第8幕-5
趣味で書いているので温かい目で見てね。
トンモトの街へと救援に向かっていたヴァレンティーネ率いる親衛隊特殊部隊ヴェアヴォルフのティルトローター機編隊は、対空攻撃を避けるために高高度を飛行していた。その結果、陸軍からのミサイル攻撃で包囲に参加するエルフの騎士団の殆が後退していることと、強行突撃する1団を発見したのだった。
「とはいえ、いきなり"飛び降りろ、帝国騎士なら死にはしない"と40mから飛び降りさせる人がいますか…エリーテでなければ死んでましたよ。あぁ、制服に雪と土が…」
そのエルフの進行を前にしたヴァレンティーネの攻撃と降下命令に、雪原で3点着地を決めたジーモンはボヤくのだった。そんな彼は、ゆっくりと立ち上がり、身に着けた騎士のグレートヘルムのような仮面の位置を整えつつ足元を見ると、そのズボンの裾に付いた汚れを叩きながらさらにボヤくのだった。
「Mikä tämä kaveri on?《何だ、こいつは?》」
「Toistaiseksi ympäröi itsesi!《とりあえず、周りを囲め!》」
「Lennä kaikki kerralla! Minä lyön teidät kaikki kerralla!《一斉に飛びかかれ!一気に倒すぞ!》」
おおよそ敵陣の中央でするべきでない余裕な態度で身なりを整えるジーモンの姿に、対地攻撃で浮足立ったウトリアイネン騎士団の騎士達は更に困惑するのだった。
ジーモンの姿に多くの騎士が戸惑いの声を上げる中、いち早く立ち上がり抜刀して身構えるヴァルッテリは部下達に攻撃を指示するのだった。
「Hanki miekkamme!《我らの剣術を受けてみろ!》」
「Slap!《くたばれ!》」
「Hyväntahtoinen tulen Jumala, anna minulle …《いと慈悲深き火神よ…》」
ヴァルッテリの指示にジーモンの近くにいた騎士3人が一斉に飛びかかり、更に騎士の1人が詠唱も始めた。3人の騎士は三方からジーモンに迫り、背後から上段から振り下ろし、右斜め前から中段から横薙ぎ、左斜めからは魔法下段から切り上げるという剣捌きを見せた。その刃の軌道は全て素早く正確にジーモンの命を刈り取る精密な一撃であった。
「大方、一気に倒すとか言ってるんでしょうけど。舐められたものですね、これでも帝国では…」
だが、迫る3人の熟練騎士を前に仮面のジーモンが呆れるように呟くと、右手を前に突き出した。すると、その手に吸い寄せられるように彼の左腰の光熱剣が宙を舞った。
ジーモンの手に光熱剣が掴まれると、深紅の刀身が一気に熱気を放ちながら展開された。そして、ジーモンは自分に一番速く迫る右側の騎士が握る剣を中央から溶断した。その光景に驚く騎士の首を切り落とすと、そのまま流れるようにジーモンは背後の騎士の首も切り落とした。
旋風のように回り、2人の騎士を倒したジーモンは、詠唱を驚きによって止められた騎士と正対するのだった。
「強い方ですよ」
一瞬で仲間を2人も倒されたことで詠唱を止め、歯を食いしばり突撃しつつ剣を突き出した騎士を前に、ジーモンは軽く身を反らして避けた。そして、一言呟くと逆に騎士の左胸へと光線の刀身を突き刺したのだった。
「Voi luoja…《神よ…》」
胸に光熱剣が突き刺さり心臓や周辺の臓器から筋肉、皮膚や胸甲を焼き溶かされた騎士は、薄れゆく意識の中で首を焼き斬られた仲間2人の姿を前に、声帯を焼き切られたながらも呟くのだった。
その声が冷たい空気の中に消えゆく中で、ジーモンは光熱剣を引き抜きながら雪原に倒れる騎士の死体を邪魔そうに足蹴にするのだった。
「Mikä tuo kaveri on? Oli kuin tietäisit liikkeen, eikö?《何だ、あいつ?まるで動きがわかっていたみたいな動きだったぞ?》」
「さて…それじゃぁ…」
