第1幕-1
趣味で書いてるので温かい目で見てね。
統合歴836年6月20日のネーデルリア三重王国は平和の一言に尽きる昼時を迎えていた。漁師たちは日も出ないうちに出港して得た大漁を漁港に放ち、農民達は素晴らしい実りを商人達へといい値で売り、その商人達は昨日の売上を更に越えようと声を上げて商品を市場で売るのだった。
だが、活気溢れるネーデルリア三重王国の首都であるアームステルの小道を歩く第2王女ハル・ファン・デル・ホルストの表情はそれに反して暗かった。雪原での長きに渡る戦闘の日々でついた肌の日焼けも少しずつ落ちて、金髪に薄小麦色の肌をした彼女は街の人々の中に上手く溶け込んでいたのだった。
「あら、剣聖様だわ」
「剣聖様!どうです、さっき港から上がったばかりですよ!」
「聖剣様!こちら新商品なんです!お1つ召し上がってくださいな!」
「こちらの首飾り、いかがですか剣聖様!なんと魔道具としても機能して灯りを…」
それでも、布で鞘を隠しても腰に下げた聖剣は目立ち、ハルは街ゆく人々にその存在を見つかってしまうのであった。
「父上も姉上も…いや、マウリッツ国王もティネケ第1王女もブリタニアとかリリアン大陸絡みのことは何もない教えてくれないし…気晴らしに外へ出ても“剣聖““剣聖さま“って言われるし…やっぱり聖剣、あなたは部屋に置いてきた方が良かった気がする」
「バカ言え、俺が居なくちゃ街で迷子になるだろう?今でも覚えてるぞ、12のお前が俺を背中にしょいこんで道端で迷子になった…」
「何時の話よ、もう迷子になんてなりません!黙らないと漁港の塩水に漬け込むよ!」
「はいはい」
ハルの言葉通り、彼女の暗い表情の原因は数日前にフスターフから聞いた50年前の戦乱とそれに端を発した現在までの50年間の騒乱の真相を駆け引き無しで尋ねたからであった。彼女としては、酒の席で旧友が語った与太話として理解していた。それでも、彼女へと記憶の伝達で内容を伝えた聖剣の不安感のようなものは拭いきれず、その結果による正々堂々とした質問であった。
当然ながら、ハルの直接的な疑問にはネーデルリア三重王国であるマウリッツ国王や彼女の姉であるマルティーナ第1王女は何もハルへと語らなかった。そのことで酒の与太話から真実味を感じ取った彼女は、王女の権力を利用して午前の全てを国家機密の文書を読み漁ることに使った。
それでも、捜査が空振りに終わったハルは気持ちを切り替えるために街へと繰り出したのだった。
「ほんろ…ほまっひゃうはほへ…ほんはひも…」
「喰うか喋るかどっちかにしろ。行儀が悪いぞ。俺は本当にお前は身分についての考え方には呆れるよ。“剣聖“やら“王女“呼ばわりが嫌だってのに、そんな山のように食い物貰って…」
「むっ…むぐっ…」
「話すより黙るのか…まぁ、思考が伝わるから問題もないが。そもそも、口開いて話すほうが意味のない気がするが…」
「それはダメ!貴方に意思がある以上、貴方もきちんとした生き物で…男?なんだから」
「あぁ!わかったよ、わかったから口の中のものを飛ばして話すな!」
自分の知らない間に国の裏側や親族が影で何かをやっていることにハルは辟易しながら、街の屋台から貰った山のようなハーリングやキベリングを聖剣の柄で左手が塞がっていながらも器用に抱えつつ頬張り呟いた。
そのハルの呟きに、聖剣は行儀の悪さを指摘しながら彼女の食べても消費したそばから渡されて減らない食べ物に呆れかえるのだった。彼の言うとおり、ハルは第2王女という立場や剣聖というあだ名で呼ばれることはあまり好まなかった。だが、それによって街で貰えるちょっとした贈り物については喜んで貰っていたのであった。
そんな聖剣の注意と指摘を前に、ハルは抱える食べ物の消費に集中し、聖剣はそれに呆れて呟くのだった。だが、その呟きに混じっていた軽口にはハルが空かさず反応して持論を展開した。
だが、その持論よりも聖剣は彼女がリスのように頬張ったニシンを持論と共に飛ばすことによって自分の軽口を撤回するのだった。
「おっと、何やら屋台通りが騒がしいと思いましたら。やはり姫様でしたか」
「レンブラント爺!貴方もここに?」
「御年75でも、腹の減りは若者に負けないものでしてな!」
「"おい、爺さん。また食い過ぎで倒れるなよな?"ちょっと、聖剣!」
