第7幕-6
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
アードルフ率いる蒼狼騎士団の突撃は、最前列に起きた緊急事態で唐突に止まった。
「うわっ!」
「なっ!何が…ごぁあ!」
「定置魔法だと!」
「全隊、止まれ!」
突撃の止まった原因は、隊列の先頭の足元が吹き飛んだ事から始まった。その爆発は雪原を巻き込み、辺りに爆風と小さな鉄球を無数に撒き散らしたのだった。
音より速く宙を駆け抜ける鉄球を爆風と共にばら撒く対人地雷は、その真上にいる兵士を肉塊に変え、周りにいる兵士達の手足や体の一部をもぎ取ると彼等を土や雪と共に吹き飛ばしたのだった。
「とっ、止まれ!」
「下手に進むな!魔法陣を踏むぞ!」
「なんちゅう数の定置魔法だよ!何人の魔道士がここに居るんだ、何万人だよ!」
「んな事、言ったって…うわっ!」
「おっ、押すな!」
「後ろが押してんだ!うぉああ!」
だが、隊列にいた全員が全力で塹壕へと突撃をかけていた事が仇となり、各部隊の指揮官が停止命令を出しても兵達は走る勢いを止められなかった。前列は何とかその場で食い止めようとしたが押し寄せる同胞を抑えきることは出来ず、一人が地雷の餌食となると一気に騎士団兵士達は地雷へと雪崩混んだのだった。
その結果、ガルツ帝国陸軍の敷設した地雷原によってノーベル帝国軍蒼狼騎士団は完全に勢いを失速させられた。何より、蒼狼騎士団は勢いの失速だけでなくその埋設された地雷の数の多さによって大混乱に陥ったのだった。
「あぁああぃあ!腕がぁあ!」
「あっ、足…俺の足がぁ!」
「ヨーン!部隊を旋回させろ!急停止させれば後続に押し出される!」
「むっ、無茶言うなアルトゥル!こっちだってもみくちゃ何だ!おい、押すな!」
「騎士団長!魔道士隊に解除魔法を!うわっ!」
「ランナル隊長!がっ!」
「ちっ、治療士!回復魔道士!」
「脇腹から半身が千切れてる!無理だ!」
「百人隊長がやられたのか!」
停止しようにも殺しきれない勢いは味方を押し、突然に隣の人間が地面からの爆発によって吹き飛ばされ自分も半身を吹き飛ばされる。そしてその爆発がどこで起こるか解らず、誰がその爆発に巻き込まれるか解らない事で、騎士団の混乱は加速していった。
そのトドメに、彼方此方で起こる爆発に隊列内にいた隊長クラスの人間が巻き込まれると、蒼狼騎士団は遂に統率を失っていったのだった。
「やっぱりブリタニアかエスパルニア軍だ!でなけりゃエルフの罠だ!」
「逃げろ!こんな所にいたら…うわ!」
「どこに逃げんだよ!後に下がれ」
「落ち着け!全員、落ち着け!」
「アードルフ騎士団長!」
「アルトゥル!皆の統率を取り戻せ!魔道士隊!定置魔法の解除を!」
収まらない爆発に、兵士達が半端に生きたまま重症を負わされ雪原に臓物を撒き散らした。その光景は多くの騎士団兵士に恐怖の感情を逆撫でた。
それをアルトゥルやヨーン等の騎士団指揮官達が必死に立て直そうとする中、騎士団の最前列でありながら無事だったアードルフが最前列の兵士達を抑えながら指示を出すのだった。
だが、アードルフの指示を受けたはずの魔道士隊が騎士団の中で一番混乱しており、その度合いはもはや収集が付かない程であった。
「魔道士隊!オーケ、何をやっておるか!」
「だっ、団長!駄目です、解除魔法が効きません!」
「何を言っておるか!定置魔法が…」
「解除魔法を何度も掛けても!解除出来ません!これは8級以上の魔法で構成されています!」
「魔法防壁は…」
「攻撃も魔法によるものでは…」
だが、アードルフの指示を受けたはずの魔道士達から復唱も報告も来ない事に苛立つと、彼はローブ姿の魔道士達に怒鳴りつけた。
その怒鳴りを受けたオーケと呼ばれた男は、焦りや驚きが溢れんばかりに叫ぶのだった。無数の兵士達の声を潜り抜けアードルフの耳に響く声は屈強な彼さえ驚くの程の気迫溢れる声であった。更に、男達の隙間から見えたオーケの表情は鬼気迫るものであった。
オーケから放たれた報告を前に、言い返そうとしたアードルフだったが、その言葉さえ怒鳴るような報告に打ち消されるアードルフは混乱に言葉を漏らした。
その言葉にオーケが説明しようとすると、彼は魔道士隊の隊列で突然巻き起こった爆発に巻き込まれたのだった。
「なっ、魔道士隊が!うっ…」
「おい、ヤンネ!ヤンネぇ!」
「やっ、ヤンネの頭が千切れた!」
「連中も俺達も、まだ定置魔法に入ってないだろ!」
「爆裂魔法に魔法矢だ!魔法矢の攻撃だ!」
「妨害魔法が効かないのかよ!」
「盾の魔法も効かないのか!」
「ふっ、伏せろ!とにかく伏せろ!」
地雷原付近で大混乱を起こす騎士団に更に追撃として迫撃砲と機関銃や小銃による斉射が開始されると、兵士達は箒で払われる塵のように吹き飛ばされていった。
