第9幕-9
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
「ハッハッハ!どうだ、これが帝国海軍は艦隊決戦主義の実力だぁ!ハッハッハ!」
ガルツ帝国海軍は第2艦隊が大海を白波を上げて切り裂き、高い波の中を爆進していた。その艦隊はただ前進するだけではなく、1分間隔に甲板から大きな煙を吹き出していた。
その煙は駆逐艦や巡洋艦、戦艦の甲板に付けられたハッチが開くと吹き出し、そのハッチからは筒状の誘導弾が垂直発射されるのだった。その誘導弾は打ち上げられると後退翼を左右に展開しつつ青空を猛烈な速度で駆けて行くのだった
その帝国海軍が誇る対艦誘導弾が矢継ぎ早に放たれる光景に、戦艦"エアテリンゲン"の艦橋でハイルヴィヒは大はしゃぎながら高笑いするのだった。
「あぁ、提督ときたら…あんな木造船相手にV-8対艦誘導弾をわんさかと…砲術長、何本撃った?」
「今ので28本目…いや29本目です」
「国防予算の無駄遣い…ではないか?」
「言わないで下さいよ。弾庫に期限切れで廃棄になる弾が減ると思えばマシです」
「そうだが…」
艦橋の窓際ではしゃぐハイルヴィヒの後ろでは、エアテリンゲン艦長と砲術長がひっそりと小声で話すのだった。その表情は戦闘中ということもあり基本的には真顔だったが、ハイルヴィヒが高笑いする度に少しの苦笑いと疲労が見え隠れするのだった。
その小声の話し声が聞こえたのか、ハイルヴィヒは手腰の姿勢を取りながら艦長と灰色の毛をした猿人の砲術長の方へ振り返ると、不貞腐れた表情を見せた。だが、その頬は少しだけ赤く染まり、怒りより恥ずかしさの方が勝っていた様であった。
「んっ、ゔん!艦長、艦隊決戦とは?」
「はっ…海戦において最も礼節を重んじ、海軍が最も尊ぶべきものであります」
「だろう?第1艦隊の航空決戦だの何だのという下賤で粗忽なものと違い、誇りと威厳がなければ成り立たないのが艦隊決戦だ。ならば、我が艦隊と相対する敵艦隊には、我らの全力を見せなければ無礼というものだ」
「はぁ、その通りで」
「だからこそ、例え"恥知らずな第1艦隊のせいで敵艦隊の数が元の半数以下になった"としても、順序や流儀を守らねばならない。だろう、砲術長?」
「はっ、はい!その通りです」
「そうだとも。むしろ私はあの今まで標的艦にしか攻撃出来ていなかったV-8弾にその使命の何たるかを発揮させているんだよ」
顔を赤くしたハイルヴィヒは、若干早口で艦長や猿人の砲術長に唸るように尋ねた。その内容に艦長は至って冷静な口調や表情を作りながら答えた。
艦長の教科書通りの答えに顔を赤くしながらもハイルヴィヒは満足そうに頷くと、長々と説明を演技がかって話すのだった。その恥ずかしさを誤魔化そうとする姿は、攻撃開始前から若干流れていた張り詰めた空気が少しだけほぐれ、艦橋の士官や水兵達の表情には少しだけ笑みが見えるのだった。
その空気の中、それとなく艦長がハイルヴィヒに相槌をうつと彼女は更にその問いかけの対象を砲術長に移した。
砲術長は本来中央戦術室の配置であり、久方ぶりの艦橋であった。そのために、彼は堀の深い顔に思わず海軍士官としての緊張の表情を浮かべて答えるのだった。
「まぁ、こんなどこかの"お嬢様気取り提督"みたいな言い方はこれぐらいにするとして…良いだろう!せっかくの艦隊戦何だ!それをあの小娘ぇ…品のない航空攻撃なんかで神聖な艦隊決戦を汚してくれて…」
「まぁ、はしゃぐのはわかりますが、1発110万ベルクの誘導弾をこれだけ撃ちまくりますと…」
「総統からの命令もある。"全力を尽くして撃滅しろ"とな」
「しかし、艦隊決戦ならば敵と砲火を交える事こそ最たる華です。それを"対艦誘導弾で敵艦隊を我が艦隊と同数にするまで攻撃する"というのも…」
