第9幕-5
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
大艦巨砲主義という概念がある。簡単に言えば、大きな艦に巨大な砲を乗せれば強い艦が出来るというものである。その概念は時の海軍に艦艇のトン数と砲の口径増加を促し、海軍の戦艦建造ラッシュを後押ししたのだった。
だが、航空兵器の技術革新と空母の重要性の再認識、それに伴う航空決戦主義によって戦艦は海上の巨大な的となり、どれだけ近代化が為されて用無しの烙印は深く押されてしまった。
そうして、道連れと言わんばかりに巡洋艦の存在までも巻き込み、戦艦は世界の海軍から駆逐されていったのだった。
[第2艦隊各艦へ、こちら旗艦"エアテリンゲン"のハイルヴィヒ・ヴァルトトイフェルだ。
いいかよく聞け、ヤロウ共!総統閣下からの命令だ!"敵はブリタニア艦隊。帝国海軍の大艦巨砲は海を裂くを教えてやれ"との事だ!ゴミクズ共は、役に立たない帆船でこっちに殴り込みをかける腹らしい。
実戦だ、気張れ!ここで、今までの訓練の全てが試される!海賊上がりの第2艦隊が、真に海の兵か試される!
空母の連中が幅を聞かせる海軍なんて腰抜け海軍だ、タマ無しだ!砲に魚雷と噴進弾を喰らわせて、肉迫して敵艦のドテッパラにブチかましてこそ海軍だ!水兵だ、船乗りだ!
根性と度胸が有ってこそ、海軍は真に海軍として成り立つ!潜水艦までは許すが、空から飛行機で対艦噴進弾だの爆撃に頼る時点で空母連中は海軍じゃない、空軍崩れだ!砲の一発も交えずして何が海軍か!
いいかい、アンタ達!一隻でも第1艦隊に…艦じゃない艇でも、短艇でも何でも!あんな飛行機乗りやその仲間に戦果を渡すんじゃないよ!戦果はアタシ等第2艦隊で独占だぁ!
宜しいか!]
[[[[はい!]]]]
[なんだ!無線越しだからって気ぃ抜いてんのか!タマ落としたか!根性ぉ、見せろやぁあ!]
[[[[[はぁいぃ!!!]]]]]
[それで宜しい!通信終わり]
だが、沿岸地域と海上において絶大な大火力と単艦で艦隊戦を行える防御力、艦隊の象徴として味方の士気向上を図れるの艦艇はやはり戦艦しかいなかった。その結果、ガルツ帝国海軍は大規模近代化を行っても戦艦や重巡洋艦を手放すことをしなかった。
ガルツ帝国海軍第2艦隊はその戦艦を3隻も擁しており、総艦艇数70隻を超える艦隊は帝国切っての大規模打撃艦隊であった。その旗艦である戦艦"エアテリンゲン"の艦橋にて、艦隊司令のヴァルトトイフェルは無線のマイクを握りながら大声で激励をとばすのだった。
マイクを握り潰しかねない力で力説するハイルヴィヒの鋭い漆黒の瞳には薄っすらとクマが出来ており、長期間の洋上停泊のストレスから小さく纏められた白い長髪にも枝毛がはみ出している程であった。
それでも、遂に迎えた実戦に湧き上がるハイルヴィヒは疲れた顔に満面の笑みを浮かべると、マイクを横に控えていたシュモクザメ頭の魚人の艦長に手渡し首に掛けていた双眼鏡でまだ何も見えない外洋を見渡すのだった。
「提督は張り切っておられるな」
「そりゃそうですよ、艦長。何せ敵襲も攻撃命令もなく2ヶ月半近くただ航路警戒ですもの」
「舞い上がるのも無理ないか。私を含めて…」
「"血沸き肉躍る"と言ったところでしょうか?」
「たとえ、時代遅れの帆船相手でもな」
第2艦隊艦艇の乗組員は元海賊ばかりでありながら艦橋にて制服姿で勤務する士官や水兵達もハイルヴィヒ同様に何もない事によるストレスで若干窶れていた。
それでも、ハイルヴィヒの激励や実戦の前には多いに覇気を出し、艦橋は異様な熱気に包まれていたのだった。
そんな艦橋の中で、エアテリンゲン艦長は右舷や左舷を行ったり来たりしながら周りを見渡すハイルヴィヒに思わず笑みを浮かべながら呟くのだった。その呟きは近くにいたウミヘビ頭の魚人である航海長の耳にも届いており、彼も顔に出ている疲れを気にしないように笑って答えるのだった。
そんな二人が話している中、乱れた海軍将校用ダブルブレストの開襟型の紺のジャケットを着直し、右胸の帝国翼章を直したハイルヴィヒは袖に階級を示す金線の入った腕を振りながら満面の笑みで近寄ってくるのだった。
「艦長、通信手に命令をだせ!"第2艦隊全艦、直ちに敵艦隊との会敵海域に急行する。全力をあげよ"以上!」
「はい、提督。本艦も加速をかけますか?」
「当たり前だ!1番速いとはいえ、艦隊の最先頭だ!戦艦が先陣を切らずしてどうするか!んっ、失礼。少し興奮しすぎたな」
「いえ、そのお気持ちは皆が理解できるものです」
「そうだな。ならば、艦長」
「はい、提督。副長、通信室へ連絡しろ」
「はい、艦長!」
「最大戦速!」
「了解、最大戦速!」
まるでプレゼントを我慢できない子供のような身振りでハイルヴィヒが艦長に対して指示を出した。その支持に対して、艦長は敬礼をしながら一言質問を付け足した。
艦長の質問に対してハイルヴィヒは興奮を隠しきれずに言葉を強くしたが、直ぐにその語調の粗さに気付くと謝罪の言葉を述べた。その謝罪に艦長が気風よく答えると、ハイルヴィヒは改めて艦長と向き合い指示を出した。
その支持に対して、艦長は側に歩み寄った副長の悪魔の男に指示を出しつつ加速の号令をした。すると、操艦手がその号令を復唱しつつ速度操作盤の最大戦速のスイッチを押すのだった。すると、けたたましいベルの音が響くのだった。
「行け行け!風のように!ボロ船艦隊を叩くために!」
「本当に提督は…楽しそうだな…」
「副長、盛り上がるのはこれからだ。航海長、この速度での予定海域到着時刻は?」
「現在が2月16日の1318時ですので…おおよそ2日ほどの行程になるかと」
「なにっ!ならば櫂と帆も張れ!加速できるあらゆる方法を取れぇい!」
「帆船で櫂ならわかりますが…ガスタービン機関の船で…」
「ヤ・レと言われたらヤルんだよ!」
「はい。海賊船より質が悪いよ…」
艦橋の窓際で更にはしゃぐハイルヴィヒに、副長は疲れた顔で羨ましそうに呟いた。その呟きに艦長は彼の肩を叩いて励ましつつ、三角定規とコンパスを持ちながら電車海図と格闘する航海長に予定を尋ねた。
艦長の問いかけに航海長がおおよその行程を計算すると、大きくなった機関の音と濃紺の海を切り裂く波の音に負けなないように大声で説明した。その声は少しだけ大きすぎた為に、ハイルヴィヒの耳にしっかりと入った事で、慌てて駆け寄った彼女は艦長に無茶な命令を出した。
そのハイルヴィヒの無茶な命令に戸惑いながらも、更に追加された南方訛りの強い脅しに頭を抱えながら了解するのだった。
結果的に、第2艦隊は律儀にマストへ帆を貼りつつ、2日の行程を艦隊所属の参謀達の苦心で1日半に短縮して海戦予定海域へ到着して見せるのだった。
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