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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
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第9幕-12

趣味で書いてるので温かい目で見てね。

 遂にブリタニア第2艦隊へとガルツ帝国海軍第2艦隊の主力艦が艦砲射撃を開始した。


[全主砲、装填完了。艦隊戦術情報通信による測敵、照準よし]


「提督、戦艦"アイマフルト"、"フェルシュバイク"他、艦隊全艦の砲撃準備よし」


「さっさとぶっ放しておしまい!」


「主砲、撃ち方始め」


[了解、撃ち方始め]


 戦艦エアテリンゲンの艦橋に中央戦術指揮所へと戻った砲術長の報告が響くと、エアテリンゲン艦長が追加でハイルヴィヒへと報告を上げた。

 その報告にハイルヴィヒは満足げに頷きつつ、艦の右側に見えるブリタニア艦隊とその艦隊に砲口を向ける乗艦の砲塔を交互に見た。その後、彼女は左手を腰に当てながら右手を真っ直ぐ伸ばしてブリタニア艦隊を指差すと勇ましい口調で高らかに命を出すのだった。

 そのハイルヴィヒの満面の笑みと共に出された命令をエアテリンゲン艦長が中央戦術指揮所に命を出すと、艦橋のスピーカーに砲術長の復唱が響いた。そして、甲板に砲撃前の警報が響くと艦砲がその砲口から轟音と爆炎を吐き出すのだった。その轟音と爆炎は先に砲撃を行っていたガルツ帝国海軍第22水雷戦隊の艦砲射撃とは比べられない程の大きさであり、砲撃したエアテリンゲンの艦橋の窓や艦体が震える程だった。

 そのエアテリンゲンの4基の砲塔だけでなく、戦艦2隻やその他重巡洋艦や軽巡洋艦、駆逐艦の砲撃も加わると、艦隊の砲撃は大海を激震させるかと思えるほどなのだった。


「キャンベル殿!敵艦隊砲撃!」


「あっ!あんなのが砲撃なんて言えますか!規格外すぎでしょ!」


「キャンベル殿、回避を!」


「取舵一杯!」


 艦隊を爆風と煙で隠すほどの砲撃を前に、ブリタニア艦隊のセッジムーア甲板の水兵が叫ぶように報告を上げた。だがその報告が必要ないほど全員がガルツ艦隊の砲撃を呆然と見ており、キャンベルは操舵輪を握る手が震えながら叫ぶのだった。

 その叫びに正気に戻った士官の一人が恐怖に歪んだ表情でキャンベルに叫ぶと、彼は慌てて舵を切るのだった。


[キャンベル、間に合わない!艦隊増速!総員、対衝撃姿勢!]


「デッカーさん!何で…」


[いいから増速しろ!]


「りっ、了解!」


 操舵輪を左に大きく回そうとしたキャンベルだったが、操舵場に設置されていた小さな水晶からデッカーの怒鳴るような指示が響いた。その言葉にキャンベルは水晶に目を見開いた驚きの表情を見せるのだった。

 キャンベルがデッカーにその命令の理由を尋ねようとするが、彼の言葉は急かすデッカーに遮られた。その焦りようから、キャンベルもただ返事をして舵を戻すと操舵輪の近くにあったシフトレバー操作し速度を上げるのだった。


「着弾するぞ!艦隊増速!総員、対衝撃姿勢!」


「神様、助けてぇ!」


「当たりませんように!」


「そんなこと祈るな!うぉあ!」


 増速したセッジムーアが崩壊しかけの艦隊戦列から突出した時、艦隊上空に無数の風切り音が響くのだった。その音は次第に大きくなり、甲板の乗組員達は見張りの警告を聞くと口々に神へ祈りだした。

 その闘魂の欠ける内容を前にキャンベルが思わず叱る言葉を叫んだとき、艦隊に未だ嘗てない衝撃が走るのだった。


「うっ!うぉあぁぁぁあ!」


「ひぃあぁぁあ!」


「うぅ…うぉぉ…」


 ブリタニア第2艦隊へと降り注ぐエアテリンゲン他3隻の46cm対艦榴弾はそれまでの軽巡洋艦や駆逐艦の砲撃とは格が違いすぎた。甲板で耐衝撃姿勢を取っていた水兵の多くはセッジムーアの左側上方で爆発すると無数の破片と爆風を撒き散らした。その衝撃は多くの水兵を薙ぎ払い、甲板から洋上へと勢いよく叩き落とすのだった。

 操舵輪を握っていたキャンベルさえ操舵輪の取手ごと甲板へと吹き飛ばされると、甲板から海へ叩き落される水兵達の無数の絶叫の中、爆風によって全身に激痛と内臓を描き回されたような不快感に襲われ呻くのだった。


