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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
271/325

第10幕-3

趣味で書いてるので温かい目で見てね。

 ブリタニア王国のウィスティングスは大きな港町であった。島国であるが故に大小様々な港が存在するブリタニアに於いて、ウィスティングスは本島北部のそれらを束ねる拠点であった。

 また、ウィスティングスはブリタニア海軍の第2艦隊が母港として利用していることも相まったことにより、ブリタニアの5本の指に入る程に栄えた港町であった。


「はぁ…全く暇だよ。第2艦隊が出動してからこっち、1月もこんな何もいない港の灯台で監視任務ばかりとくるのだから」


「よっと!これは良い手札だな。よし、レイズ!ストレートだ!」


「はい、ストレートフラッシュ」


「まっ、またかよぉ!」


「お前は弱いんだよ。これで40ポンドの勝ちだ」


「はぁ〜あ、止めた止め!やってられっか!海ばっかり見てトランプ三昧の灯台生活なんてやってられっか!」


「お前がやろうって言ったんだろ…まぁ、ここまで賭けの小金が積もると、流石に飽きて暇になる」


 だが、その主要港であるウィスティングスの軍港には全ての戦列艦が消え去り、港の活気盛大なものから通常程度に戻ると、軍港の兵士達はその少しの差に味気なさを感じるのだった。

 その味気なさが暇と思える2人のブリタニア海軍水兵は、軍港の灯台でポーカーをしながら勤務の暇を持て余すのだった。

 若い2人の水兵は、日に焼けた浅黒い肌にまだ幼さの残る顔つきをした19歳程に見える青年だった。


「あ~あ、トランプってのも暇と思う序盤にやるならいいけど、こうも飽きるのが早いものとは」


「そりゃあ、こんだけ負けてりゃな?」


「やってらんねぇよ、こんな何もない港の警備ったって、わざわざ攻めてくる敵もいないだろ?」


「だからって職務中に煙草吸うなよ」


「いいだろ別に…あれっマッチどこにやったっけ?これじゃ火が…」


 その青年2人も、戦列艦の一隻もいない軍港沖の警戒には飽き飽きしており、港の遥か沖を航行する灰色の艦艇以外にこれといって怪しい船が無いことから、二人は完全に気を抜いて気怠くトランプに勤しんでいた。

 沖を航海する艦艇さえも、多くの艦隊が周辺海域を航行していたことや、ブリタニア海軍の戦列艦建造ラッシュが起きていたことにより、水兵の2人は新型艦で構成された艦隊程度と思い込んでいた。

 その水兵の一人が、腰のポケットから取り出したシワだらけの紙巻きタバコを口にくわえながらマッチを探す中、もう一人の水兵がそれを気のない口調で注意すると、タバコをくわえる水兵もそれに気怠く答えたのだった。


「あっ。あった」


 だが、その水兵がマッチを見つけた途端、その灯台は猛烈な爆発を前に崩落し、土台の一部を残して周囲の建物や道、湾内に破片を撒き散らしたのだった。


「なっ!何だ!」


「てっ、敵襲!敵襲!」


「敵ってどこだよ!そんなのあんな沖にしかいないだろ!」


「その艦隊が撃ってきたんだろ!」


「どこの国だよ!ブリタニアに喧嘩売るなんて…」


「知るか!うぉあ!」


 その灯台の爆発を皮切りに、ウィスティングスの軍港は無数の爆発に包まれた。その爆発は軍港の倉庫や高い建物を見事なまでに狙いすましており、隣接する民間の港には破片の1つ全くさえ落ちず被害が完全になかった。


「何だ!何が起こったのだ!」


「司令、攻撃です!敵艦隊からの攻撃です!」


「バカを言うな!敵の艦隊が何でこんな港を砲撃出来る距離にいる!まして、この庁舎からでも見えるあの艦隊が仮に敵艦隊として、あんなに離れた距離から砲撃して…」


「司令!」


「何だ、ゔぉあ!」


 その結果、軍港の爆発は威力不足でありブリタニア海軍軍人達に反応する空きを与えていた。だが、主要な士官達や熟練の水兵達が第2艦隊と共に出動していた事が災いし、軍港の警備は緩み本部庁舎の各部隊や艦隊との連絡網は機能不全に陥っていた。

