第9幕-8
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
悪夢の様な夜が明け、ブリタニア第2艦隊は満身創痍となった。
ガルツ帝国海軍第1艦隊によるアウトレンジ戦法は一晩続き、対艦ミサイルと機銃掃射による一方的かつ闇夜で視認不可の攻撃を前にブリタニア艦隊は一方的に攻撃されるだけだった。
無数に機銃弾を前には木造の戦列艦はダンボールより弱く、対艦ミサイルを前にはダンボールはおろか藁半紙以下の防御力しかなかった。さらに11ノット程度の戦列艦では回避も難しく、対空装備の無い状態では音速を超える戦闘機や攻撃機を前には効果的な反撃も出来なかった。
辛うじて密集陣形を取りながら搭載された魔導砲の青緑の砲弾を3分間隔で放ちはしても、朝日が上がる頃には200隻を超えた勇壮なる艦隊の姿はそこには無く、傷だらけの戦列艦が87隻弱々しく進むだけだった。
その艦隊の船の多くは40m程度の4等級戦列艦やフリゲート艦ばかりであり、それら艦でさえ甲板は機銃掃射で穴だらけで、酷い艦ではマストが纏めて全てなくなり、推進力を巨大な櫂に頼る船さえあった。
「キャンベル、ハンフリーズ提督は?」
「駄目です、デッカー大尉…内臓の殆どが破裂しています。吹き飛んだ手足は止血しましたが、内臓損傷が治癒魔法で回復出来る範囲を超えています。何よりも、治癒魔法が使える衛生科の者はここにはいませんし…」
「"クイーン・リリーナ号"や他の艦と共に海の藻屑か…どうしたものか?」
「艦隊の4分の3はあの訳のわからない翼竜からの攻撃で轟沈多数ですし、残ったのは4等級戦列艦ばかりですから」
「その上、落伍艦や退却しようとした艦は容赦なく撃沈出しな。魔探長からは周辺に敵艦無しとの報告があるが…」
その艦隊中で1番大きな戦列艦の医務室で、1つのベットの横に立つキャンベルに第1甲板から下りてきたデッカーが話しかけた。
キャンベルとデッカーは"クイーン・リリーナ号"が爆撃を受けた際、甲板後方の操舵場にいた。クイーン・リリーナ号の艦首から中腹を吹き飛びす対艦ミサイルの大爆発だったが奇跡的にマストの柱が盾になり、二人は多少の破片で体を裂かれ炎に焼かれながらで大海に放り出されたのだった。その際に、飛び散った無数の破片や巻き上がる炎によって二人の士官用制服はそのきらびやかさの面影を残さない程にあちこちが裂け、青い上着や白いズボンには無数の焦げがついていたのだった。
その制服の悲惨さは他の士官達も変わらなかったが、特にキャンベルとデッカーは制服が破けたり焦げ、海水で湿っているだけではなく白いシャツや青い上着が真っ赤にも染まっていた。それは、彼等が共に大海へと放り出されたハンフリーズを救い出したからであった。
そのハンフリーズはキャンベルが横に立つベットに横たわり、力なく呼吸を繰り返すだけだった。彼は対艦ミサイルの着弾時に艦の端から艦隊を見ていた。そのために、キャンベルやデッカーと異なり彼と爆発の間には障害物がなかった。そのために、ハンフリーズは着弾時に大きな甲板の破片で右腕と右足を吹き飛ばされ、強大過ぎる爆発の衝撃を全身にもろに喰らったのだった。
その結果、彼は右手足の欠損と内臓の殆どを破裂させられ、未だに口や鼻から大量の血を流すのだった。
「良い人だった。忠義に厚く、誰より部下や兵を…艦隊を思うお方だった。それでも、"人は人"か」
「娘さんや、王室にはどう説明すれば良いのか…提督の娘さんは…」
「そうだよ。次期王女様だ。式こそまだだがな」
「娘さんの晴れ姿も見れないなんて」
「閣下のこともそうだが、今は艦隊のこれからだよ」
「これからですか…これから…」
デッカーとキャンベルは二度と立ち上がらないであろうハンフリーズの死に際に立つ姿を見ながら、気を落として話すのだった。二人の表情は驚愕と疲れによって大きなクマが出来ており、凛々しかった顔立ちは20歳は老けて見えるほどだった。
そんな二人がひたすらに暗い話をする中、キャンベルの呟きと共に船の外から甲高い轟音が響くのだった。その音は艦隊の監視を行う第1艦隊の艦載機のジェットエンジン音であり、それを聞きつけたデッカーはキャンベルと顔を見合わせると嫌気の指した表情で医務室の窓へと向かったのだった。
「また飛んでますね」
