第1幕-4
趣味で書いてるので温かい目で見てね。
「んで…話を聞きたがってた当人は酔っ払って眠ると…はぁ、全く」
「すみません、ヴィヴィアン様。私もお注ぎするのを止めれば…」
「"構わん、言って止まる奴じゃないし、何よりも酒に弱いが酒好きなんだ。長旅で疲れも溜まってたんだ。俺が話を聞くから勘弁してやってくれ"」
テーブルの上の料理を半分消費したハルは追加の注文をしてさらに飲み食いを行った。その間の思い出話やシャンタル達との会話で盛り上がり、いつしかハルは酔い潰れてしまったのだった。
椅子の背もたれへ盛大に寄りかかり寝息を立てていたハルに、ヴィヴィアンは頭を抱えて呟くとエスプレッソを飲むのだった。その一言に、ワインボトルを持っていたシャンタルが申し訳なさそうに頭を下げたが、彼女の一言でヴィヴィアンは頭を抱えていた手で彼女の頭を撫でるのだった。
そのヴィヴィアンの意図を察して表情を改めたシャンタルに、ハルは突然背もたれから離れ姿勢を正すと、はっきりとした口調に威勢のある話し方て彼女を養護する発言を始めるのだった。まるで別人のような身振りでテーブルに余った料理をフォーク一本で食べ始める姿に、ヴィヴィアンは思わず驚いた表情を浮かべると、いたずらっぽい笑みを浮かべるのだった
「お前、体のコントロールも出来るのか?全く、本当にお前は聖剣とかそんな範疇に収まる代物なのか?」
「わぁ!話し方も目つきも全然違う人になった!」
「"俺をそんじょそこらの聖剣と一緒にするなよ!"」
その聖剣の本人によって意図的に隠された能力を前にしたヴィヴィアンは、まるで友人のいたずらを見ているように笑った。そのハルの劇的変化を前にしたオレリアはまるで大道芸を見るように笑い、その笑みに気を良くした聖剣は腰に両手を当て自慢げに胸を張るのだった。
そんな聖剣も注目の視線に少し苦笑いを浮かべると、彼はヴィヴィアン達に指を鳴らしながら指を差すのだった。
「それと、オレリアだったか?ヴィヴィアン、お前にシャンタルも、この事はくれぐれもこいつに秘密だ"」
「まぁ、知られたら"お前が面倒"だろうしな?いいぞ」
「わっ、解りました!」
「うん!」
「"よろしい!とりあえず、眠ってるハルの代わりに俺がこれまでの事情を話そう"」
聖剣のカッコを付けた頼み方を前に、ヴィヴィアンは一部を強調して納得したように頷いた。
そのヴィヴィアンに続いてシャンタルとオレリアが頷くと、聖剣は腕を組むと決め顔を浮かべながら彼とハルがガリアへと来ることになった経緯を話したのだった。
「…そうして、"フスターフの話やそれに対するコイツの親御さんや姉貴の反応、爺さんの応援もあって、直接話の出どころまで聞きに行こう"って考えになった訳だ」
「なるほどなぁ…そんなことになってたのか。俺も人伝に聞いた"あくまで信憑性の高い噂"をフスターフに聞かせただけだったんだがな…」
「"人伝だと?一体どこからそんな話が流れて来たんだ?そもそも、その噂の出処は?"」
「いつだったかなぁ、半年くらい前か?ウチの周辺諸国との軍事交流会があったんだ。その時にポルトァの高官が酔った勢いで話したんだよ」
「"だが、それを国会議員相手に話すんだ。何かしらの根拠になりそうなことがあるんだろ?"」
経緯を話しきった聖剣は、話疲れたと言わんばかりにカフェラテを飲んだ。そんな彼の前ではデザートのケーキをフォークで切り分け口に運んだヴィヴィアンがなんとも言えない微妙な表情を浮かべながら唸るのだった。
そのヴィヴィアンの反応や呟きに聖剣がカップ越しに様子を伺いながら詳細を尋ねると、彼はこめかみを軽く掻きながら記憶を探るように天井を見上げるのだった。その反応から聖剣が暫く黙って見つめていつると、ヴィヴィアンは思い出したように呟いた。その内容に疑問を感じた聖剣はその呟きに対して質問を投げかけるのだった。
