖剣に、複雑な表情を浮かべながら話の出どころを語り始めた。それを聖剣が急かすと、フェルナンダははっきりとした口調で話し始めた。その暗い表情の通り内容はとても明るいものではなく、フェルナンダに続くサンスの言葉は口調こそ気楽であったが内容は不穏に満ちるものであった。
その話を黙って聞く聖剣は、話し終えたフェルナンダとサンスから視線をイグナシオへ向けた。その視線に気付いたイグナシオは、飲んでいた紅茶のカップをソーサーに置きハルの顔を借りる聖剣に向き合うのだった。
「俺は思ったんだよ、サンスの兄ちゃんやフェルナンダ姉ちゃんの話を聞いて。グイリアって国は海軍の強い国を集めて艦隊を作った。そして上陸を考えたから陸軍の部隊や海軍の陸戦隊を集めた。大規模の艦隊なのに、敵となる国は批判もしなければ同盟を結ぶ国と講義もしないんでしょ?そして、艦隊は西に集結したのに誰も見てない。だから…」
「"ブリタニアより西にって考えた訳か"ブリタニアより西って!」
「ブリタニアの真南には大海を挟んでエスパルニア。エスパルニアの西にはポルトァしかない。それ以外のものは、魔族の住むジークフリート大陸しかないって訳ですよ」
「いやぁ、普通の人は思いつかないよね。極秘で大規模遠征が行われてたかもしれないなんて"小僧…お前さん、世間知らずって割には意外と頭は切れるのな"そりゃ、聖剣。“賢者の孫で英雄の息子“だからでしょ?"オマケに騎士団長と魔導師長の一番弟子か…世を知るために学校へ行かせるなんて迂闊な気もするがな"いやいや、学校は一回は入っとかないと人生の損だよ」
カップの中に波紋を広げるハーブティーを見つめるイグナシオは、日常会話のように自分の考えを述べるのだった。
その話に聖剣は一瞬だけ呆れと驚きの入り交じる表情を浮かべると、頷くサンスとフェルナンダを見て納得しつつ呟いた。その呟きによって口の自由が利くようになったハルは、イグナシオの結論を察したように驚きの声を上げた。
そのハルの声に続くようにして、イグナシオが結論を笑みを浮かべながら答えた。その言葉にハルは感心して頷き、聖剣は驚きとイグナシオへの評価を改める言葉を述べたのだった。
「そうと判れば、聖剣!"おいおい、本気か?"私が止めて止まる女と思う?"いや全然、思いもせんよ。それに俺はお前が居なきゃ動けんしな"それでこそ聖剣、付き合いがいいねぇ!」
「ハっ、ハル様!一体どちらへ」
「おいおい、アンタ。いきなり何処に行こうってんだ?話はまだ終わったわけじゃ…」
「私にとっては終わったし、目的地がわかったから。後は行動するのみ"ていうことだ、邪魔したな。それと、そのハーブティーは蒸らしが足りないな。あと1分蒸らすのを長くしたほうが良い"そっ、それじゃ!」
話を聞き終えたハルは、カップに残ったハーブティーを一気に飲み干すと勢いよく立ち上がった。その表情には強い意志が見え、腰の聖剣へ語りかける言葉も覚悟に溢れたものだった。その言葉に聖剣が答え、二人は軽く笑い合うと豪邸の玄関へと向かおうとした。
ハルのその行動に驚くフェルナンダとサンスが彼女を止めようとしたが、ハルの動きはまるで風のようであり、席から立ち上がった2人は全く追いつけないのだった。
「ハルさん、ひょっとして…」
「えっ、私達に追いつけるの!"見事な体術だな"」
「無茶ですよ!一体どれだけの長い…」
「"察しが良いのな、小僧"そうだよ!私達は、この事件の真相と平和的な解決策を見つけるために旅してたの!"まだ1月程度の道楽半部だがな"それでも、私は…"俺達は…"」
豪邸を駆け抜けるハルの横にはいつの間にか追いついていたイグナシオが全てを理解して驚く表情を浮かべていた。
そのイグナシオにハル達が驚くなか、彼は先を急ごうとする2人を止めようとした。それでもハルと聖剣は止まることなく、むしろ清々しい笑顔さえ浮かべて語るのだった。
「彼等が何なのか…"知りたいだけさ"」
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