「いやいや姫様、構いませんとも。オマエさんも口と胃袋があれば分かるさ。“食欲には抗えない“とな」
「"爺さんみたいにならないように、コイツによく言っとくさ"ちょっと!私、そんなに太ってないよ!あっ、爺や、そういう積りじゃ…」
「ハッハッハ!いやぁ、仲のよろしいことで、爺は安心しましたとも」
騒がしく食い道楽をしていたハルと聖剣だったが、その途中で彼らは老いの中にも若さの溢れる声に足を止めた。2人が振り返ると、そこには青いシャツにチノパンツをはいた老人が立っていた。禿げた頭に深いシワと彫りの深い顔は白い髭が蓄えられ、恰幅の良い体付きと相まって人の良さを感じさせる老人であった。
その家老の一人であるレンブラントに、笑みを見せて歩み寄るハルは彼と軽いハグと挨拶を交わした。そしてレンブラントに聖剣もハルの口を借りて挨拶すると、ハルと聖剣のやり取りに彼も笑みを浮かべるのだった。
「しかし…姫様の暴食は理解してるつもりです。人より良く動き、腹も減る。とはいえ、この量は"やけ食い"というやつですかな?」
「その…まぁね?"こいつが父親や姉に色々聞いたら無視されてな"ちょっと、聖剣!」
「無視?はて?姫様、一体何を陛下やティネケ様へお尋ねになったので?良ければ、爺が姫様の問題を手助けしましょう!なぁに、この爺は伊達に歳を取っておりません。きっと力になれましょう!」
「"口だけは達者な爺さんだ"ちょっと聖剣!」
「構いませんよ姫様。私は、一度はその聖剣を取ろうとして断念した者。コヤツには頭が上がらないのですよ」
「でも…"気にするなよ、ハル。そういう爺さんなんだから"」
「それより、姫様。一旦は腰を下ろして気持ちを落ち着けて、私に聞かせてくださいな?」
ハルの行動から何かを察したレンブラントは、彼女にカマをかけるのであった。だが、そのカマにはハルではなく聖剣が彼女の口を借りて反応し、その内容にハルは聖剣へ悪態をつきながら口を閉ざそうとしたのだった。
だが、端からハルの相談に乗ろうと考えたレンブラントは直ぐハルへと笑みを浮かべ、胸を張り力強く叩きながら彼女に悩みを話すように語りかけた。その内容にツッコミを入れる聖剣にハルが叱責すると、レンブラントは柔和な笑みを浮かべて聖剣を庇った。
レンブラントの行動で完全に彼の思い遣りを断ることができなくなったハルは、小道の奥に見える大きな噴水の広場とそこに見えるベンチを指差して話す彼の言葉に従い、腰をおろした。
ベンチの側に置かれたテーブルへと屋台料理の山を置いたハルは、暫く黙って昼の陽気に照らされ小さな虹を何個も作る噴水を眺めながら上を向いてハーリングを立て続けに頬ぼった。その隣では、レンブラントも彼女同様にハーリングを美味しそうに頭の側から頬張ると、2人は黙って屋台料理を消費し続けるのだった。
「50年の出来事について…調べてたの」
「ほう…姫様が調べものとは…余程の重要な事なので?」
「そうなの…」
山のような料理が半分に減った時、ハルはレンブラントへと呟いた。その呟きは暗い口調に聞こえるものであり、レンブラントは柔和な笑顔に少しだけ神妙さを足すとハルへと詳細を尋ねた。そして、ハルはフスターフから聞いたダークエルフやリリアン大陸での騒乱、そしてブリタニアや各国が何かしらの目的のために行動していた可能性について説明した。
そして、そのことを国王や姉に訪ねて無視され、書類を読み漁っても捜査が空振りに終わった等の一通りの流れをハルが説明し終わった時、レンブラントは苦笑いを浮かべるのだった。
「なるほど…50年前のことですか…」
「ひょっとして、爺は何か知っているの!"まぁ、知ってても言えねぇよな。国王が黙ってることを話す訳にはな?"それも…そうね…」
「あぁ、姫様!そんなに気を落とさないで下さい!うぅん…そうですな…」
ハルからの話を一通り聞いたレンブラントだったが、最後まで聞ききる頃には笑みをうかべていた彼も眉間に深いシワを刻み込んでいた。
何かを思い出したように呟くレンブラントに、ハルは思わず前のめりになりながら彼に迫って尋ねたレンブラントの鼻先数センチの所にいたハルの表情は遂に状況を打開できたと喜ぶのだが、直ぐに彼女の口と顔を借りた聖剣が冷静な一言を真顔で言うのだった。