 そこに加え、国王からの命令で急遽付近の艦隊が出動するなどいった予期せぬことが完全にウィスティングス軍港の機能不全を引き起こさせていた。

 混乱するウィスティングス軍港本部庁舎では、軍港司令がまるで大地震のように揺れる部屋で必死に揺れに耐えながら叫んだ。その言葉には若い士官が悲鳴のような声を上げて反応するも、司令執務室から見える艦隊に、軍港司令は驚愕の表情を見せるのだった。

 確かにウィスティングス軍港本部庁舎の司令執務室からは遥か洋上浮かぶ50隻程度の艦隊が見えたが、最後に彼が見た艦隊と軍港には彼の知る砲撃というものが届かない程の距離があった。

 なんとか砲撃の激震に耐えて立ち上がった軍港司令は、砕けきった窓辺に向かいながら否定の言葉を大声で主張するのだった。だが、辿り着いた窓枠からは、粒のように小さい艦隊が軍港に向けて砲門と爆炎を上げている姿が現れた。その光景に軍港司令はシワだらけの顔に理解を超えた超常に対する恐怖を貼り付けながら言葉を失った。それと同時に、部屋の士官が叫び執務室ごと庁舎は砲撃によって崩落を始めた。


「うっ、うわぁ!」


「崩落に巻き込まれるぞ!」


「本部が!本部庁舎が爆発したぞ!」


「逃げろ、待避ぃ!」


「軍港司令は?軍港司令は何処に?」


「そんなの知るか!」


 5階建ての本部庁舎は最上階の司令執務室や中央階付近に無数の直撃を受けて崩れ落ちるのだった。その瓦礫は軍港司令に指示を仰ごうとした士官達や付近の兵士達を巻き込み、血と肉の混ざった残骸を作り上げていた。

 土煙と撒き散らされた血の光景は水兵達に大混乱を与えると、彼らはただ統率なく軍港の外に逃げようと駆け出すのだった。


「敷地外だ!軍港の敷地外に逃げろ!あっちは砲撃されてな…ぶぉあ!」


「何つう威力だよ!走れ!」


「敷地の外に!ひぃい!」


「走れえぇ!」


「領海警備の艦隊は何やってんだよ、ちくしょうが!」


 そもそも、ウィスティングスの軍港は純粋な軍港でなかった故に軍港を防備する砲台が存在しなかった。これにより反撃もせず蜘蛛の子を散らすように走るブリタニア海軍水兵達は、崩壊してゆく軍港を前に完全に抵抗を諦めていた。


[砲撃は命中多数。また、周辺の民間施設などには被害なし]


「流石の練度だ。"砲を撃たせるなら第2艦隊"とはよく言ったものだ。固定目標にこれだけ正確な砲撃ができれば、洋上でも高精度の砲撃ができる訳だな、艦長殿?」


「お褒めいただきありがとうございます、閣下。兵の皆も喜びます」


 無数の爆炎を上げる砲火の中、戦艦エアテリンゲンの艦橋でカイムは黒煙を上げて炎に包まれるウィスティングスの軍港を見つめた。エアテリンゲンから見える軍港の景色は悲惨なものであり、ろくな反撃も出来ぬままに猛烈な砲撃へ晒される軍港は桟橋も海へと沈み、倉庫や庁舎に兵舎さえ見分けの付かないほどに崩落しきっていたのだった。悲惨な軍港は原型を留めず、その中を走り抜けてゆく水兵達は炎に巻かれてその赤い軍服を燃やしていた。肌と服が焦げて張り付き、多くの兵士達が地面でのたうち回り、生き残った者も煤と煙に巻かれて真っ黒になっていた。

