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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
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第8幕-2

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

「それで?結局、陸軍の部隊動員は断られた訳ですか。アイツ等は所詮、私達エリーテ(エリート)たる親衛隊の数合わせです。アテにしたところでですよ」


「ジーモン、この事態の原因は准将が総統に怒られて焦って、その場の勢いで部隊を少なく用意したことにあると思う。ケプローター(ティルトローター)機を6機も用意できたのなら、歩兵も1個小隊と言わず2個3個持ってくればいいのに。そもそも、帝国騎士が少将含めて3人もいるのに何を焦っているの?」


「ノーラさん、言い過ぎですよ。とはいえ、空軍がギリギリまで隠していたとしても、ホミニオには親衛隊も入りましたからね。周辺の部隊の把握も出来ていない無能と思われたくないんでしょ。ギラ総統補佐官と違って、1度集中すると全体を見きれなくなりますからね」


「困ったもの。えぇ、本当に。給料の割に合っているのか怪しくなってきた」


 陸戦艇フランセンは軍の中央指揮を行っているため、周辺には衛生隊や給養班、様々なテントが配置されていた。そのテントの間を2人の親衛隊員が立っていた。

 ジーモンと呼ばれた男は胸に無数の徽章を付けた佐官の親衛隊制服を纏っており、白い角に白髪と眼鏡を掛けた初老の悪魔族であった。その所作には彼の発言通りエリートらしい優雅があり、渋い見た目も合わさるとダンディさのある男だった。

 そのジーモンと寄り添うように歩きながら話すノーラは、尉官の親衛隊制服に身を包むグールの女性だった。女性と言うにはまだ幼さの残る赤い瞳に白い肌の美少女は、長髪に姫カットという軍人としては異色な姿だった。

 ジーモンとノーラの異色さは2人の纏う雰囲気だけでなく、彼等の左胸に付けた鷲と柏葉、雷か象られた金色の盾章と腰に下げるサーベルが表していたのだった。

 胸の盾章とサーベルは、ガルツ帝国国防軍における帝国騎士の象徴であった。帝国騎士とは、南部貴族の筆頭であったフォン・ザクセン=ラウエンブルクの秘蔵古文書の技術を国防軍の研究機関であるシェプフング(創造)がアーデルハイドとカイムの協力のもと完成させた技術である。その技術とは"感覚器官の強化と思念の増幅"であり、個体差はあれど身体機能の増加や短時間の未来予知、念力のような能力が使えるようになるという技術であった。

 その強化を最初に受けたカイムかあらゆる戦闘パターンで身体能力や技術を検証した結果、銃火器で武装する相手に格闘戦を仕掛けられる程の能力とわかった。そのため、カイムが帯刀し、ギラやヴァレンティーネも真似したことで、施術者は苛烈な訓練以外にも刀剣の訓練を受けることとなった。その結果、帝国騎士という制度が確立され、彼等は一握りの選ばれたエリートという立場になっていたのだった。


「私なら、いっそ包囲網している敵軍全てを殲滅するだけの戦力を用意して大翼十字勲章くらい貰ってみせるのに…」


「私はプフアークフェン(ドーナツ)があれば良い」


「随分と大口を叩きますのねジーモン少佐殿?ノーラ中尉も、それ以上言ったら上官侮辱罪で私自らの剣でその首を撥ねますわよ…」


 テント周辺を行き交う陸軍軍人達がジーモンとノーラの前で止まって敬礼する度に答礼をしつつ無駄話に華を咲かせる中、2人の会話を終わらせるように額に青筋を浮かべるヴァレンティーネが4つの腕を腰に当て仁王立ちしながら脅しかけるのだった。


「おっと、帝国騎士最強に脅されたとあったら、私も黙りましょうかね」


「あら?最強ってギラさんなんじゃ?」


「純粋な腕っぷしだけならヴァレンティーネ准将のが強いよ」


「無駄口はそれくらいにしなさいましね」


「「はい」」


 ヴァレンティーネの怒気は周りの陸軍兵士達を遠のかせる程であり、それを受けたジーモンとノーラは無駄口を叩きながらも彼女の前に不動の姿勢で正対した。その緩やかな動きや無駄口の内容にヴァレンティーネが眉を痙攣させながら怒りの言葉を漏らすと、2人は軍人らしい勇ましい返事と共に敬礼した。

 その2人の激しいオンオフの差にため息をつくと、ヴァレンティーネは2人に手招きしつつ設営されたヘリポートへと向かった。


「ヴァレンティーネ親衛隊准将、フリッツ少将が居ないことやフランセンが移動しないことから、交渉が失敗したことは解りました。それで、1個小隊で救出作戦を強行するので?結局こうなるなら、端から直ぐ現場に急行した方が良かったのではないですか?」