「あぁ、それは…」
「ヴィヴィアン様」
「どうした、シャンタル?」
「お二人の間柄は解りましたが…その…この話は…」
「あぁ、確かに他国の重要人物を話に出すのは…おっと…」
聖剣の言葉にケーキを切り分けながら答えようとしたヴィヴィアンだったが、そんなに彼の脇をシャンタルが上目遣いに突くと、気まずそうに名前を呼ぶのだった。
シャンタルの視線を受けたヴィヴィアンだったが、疑問を浮かべてその理由を尋ねた。その言葉に諦めたような表情を浮かべるシャンタルが耳打ちすると、ヴィヴィアンはその意図に気付き言葉を漏らした。
その言いかけて言葉を止めたヴィヴィアンだったが、誤魔化すために作った彼の笑みを聖剣がジト目で見つめるのだった。
「"おい、ヴィヴィアン。’重要人物’だって?どこの…いや、軍事交流会にポルトァとか言ってたからなぁ。あの国の国防はエスパルニアに頼りきりだ。となると、相手はエスパルニアの人間で…"」
「ヴィヴィアン様、もう遅かったみたいですね」
「あぁ、そうだな。結構酔ってたのかな、俺。やっぱり酒は良くなかった」
「"いや、あってもなくても変わらなかったよ。親しい奴に口が軽いのが良くも悪くもお前の特徴だからな"」
ジト目でヴィヴィアンを見つめる聖剣が会話していた内容から相手を察し、したり顔で予想を立てた。その内容にヴィヴィアンが渋い顔を浮かべ、シャンタルは彼に向けて諦めたように一言呟くのだった。
シャンタルの言葉はヴィヴィアンに軽く息をつかせ、彼は皿の上のケーキを口に運ぶことなく切り分け続けながら呟いた。その姿を前に聖剣が励ます言葉をかけると、ヴィヴィアンは切り分けたケーキの欠片をフォークでまとめて突き刺し口に運ぶのだった。
「わかった、わかったよ。ただし、誰にも言うんじゃないぞ?それと、何かするにしても俺達の名前は出すな。正直言うと、俺はこれから先の展開に嫌な予感がするんだが?」
「"それに関しては…まぁ、俺がなんとかするさ。少なからず、こいつを戦場だなんだに引っ張りこんだ原因なんだ。この身が砕け散っても、守りきってみせるさ。これからも…この先も…"」
「なんだよ、まるで死にゆく奴みたいなこと言って?ハルの呑み過ぎでお前も酔ったのか?」
「"覚悟の話をしただけさ。それに、酒で酔ってちゃ聖剣は務まらんよ。いいから早く話せって、ヴィヴィアン"」
「あ~っと…」
「良いと思いますよ、ヴィヴィアン様」
ケーキを飲み込んだヴィヴィアンは諦めたような投げやりな口調で返事をすると、そこから一変して圧のかかった口調で聖剣へ警告を口にするのだった
そのヴィヴィアンの警告は圧の中に不安が混ざっており、それを察した聖剣は気迫を込めて彼の言葉に返事をした。その内容は気迫のある呟きと相まって、ヴィヴィアンには悲壮感を感じさせた。
その悲壮感からヴィヴィアンが自分で作った神妙な空気を壊し、茶化すように聖剣へと言葉の裏の意味を尋ねた。その言葉に聖剣も苦笑いを浮かべて軽口で返すのだった。
そんなやり取りの後にヴィヴィアンはシャンタルへと目配せし、彼女は彼に笑みを浮かべながら答えるのだった。
「例の"リリアン大陸に現れた謎の軍隊"と"各国連合艦隊の消滅"の話はな、イグナシオから聞いたんだ。」
「イグナシオ?イグナシオって…誰だ?」
「聖剣さん、エスパルニアに"賢者"と呼ばれる方がいるのはご存知ですか?」
「"あぁ、シャンタルちゃんよ。それくらいは知ってる。マルシアル・マチャド・エリサルデだろ?魔法学院だかを主席で卒業し、エスパルニアにでた’大型ケルベロス退治’や’邪教徒撃退’をやってのけた最強の魔導師…だったか?"」
