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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第5章:2444年帝国の旅
243/325

第7幕-7

趣味で書いてるので、温かい目で見てね。

 ガルツ帝国陸軍がリリアン大陸へと上陸してから、彼らには戦闘という戦闘が発生していなかった。その為に、彼らは少しづつ戦線を後退させていた。

 その間隙を縫うようにして進軍したアードルフ達の蒼狼騎士団は、本来は十重二十重に張り巡らされた防衛線を奇跡的に突破出来ていたのだった。


「第341戦車大隊のお通りだぁ!そら、退けぇ!」


[2号車より各車へ、横隊で前進。榴弾装填。砲撃命令が出ても、味方の塹壕陣地には当てるなよ!]


「おら行け!第342歩兵大隊が着く前に片付けろぉ!」


[2号車から各車へ、大隊長の言葉は程々に受け入れよ。機銃掃射始め]


 だが、蒼狼騎士団の奇跡は接敵したまでであり、急報を受けた第3軍本部によって背後を戦車大隊に取られたのだった。


「なっ!まっ、魔獣か!」


「いや、召喚獣だ!ブリタニアの召喚獣だ!」


「バカ言え!こんな足の無い魔獣がいるものか!」


「亀の化け物だ!」


「象だろ!」


 未だかつて経験したことの無い地雷原と機銃掃射、迫撃砲による砲撃で完全に統率を失った蒼狼騎士団にとっては、背後からの攻撃は最悪の事態であった。

 だが、悪い事態は重なり、猛烈な轟音をエンジンから響かせ雪原を爆進する戦車の姿で、騎士団兵士達は更に混乱するのだった。


「落ち着け!敵は召喚獣を出しただけだろう!アルトゥル、魔道士隊に攻撃を!」


「了解しました、騎士団長。魔道士隊!」


 騎士団が混乱を極める中、アードルフは伏せながらも危機的状況を前に何とか指示を出した。その言葉に、側にいたアルトゥルは空かさず大声で辺りに指示を出した。

 その命令に、必死に伏せ前方からの降り注ぐ迫撃砲弾と機銃掃射から逃れていた魔道士達は、片手に持っていた杖先の宝玉を騎士団後方に向けたのだった。


「「「「"光の精よ、我等の敵を払いたまえ。風の精よ、悪しきを討ちたまえ。天の光よ、我らよ敵を討ちたまえ"」」」」


 防御魔法の詠唱から遥かに声量の激減した魔道士達は、それでも彼方此方に降り注ぎ炸裂する迫撃砲弾に負けぬように叫んだ。彼らのその叫びに呼応するように、杖の先端の宝玉からは黄色い光の玉が現れ、その周りを風が逆巻き始めた。光は魔道士達の詠唱が終わりに近づく程に強くなり、逆巻く風は光の玉を猛烈に圧縮した。

 魔道士達の詠唱が終わり、彼等が杖を伏せた姿勢の後ろ手で戦車に向けると、彼らの杖からは猛烈に光り輝く光の矢が飛んでいったのだった。


「"光矢"の魔法か!」


「我が騎士団の光矢の魔法は帝国最良!撃ち続けろ!」


 猛烈な光を放ちながら右斜め後方から迫る戦車へと光の矢が殺到する中、アルトゥルはその光量に驚き、アードルフはその矢に騒がしく混乱を極めた騎士団が静かになった事で満足そうに頷くと、片膝立ちで大斧を振り上げながら叫んだのだった。


「良し!このまま…」


「騎士団長!あれを!」


 騎士団の魔道士隊が放った光の矢が着弾し、雪原に爆発を起こす中、アードルフは立ち上がり大斧を後方から迫っていた戦車大隊に向けた。彼はそのまま退却の指示を出そうとしたのだったが、周りに伏せていた一人の兵士が悲鳴を上げるように叫んだのだった。

 その兵士が指差す先に視線を向けたアードルフは、雪と土煙が晴れてゆく後方をまじまじと見たのだった。


「ばっ…馬鹿な…」


「無傷だと!そんな話があるか!」


 アードルフの視界に広がったのは、巻き上がった煙を切り裂いて変わらずに雪原を踏み締めて前進を続ける無数の戦車だった。

 直撃を多数受けたはずだった戦車には傷の1つもなく、傾斜装甲を多用されたその車体や砲塔に多数取り付けられていた爆発反応装甲さえも、攻撃などされ無かったとばかりに無傷なのだった。

 魔道士隊の攻撃を切っ掛けに後退して状況を立て直そうとしたアードルフだったが、無傷の戦車隊から片膝立ちという姿勢によって機銃掃射に晒されると、慌ててその場に伏せた。その隣では彼と同様にアルトゥルも雪原に再び身を沈めるのだった。