「ジーモン、仕方ないこと。ヴァレンティーネ准将は失敗出来ない。ここで失敗したら総統から嫌われる。そして、評価を取り戻すには戦果が必要」


「評価を取り戻すのなら失敗しないことが一番でしょうに。少数戦力で作戦成功は褒められるでしょうけど、失敗したら大目玉だ」


「でも、勝てば勲章もの」


エリート(エリーテ)で将官なのだから、これ以上勲章があっても制服の手入れがしにくくなるだけなのに」


「出世しなくちゃ、ギラさんに勝てない」


「乙女のあれこれは面倒ですね。まぁ、本当に准将が手を出せば、帝室がまたひと騒動起こしますよ」


「いちいち尺に触る面子だ…」


 ヘリポートへと向かう道でフランセン戦闘指揮室での話を伝えようとしたヴァレンティーネだったが、その後ろを着いて歩くジーモンとノーラは早速無駄話をし始めるのだった。

 その表情は至って真顔であり、無駄話の内容がヴァレンティーネを小馬鹿にするようなものであった。だが、その内容や批判の仕方は彼女が反論出来るものでなかった為に、ヴァレンティーネは後ろのジーモンとノーラの話を黙って無視しながら苦々しく独り言を呟くのだった。


「准将閣下、ヴェアヴォルフ第1小隊の出動準備、完了しております」


「例の装備は?」


「はっ、ブラスターライフル(ゲヴェアー)とブラスターピストル(ピストーレ)の試射、完了しております。性能は予想以上ですが、やはり射程は実弾に劣りますね。いかんせん光弾の熱量発散が予想より早くて。射程は良くて70m前後かと」


「構いません、そこまで戦場に長居はしないのですから」


 無数の陸軍所属のヘリコプターが駐機される中、6機のティルトローター機がエンジンをスタートさせて離陸を待つのだった。

 その機体の近くに待機していた冬季迷彩の装甲服を纏う士官が歩み寄るヴァレンティーネの元に駆け寄ると、敬礼と共に報告をした。その内容に頷くヴァレンティーネはジーモンとノーラへの苛立ちを抑えつつその士官へ一言尋ねた。

 ヴァレンティーネはその士官がカイムから渡された新装備の報告に答えながら、親衛隊用の丈の長い外套の下を蠢かせた。すると、ヴァレンティーネは外套の隙間から手を出し2本の金属製の棒を取り出した。

 ヴァレンティーネの手に握られる2本の金属製の棒は、両手で握れる程度の長さのものであり、上部に凹みや配線、スイッチがついた物だった。


「ヴァレンティーネ親衛隊准将、これは…あぁ、例の光の剣というやつですか?」


「光熱剣E型でしてよ。構造等の機械工学は知りませんが、刀身はヘタな金属など楽に溶断しましてよ」


「それを私達にですか。体のいい実戦試験の担当ですか。危なくないですか、装甲を溶断出来るなんて熱線兵器を振り回すなんて。手元が燃えるんじゃないんですか?」


「ジーモン、取り敢えず使ってみればいい。どうせ燃えても生体再生装置に4、5ヶ月入っていれば治る」


 ジーモンはヴァレンティーネが持つ光熱剣を訝しそうに見つめた。彼の疑念にヴァレンティーネが光熱剣を手元で遊ばせながら説明すると、真顔ながら嫌そうな目線を向け苦言を漏らすジーモンとノーラへ無理矢理光熱剣を握らせるのだった。

 光熱剣を懐疑の視線で観察するジーモンの横で、ノーラは即座にスイッチを押して起動させた。すると、ヒルトの先端から赤熱する深紅の刀身が現れるのだった。


「おぉ、本当に光の剣だ…ノーラさん、手、燃えてませんか?髪とか燃えてません?髪は女の命とか言いますよ。火傷と大丈夫ですか?」


「問題ない。予知があまりできない奴でも、振り回すのは簡単だと思う。理論はさっぱり解らないけど使えそう」


「私、文系なんで機械とか良く解らないんですけど、大丈夫そうなら使ってみましょうかね」


「なら手合わせして、ジーモン?」


「おぉ、ノーラさん。やってみますか?」


 ノーラが刀身を展開させて軽く光熱剣を振る中、その光景を眺めながらジーモンはあれこれと尋ねた。それに受け答えしながらノーラが光熱剣を下段で構えると、真顔ながら安心したと言うジーモンも光熱剣を起動させたのだった。

 ジーモンもノーラ同様に軽く剣を振るうと、それを見たノーラは彼へ下段構えをしながら手合わせを求めたのだった。


「あの…准将閣下、出過ぎた発言かもしれませんが…あの真顔で切り合ってる帝国騎士2人、大丈夫なのですか?」


「安心しなさい大尉。一応あれでも帝国序列第3位と第4位でしてよ」


「なら、親衛隊特務隊ヴェアヴォルフ隊員として、総督を信用するだけです」


「なら、とにかく出動ですよ。子供の使い程度の救出作戦に色々と焦り過ぎましたわ…さっさと買い物を済ませて、総統と祝賀会ですわ」


 真顔で光熱剣を使ってアクロバットに手合わせをするジーモンとノーラを前にして、装甲服を纏う大尉がヴァレンティーネに不安そうな口調で耳打ちをした。その内容にヴァレンティーネも周りに被害を出しかねない2人を呆れるように見つめ、頭を抱えながら諭すように大尉へと伝えるのだった。

 そのヴァレンティーネの言葉に大尉は、装甲服のフルフェイスヘルメットから表情こそ解らないものの、呆れ半分の口調で彼女の言葉を納得するのだった。

 その大尉の言葉に頷いたヴァレンティーネは、被っていた制帽を目深に被り直しつつ命令を下すのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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