「うぉおぉおおりゃぁあぁあい!どっからでもかかって来ると良いですわ!片っ端からぶった斬ってやりますわよ!」
「Ooooooooooooh!《うぁあぁああぁぁあ!》」
「Mikä on tämä aika!《今度は何だ!》」
一瞬で3人の騎士を葬り去りその死体を足蹴にするジーモンの姿に、ウトリアイネン騎士団の騎士達は絶句した。ヴァルッテリさえも数秒言葉を失った。ようやく口を開いてジーモンの動きに感じた違和感を述べたヴァルッテリだったが、一言呟きながら腰を深く落として剣を右手のみで持ち、左手の人差し指と共に刀身を地面と水平に保ちながら先端を自分達に向けて構えるジーモンの姿に慌てて応戦態勢をとるのだった。
だが、その態勢の後方から猛烈な怒声混じりの絶叫と男達の悲鳴が響くと、ヴァルッテリや他の騎士達もジーモンを警戒しながらも後方の混乱に警戒を向けるのだった。
「あらら、ヴァレンティーネさんも盛り上がっちゃって、まぁ…なら、給料分は働きますかね」
その絶叫の主である暴れ狂うヴァレンティーネの姿を思い浮かべたジーモンは、光熱剣を構えながらその表情に苦笑いを浮かべ1人ボヤいた。
その不敵な苦笑いと唐突な弾丸の如きジーモンの突撃に、ヴァルッテリ達は驚きながらも迎え撃とうとするのだった。
「うおっ!」
「おぉ、ヨケタ」
ウトリアイネン騎士団の隊列中央にて一撃で3人の騎士を倒したジーモンに対し、奇襲のような刺突をしたノーラの剣戟をミリヤは驚きの声を上げながらまるで猫のような動きで軽やかに避けた。
ノーラの光熱剣が空を斬り、彼女が驚きの声を上げると数秒前までミリヤが倒れていた雪原に光熱剣の刀身が刺さった。すると、鉄をも溶かす高熱は雪原に猛烈な蒸気を上げ、赤熱するほどに地面を焼いた。
「炎の魔法…だとしても、なんて威力…」
「ブリタニア語…ワタシ苦手だけど、話に付き合ってアゲル」
「なっ…ブリタニア軍人じゃないのか…」
水蒸気を光熱剣の紅い刃が切り裂き、その中をノーラが現れるとミリヤはその熱量を前に思わず呟いた。その言葉はブリタニア語であり、肩を竦めることで反応するとその反応に対して片言のブリタニア語で返した。ぎこちないブリタニア語に、ミリヤは自身の思っていた敵の予想像と異なる目の前の敵に驚くのだった。
「お前らは、一体…うっ!」
態勢を立て直し剣を構えるミリヤは、切っ先をノーラの喉元に向けつつ彼女へ強い口調で尋ねようとした。だが、その言葉より速く動いたノーラは一瞬でミリヤとの距離を詰めると、彼女へ上段の袈裟斬りを決めようとした。その斬撃を剣で受けようとしたミリヤだったが、少し前に見た光熱剣の威力を前に、寸で避けたのだった。だが、そのミリヤの回避先には既にノーラの横薙ぎの斬撃が迫った。
その斬撃を無理矢理に腰から身を反らすことで避けたミリヤは、慌てて無詠唱の風魔法を使い勢いをつけたスライディング紛いの動きで距離を取るのだった。
「何でもない。ワタシは国の敵を倒すダケ」
「"国の敵"だと!うおっ!」
「ワタシは軍人。軍人のニンムは敵を殺すコト。貴女はワタシの敵だから」
距離を離そうとしたミリヤだったが、ノーラはまるで何処に逃げようとしたのか知っているかのような最短短距離で間を詰めるのだった。
ノーラは憎しみの混ざった静かな言葉を下段から斜めに切り上げる斬撃と共にミリヤへ加えた。だが、その斬撃もミリヤのノーラの言葉に対する驚きの声と擦れ違って宙を斬った。
そのミリヤの見事な回避にノーラは怒りを滲ませた言葉を漏らした。そのノーラの空きにミリヤが反撃の一太刀を浴びせようと横薙ぎを奮った。それによってノーラは解っていたように避けながら距離を取ると、再びミリヤへ向けて剣を構え直したのだった。
「Hyväntahtoinen tulen Jumala, anna minulle …《いと慈悲深き火神よ…》」
「させない!」