「まっ…魔道士隊!」


「魔道士隊!攻撃を…」


「無理です、今ので殆どの魔道士が魔力切れです!騎士団の魔道士でも、8級魔法の光矢は3回が限界で…!」


「大型魔獣を優に貫く光矢が効かないだと!」


 無数の弾丸に混ざり曳光弾が太陽の光を反射して光り輝く雪原の上を飛び回っていた。その光景は昼間に訪れた流星群のようであった。

 だが、その流星群に晒されるアードルフは一方的に殲滅されようとしてる恐怖から遂に悲鳴のような声を上げた。その声にアルトゥルも恐怖を隠さずに慌てて声を上げたが、その指示に帰ってきた魔道士隊の言葉は絶望そのものだった。

 その魔道士隊の言葉さえ金属の弾ける音と共に止まると、アードルフの背後で魔道士隊の上級階級者がフードを引裂き頭に大きな穴を空けながら地面に倒れたのだった。報告の為に頭を上げた所を狙われた事を察したアードルフは、慌ててその身を伏せると身を強張らせるのだった。


「なっ…何だ!閃光弾か!」


「魔法の矢って奴ですよ。爆発反応装甲が機能しない程の威力らしいですね」


「そんな物に今まで魔族は…大隊各車、こちら大隊指揮車。全ての敵を蹴散らせ!2号車!」


[了解。各車、砲撃始め]


「折角、敵さんからしてきた挨拶だ。しっかり答礼してやれぇ!」


 蒼狼騎士団の攻撃に第341戦車大隊の指揮車内で、オークの男はキューポラのスリットから差し込んだ光に驚いた。軽くその目元を覆いつつ目を擦って言葉を漏らした彼に、砲塔内にいる砲手のバッタ男が照準器を覗いたまま呟いた。

 その言葉に、これまでの魔法による被害を思い出した大隊長のオークは怒りに顔を赤くすると無線で大隊の各車に怒鳴りつけた。その言葉に、2号車の副官が冷静な口調で指示を出すと、大隊の戦車は一斉に砲撃を始めたのだった。


「アっ、アルトゥル!何の魔法だ!」


「解りません!解りませんよ、こんなの!」


「きっ、騎士団長!うわ!」


「かっ…神様、神様、神様!がぁっ!」


「誰か!俺をここから逃してくれぇ!」


 降り注いでいた迫撃砲弾と比べ物にならない程の爆発力をもつ戦車の榴弾は、着弾と共に何人もの兵士の鎧を粉砕し、原型を留めない程に引き裂くのだった。


「くっ…南西だ!南西の方から退却…」


「たっ、退きゃ…がぁ!」


「えゔぁ!」


「副隊長!」


 一方的な攻撃を前にアードルフは後退を決意したが、その号令を復唱しようとした魔道士隊で生き残っていた副隊長が喉を引き裂かれ、血を撒き散らしながら倒れるのだった。それと同時に、統率を消滅させながらも退却をしようとした魔道士隊が一斉になぎ払われるように雪原へと倒れた。

 雪原に大きな血の池を作る魔道士隊の姿に、アードルフは逃げようとした南西方向へ大斧を盾のように構えると膝立ちで身構えるのだった。


「騎士団長!南西から何かが来ます!」


「この状況で敵に増援だと!」


「連中は!ここで我々を皆殺しにするつもりですよ!」


「言われなくとも…ぐぉ!」


 近くで報告をするアルトゥルの横で味方の血飛沫で汚れきった兵士の悲鳴を前に、アードルフは思わず怒鳴った。

 だが、アードルフの見た周りの光景は彼の思った以上に凄惨な状況であった。無事な兵士は殆どの居なく、騎士団は3割弱にまで人数を減らしていた。その生き残りでさえ、肩や腕、脇腹に銃撃をくらい呻きながらのた打ち回り、酷いものでは内蔵の殆どを体外に露出させて虫の息であった。

 騎士団の現状はもはや兵士や屈強な男達の集団ではなく、烏合の衆か敗残兵に等しかった。


「こう…なればっ…南だ!包囲っ…される前にっ…南へ逃げるぞ!」


「アードルフ!南には敵の…」


「私が突破口を開く!とにかく続けぇ!」


「冗談…やむを得ないか…騎士団に続け!ここから脱出するぞ!」


「嘘でしょ…クソが!」


「続け!続け!」


「とにかく逃げるぞ!」


 大斧で弾丸を防ぐアードルフは、少しずつ削れてゆく斧の表面と近くで着弾した迫撃砲弾に慄き、辺りを見回した。その視界に南側の包囲網に穴がある事を発見したアードルフは、半ばヤケになった口調で兵に強行突破を支持した。

 アードルフの命令にアルトゥルは驚きと焦りに声を上げたが、空かさず声を上げたアードルフを前に部下へと命令を出すのだった。

 あちこちから飛び交う弾丸と砲弾を前に、兵士達は完全に怯えきっていた。だが、アードルフとアルトゥルの号令や近くに着弾した砲撃、その砲撃で3人の兵士が吹き飛ばされ手足や内蔵を鎧ごと吹き飛ばされると、全員が諦めた様に伏せた姿勢から立ち上がるのだった。


「Tryck framåt《突き進め!》」


「Springa!《走れ!》」


「Sluta inte!《足を止めるな!》」


[2号車から大隊長。敵が移動します。包囲網の隙間から脱出するのかと]


「わざわざ叫んで命令出すとは…フリッツ少将から"少しだけ逃してやれ"って命令だからな。第342歩兵大隊!聞こえるか!ありったけお見舞いしてやれ!」


[第342歩兵大隊、こちら第341戦車大隊。了解した。こっちに当てるなよ!]