 その光景の背後では、砲撃の爆音にかき消されず中央戦闘指揮所からの砲撃成果の報告が響き、カイムは満足げに腕を組みながら艦隊の技術を褒め称えつつ軍港をさらに見つめた。弾薬庫らしき場所に着弾したのか軍港がさらに大きく黒煙を上げて燃え上がる中、エアテリンゲン艦長はその称賛に礼を述べつつ双眼鏡にて軍港を見つめた。

 カイムの称賛によってエアテリンゲン艦橋は戦意と活気に熱くなった。その中でもハイルヴィヒは砲撃が成果を上げる度に笑みを浮かべ、軍港が崩壊しきった姿を見るに連れ、彼女は肩を震わせながらカイムの元へと歩み寄った。


「総統閣下、今こそ好機です!ここで一気に上陸をかければ、我が第2艦隊の力でブリタニアなんて小さな島国程度…」


「駄目だ、提督。そんなことは決して許可しない」


 戦意の燃え上がる瞳を見せるハイルヴィヒは、カイムへと興奮した声で勢いよく意見具申するのだった。拳を握りの胸を叩くその身振りは熱意と意欲にあふれていた。

 だが、ハイルヴィヒの熱意ある言葉や態度に対して、カイムははっきりと否定の言葉を述べた。その冷たくハイルヴィヒを睨むような視線は戦果に湧いていたエアテリンゲン艦橋の空気を一変させた。


「何故です、総統閣下!これだけの大きな港です。敵兵もまともな反撃1つしない。陸戦隊を編成して強襲をかければ一気に制圧できます!」


「ハイルヴィヒ提督。貴官はこの港を制圧してどうする?」


「そんなこと、簡単です。本国から増援を寄越させてこの港を橋頭堡とします。そのまま陸軍や空軍連中も呼び込み南下して、この島国を優に制圧する。そうすれば今後のヒト族の暴挙の牽制にもなります!さらには、今までに奪われた国家財産に対する賠償金も得られる可能性があります。総統閣下、こんな機会は今しかありません」


「ハイルヴィヒ提督!卿はヒト族ような蛮族になりたいのか!」


 カイムの冷たい視線はハイルヴィヒの戦闘による興奮と勢いを殺した。だが、燃え上がるウィスティングスの軍港や、背中から炎を上げて海に飛び込む多くのブリタニア水兵の姿を前に生唾を飲み込むと再び闘魂に勢いを付けてカイムへと自身の意見を述べるのだった。

 胸を張り自信に満ちた持論を述べ始めたハイルヴィヒに、カイムは呆れたように頭を抱えるとハイルヴィヒの方を向きつつ、彼女の後ろに見える軍港の状況を見ながらその持論の内容を呆れ半分で尋ねるのだった。

 そのカイムの言動を前に少し苛立ったハイルヴィヒは、まくしたてるように早口でその内容を語った。その語気は荒々しく、軍人というよりは一人の人間として感情を爆発させたように見える言い方であり、燃え盛るウィスティングス軍港を勢いよく指差すその身振りは、感情に身を任せているようにも見えるのだった。

 そのハイルヴィヒの私情を半分混ぜた戦術を前に、カイムは大いに怒鳴りつけるのだった。その怒鳴りは彼が嫌う類の怒鳴り方であり、頭ごなしに否定する最も良くない怒鳴り方であった。さらに、総統職に就いてから彼が身に着けかている威圧感と貫禄の様なものを半端に出したことで、エアテリンゲンの艦橋は砲撃の爆音のみが響くほどに静まり返ったのだった。


「はぁ…ハイルヴィヒ提督。私は軍人にとって1番必要なことは適正かつ合理的な思考だと思う」


「はっ、はい…」


「その上で、君の先程の発言に指摘をするがな。このブリタニアに対する砲撃は、あくまでもスオミ族の移民輸送中の安全を確保するための牽制だ。何より、この行動は予定外であれどもカッペ鉱山演習作戦の一環であり、本作戦の目的はスオミ族の移民者達全員のジークフリート大陸への輸送だ」


「それは、理解して…いえ、失念していました」


「そして、確かにこのブリタニア王国という国には君たち船乗りと因縁浅からぬ関係にあるだろう。君達を海賊をしなければ生きて行けない環境に追いやった筆頭国家なのだから」


