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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
257/325

第9幕-2

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

「スオミノミナサン!コッチデスヨ!」


「ユウドウニシタガッテクダサイ!」


「あの…この船に乗ればいいのですか?」


「ソですよ。コチラのフネにおノリクダサイ」


 カッペ鉱山を埋め尽くすダークエルフの集団を白い装甲服の集団が誘導する光景は、壮絶に異様なものとなっていた。誘導される老若男女のダークエルフ達は、ハッチを開いて待機する小型や中型の輸送艇に乗り込んでおり、沖に停泊する無数の輸送艦へと回収されていくのであった。

 ダークエルフであるスオミ族の救出を主とした作戦であるカッペ鉱山演習作戦は佳境を迎えており、輸送される人々もギリギリまで防衛線に留まり防衛に参加していた兵士や猟師達はが多かった。


「まさか…アネルマが本当にやってくれるとは…」


「言ったでしょう、姉上。私は味方を…いえ、同胞を連れてきたと」


「お前が空から降ってきた時には、気でも狂ったかと思ったが…」


「ユッシよ、ならばお前も父も気が狂っておる。何せ、空から川の如き同胞の列を見下ろしているのだからな?」


 そのカッペ鉱山の上空をティルトローター機がスオミ族の避難民を旋回して観察する様に飛ぶと、高速で洋上に向けて飛行していた。

 その機体の中にはラハテーンマキ一家が搭乗しており、ヘルメットを被ったピエリタやユッシ、マリッタとアネルマが眼下の大行列を見ながら感嘆の声を漏らすのだった。

 だが驚きは比較的落ち着いたものであった。というのも、1月1日から開始されたカッペ鉱山演習作戦の最初に帝国空軍は車両隊を含めた主力がスオミ族の本拠地へと降下し、彼等は降下猟兵部隊の近代装備に驚愕させられたのだった。それ以降は続々と押し寄せる帝国軍の軍艦や陸軍軍団を前に目を点にさせられた。それが2月まで続くと彼等も神話の軍隊の様に思えたガルツ帝国軍に慣れてきたのだった。


「それで、アネルマよ。私達は何故に海の上を越えているのだ?私達も彼等と同様に…」


「いえ、父上、私達に会いたいという方が居まして」


「まさかと思うが、例の"総統閣下"と言う方か?」


「その通りですよ」


「ばっ…アネルマ!なんで最初からそう言わない!」


「言った所で兄上や姉上が止めるでしょう?」


「当たり前だ!何をされるか…」


 空を飛ぶ乗り物にさえ慣れた4人だったが、ユッシは未だに帝国軍の乗り物や近代技術に慣れておらず、少し怯える態度を取っていた。そんな息子の状態を横目に、ピエリタは落ち着きのない末娘に自分が移動する理由を尋ねながら座席のベルトを調節するのだった。

 そんな父親の言葉に、アネルマは答えを少しだけ隠しつつ答えた。たが、父親からすれば娘の隠し事はあっさりと解り、カマをかけた回答はあっさりと当たりアネルマも驚きながらあっさりと答えるのだった。

 その答えにはマリッタは知っていた様に頷くが、ユッシはベルトで座席に固定されている中でも妹を叱責しようと声を荒げつつ慌てて立ち上がろうした。しかし、ベルトによって席へ無理矢理体を戻されると、詰まった言葉を改めて座席で叫ぶのだった。

 ヘルメットのスピーカーから聞こえる兄の声に、アネルマは言い返すとユッシは勢いに任せて自分の考えを言おうとした。だが、機体内に同乗する搭乗員の視線を感じると、彼は力無くゆっくりと席に座ると黙るのだった。


「ユッシ…勢いで話すくらいなら…」


「解ってます、父上。しかし、こんな得体の知れない技術を使う…」


「"得体の知れない"なんて事は無いでしょう?兄上だって"秘術書"は1回でも目を通した事があるはず。そこには似た物も書かれていたでしょう?まぁ、この…ガルツ帝国軍?の装備については殆ど書かれていなかったですが」