そのチャンスにミリヤは剣の刀身に手を当てながら魔法の詠唱を始めた。その詠唱に合わせて彼女の剣が炎を纏い始めると、それを阻止しようとノーラは地を駆けるのだった。
「Prinsessa, jätä se meille tänne!《姫様、ここは我等におまかせを!》」
「Ansaitsemme aikaa!《俺達が時間を稼ぎます!》」
「Käytä taikuutta mahdolli…《早く魔法を…》」
「ジャマをするナぁあァア!」
だが、ノーラの疾走の間に5人の騎士が割って入ると、彼女の疾走を途中で止めるために立ちはだかるのだった。雄叫びを上げる騎士達の決死の行動によってミリヤとの間に邪魔な壁ができると、ノーラは決闘を邪魔された怒りから叫び一気に距離を縮めようと前へ跳ぶのだった。
「Vau!《うぉ!》」
「Hmm, nopeasti!《はっ、速い!》」
「テキトーに死ぬといい!」
縦に2列で隊列を組み剣を構える騎士へノーラは突撃した。その速度は騎士達の予想より遥かに速く、低姿勢から弾丸のように駆け抜けたノーラは、隊列中央に飛び込むと先頭から順に袈裟斬り、首をはね飛ばし、胸甲に光熱剣を突き刺すとそのまま切り飛ばすのだった。
「Slash viholliseni tulen liekkien pyörteellä!《業火の炎の旋風にて、我が敵を斬り裂け!》」
「Se on prinsessan suuri taika!《姫様の大魔法だ》」
「Evakuoin!《退避しろ》」
エルフの騎士を3人切伏せたノーラだったが、その刃は詠唱するミリヤまで届かず、彼女は魔法の詠唱を完了させたのだった。その声に生き残った2人の騎士がミリヤの前から退いた。
ノーラの目の前にミリヤが現れた時には、彼女の持つ剣にはまるで生き物のような豪炎がうねるように纏っていた。その豪炎は旋風のように周りへ熱気と炎を撒き散らすと、ミリヤはノーラへと刃を振り下ろしたのだった。
ミリヤの剣に纏っていた炎は、その大振りによってノーラへと大気をかき乱し、灼熱を振りまいて一直線に迫った。
「Scheisse!Hmm!」
その豪炎の濁流を前にしたノーラは、仮面のした顔に苛立ちを浮かべなら雪と土を巻き上げつつ急停止をかけた。
炎の熱気を前にしたノーラだったが、彼女は迫る豪炎を制するように左手を前に突出すと、息を軽く吐いて身構えた。すると、その豪炎の濁流は突然に勢いを失い、まるで時間が停まったように動きを止めたのだった。
「Mitä!《なっ、何》」
「pilailet!《嘘だろ!》」
「Auf Wiedersehen…《さようなら…》」
「まっ…待て!」
空中で燃え盛る炎が浮いているという状況には、2人の騎士や魔法を放ったミリヤ本人も驚愕の表情を浮かべた。そのミリヤの驚きは一際強く、驚きと困惑に言葉を失うのだった。
驚きから対応に遅れたミリヤ達3人の前で、ノーラは一言呟くとその左手を力強く前へと押し出した。その動きから瞬間的にノーラが何らかの力を使い空中で炎を止めているのを理解した。
だが、ミリヤの言葉はノーラの別れの言葉と共に付き返した豪炎によって掻き消された。なんとか反応し慌てて伏せたミリヤのうなじ近くに強烈な熱気が通り抜け、彼女の鼻孔に髪や人の焼ける猛烈な臭いが突き抜けたのだった。
「よっ…よくも!」
その猛烈な臭気で仲間の2人が焼死したことを覚ったミリヤは、怒りに任せて立ち上がりノーラとの距離を詰めようと駆け出した。
そのミリヤに驚くこともせず耳のインカムに手を当てるノーラは、彼女の持つ魔法で赤熱した剣による乱雑な斬撃をやすやすとかわした。
「イイよ、暫くアイテしてあげる。厄介事ガ1つ増えたカラ」
上空をティルトローター機が飛びさる中、後ろに跳んで距離を取ったノーラが再び構えを取ると、彼女とミリヤの決闘が再開された。
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