「ジョー!人が落ちたぞぉ!」


「クレイグ水兵…しっかりしろ!衛生兵ぇ!」


「こっちもだ!衛生兵!」


「うっ、腕がぁ!腕が折れたぁ!」


「左舷破損!損害大!」


「最早大破だろ!抉れてる!」


 衝撃に揺さぶられ思考が定まらなかったキャンベルの脳が少しづつ外界の情報を認識し始めると、彼は驚きに言葉を失った。

 第一甲板に30人は居たはずの乗組員はその殆どが消えていた。数人が海を見ながら叫んで溺者に呼びかけていたが、その溺者の殆どは力無く浮かぶばかりであり、海面へ叩きつけられた衝撃によるものなのか関節があらぬ方向へと曲がっている者が殆どだった。酷いものでは釣り上げられた深海魚のように内臓を吐き出しているものあり、キャンベルには全てが無駄な呼びかけに思えた。

 その溺者を助けようとする生き残りから甲板へ視線を向けると、そこには複雑に手や足の骨を折られた乗組員達が倒れ伏していた。砕けた骨は筋肉や皮膚を破って剥き出しになっており、酷い者では頭を強打したことにより釣り上げられた魚のように甲板で痙攣しながらのたうち回っているのだった。それを看護しようと駆け寄る無事な者達も、応急処置の技術がない為にもう居ない衛生兵を呼ぶしかなかった。

 その甲板の惨状からさらに視線を移すと、キャンベルの視界にセッジムーアの左舷甲板が大きく抉り取られているのが見えるのだった。その抉られ方は最悪であり、第一甲板の左舷が前方から3分の2を失っており、艦の最下層である第3甲板が見える程の損傷だった。

 だが、キャンベルは人的損失や船体の損傷、甲板で損害を前に狼狽する乗組員より焦り思考を停止させられる事態を見たのだった。


「なっ…何が…」


 キャンベルが抉られた左舷甲板から見た景色は、艦隊の壊滅寸前という事態であった。

 なんとか50隻生き残った敗残艦隊は、かろうじて使えていた"艦隊"という言葉さえ当てはまらなくなっていた。対艦榴弾はその殆どが戦列艦に着弾し見事に大爆発していた。だが、その爆発は全木造の戦列艦を相手にしてたものではなく、全金属製艦艇の厳重に防御されたバイタルパートを相手に使うものであった。

 その対艦榴弾からすれば戦列艦の外板などは障子紙より薄く脆く、爆発の衝撃は近くを航行する戦列艦の船体に甚大な損傷を与える程だった。その対艦榴弾が1砲塔につき3発の合計で36発降り注いだことによって、セッジムーアのように奇跡的に生き残った船を合わせても20隻を下回る程に減っていたのだった。


「かっ…壊滅だ…これじゃあ、本国への帰還さえ…いや、この海戦からの離脱だって無理だ…」


 セッジムーアの周りを見渡し、戦闘続行可能な艦が10隻以下という事態に、キャンベルはふらつく足を無理矢理立たせて操舵輪へと向かいながら呟いた。その呟く口からは血が垂れていたが、彼はもう拭う気にもならなかった。それは、全身の激痛が爆風だけによるものではなく、吹き飛ばされた艦の木材の破片があちこちに刺さっていたからであり、口から垂れる血が内蔵から吹き出していることに気づいたからであった。


「デッカー…提督代理…」


[キャンベル殿!デッカー提督代理がどこにもいません!艦首の特装砲は先程の攻撃で吹き飛ばされました!両方です!砲撃不能!]


[もう駄目だ!お終いだ!]


[船体の砲を艦首に集めろ!なんとか砲撃だけでも…]


[残った2、3門で何ができるだよ!]


 なんとか操舵場へ戻ったキャンベルは、特装砲にいたデッカーと話すために通信用の水晶へと話しかけた。だが、そこから聞こえるのは若い水兵の半狂乱状態の声ばかりであり、デッカーはおろか古参水兵の殆どが戦死や行方不明になったことを確信させるのだった。

 その混乱した統率のない発言で意味をなさない通信を切ったキャンベルは、殆どの乗組員が消え去った甲板を眺めながら操舵輪を握った。その操舵輪も、キャンベルの力が加わったことにより台座が限界を迎えると勢いよく外れて甲板に倒れるのだった。


「天は…神は我等を見放したか…」


 キャンベルは、殆どの上部構造物を失ったセッジムーアの甲板で前方を航海するガルツ帝国海軍第2艦隊を見た。いつの間にか距離が狭まった敵艦の姿は、キャンベルに砲戦前とくらべて圧倒的に巨大かつ残虐な怪物を思わせるのだった。


「何が"海龍"ですか…あんなのガリアの英雄連中だって倒せるものか…」


 砲撃を止めてゆっくりと航行するガルツ海軍第2艦隊の姿は完全に余裕そのものであり、それを見つめるキャンベルは死にかけの自分達を観察して楽しんでいるとさえ思えるほどの静観であった。

 その悠々と海を征くガルツ海軍第2艦隊の姿を見たキャンベルは、口に溜まった血を吐き出しながらただ静かにスロットルレバーを最大戦速まで引き上げるのだった。


[敵艦隊、残存艦15なれど戦闘継続可能な艦は確認できず]


