第9幕-3
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
ガルツ帝国において、海軍の艦艇命名規則存在しなかった。それをカイムが改訂した事で、戦艦は都市命名で空母は山の名前と言った基準が付けられた。だが、帝国内の山の名前が建造された空母の数に足りなかった結果、御前会議によって空想上の生物の名前を冠することにした。
「"最新型のリンドヴルムに乗るついでに戦場を視察したかった"?それを本気で言ってるのか、カイム"総統殿"?」
「当たり前です。将が戦場を知らなかったら…」
「"勝てる筈も無い"って言いたいんでしょう!全く、貴方はもっと立場を考えなさい!解る?解ってるの?貴方は帝国や私の…」
「私の代わりは幾らでもいる。何より、優勢を取れる保証がない作戦上、部下や軍へ不誠実にはなりたくない」
「皇帝を前に何てことを…まぁ、いいわ…」
その空母である第4艦隊旗艦"リンドヴルム"の士官室には仮設のスクリーンが設置され、映写機によって玉座に座るアポロニアの姿が写っていた。その前には当然ながらカイムと艦所属の将兵達が礼装をして不動の姿勢を取っているのだった。
映写機の向こう側に座るアポロニアは額に青筋を浮かべ肘おきに頬杖を突きながらカイムを睨みつけており、スクリーンの前のカイムは、当然ながら気まずい表情を浮かべて座っていた。その理由はカイムの前線に出たがるということに原因があり、アポロニアへの申告無しの行動が彼女の怒りに触れたのだった。
「とはいえ、本来の予定の2月上旬はとっくに過ぎてる!何で2月の中旬までそこにいるのか!」
「それは…スオミ語でのやり取りが予想以上に手間取ってな。オマケに大量の移民者の輸送だから…」
「第一、貴方は戻って来るべき人間でしょうに!それを何時までも何時までも前線にいて、敵がこちらに勝ってるかも知れないという事もあるでしょう!」
「その時に敵の事を…」
「黙りなさい、カイム!こっちが喋ってるの!皇帝命令よ!」
「はっ、はい…」
怒りに任せて話すアポロニアの玉座の横には小さな机があり、その上には1冊の報告書の束が置かれていた。その報告書というのが帝国軍が行っている"カッペ鉱山演習作戦の経過"であり、既に作戦終了予定を半月と過ぎていたのだった。
2時間前に首都のアポロニアから突然の通信を受けたカイムは、作戦経過が遅すぎることを指摘されるのかと思っていた。だが、通信をし始めてからされる話は帰還が遅い事への指摘ばかりであり、彼女の説教にカイムも限界を感じ始めていたのだった。
それでも、帝国の主権者であるアポロニアの言葉に逆らう事はカイムにも出来ず、皇帝としての口調とアポロニアとしての口調の混ざったお叱りの言葉を聞いていた。だが、前線の状況を確認できない事に、彼は不安を感じ始めていたのだった。
「…だいたい、貴方はこれまでに何度か騒動を起こしてるでしょうに…何でこういう事を平然とするのかしら…」
「変に度胸があるからだろ?」
「アナタねぇ…スコシは周りのコトも考えなさいよ…」
「考えての行動だよ。結果、現場は上手く回った」
「はぁ…"周り"の意味が違うのよ…」
だが、カイムが少し話を聞き流している間に、アポロニアは珍しく気弱な口調を彼に向けるのだった。その表情も、先程から浮かべていた怒りの表情と一変した不安の表情であった。
その表情から慌てて戯けた口調で軽口を言うカイムだったが、その態度から話を聞いていなかった事を理解するとアポロニアは訛りを混ぜて静かに怒りの言葉を漏らした。
それでも、カイムは作戦経過に意識が向いていた為にアポロニアへと気のない返事をした。その返事には、アポロニアも溜息をつくと諦めた様に呟くのだった。
「総統閣下、通信中申し訳ありませんが報告に上がりました」
「ギラ…貴女、秘書官が皇帝と総統の会談を邪魔するのか?無礼じゃ…」
「皇帝陛下、勘違いしないでください。これは皇帝陛下も関わる重要な案件です」
「私にも関わるですって?」
暗い訳では無いが、決して明るくない空気の中で、ギラの澄んだ声が空気を引き裂く様に響くのだった。その声に、訛りを正したアポロニアの怒りの言葉が流れる通信の中でカイムはゆっくりと肩の力を抜くのだった。
ギラという宿敵の登場と彼女に話の腰を折られた事で口調を変えたアポロニアだったが、再び話の腰を折ったギラの言葉に彼女は疑問の言葉を口にするのだった。
「ということはギラ、アネルマ達が来たのか?」
「はい、最終便も出港準備完了とのことです」
「そうか、来たか!直ぐに通してくれ」
「アネルマ"達"?あぁ…スオミ族の…ピエリタとかって頭領達のことか」
「報告書にあったろ?」
「些細な事だから」
ギラの報告は作戦が最終段階へとなかなか進まなかった帝国軍にとっては吉報であり、カイムを含めた士官室にいる将兵全員が喜びの笑みを浮かべた。
カイムがギラに空かさず命令を出す中、スクリーンの向こう側のアポロニアは、"達"という部分に疑問を浮かべると思い出したように呟いた。その呟きにカイムが苦笑いを浮かべながら指摘すると、彼女は不満げに呟くのだった。
「これでようやく撤退と、総統閣下の本国帰還ですか…総統閣下?」
「いや、ブルクハルト提督。まだしばらくはここに厄介になるよ。何せ、まだ難題が残ってますから」
「カイム、難題って…いえっ、カイム総統。難題とは何か?説明を求める」
「その件につきましても、アネルマ本人達を交えて話し合おうという段取りでした。高位な参加者が増えましたが…」
「構わん、善きに計らえ」
アホウドリ頭の鳥人であるブルクハルトが不動の姿勢を少し崩して帽子を直しながらカイムへ呟くと、カイムも少しだけ笑みを浮かべた。
だが、カイムは直ぐにその表情を再び真剣なものに変えると、少しだけ重い口調で呟くのだった。その呟きにはアポロニアも疑問の言葉を漏らすと、"アポロニア"としての口調から"皇帝"としての口調に慌てて戻すと彼に尋ねるのだった。
そのアポロニアの質問にカイムが苦笑いと共に答え、アポロニアが満足そうに言い返すと部屋の扉が叩かれるのだった。
「さて…海洋航路にやってきたお客さんの事情を聞こうか…」
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