「イグナシオはその"賢者"の息子"ぺぺ・アルバ・エリサルデ"の子。若干15歳で"賢者の再来"、"賢者の孫"と呼ぼれている」
「"そいつについてはわかった。で、何でそいつはお前にその話をしたんだ?ウチの国会が荒れる程の内容だ。英雄とはいえ他国の…良くて士官に話していいことか?"」
渋い顔をするヴィヴィアンが口を開くと、その内容に出てきた"イグナシオ"という名前に疑念の表情を浮かべるのだった。聖剣の表情や一言からシャンタルが助け舟として一人の賢者について尋ねた。すると、彼はカフェラテのカップを掴んで中身を覗きながら"賢者マルシアル"について思い出すのだった。
その聖剣の記憶に、ヴィヴィアンがイグナシオについて更に付け足すのだった。その内容でイグナシオについては理解出来た聖剣だったが、ヴィヴィアンがなぜ彼から話を聞けたのかという点だけは解らなかった。
「さぁな?多分たが、世間知らずのお坊っちゃんだから、分別が付かないんだろ。なんたって、
最近までその賢者と"大魔導師ミランダ"、騎士団長とか魔導師長とかと山に籠もって修行してたなんて話も聞くしな」
「"山に籠もって修行って…なんかのおとぎ話じゃあるまいし。つまりあれか?そいつは’世間知らず’とかそんな程度じゃなく野生児だと"」
「そこまで言ってない。いや…金の存在も知らなかったらしいし…そうだな、野生児というよりは異常な魔力と剣術の化け物か」
「"なる程、魔法はともかく、俺達より強いか、そいつは?"」
「まぁ、"賢者の孫"なんて呼ばれても恥ずかしさを感じないくらいには強いが、対人の実践経験がない。どちらが強いか分からないが、盾と少しの魔法しかない俺じゃ、歯が立たないね」
「ヴィヴィアン様は十分にお強い方です!盾は打撃にも使えますし、戦術眼は誰よりも優れてます!」
「ご主人はスゴイんだよ、聖剣さん!」
「"わぁってるよ!つまりは、ネーデルリアで聞いた以上の話はそっちで聞けってことか?"」
「まぁ、そうなるな。お前らなら走って2日くらいだろ。馬車なら4日かな?」
「えっ、エスパルニアまで走って行くんですか!しかも2日って!ここからエスパルニアとの国境線までだって馬車4日なのに!あっ、でもガリアまで馬車とか使ってないんでしたよね?」
「わぁ!旅行だねぇ!」
聖剣の疑問にヴィヴィアンは皿の上のケーキを食べきりながら若干イグナシオをバカにしたように答えるのだった。
その内容に聖剣は半笑いしながらその軽口に乗った。その軽口に返したヴィヴィアンの言葉の一部は聖剣の意識に引っかかると、彼はヴィヴィアンに満面の笑みで尋ねるのだった。
そんな聖剣にヴィヴィアンが卑下を使って話をはぐらかすと、その内容にシャンタルが席を立ち上がり毛を逆立たせながら反論の声を上げた。その言葉にオレリアも口や頬、鼻にケーキのクリームをつけて無邪気にヴィヴィアンを褒めるのだった。
その内容に聖剣は苦笑いを、浮かべながら手を振り止めると、ヴィヴィアンの言わんとしていることを彼に言って尋ねるた。その言葉にヴィヴィアンは納得しながら指で必要日数を数えた。
その日数や速さにシャンタルが驚き、その動揺した身振りにオレリアが笑う中、聖剣は空の食器を重ねたことで開けたスペースに突っ伏すと、窓の外を見ながら先の長く目的地もあやふやな旅路にため息をつくのだった。
「"こいつと俺の旅はまだまだ終わらないか…下手すりゃ地獄にまで行きそうな気がするな…"」
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