その光景は地獄絵図であり、着込んだ鎧は弾丸の前には紙切れであった。あっさりと貫通した弾丸はその下にある兵士達の肉体を貫き、脇腹や手足を千切れ飛ばされ多くの兵士がのたうち回っていた。
更に、統率を失った兵士達に降り注ぐ迫撃砲弾の雨は、その死と破壊の破片と爆風と辺りに撒いた。着弾点のすぐ側では、爆風で撒き散らされた鉄の破片が兵士達の鎧と肉体を一緒くたに粉砕し、血肉と鉄を判別出来ない肉塊へと変えて絶命させるのだった。直撃を避けたとしても、その衝撃は近くの兵士達を吹き飛ばし、鎧の下や体の中で暴れ回り内蔵を完膚なきまでに引き裂いた。
弾丸に貫通された鎧や抉られた傷口、爆風で体の穴という穴から噴水の如く赤黒い体液を吹き出し兵士達が無数に発生すると、騎士団の兵も士官も全員が死の恐怖を前に降り積もった雪にその身を隠しながら死の嵐が去るのを悪態をついて耐えるのだった。
「アードルフ騎士団!盾の防御魔法も…全ての対抗魔法が効きません!」
「騎士団!このままでは騎士団が全滅します!」
「罠だったんだ!こんな無茶苦茶な罠を仕掛けて!俺俺達を皆殺しにするつもりだったんだ!」
「あの警告に従ってれば…」
「獣の前に膝を突くのかよ!ふざけるな!」
それでも、掃射や着弾に運悪く当たる兵士が後を絶たない状態に兵士達は収拾が付かない程に混乱をするのだった。雪の隙間からはみ出した頭部や腕が射貫かれ、着弾の爆発に死体が宙へ巻き上がると、アルトゥルを含めた多くの兵士が、悲鳴の様にアードルフへと指示を求めるのだった。
指示を求める声が段々と本当の悲鳴に変わり始めても、アードルフは今まで経験した事のない程の一方的な攻撃に鎧の下で焦るのだった。
魔法とは言えど、結局は人が出す力である。だからこそ、魔法を言い表すにはどちらかといえば運動能力に近い。その魔法で言えば爆裂魔法を言い表すなら8mの走り幅跳びに近く、たとえプロでも早々何回も出来る芸当では無かった。
「こんな馬鹿げた事…人間や…まして魔族の出来る事では…」
「騎士団長!ご指示を!」
「この蒼鬼アードルフが…我ら蒼狼騎士団がこんな連中に…」
「騎士団長!連中の魔法は我々の対抗魔法で防げません。ここは後退して態勢の立て直しを!」
「敵と刃を交えずに…」
「騎士団長!」
目の前で繰り広げられる以上な事態にアードルフは驚きと恐怖に思考を停止させられていた。彼の経験した幾多の戦場においても、これ程に一方的で無機質で、容赦の無い戦いは経験が無かったのだった。
そのためにアードルフは自分の横や後で赤黒い臓物を撒き散らし体を2つに千切れさせる兵や、吹き飛んだ自分の腕を探す兵等の無数の惨状に言葉を失いかけるのだった。
そんなアードルフの近くに雪を掻き分けて這い寄ったアルトゥルは、身動き一つせずに塹壕を見つめて呟く彼に怒鳴るように指示を求めた。だが、肝心のアードルフは積もる雪に沈み込んだ大斧の柄を握り呟くばかりだった。
そんなアードルフにアルトゥルは堪らず叫ぶと、彼はその大きな肩を揺らしてアルトゥルの方向にその身を捩らせるのだった。
「団長、これ以上の前進は…」
「我らが…我ら蒼狼騎士団が敵に背を向けろと言うのか!」
「態勢を立て直すのです!ここで全滅すれば、救国も何もありません!」
「だが!」
「エッバ様はどうなさるのです!産まれたばかりのアンヤ様は!家長であり、国の英雄の一人たるあなたは生き残らなければならない!」
睨み合う二人は怒鳴りあう様に言い合った。その声は周りの爆音や無数の風切り音、肉の千切れる音と悲痛な悲鳴に描き消えないようにする為だった。それでも、声を荒げた事で少し感情的になった二人の言い合いは短く熱くなった。
その言い合いの終止符として、アルトゥルがアードルフのヘルムに顔を寄せて目の前で力強く言い放つのだった。その言葉ば意固地に経戦をしようと考えかけたアードルフの意識を冷まさせると、彼は伏せたまま後に伏せる生き残った団員を向いた。
既にアードルフの視界に見える生き残った団員は7割近くまで減っており、アードルフは深く息を吸った。
「蒼狼騎士団!総員、後た…」
だが、アードルフの声は至近で響く爆音に一瞬で掻き消されたのだった。
「なっ!何だ」
「新…手…か?」
驚くアードルフはその爆音の飛んできた方向を確認しようと辺りを見回した。その爆発跡から後方からの攻撃を察したアルトゥルは辺りを見回すアードルフの横で後ろを見るのだった。
そのアルトゥルが言葉を濁すのに疑念を覚えながら、全身鎧の巨体を更に後方へと向かせたアードルフはその光景に驚愕するのだった。
そこには40を超す程の数の戦車が隊列を組み、まるで一匹の生き物の様に迫るのだった。
「あれは…何だ…」
「Ich werde es euch beiden wegblasen!《吹き飛ばしてやるぞ、けもの共が!》」
雪原に怒声が響くのだった。
読んでいただきありがとうございます。
誤字や文のおかしな所ありましたら、報告をお願いします。