「それこそ礼儀と流儀に則った行為だろう?海賊稼業と同じ"強きものか同等のものに、全力で挑め"だ。そして、対艦誘導弾の撃ち合いは艦隊決戦の序章というのは誰もが知る事だろう」
「"対艦誘導弾による撃ち合い"で長距離を戦い、"距離が縮まり次第艦隊砲撃戦"を行う」
「"肉薄したなら魚雷を撃ち合い"、そして"ひたすらに撃ち合う"ですか」
「艦隊決戦なんだ、楽しまなければなぁ。その序盤の対艦誘導弾の撃ち合いで誘導弾を撃ち返すどころか迎撃さえ出来ないのならば、それまでの事だ」
「だとしても、この距離なら戦艦どころか重巡洋艦の主砲でも届きますよ」
「えぇい!順序とか、気分とか…流れが大切なんだ!格好をつけなきゃ、船乗りじゃないだろ!"勝てばよかろう"じゃないんだ!格好良く勝てなくちゃ意味がないんだ!」
「だとしても…」
「それはお前が誘導弾嫌いだからだろう!大砲屋は私も同じだが、"対艦誘導弾で慌ててふためいた敵に、爆炎の中から勇ましく現れ砲を放った艦隊"の方がカッコいいだろ!そうだろう、艦長!どうだ!」
「えっ、はっ…はい、その通りで」
「だろう!」
砲術長の強張った表情に、ハイルヴィヒは軽く帽子をずらして頭をそのツバで掻くと口調を普段の荒っぽいものに変えた。その口調で第1艦隊への苦言を苦々しい表情で言うのだった。
そのハイルヴィヒの言葉に、砲術長は海軍士官の表情から表情が柔らかくなった。それでも、未だに放たれる対艦誘導弾の煙と広げられた両翼が大空を切り裂き敵艦隊へと飛び立つ姿には眉をしかめて呟いた。
その呟きにハイルヴィヒは総統命令を盾にして子供の駄々のように主張した。その主張を前には砲術長も反論に困ったが、少しだけ口調を強く主張するのだった。その主張は、ハイルヴィヒの持つ持論で返されたが、それでも節約を主張する砲術長とハイルヴィヒの意見は合致せず、最終的にはハイルヴィヒの駄々を盛大にこねながら艦長に話を振った。
そのハイルヴィヒが突然に話題を振った事で艦長は思わず彼女の言葉に同意した。すると、満足そうにハイルヴィヒは砲術長に向き胸を張って主張した。その言葉に砲術長は最早何も言い返せず、ハイルヴィヒの勝ちに終わるのだった。
[提督、敵艦隊の艦数がこちらと同じ52隻となりました。敵艦隊との距離、1海里]
「ご苦労、電測員。さて諸君、舞台は整ったようだな」
「空母の退避は完了。各艦、砲雷撃戦の用意は出来ています」
「んっ、よろしい。ならば、元海賊らしく!派手に暴れて見せるとするか、砲術長?」
「はっ、仰せのままに」
「流石の"大砲屋魂"だな。それでは…」
ハイルヴィヒの駄々に艦橋の全員が温かい目で彼女を見る中、中央戦術室から通信が入った。その言葉にハイルヴィヒは艦橋の電測員が見つめるレーダー画面に駆け寄ると、その光景に満面の笑みを浮かべながら艦長へと楽しげに話しかけた。
ハイルヴィヒの笑みに、昔の海賊時代を思い出した艦長もいつの間にか楽しげな口調でそれに答えると、再びハイルヴィヒは艦橋の中央に仁王立ちしながら遥か先の敵艦隊へと指を指して威勢の良い言葉を放った。その言葉には砲術長も満足げに反応し、彼女もその反応に満足そうに頷くと、一人呟き大海を見つめた。
「全艦に告ぐ。いいかいアンタ達ぃ、砲雷撃戦用意!見える敵は全て潰せぇ!アタシらの怖さをヒト族の脳みそに叩き込んでやりな!」
「総員、砲雷撃戦用意。通信員」
「了解[艦隊全艦に通達。総員、砲雷撃戦用意]」
艦橋で高らかにハイルヴィヒが命令を下すと、艦内にサイレンとラッパ、艦長の命令が戦艦エアテリンゲンに響くと、艦隊全体に戦闘ラッパが鳴り響くのだった。
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