第9幕-7
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
ブリタニアの第2艦隊がリリアン大陸を目指した航海はガルツ帝国海軍に察知されていた。そのブリタニア第2艦隊に対してガルツ帝国海軍は徹底した警戒と待ち伏せであった。
「シュペー提督、第1航空隊が敵艦隊と接触したようです。状況は…」
「当てるわ。そうね…撃沈10に中破15って所かしら?」
「いえっ…それが…」
「もっと少ない?ふふっ…いえ、違うわね?撃沈40に大破30って所かしら?」
「撃沈58に大破56とのことです。こちらの被害は0であり、第2次攻撃を要請しています」
「あら、予想より多いわね。それでも、第1航空隊の戦力でこれなら、少し少ないかしら?」
「現在も攻撃中なので、戦果は増えるかと。搭載機銃でも中破までの損害が出せるようですので」
「でしょう。時代遅れの全木製の60m程度の船に何が出来ますか。むしろ、対艦誘導弾を搭載したのが勿体ないとさえ思えるくらい」
「対艦噴進弾で良かったのでは?」
「"念には念を入れて"ってことよ。予定通り、第2次攻撃には対艦噴進弾を搭載させて」
「了解しました」
その待ち伏せをしていたガルツ帝国海軍で先制攻撃を加えたのは第1艦隊であった。艦載機にて広大な警戒線を張っていた第1艦隊は、ブリタニアの第2艦隊が交戦予定海域に到達する前に先制攻撃を仕掛けたのだった。
第1艦隊旗艦である空母ヴァッサーピッツェの艦橋にて、艦隊の提督であるカテリーナ・フォン・シュペーは仁王立ちで窓の外を見ていたのだった。窓には雲一つない満月の夜空が映り、煌煌と輝く月上がりが飛行甲板で出撃を待つ航空部隊や整備員、誘導員を照らしていた。
第2次攻撃の為に準備を整える甲板を海洋と共に見つめるカテリーナに、小脇に書類を抱え参謀将校の制服に身を包むウッカーマンが十数海里離れた戦場の状況を報告をするために現れた。その彼の報告に、仁王立ちのカテリーナは視線の方向を変えずに答えたのだった。
そのカテリーナの口調は苦々しさを感じさせるものだった。その事に報告の続きを言い淀んたウッカーマンだったが、悪戯っぽい笑顔を浮かべつつ振り返るカテリーナの微笑みと嬉々とした言葉に正確な情報を書類を見ながら報告した。その内容はカテリーナの満足いくものではなかったのか、彼女は不満げな表情を浮かべつつ艦橋の窓際へとバレエのステップを踏むように歩みつつ遥か彼方の水平線に見えるほんの少しの明かりを前のめりになりながら呟くのだった。
その呟きに額に薄っすらと汗をかくウッカーマンが言い訳にも聞こえる報告を少し早口で述べた。その報告にカテリーナは不機嫌から退屈そうな表情に変え、腰に手を当て服の裾の埃を払うと呆れるような口調て呟きつつウッカーマンへと振り返った。その表情は少し前まで浮かべていた退屈な表情と打って変わって楽しげな笑顔に変わっていた。
ころころと変わるカテリーナの表情に、ウッカーマンは不気味さを感じながら彼女の発言に対して質問をするのだった。その質問にカテリーナは楽しげに答えると甲板を指差しながら命を下すのだった。その命令にウッカーマンは直ぐに敬礼と共に反応すると艦橋の通信手へと指示を飛ばすのだった。
「それと、提督。もう一つ通信室からの報告がありまして」
「何かしら?当てるわね、そうね…あの"大砲屋のトカゲさん"が叫んでいるのかしら?」
「はい、その通りです。電文をお読み致しましょうか?」
「えぇ、気になるわ。ここは一つ、第2次攻撃隊の出撃前の暇つぶしに聞こうかしら」
指示を飛ばしたウッカーマンは、艦橋から降りることなくそのままカテリーナへと更に報告を行った。その報告内容にカテリーナは浮かべていた表情を満面の笑みに変えると、楽しげな口調で送り主を予想するのだった。
そのカテリーナの電文の送り主に対する予想が的中すると、ウッカーマンを除く艦橋の乗組員全員が少し顔を青くした。その冷たくなった空気の中で、ウッカーマンはただ全てを諦めた様に返事をすると彼女に一つ尋ねたのだった。その内容で更に明るく楽しげな表情を浮かべるカテリーナは深く頷くと幼い子供の様な明るい笑顔と共に彼を急かすのだった。
「わかりました…"発、第2艦隊。宛、第1艦隊。オイ小娘、フザケルナ。コチラノエモノヲトルナ。ソレイジョウヤルナラ、ニ、サンパツ"ゴシャスルゾ"とのことです」
そのウッカーマンの説明に、艦橋の空気はいよいよ凍りついた。
第1艦隊の全員は、総指揮官たるカテリーナが第2艦隊提督であるハイルヴィヒが嫌いなのを知っていた。そして、その二人による喧嘩に幾度となく彼等は巻き込まれていたのだった。
その二人のケンカが本当の闘争になりかねない現状を前に、艦橋の全員は戦果より穏便に事を済ませる方を優先したがっていた。
「ふふっ…あらあら、やっぱりあの人って野蛮ね。本当に、おかしな人」
「どうしますか?そもそも、本来ならば第2艦隊の討ち漏らしを掃討するのが…」
「第3次攻撃までは行う。それで半数程度の損害に済ませる。飛行機乗り達も、目の前に獲物が有って的が敗残艦隊なんて可哀想でしょ?」
「それはそうですが、参謀面子は第2次攻撃で半分程度しか敵が残らないと結論を出してます」
そんな艦橋の空気を察してか知らず、カテリーナは更に笑みを浮かべながら小さく声さえ出して笑いなが呟くのだった。
その笑みに艦橋は今後の方針がどうなるのか静かに伺いつつ、ウッカーマンが意見具申しかけた。その言葉を遮ると、カテリーナは毅然とした表情に戻りつつ、命令を出した。その山の天気以上に変わる彼女に、ウッカーマンは未だ読めない年下の提督に対して伺うような慎重さで意見を再度具申したのだった。
「なら、逃げられないように敵艦隊のお尻を叩いてあげなさい。艦数だけなら10倍以上の差のある大海戦なのだから、派手に演出してあげないと。"決死の覚悟で突撃してくる敵艦隊と、猪突の如き大砲屋"…まぁ、暇潰しにはなるかしら」
ウッカーマンの意見に対して、まるで海戦を愉しむかの如く話すカテリーナに、味方さえも戦場では完全に駒として扱い切る彼女の認識に、彼は内心震え上がるのだった。
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