「殆どどころか、こんな魔法より訳のわからんものはお前だって見たことないだろう!マリッタ、こんな魔法も裸足で逃げ出す技術を操る軍隊の総大将だぞ?怪しくなくて…」


「ユッシ殿、そんなに心配されなくても大丈夫ですよ?総統閣下はお優しい方ですから」


 浮き沈みの激しい息子にピエリタが諭そうとする中、ユッシは気弱に言い訳をしようとした。

 だが、その言い訳を遮るようにマリッタが小馬鹿にする様にユッシへと言葉を投げかけると、失速していたユッシは怒りで勢いに任せて言葉を紡いだのだった。

 だが、その言葉も唐突に横から入ってきた一言に遮られると、ユッシは怯え半分の凛々し表情を浮かべ席に座りながら固まるのだった。


「こっ、これはティアナ殿。私は別に…」


「大丈夫ですよ、総統も帝国も貴方達の味方で、貴方達は帝国の一員となるのですから」


「そう…ですよね?いやぁ、これは…その…」


「怯えるのは仕方ないことです。何せ"科学技術"を知らないんですから。これからゆっくりと知ればいいんです」


「そっ…そうですな…」


 ラハテーンマキ一家の会話に入ってきたのはティアナ・ボルトハウスであり、明るい口調でこそあるが酸素マスクと黒いバイザーで表情が隠れた事による異様な圧は絶大であった。

 その圧に負けたユッシが引きつった笑みを浮かべて気弱な言葉を漏らす中、ティアナは変わらぬ明るい言葉で励ますとコックピットのある前方へと進んでいた。彼女が座席から離れた事で、ユッシは疲れたように肩を落とすと首を横に振りながら黙るのだった。


「それで、アネルマ。私達はどこに向かっているのだ?」


「父上、総統閣下のおられる空母に向かっています」


「空母…あの沖にいた大きな船の事か?」


「いえ…確かに輸送艦も大きいですが、あれよりは…」


「ちっ、父上!あれを!あれを見てください!」


 完全に勢いを殺されたユッシに呆れると、ピエリタはアネルマに対して再び質問をした。その言葉には、アネルマから直ぐに答えが帰ってきた。だが、その内容にピエリタはティルトローター機の窓から見た輸送船を思い出し、"空母"に同じような船というイメージを持ったのだった。

 だが、アネルマが説明しようとした時にはマリッタが窓の外を食い入るように見ており、驚きや興奮の混ざった声を上げるのだった。

 マリッタの声に窓の外を見たピエリタの視界には、収まりきらない大規模な艦隊が輪形陣を組んで停泊していた。輸送船が小さく思える程の3連装砲を装備しつつ、多銃身対空砲でハリネズミのように武装した戦艦や対空装備の駆逐艦、ミサイルや砲を満載した巡洋艦などが数え切れない程いる艦隊の姿は、ラハテーンマキ一家に驚愕と沈黙を与えたのだった

 その中で、輪形陣の中央にはアングルド・デッキを持つ大小2つの空母があり、その戦艦を凌ぐ大きさは異様な存在感を放つのだった。


「あっ…あれが…」


「空母です。私も最初見たときは島が海を進んでいると思えましたよ」


「あんなものが…いや、いつの間にか陸地が見えないぞ!」


「こんな沖にいつの間に…兄上、何で外を見ないの!」


「もういい、驚くのに疲れた…」


 空母や戦艦の姿に驚くピエリタに、アネルマは自分の事を自慢するように説明した。その自身に溢れる口調の言葉は3人に届いていたものの、ピエリタやマリッタは窓の外に集中していたのだった。

 そんなラハテーンマキ一家の元に再びティアナが歩み寄ってくると、ヘルメットのバイザーを開け柔和な目元を見せながら窓の外に指差した。


「ラハテーンマキ御一行、ようこそ第4艦隊旗艦"リンドヴルム"へ。そろそろ着艦しますのでもうしばらくお待ち下さい。総統閣下の方は準備が出来ているとの事ですので、会談の準備もしておいてくださいね」


 ティアナは芝居がかった口調で挨拶を言うと、更に一言付け加えて去っていった。その言葉に、ラハテーンマキ一家は座席のベルトと身動ぎによって乱れた服装を慌てて直しつつ、着艦までの間黙って姿勢を正すのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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