「慢心ですな。敵は魔法なんてモノを使う連中だというのに…」


「とはいえだ、艦長。これだけヤラれてたった一度の反撃が届かない艦砲。ここまでヤラれて本気を出さないとなれば話は変わるな」


「敵艦隊は依然としてこちらへ航行中。砲撃中止していますが、如何がなさいますか?」


「いやっ、これだけヤラれてまだ尚こちらへ向かう闘魂は敬意を払うべきものだ。各艦に伝達。"右舷雷撃戦用意"」


「了解。"第21水雷戦隊、第22戦隊、右舷雷撃戦用意"」


 満身創痍のブリタニア第2艦隊の残存艦15隻が突撃を続行する中、エアテリンゲンの艦橋に見張り要員の報告が響いた。その報告は艦橋にいる全員が窓から確認しており、ブリタニア第2艦隊が行き足を失いかけ操舵もままならぬために前進だけを続けることは多くの者が理解していた。

 それでも警戒心を持ち続けるエアテリンゲン艦長は見張りの報告内容に渋い顔を浮かべてハイルヴィヒに頭を下げようとした。その彼の言葉にハイルヴィヒは見張りのことを庇うように呟いた。その呟きは敵のブリタニア艦隊の能力の低ささえ庇っているようにも聞こえると、エアテリンゲン艦橋のブリタニア艦隊へ向ける視線は虚しいものへと変わっていた。彼等としても五分五分か苦戦を強いられると考えていたために、この事態はあまりにも呆気なく、これ程に一方的な攻撃は艦隊決戦を重んじる彼等にやるせなさを与えるのだった。

 その虚しさの中、エアテリンゲン艦長はハイルヴィヒへと表情ない面持ちで今後の命を尋ねた。すると、ハイルヴィヒは苦い笑みを浮かべつつ帽子のツバでツムジを掻きながら攻撃するための言い訳を述べるのだった。

 戦闘中であり攻撃に言い訳をする必要もない中でそれをするハイルヴィヒに、艦橋の全員が苦笑いを浮かべた。その苦笑いもハイルヴィヒが帽子を被り直して命令を出すと一瞬で消え去り、艦橋はトドメの攻撃の為に慌ただしくなった。

 エアテリンゲン艦長から中央戦術指揮所に達せられた命令は、即座に通信室にて第21水雷戦隊に伝えられた。その命令に即応した第21水雷戦隊と第22戦隊の巡洋艦や駆逐艦は、短魚雷発射管を用意すると装填を完了させるのだった。


「各艦から通信入りました。"戦術情報通信良好。測敵よし、照準よし"とのことです」


「なら、そろそろケリをつけようか…撃ち方始め」


「了解。"各艦、撃ち方始め"」


[了解。第21水雷戦隊、第22戦隊、撃ち方始め]


 エアテリンゲン艦長は各艦からの通信報告を受けると、その内容をハイルヴィヒに伝えた。すると、彼女は冷たい眼差しで未だ航行を続けるブリタニア艦隊を睨んだ。そして間髪入れずに小さく呟くと、ハイルヴィヒは帽子を目深に被り直しながら力強く攻撃命令を出すのだった。


「キャンベル殿!敵艦から何かが海面に…」


「何であろうともう遅い。舵もなければ人員もいない。全艦回避不可…敗けだ」


 ガルツ海軍第2艦隊が水飛沫を上げて一斉に雷撃を行った姿はキャンベル達も観測しており、水兵の一人が絶望的な状況を前に叫ぶのだった。その叫びも、キャンベルの端的かつ全てを悟った一言前に掻き消されるのだった。


「はは…ははハハハははハはハ!」


「退艦!退艦しろぉ!」


「逃げろ!逃げろぉ!」


「くそっ、冷たい海に飛び込むなんて。俺そんな泳げねぇのに!」


「飛び込め!早く!」


「終わりだ!第2艦隊の終わりだ!」


 リリアン大陸から離れた大海にて迎える秘密任務を完遂するはずだった第2艦隊の壊滅は、キャンベルに確実なる戦死を理解させた。

 その現実を前にキャンベルは笑うしかなかった。その笑いは決して正気を失ったものではなかったものの、敗北を確信した水兵達は各々が叫びながら一斉に海面に飛び込むのだった。


「あぁ、ウォーレンの奴に見せてやりたかったな。あっ、でもアイツ魔導生物学だったか?どのみち、この話を聞いたらゾーイも連れて…」


 高速で迫る魚雷を前に、キャンベルは回避を諦めると近場の手すりに腰掛けながらそれらを見つめた。その最中に、彼はポケットからひび割れ欠けたパイプを取り出すと、あちこちから煙が漏れ出しまともに吸えないながらも一服するのだった。

 その最後の一服の途中で、魚雷から海に飛び込む水兵達を見ていたキャンベルはふと思い出したように呟いた。だが、その呟きもセッジムーアや敗残艦達ごと鉄の濁流が飲み込んだ。

 この日、ブリタニア第2艦隊は残骸すら残らず消滅した。

読んでいただきありがとうございます。

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