第9幕-6
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
「なっ!ダチスが!ダチスが沈むぞ!」
「てっ!敵襲!敵襲!」
「今の風切り音みたいなの何だ!どっから聞こえた!」
「魔導砲か?」
「んな、船体が見えない程の長距離が届くか!」
「総員起こせ!繰り返す、総員起こせ!」
「当直は何やって…うわっ!また!」
「今度はどの船だ…早く持ち場に付けぇ!」
「急げぇ!」
ブリタニア第2艦隊が突如として窮地に立たされたのは、先遣隊と合流完了後の2月17日の深夜であった。
艦隊所属の4等級戦列艦であるダチスが突然艦体中央を爆発させ、2つにその艦体を切断された。マストが激しく海面に倒れ込み飛沫と轟音を上げると、戦列艦ダチスは一瞬で轟沈したのであった。
その爆発で深夜ながらも洋上で燃え上がる戦列艦により艦隊周辺は一気に明るくなり、水兵も士官も何が起きたか解らずに戦闘配置へつこうとした。その間も一気に5隻以上の戦列艦が突然吹き飛び、その全てが一瞬で海の藻屑と消え去ってゆくのだった。
「提督!ハンフリーズ提督、失礼します!緊急事態です!起きてください!」
「とっくに起きてる!セクストン、一体何ご…うわっ!この爆発は何事か!」
「多分、敵です!敵の…」
「多分だと!何故確証がないのだ!」
「いえっ、敵です!敵の何かが空から!」
「空からだと!」
その大混乱のブリタニア第2艦隊旗艦クイーン・リリーナ号で艦隊副長のセクストンが提督執務室へと急いで駆けてくると大声をかけつつ扉を何度も叩きながら戸を開けようとした。
だが、セクストンがノブに手を掛ける前に扉が開くと、ハンフリーズが軍服を着ながら騒いでいたセクストンを叱りつけつつ甲板へ向かった。
その途中でハンフリーズはセクストンへと状況を尋ねたが、彼の説明は気弱でたどたどしくハンフリーズは腹を立てながら再び怒鳴りつけたのだった。その怒鳴ったことでようやくセクストンがはっきりと解っている事を説明すると、ハンフリーズは轟沈確実の燃えがる戦列艦の炎で明るい夜空を見上げたのだった。
「竜騎士…いや魔導竜騎士か?」
「あっ、また!また船が!」
「何だ!どの船だ、何隻だ!」
「セブン・オークス、ユニティ、オソーリー…あれは?」
「ヴィクトリーまで!1等戦列艦があんな簡単に!」
「ロっ、ロイヤル・ウィリアムもです!炎上…後部が無くなってる!」
「1等戦列艦を一度に2隻も撃沈だと!」
漆黒よりも深い大海の夜空を見上げるハンフリーズは、その空に一瞬だけ大きな影を見た気がした。その影は大きな翼を持ち、胴体付近が丸い独特な形であった。その影に思い付く敵の装備をハンフリーズは考えたが、どれも彼の見た影には当てはまらなかった。
だが、ハンフリーズの思考はセクストンが上げた悲鳴のような声によって止められた。その内容に反射的に右舷洋上の艦隊を眺めたハンフリーズは、更に船体を四散させる光景を目にした。
その光景にハンフリーズは驚愕しながら詳細の報告を求めると、水兵の一人が甲板の柵に身を乗り出して艦名を報告した。その報告が終わる前にハンフリーズが最後に見えた艦名の名を思わず叫んだ。その艦はハンフリーズが水兵時代に乗っていた主力の大型艦の為に彼の驚愕は一際強かった。
だが、ハンフリーズの驚愕が終わる前にセクストンが左舷を見ながら更に叫んだ。そこには、ハンフリーズの乗っていたヴィクトリーより大きな船が盛大に沈没してゆく光景があった。その光景にはハンフリーズも信じられないとばかりにただ呟くばかりであった。
「キャンベル少尉!キャンベルは無事か!」
「提督閣下!私はここに!」
「最大戦速だ!とにかく足を止めるな!それと砲術長は…デッカー大尉はどこだ!」
「第2甲板です!」
「セクストン!伝令を出させろ"全砲手に魔導砲の砲口上に向けさせろ!対空戦だ!対空戦、用意!」
「閣下、洋上で空からの攻撃など不可能です。翼竜とてこれだけ陸地から離れた洋上までは…」
「黙れセクストン!敵は空から攻撃している!魔導砲を上に向けるんだ!全艦に通達せよ!"魔導砲を上に向けよ!"」
悪夢の様な艦隊に起こる惨状を前にハンフリーズは硬直したが、上空から聞こえた艦の爆発とも異なる轟音を前に上を向いた。そこには月明かりに照らされた30以上の黒い影がVの字の編隊を組んで飛んでいた。