「まるで、俺達を見張ってるみたいだ。"死地への道を外れないように"ってな」
「止めて下さいよ、縁起でもない」
「だがなぁ、ずっと付いてくるだろ?あれだけ俺達を叩きのめしておきながら、今更監視する理由って何だよ?」
「それは…」
「"そういう事"って思えたの」
窓を開けて外に身を乗り出したデッカーは、上空を高速で飛ぶV字型のジェット戦闘機を見上げて黙っていた。その視線の先のものが何か理解したキャンベルは力なく呟いたのだった。
そのキャンベルの一言に対して、デッカーは空飛ぶ最悪の脅威に対して口をへの字に曲げながら忌々しそうに呟いた。だが、その内容にキャンベルは眉間にシワを寄せながら叱責したのだった。
そのキャンベルの言葉にデッカーも反省したような面持ちで頭を掻くと、気のない言葉で悪態をついた。その悪態にはキャンベルも言い返す言葉を失い、デッカーも更に被せるように呟くと彼はは黙って空を悠々と飛ぶ脅威に全てを諦めたように見上げ続けた。
だが、デッカーが空を見上げキャンベルが死にかったハンフリーズの流れ出す流血を拭いていると、その暗い沈黙を破るように慌ただしい足音が医務室外の通路から響き、荒々しく部屋の扉がノックされ開くのだった。
その扉からは、黒く焦げて正面が大きく破れた制服を着る若い水兵が現れたたのだった。その水兵は19歳程の若さであり、白い肌に無数の細かい切り傷を作り、白い制服を真っ赤に染めていた。帽子は海に投げ出された時に紛失したのか被っておらず、短い金髪は煤まみれで所々が焦げていた。
「デッカー大尉…いえっ、デッカー提督代理。報告があります。よろしいでしょうか?」
「あぁ、構わん。どうした?」
「魔探長から報告があります。"3分前に大きな熱反応あり。距離は2海里…"」
「2海里先だと!」
「洋上熱探知器なら、おおよその大きさも解るはずだ。その大きさは?」
「"520フィートはある"と…」
「そんな…1等戦列艦の3倍の船なんてあり得るか!誤報だろ!」
「魔探長からの緊急伝です!それは我々魔探科への侮辱です!」
水兵がデッカーを提督代理と言った通り、デッカーは現在生き残った第2艦隊の提督代理であり、キャンベルは参謀長代理であった。その理由は提督救出と生き残った艦隊に密集陣形を取らせた事で意味は無くとも抵抗出来たことによるものだった。そうして、キャンベルとデッカーが臨時で艦隊の指揮を取ることとなった。
その二人を前にして、水兵は強張った表情で塩水と衝撃でシワだらけになった伝令書を持ちながら敬礼すると暗い表情のデッカーに話しかけた。その言葉に、窓から身を乗り出していたデッカーは姿勢を正し、もうどうしょうもない程にボロボロの制服をヤケになりながら正すと暗い表情から一転して厳つい普段の表情に変えてから水兵に答えた。
その厳つい普段の表情にデッカーが戻ったことで強張った水兵の表情も少しだけ凛々しいものに戻ると、彼は持っていた伝令書を広げその内容を読み上げた。
その内容にデッカーは驚くとその文が途中ながらも言葉を漏らした。その言葉に続いて話を聞いていたキャンベルが更に詳しい話を聞くと、困惑しながらも水兵は未だ煤のついた額に汗をかきつつ伝令書から内容を探して読み上げた。その報告はデッカーを怒鳴らせたが、その発言を前にして水兵も猛烈な疲労を前に言葉が抑えられなくなった。
思わず怒鳴った水兵が恐怖や不安の表情を浮かべる中、デッカーと水兵の間にキャンベルは立つと仲裁するように二人の胸元で手を出しながら二人を抑えた。
「そこまで言うなら、本人に聞くしかあるまい。少年、提督閣下を頼む」
「了解しました、提督代理」
「キャンベル、付いてきてくれ」
「解りましたよ、大尉」
「大尉は止めてくれ、キャンベル。階級で呼ぶな」
「解りましたよ、デッカーさん」
キャンベルが水兵とデッカーの間に立ち、二人は少しの間黙った。すると、デッカーは水兵に対して深く頭を下げて謝罪の意を示すと、デッカーの手を片手で下げながら扉に向かいつつ呟いた。
そのデッカーよ呟きに、水兵は敬礼で返しながらデッカーに扉の前の道を譲った。するとデッカーはキャンベルに大きく手招きしながら彼に呼びかけ、キャンベルが安心した表情で後を追いながら呟いた。その呟きにデッカーは一言返すと、二人は医務室の外の通路に出た。
