第1幕-5
趣味で書いてるので温かい目で見てね。
ファンダルニア大陸西側において、エスパルニア王国は強大な国であった。広大にして豊かな土地と強大な王家とそれを支える誠実な貴族、そして堅固な経済によって維持される国民の生活やこれを地盤とした軍の存在により、この国は多くの国から頼りにされる列強諸国の一角となっていたのだった。
そのエスパルニア王国の首都バジローナから南に位置するカターリャ・シオン州の山岳地帯のモンサラートは魔獣と呼ばれる大型生物が多発し、国の管理地域となっていた。
「イグナシオ…お前はまた…」
「だって祖父ちゃん、いきなり魔獣が出てきたんだもの。とっさに出たんだから仕方ないじゃないか」
「とはいえイグナシオ…あんた…」
「祖母ちゃんまで!」
「まさかな…ワシが思っていた以上におかしくなってしまって…」
「アンタの教育が悪かったんでしょうが!全く、ぺぺになんて言って謝れば…出征で忙しいって言うから預かったのに、こんな子になってしまって…」
そのモンサラートの森にて、3人の人物が立ち尽くしていた。その中でイグナシオと呼ばれた男は、黒髪に小麦色の肌をした童顔ながら整った青年だった。その後ろには、彼同様に小麦色の肌に白髪の長髪をした60代の男が呆然と立ち尽くしており、呆れたようにイグナシオの戸惑う顔を見下げていた。その隣にはその老人と同じ歳程度に老けた茶髪の女が立っており、老人同様にイグナシオを呆れと怒りの混ざった視線を向けるのだった。
2人の視線を前に驚くイグナシオだったが、彼の反応を前にした老人は頭を抱え、女の方はそんな男の背中を叩きながら叱りつけ、彼同様に頭を抱えるのだった。
そんな3人は森に立ち尽くしていたのだが、彼等が問題としていたのは3人の前に広がる幅10mに長さ100mほどの大きな爆発跡だった。
「祖父ちゃんに言われたとおり森で走ってたら、いきなりオルトロが飛び出して来たんだよ。そしたら咄嗟に魔法を使ってて…」
「だからってなぁ…」
「森ごと削り取る奴がいるかい…」
その跡は、イグナシオの言うとおり彼の放った爆発の魔法によるものであり、木々をなぎ倒し地面を抉るその惨状は3mはあろうオルトロスに対しては過剰過ぎる威力であった。そのため、まともに魔法を食らったオルトロスは体毛一本も残さず消滅しており、2人もお互いの顔を見ながら呆れて言葉を濁すのだった。
「ミランダ大魔導師!ご無事でっ…て…」
「マルシアル殿!何事がっ…あぁ、やっぱりか…」
「おぉ、サンスにフェルナンダ。すまんのぅ、魔導師長に騎士団長を慌てて駆け付けさせて」
「おぉ、早いもんだ。まだ20分は経ってないんじゃないかい?」
そんな3人が爆発跡を見つめる中、彼等の元に森を風のごとく2人の男女が慌てて駆け付けてきたのだった。
サンス男は長身で細身ながら筋肉のついた20代の青年であり、整った顔に銀髪が裾の長い魔導師のローブのような上着と合わさり妖艶な雰囲気を醸し出していた。一方で女はサンス同様の若さであり、赤い髪を一本に纏めた可憐ながら凛々しい姿だった。その凛々しさを体の各所を護る鎧が高めており、腰に差したバスターソードも合わさりたくましい美女といった見た目をしていた。
そんな2人が心配そうに3人の元へ駆け寄るも、爆発跡を見ると全てを察したように言葉を濁し、その2人の姿に賢者であるマルシアルは頭に手を当てながら軽く謝罪するのだった。そして、その賢者の横では大魔導師のミランダが腕時計を覗き見ながら感心したように笑っていた。
「周辺の民家から通報があったんですよ。"大規模な爆発"っていうから、大型の魔獣かと思って部下を国家魔導院本部で待機させつつ、確認のために飛んできたんですよ…まぁ、どうせイグナシオだと思ったんですけどね」
「アンタ、部下もある程度連れてくるべきでしょうに!もし本当に魔獣だったらどうするの!」
「あぁ、後方から何人かモンサラートへと走って来てたが、あれはお前の部下達だったのか…もっと魔導術を覚えさせた方がいい。あれじゃ有事には間に合わない。第一、"モンサラートでで爆発"なんて聞いたらイグナシオしか思いつかないだろ」
「よく言うわよ、アンタ!もしいつも通りイグナシオがまた何か起こしたわけじゃなく、本当に魔獣騒ぎだったら!魔導師たった一人で何ができるって…」
「おいおい、喧嘩はそこまでにせんか。イグナシオのために喧嘩は止めてくれ」
「祖父ちゃん、サンス兄ちゃんにフェルナンダ姉さんまで…俺、そんなおかしなことしたかな?」
サンスがミランダの評価に対してやって来た事情を説明する中、その気楽な言い方にフェルナンダが驚き叱るように怒鳴った。その叱りの内容にサンスは思い出したように呟き、更にはフェルナンダを無意識に煽るような発言をするのだった。
そのサンスの言い方は無意識であったためにフェルナンダを更に怒らせると、2人は言い合いを始めようとした。その言い合いをマルシアルが子供同士のじゃれ合いのように微笑みながら止めるのだった。その横では、状況を理解できなかったイグナシオは頭を傾げながら一人呟くのだった。
「俺、祖父ちゃんや祖母ちゃん、父さんと比べても…」
「おいおい、イグナシオが黙ってそっぽ向きだしたぞ…」
「茶化すな、サンス。黙ってろ!マルシアル様」
「なぁに大丈夫だろう…」
「魔力はやたらと強い割に悪意が無いね。近づいてくるけど問題ないだろう」
「フェルナンダ、取り敢えず剣から手を離しなさい」
イグナシオがサンスやフェルナンダ、マルシアルのやり取りを前に1人呟いたが、その言葉は途中で途切れるのだった。
その反応から不穏な空気を感じたサンスが戯けたように呟くとフェルナンダがそれを叱りながら腰の剣の柄を握った。2人が戦闘態勢を取ろうとする中、イグナシオは片手でそれを制し、マルシアルは頷きながら2人へと言うのだった。そのマルシアルの言葉にミランダが理由をサンスとフェルナンダに伝えた。そのミランダの言葉を受けてもまだ剣の柄を握るフェルナンダへマルシアルが諭すのだった。
「Hey Épée sacrée?Est-ce juste ici?Eh… j'ai peut-être fait une erreur!Vous plaisantez! Perdu dans une forêt comme celle-ci ...《ちょっと聖剣?こっちで合ってるの?えっ…間違えたかもって!冗談でしょう!こんな森で迷子って…》」
「あら、こんな森に女の子とはねぇ。イグナシオの知り合いかい?」
「えぇっと…どちら様?」
イグナシオ達全員が森を見つめると、ガリア語で1人喋り続ける人影が見えるのだった。その人影は草木を掻き分けながら爆発跡に出てくるとミランダがイグナシオに尋ねた。すると、彼は首を傾げながらいきなり現れたハルを前に呟くのだった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字や文のおかしな所ありましたら、報告をお願いします。