その光景で敵の攻撃を空からと確信したハンフリーズは、甲板の上でマスト前に立つキャンベルを大声で呼んだ。その声は周りの爆発炎上する艦艇の爆音に掻き消されかけながらも届き、キャンベルは大声で返事をした。その返事に対してハンフリーズは指示を出しつつ砲術長の居場所を尋ねた。
ハンフリーズの言葉には甲板で戦闘用意をしていた水兵が答えると、彼は怯えきったセクストンに怒鳴るように命令を出した。だが、その内容にセクストンは怯えと混乱でしわくちゃになった顔をしながら反論した。
その反論にハンフリーズが激怒した口調で命令を出すと、言葉を無くしたセクストンは敬礼しながら急いで手近な水兵を探すのだった。
「デッカー大尉です!提督、第2甲板や第3甲板の魔導砲は如何なさいますか?」
「第1甲板のみで構わん!とにかく空に向けよ!」
「しかし提督、戦列艦の砲は全て対艦ないし対地攻撃の為にあるものです。仰角はせいぜい45度が精一杯です」
「台座から外して上に向けろ!そうすれば敵を狙える!」
「そもそも空に敵など…」
慌ただしく人の行き交う甲板の床を外して下から上がってきたのは、無精髭を伸ばして制服のボタンを掛け違え襟を立てた大男だった。
デッカーと呼ばれた男はいそいそとクイーン・リリーナ号の後方にある操舵場所へ走るとハンフリーズの前で敬礼をしながら出された命令に対する報告をしたのだった。
その報告にハンフリーズは大混乱の様相を見せる甲板を指差しながらその上舷の周りに設置されている魔導砲を指差した。
木製のタイヤの付いた台座に載せられた魔導砲は、鉄製の砲身に青く光る水晶の輪が3個付けられたものであった。それ以外は古い大砲の見た目とあまり変わりなかったが、所々に赤や緑の宝石の様な物が埋め込まれたそれは、露骨に普通の大砲ではないと主張しているのだった。
だが、魔導砲のその派手さも今は無用の長物に等しく、砲手として砲の近くに立っている魔道士や魔鉱石を混ぜだ青い砲弾の装填手が立っていても、一向に艦隊を守ることも火を吹き上げる船を減らすことも出来なかった。
それでも自分の商売道具である魔導砲に対して出された無茶な命令を前に、デッカーは一瞬たけ眉間にシワを寄せると焦る心を必死に落ち着かせた口調で説明をした。
だが、その説明を受けるハンフリーズが荒い口調で策を述べてそれにデッカーが反論しようとした時、上空から少しだけ響いていた轟音が急速に近づくと二人は空を見上げたのだった。
そこにはV字で編隊を組んでいた空を飛ぶ何か達が上空から艦隊に向けて降下して来るのだった。
「ばっ!翼竜だと!」
「あんな翼竜見たことないぞ!」
猛烈な轟音を上げて艦隊に急降下しながら突撃してくるその何かは、後退翼に無数の円筒状の何かを取り付けていた。その姿はおおよそ生き物とは言えず、口のように開いた先端の空洞はその空飛ぶ何かに不気味さを与えていた。
その空飛ぶ敵に攻撃の意思を感じ取ったハンフリーズは、驚き声を上げるデッカーやセクストンを慌てて押しのけつつ操舵場所から甲板へと身を乗り出すのだった。
「キャンベル少尉、最も速度を上げろ!操舵手、取舵一杯で緊急回避だ!空から何か攻撃が来るぞ!」
「提督閣下、速度限界です!」
「とっ、取舵、間に合いません!」
「ええぃ!総員衝撃に備えろ!」
「くそっ、第1甲板にいる魔道士はありったけ空に光の矢を…」
空飛ぶ敵がクイーン・リリーナ号へ向けて急降下する中、ハンフリーズはキャンベルに艦の速力を上げるよう支持しつつ操舵手に艦を旋回させようとした。
だが、その号令が甲板に響き渡っても返答は虚しく、キャンベルと操舵手の若い水兵の悲鳴の様な声が響くだけだった。
その声に全てを諦めたハンフリーズは、乗り合わせている乗組員に命令を出した。その言葉に合わせて、キャンベルは部下の魔道士達に命令を出そうとした。
それでも、キャンベルの命令やそれに即応しようとした魔道士達の動きより早く、空飛ぶ敵はその翼下に付けられた対艦ミサイルを容赦なく放った。
その猛烈な火薬の燃焼と風を切る様な音が一瞬だけ響くと、クイーン・リリーナ号の艦首は猛烈な爆発と業火に包まれた。
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