戦列艦内の通路は木造の廊下であり、本来ならば装飾できらびやかであり魔法による灯りで暗い場所などないはずであった。だが、今では壁の塗装は剥がれて元々の木目が顕になり、無数の大穴があちこちにあいていた。当然ながら魔法の灯りも機銃掃射で砕かれ、太陽の光が直接艦内に差し込む始末であった。
更には船室の扉は大抵吹き飛ばされており、デッカーとキャンベルが通る途中のどの部屋も傷だらけの水平で溢れており、中には部屋一つが纏めて無くなっている場所もあるのだった。
その扉が殆どない通路の中で、デッカーとキャンベルは唯一鉄で出来た頑丈そうなドアの前に立つと、その扉の中央にあるノブを掴んでノックをするのだった。
「魔探長!ライベン!デッカーだ!開けて…」
「ノックすりゃそれでいい。とにかく入れ、そいで早く来い」
「焦ってるってことは状況が変化したのか?」
「変化どころか悪化だ!痛てて、脇腹が」
「ライベン大尉、止血した傷口がまた開きますよ」
「傷口よりもこっちが問題だ」
扉の前でデッカーが叫ぶと、鉄の扉がロックを解除する音を響かせながら半開きした。すると、中から上半身裸の男が顔を出したのだった。
ライベンと呼ばれた男は、日焼けした朝黒い肌に恰幅の良い体をした大男だった。だが、その堀の深い顔の額や脇腹、肩には包帯が何重にも巻かれ未だに血を滲ませていた。
そのライベンはデッカーの言葉を遮りながら急いで手招きすると、早口でまくし立てながらデッカーとキャンベルを部屋の中に引き込んだのだった。
その行動に驚いたデッカーの疑問にライベンは急な速い動きと大声で脇腹を抑えた。その動きにキャンベルが気遣う言葉を掛けたが、青い顔をしながらもライベンは急いで二人をとある装置の前に引っ張った。
その装置は平均身長が180cm程の三人の胸元の高さまである長方形の箱であり、腰の位置にはダイヤルのようなノブと水晶で出来たスイッチがあった。
そのスイッチをライベンが押すと、長方形の上面が緑の円形に光りながら中央から端に向けて波紋を広げ始めた。その波紋は、中央から遠い円の端で白い点を40個程表すのだった。
「この点は…」
「確かに520フィート以上はあるな」
「だろう?しかも大きい。俺程の大きな魔力じゃなくてもこれだけは言える。"これはクジラの見間違いにしては多すぎるし、隊列が整頓されすぎている"」
「艦隊を組んでるってことか…」
「だとしても、高々40隻で…」
「キャンベル、敵はあの訳の解らない翼竜を引き連れる様な奴等だ。只者じゃない。今も上で飛んでいた奴はこっちに誘導するためのものだったんだ」
「待ち伏せさ…不意打ちに待ち伏せでこっちへ突撃してくる」
「こっちの横っ腹に突っ込む形ですか?」
「いや、こっちと正面からやり合うつもりだ」
魔導探知器ブリタニアが開発した秘匿兵器であり、海洋国家として最強を誇る理由の一つであった。
その魔導探知器が捜索範囲に無数の敵を示す中、キャンベルとデッカーはライベンの伝令書が嘘ではないことを理解した。
その驚く表情にライベンは怯えを通り越して呆れの混ざった口調で説明すると、デッカーはそのきれいに組まれた陣形に言葉を漏らした。その言葉にキャンベルが不安を誤魔化そうと一言加えようとしたが、デッカーが正面からそれを打ち消すとライベンは忌々しそうに魔導探知器の画面を睨んだ。
その双方の動きについて尋ねたキャンベルに、デッカーは即答すると足早に部屋のドアへと向かい始めた。
「やり合うのか!」
「この"プリマス"を旗艦としてぶつける!反航戦だ」
「わかった!変化があったら教える」
「おう!」
「ちょっ!ちょっと!」
デッカーに行動で全てを悟ったライベンは彼の背中に尋ねると、デッカーは大声で言葉を返した。
その言葉にライベンは即答しつつ仕事に戻る中、デッカーの考えが理解できないキャンベルはデッカーの背中を追いかけた。
「冗談ですか!」
「後ろには引けないだろ。あの速度ならこちらの有効射程まで30分だ。だから…」
デッカーにキャンベルが意見具申を行い、彼もそれにしっかりと説明をしようとした。
だが、それを遮るように船外から耳を引き裂くような爆音が響き渡るのだった。
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