「確かに…商船乗りの私達が海賊になったのは奴等が原因。とはいえ、この好機は…」


「偶然に得た好機は偶然によって崩れる。まして、戦場の好機は作り上げて然るべき。作戦や戦略に寄らない好機に何の価値があるか?卿の意見は目的のない進軍と無意味な兵力浪費を発生させる。それの責任を覚悟してまで、無策の上陸を行いたいか?」


 自己嫌悪に陥ったカイムは、軽くため息をつきながらハイルヴィヒへと軽く持論を述べた。そのため息や気怠い態度が自己嫌悪によるものと気づかないハイルヴィヒは、気弱な口調でカイムに答えた。

 その言葉にカイムは自分の口調が乱れていることに気づくと、緩んだ態度を若干直しつつはっきりとした口調でハイルヴィヒへと今回の作戦目的について述べた。その内容にハイルヴィヒは背筋を正して答えようとしたが、カイムが訝しむ目で見ると、語気を弱くして答えるのだった。

 その反応に、カイムは自分の発言が言い過ぎたことを理解して、ハイルヴィヒに同情心を出しながら落ちきった彼女の心情を少し回復させようとした。その発言がハイルヴィヒの闘志を彼の予想より強く再燃させると、カイムは彼女の強くなった闘志に対して落ち着かせるように尋ね、彼女に冷静さを取り戻させるように仕向けた。

 カイムの戦術に対する持論や彼の忠告に対してハイルヴィヒは完全に黙り込むと、両拳を力強く握り、俯いたままそれを震わせるのだった。唇を噛み締めながら、悔しさに震えるハイルヴィヒの姿はエアテリンゲンの艦橋に暗い空気を落としかけていた。


「なぁに、提督。大局的には我々は勝っている。時に勝者には謙虚さや清廉さが求められる。これ以上勝っては、欲が深過ぎるというものだ」


「しかし…」


「何より、提督。君は一つ重要なことを忘れている」


「"重要なこと"…とは?」


 悔しさを露骨に出すハイルヴィヒを前に、艦隊提督が原因による士気低下を懸念したカイムは、帽子を外して頭を掻くと再び帽子を目深にかぶりながら気軽な口調で彼女へと語りかけた。その言葉にはハイルヴィヒも顔を上げ、艦橋の床に大きな音を立てながらカイムのもとへと一歩踏み出した。

 だが、ハイルヴィヒがカイムのもとに歩みだす前に、彼は一言つぶやきハイルヴィヒはそれに眉をひそめて疑念の表情を見せるのだった。


「ブリタニアに来るのが、これで最後とは決まってないだろう?」


「まっ…まさか!」


「提督、お話中に失礼しますが中央戦闘指揮所から報告です。敵軍港が艦隊の有効射程範囲から離れるとのことですが、如何なさいましょう?」


「よし、提督。頃合だ、帝国への帰途に着こう。まぁ、私は君達みたいに休暇と手当が待ってないがな?帰った途端に山ほどの仕事と皇帝陛下からのお叱りが…提督」


「はっ…第2艦隊カンタイハァ!…んっ、ゔん!第2艦隊は、これより帝国への帰途につく」


 カイムの一言に全てを察したハイルヴィヒは、疑念の表情が一転して驚愕の表情に変わった。

 そのカイムとハイルヴィヒの会話に申し訳なさそうな表情のエアテリンゲン艦長が割って入ると、戦闘指揮所からの報告を述べるのだった。その報告にハイルヴィヒより早くカイムが指示を出した。それに続くハイルヴィヒは、表情の変化や心情整理が追い付かないながらも凛々しい表情を浮かべ、上擦った裏声を出した。そのおかしくなった喉を軽い咳払いで正すと、ハイルヴィヒは艦隊に帰還の命を出した。

 帝国歴2445年2月28日の16時30分、最後尾を航行していたガルツ帝国海軍第2艦隊が作戦海域を離れたことで、帝国史上初の大規模遠征作戦が無事に完了したのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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