 一方的に攻撃され続けていた蒼狼騎士団が突如として動き出すと、第341戦車大隊と第342歩兵大隊はわざと開けていた戦線の穴へと向かう騎士団に撤退を察した。

 その行動を前に、2つの大隊は無線で連絡を取り合うと左右から挟み込むように一斉射撃を始めたのだった。


「走れ!足を止めるな!止め…うわっ!」


「クソッ、クソッ!急げぇ!」


「死にたくない!死にたく…おわっ!」


「口の前に足を動かせ!」


「皆!私に…」


 左右から止めどなく続く射撃は多くの兵士を撫でる様に放たれた。その射撃で、ある者は頭をヘルメットごと吹き飛ばされると脳ずいを撒き散らして倒れ、ある者は着弾した榴弾に半身を持っていかれるのだった。その内臓と体液をあらん限りに撒き散らす同胞に怯える兵士達は、足を止めた者から容赦なくその身に無数の穴を開けられるのだった。

 その惨状にアルトゥルが声を上げて急かしアードルフが先導しようとした時、彼の横から砲口を向けた戦車が容赦なく砲撃するのだった。


「その程度の爆裂魔法でぇ!」


 アードルフの咆哮が響き着込んだ鎧が一瞬だけ黄緑色に輝くと、彼は飛んでくる砲弾を一息で叩き落とそうとした。

 だが、アードルフの斧に砲弾が当たった途端に、砲弾は大斧を斜めに貫通し弾芯をその向こう側のアードルフへと伸ばしたのだった。


「はっ…あああぁぁぁああぁああ!」


 飛んでくる攻撃を榴弾の様なものと思ったアードルフだったが、飛翔してきた徹甲弾の威力には大斧も彼の鎧も耐えきれなかった。そのため、彼は右側を前にして伸ばした体勢によって左肩に弾芯の直撃を受け、左腕が宙を舞った。

 刃物で切り取ると言うより乱雑に千切り取った様な肩の断面から洪水の様に血流を吹き出させると、アードルフは絶叫を上げながら着弾の衝撃で雪原を何度も転げ回るのだった。ヒビまみれになり、あちこちがひしゃげた鎧が止まる頃にはアードルフも意識を失っていた。だが、着弾で高熱を帯びた鎧が転倒の際に肩の傷を火傷と圧迫で止血したことで彼は失血死を免れ瀕死の重症で済んだのだった。


「あっ…蒼鬼が倒れた…」


「騎士団の終わりだ…俺達の終わりだ…」


「惚けている暇か!団長!アードルフ!」


「うぅ…あぁ…」


「良かった。生きてる」


 それでも、騎士団長であるアードルフが倒れるという事態は数少ない騎士団の生き残りに衝撃と絶望が与えられたのだった。

 絶望しきった兵士達が諦めの声を漏らす中、奇跡的に無事だったアルトゥルは死を覚悟した兵士達の言葉を前に激を飛ばしつつ雪原に大きな跡を残して倒れるアードルフの元へと向かった。彼の視界にどれだけ鎧がひしゃげても無事だったフルフェイスヘルメットの下で呻くアードルフを前に、アルトゥルは安堵の言葉を漏らしたのだった。

 それと同時に、アルトゥルはふとした違和感を関して立ち上がると辺りを見回した。


「敵が…いない…」


 アルトゥルの視界には、四肢や内臓を散乱させ誰が誰だか判別のつかない死体ばかりであった。だが、何より重要であったのは、少し前まで冷酷に攻撃を行い長距離から一方的に虐殺を繰り広げていた敵の姿が無かった事であった。


「見逃して…くれるのか…」


「アルトゥル副団長。騎士団の現在員、85人。その内…」


「もう良い…撤退以外に道はないし、あんな敵に勝てる筈もないだろう…」


 壊滅的被害の中でアルトゥルは敵の居たはずの塹壕や土龍の如き戦車、敵の歩兵の姿が無いことに奥歯を噛み締めて呟いた。

 その呟きの後にアルトゥルへ報告に来た兵士の言葉を遮ると、彼は抜けそうになる腰に必死に力を込めてアードルフを担ぎあげるのだった。


「あの連中は…あんな魔法が本当に人間の出来る業なのか…」


 全滅を予想し死を半分覚悟していたアルトゥルは、忽然と姿を消した敵に疑念を覚えながら足を引きずり、同胞の亡骸を見捨てて騎士団の生き残りと共に撤退するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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