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帝国再興記~Gartschlands Gloria~  作者: 陸海 空
第1章:たった1つの冷たいやり方
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第四幕-3

「一体っ!それはっ!どういう事なの!」


ホーエンシュタウフェンはファルターメイヤーへ詰め寄ると、1語づつ強調して言った。

 事は親衛隊入隊訓練志願の後から始まる。スラムでの一連の騒動は、実はたまたま外出していたブリギッテの姉であるファルターメイヤーに影から監視されていた。彼女はその騒動からカイムがホーエンシュタウフェンに許可なく独自の私兵を持とうとしている事、その人員をスラムの貧民から動員しようとしている事を語って聞かせた。


「貴女の散歩趣味もたまには役立つモノね…」


「しかし、姫様。貧民街の連中を動員して軍隊等と…あの男は一体何を考えているのです?」


「秘策があるのか、ただの能無しか。どちらにしても目的は聞かなければならない。首都デルンにわたしの管理外の兵力があるのは不味い」


「お供します」


 確かにホーエンシュタウフェンはカイムの行動の自由を許した。それはあくまでも、カイムが召喚した英雄にしてはヒト族への抑止力としてで役に立つか微妙でも、帝国内ではかなり強いからであった。故に、あくまで手札とし取って置く為の処置であるために、彼女はカイムを下手に拘束や監禁して南方や西方貴族と共に反旗を翻されたら不味いと考えていたのであった。

 だからこそ尚更、自分の知らない所で勝手に自分の私兵を持つ事はホーエンシュタウフェンには了承しかねた。強力な個人はそれなりの強さの大群で迎え撃つことによって対処は出来る。だが、強力な個人とそれが指揮する集団となれば敵として対応するのが難しい。

 ホーエンシュタウフェンは状況確認の為に演説原稿手を書く手を止め席を立ちカイムの元へ向かう支度をした。


「二人ともどうした?そんなに慌てて何処へ?」


「アモン、貴方こそ何をしているのです!あのカイムとかいう男が貧民街で徴兵を行っているんです!」


「貧民街?徴兵?昨日の今日で集まるものかな?しかし、彼はそんな事をするために外出したのか…しかも泊まりで徴兵の宣伝とはな」


 細くレースの部屋着から動きやすいパンツルックに着替えたホーエンシュタウフェンは、ファルターメイヤーを引き連れて城の廊下を急いだ。その途中、廊下を数枚の書類を衛兵に託すアモンと合うと、彼は慌てて彼女へ声を掛けた。

 アモンの発言にファルターメイヤーが説明をすると、彼は自分の角を数回撫でながら天井を見上げて呟いた。それが彼の思い出す仕草だった。


「アモン、カイム達は昨日城へ戻ってないの?」


「衛兵の話じゃ城に帰還してないらしい。昨日の彼等は外泊だよ」


「何でそれを先に言わない!」


「報告書は出したはずだがなファルターメイヤー?君が確認していないないだけだろう…」


 アモンの言葉にホーエンシュタウフェンが驚きながら尋ねると、彼は付け足す様に説明した。その説明にファルターメイヤーは顔を赤くしながら怒鳴った。

 だが、アモンの強気な一言を前にファルターメイヤーは一瞬で怒りを収束させていった。彼は眉間に人差し指を当て思い出そうとする彼女に頭を軽く掻いて苦笑いした。


「アモン…そういう報告書は私に直接出しなさい…」


「皇女殿下のお手を煩わせるのは如何なものかと思ったのですがね?」


「ファルターメイヤー?なんでそういう重要な書類の存在を忘れるの…」


 ホーエンシュタウフェンもアモンへ少し呆れを混ぜて言った。だか、彼の軽口を前に少しの間静かになると、アモンへローキックを入れてからファルターメイヤーへ尋ねた。


「いや、その、違うんです。私は姫様に心配をかけたくなかったんです。姫様は会議までの書類作りや演説原稿、今後の計画と忙しい。その上あの似非英雄の為に心を割くのが良くないと思ったんです!姫様の為で…」


「そうね…まぁいいわ。今回は不問とするけど、二人とも今後は一層注意するように」


「御意のままに」


「解りました、姫様」


 ホーエンシュタウフェンはファルターメイヤーの愚直な言葉に呆れ半分で照れながらアモンを含めて二人に言った。その言葉の返答にも若干頬を赤らめると、彼女は二人を引き連れて廊下を急いだ。


「しかし、私兵を持とうとするという事は、あの似非英雄は何かしらと戦うという事でしょうか?」


「戦うとなれば、南部と西部の貴族か?まぁ、書庫を拠点にしているとなれば南部の田舎者でも状況が解るだろ」


「なら、その気になれば彼一人でも連中と戦えるのは貴方が一番知っているでしょう?肝心なのは"なぜ組織を持とうとするのか?"です。」


「それは自分が吹き飛ばされたことを馬鹿にしているのか?だとするなら流石に納得できんな…油断してたんだ!」


 自分の背後であれこれと話すアモンとファルターメイヤーの会話を聞いていたホーエンシュタウフェンは、寝不足と精神的疲労に頭を抱えながら深い溜め息をついた。


「同行者が、確か貴女の妹よね。どうしてこのような事に?」


「良くできた妹ですし、信頼しています。私も"しっかり不測の事態に対応しろ"と言ったのですが…それ故に、何故このような事に…」


「つまりは当てにならないのね」


 ホーエンシュタウフェンの言葉にファルターメイヤーも頭を抱えた。彼女は信頼の部分を強く言い、自身の妹とは仲が良く尊敬されているとも思っていた。

 だが、ホーエンシュタウフェンはファルターメイヤーの妹であるブリギッテが、姉に対して尊敬より嫉妬を抱いている事を既に知っていた。だからこそ、妹の心を知らない姉の姿に彼女はただ黙った。


「とにかく、この状態の放置は愚策よ」


「ホーエンシュタウフェン、くれぐれも言葉は選んでくださいね?演説みたいに何回も出来ないんだから」


「アモン…うるさい…」


 アモンの言葉に彼女は、長い銀髪を振り額の角を天に向けながら肩越しに振り返った。その表情は恥ずかしさや悔しさに赤くなっており、直ぐに前を向くと早足で書庫の方向へ続く廊下の扉を開けた。


「さぁ、行くよ。無垢なる民を誑かす英雄の元へ」


 ホーエンシュタウフェンはただ静かに呟き歩いた。

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