その聖剣の一言にハルは暗い顔をしながら呟いたのだったが、その呟きにレンブラントはハルが落ち込んだ事に焦る表情を見せながら彼女に言葉を迷わせながら呟くのだった。
「確かに…姫様の言ったように50年にはリリアン大陸やブリタニアにて一騒動ありましたな。リリアン大陸の各国は突然に港町より先への大陸外の人間や奴隷、人型の種族の立ち入りを禁止し、ブリタニアもウィスティングスの港を長期間閉鎖していました。確か…両方共に3年は続いたかな」
「3年もそんな事があったのに誰も何も言わなかったの?"言わないじゃなく言えないなんだよな?"どういうことなの?」
「リリアン大陸やブリタニアのその"宣言"には…グイリアナ法国が関わっていましてな…」
「法国ですって!…えっと…法国っていうと…"はぁ、戦場と食い物以外は世間知らずなヤツだな"仕方ないでしょう、政治と国家関係なんて殆ど興味がないんだから!」
「グイリアナ法国とはマクルーハン教の本拠地ですよ。数十年、今の教皇は苛烈な人間至上主義を掲げています」
「それがどうして関係があるの?"おいおい、わからねぇのかよ、ハル姫様よ?フスターフも言ってたろ“魔族が関係しているかもしれない“ってな"そのグイリアナが何をしたって言うの?宗教国家だからって…」
「姫様、貴女も洗礼を受けたのですよ。そして、この世界の半数の人間は…いえ、ソシア連邦がありますから4割ですかね?巨大かつ国家に対して強大な権威を振りかざせる。それがマクルーハン教なのです。その"宗教国家"が関わっていると言うことが、この騒動に関わるべきでない理由なのです」
「どこがどうして?ダークエルフの反乱というのにはフィントルラントの干渉拒否が出てるし…」
仕方ないと表情に表しながら語るレンブラントは、空を見上げた。見上げる青空に反して彼の表情は曇っていった。
そのレンブラントの言葉にハルがハーリングを食べる手を止めて尋ねると、聖剣がその言葉に横槍を入れた。その横槍にハルが疑問の表情を浮かべて更に尋ねると、レンブラントは更に表情を曇らせ、彼女に小声で語りかけるのだった。
そのレンブラントの話に一瞬だけ声を大きくしたハルだったが、周りを見渡しながら小声になると、横にいるレンブラントへと耳打ちするように法国について尋ねたのだった。そのおおよそ王女と思えない発言に聖剣が呆れて野次を飛ばし、彼女も聖剣を睨んで軽い言い訳をするのだった。
その2人にレンブラントが法国についての説明をするとハルは更に理解できないとばかり眉間に人差し指を付け瞳を閉じながら唸るように尋ねたハルだったが、聖剣がそれに説明すると尚の事わからないとばかりに口をへの字に曲げて尋ねるのだった。彼女の疑念に苦笑いを浮かべるレンブラントだったが、そんな彼は更にハルへと更に法国の説明すると彼女は疑念の言葉を呟いた。
「しかし、リリアン大陸への立入禁止はグイリアナ法国によって確かに遂行され、港から先の、特にリリアン大陸各国の首都周辺へは確実に誰も近づけさせなかった。更に、ブリタニアとガリアの協力もかの国が関わり、今回のポーリアへガリアが干渉したのも、それに対してソシアが徹底抗戦を命じなかったのも法国が関しているとのことです。各地で勃発していた内戦がどのような結末にせよ収束していったのも…詰まるところ、かの国が関わっているそうです」
「あの内戦にも関わっているって!…"なるほどな、あの国が何かしらの敵に対して各国を統合しようとしている訳か?"敵って…まさか!」
「それは私にも確証を得ません。そして、それについては私よりその情報を…あの悪童に渡した本人に聞くのが1番かと」
「悪童って、フスターフは…"まぁ、悪ガキであることには変わりないな?"ちょっと、聖剣!」
「ハッハッハ!相変わらず仲の良いことで、爺は安心しましたとも」
レンブラントの語る内容を前に、ハルはかつて駆け抜けた戦場を思い出した。その内戦は民兵と市民、義勇軍や正規兵の入り乱れた乱戦であり、彼女もその戦場で聖剣を振るい幾人もの敵とみなした者をなぎ倒してきた。敵の血や体液にまみれたその長い戦いの日々も、唐突に現れた青と白の制服に身を包むガリア軍兵士の波と緑に灰色のソシア軍兵士の睨み合いにて突然の休戦が決定された記憶を思い出すと、ハルは思わず声を大きくしかけた。
そのハルの大声を聖剣が口を借りることで止め、冷静な聖剣がレンブラントの話を先読みして尋ねたのだった。その質問には、レンブラントも答えあぐねて真相をその情報元を訪ねて聞くように言うのだった。その話の中で彼がフスターフを"悪童"と呼んだことにハルが眉をひそめて訂正しかけると、聖剣がそれに納得しハルが彼を批難するのだった。
そのやり取りに笑みを浮かべたレンブラントに、聖剣を睨みつけていたハルは彼を不思議そうに見るのだった。
「やっぱり爺は、何時でも私のことを信じて相談に乗ってくれるのね。今更だけど、父上はこうも言ってたの。"聖剣と話始めてから、お前はいつも虚言ばかりだな"って」
「姫様、私もかつては"魔剣豪"と呼ばれていまして。先程も言いましたが、若かりし頃に私はその聖剣を一度、先代国王の命にて使おうとしました。しかし、聖剣を握った私の体は筋肉という筋肉を千切ろうとする猛烈な痺れや頭を砕くような頭痛に襲われました。そして、そやつは薄れゆく私の意識に言ったのです」
「"お前には無理だってな。懐かしい"聖剣、アンタ爺にそんなことしたの!"勘違いするなよ、こうしてお前の口や顔を借りて話したり表情つけられるのは並大抵の神経や肉体で出来ることじゃない"そんなに私の体って凄いの?"あぁ、凄いのなんのって。名き、ぶばっ!"ぐぐぅ…」
「聖剣、姫様の顔や口を使って悪ふざけは控えろ。全く、お前さんは変わらんな」
「"俺は物だ、そうそう変わらんさ。変わる権利があるのは…"」
「"生き物だけ"だったか?捻くれたお前の理論はこの際構わんよ」
ハルの疑念の言葉に悲しさが混じり、父親の発言を口真似しながら彼女が言ったときには虚しささえも混ざった暗い表情をしていた。その表情を前に、レンブラントは昔を懐かしむように呟くとハルへと昔のことを聞かせるのだった。
その昔話に聖剣も入ってくると、驚くハルに彼は更に彼女へ呆れるように言い放つのだった。そのおだてるような発言にハルが疑うように言うと、彼は余計なことを言おうとした。その発言をハルが無理矢理に下顎を押し上げて止めた。
それを見るレンブラントは若き日の懐かしさを憶えつつ、聖剣に辞めるように言った。その後の言葉に聖剣をが悪びれず発言すると、その続きをレンブラントが苦笑いを浮かべながら言うのだった。
「とにかく姫様、私は姫様の発言や行いを良いものと信じます。しかし、グイリアナ法国とマクルーハン教…特に聖堂派には気を付けて下さい」
「聖堂派?"確か、お布施とか税金を払うように言う奴らだったか?"宗教って祈るだけじゃ駄目なの?」
「この国の多くの信者は信教派という分類になりますが、法国やタリアーノは聖堂派です。そういう連中にはお気を付け下さい。それと、人を伝って調べるなら、魔導通話の利用はお控えになって下さい」
「魔導通話ってあれでしょう、受話器を使うと遠くとも連絡が取れるって…"なる程、交換手ってのが危険な訳か"なんでよ?"その交換手が聖堂派とかどこかの国の間者だったら?"あっ、そうか!」
「そう、姫様。できるだけ信用出来る者達だけで小規模に、面と向かって対談し確実に調べるのが良いでしょう」
レンブラントはハルに対してグイリアナ法国やマクルーハン教についての忠告をすると、疑問を浮かべたハルに聖剣が疑問形ではあれど補足の説明をした。その内容に更に疑問を浮かべたハルへとレンブラントが説明をしながら追加の忠告をしたのだった。
その内容にハルが疑問を浮かべながらも聖剣が納得すると、レンブラントはできる限り含みを加えて笑いながらアドバイスをするのだった。
「面と向かって…なる程!わかったよ。ありがとう、爺"本当に、フスターフより悪知恵が働く"」
「爺も、コヤツと比べればまだまだ若いですからな」
レンブラントの含みを理解したハルと呆れる聖剣を前に、レンブラントは笑みを浮かべながらまだ残る料理に手を伸ばした。彼の行動を見たハルは、彼と同様に料理へと手を伸ばし気疲れする話題から別の話題を考えようとしたのだった。
「ガリア料理って美味しいのかな…"全く…"」
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