第7幕-3
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
事は6時間程遡る。
帝国国防陸軍は、アポロニアかダークエルフをスオミ族として救出の命令を出した事でリリアン大陸へと輸送された。
海軍の輸送感に揺られ1月1日の新年の夜中に出港した足の早い艦で構成された第一波は、1月8日の早朝にリリアン大陸のカッペ鉱山付近の海岸に上陸したのだった。
「分隊長、あっちにオオカミがいます」
「オオカミ?そんなのカースナウの森にだって出てくるそぞ?」
「いや、そんな大きさじゃないんですよ!」
「んな事を言っても何もなぁ…」
空軍の降下猟兵師団が確保した防衛線へ展開した陸軍は、数日間の環境適応訓練や何もない雪原と森林を警戒していた。
だが、帝国暦2445年1月9日午後12時37分に状況は一変した。それは、国防陸軍第1軍団第3軍第34装甲師団麾下第343歩兵大隊が突如として未知との遭遇をしたのだった。
「居たよ…」
「何だ?あのオオカミモドキ…」
「角、生えてますよ。オマケに自動車並みの大きさです」
「報告にあった"魔獣"ってヤツか?」
「にっ、2匹だ!2匹居ますよ!」
その防衛戦で警備をしていた第343歩兵大隊第3中隊の第31分隊の兵士達は、森林の手前に作った塹壕の南側の彼方に巨大なオオカミを見たのだった。
体の背中側に灰色の体毛を生やし腹側に青い毛並みを生やしたそのオオカミらしき生き物は、頭に生えた鋭い一角を振りながら周りを警戒する様に現れた。その大きさは、兵士達が900m程の距離を置いても大きいと思える程に一般的なオオカミの3倍はあろう大きさであった。
そのオオカミの様な怪物は、前後に並んで兵士達の様子を伺うように辺りを歩き回るのだった。ただ、決して一線を越えようとせず自分達を伺うその姿に、兵士達はひたすらに警戒を続けるのだった。
「何なんだろな、あれ?」
「知るかよ、野生動物か何かだろ?」
「案外、敵の斥候だったりして」
「第31分隊、消音器を装着して発砲用意。あんなのがここいらをうろうろしていれば、いちいち紛らわしい。それに、あんなオオカミが倒れて死んでれば、敵もそうそう出て来ないだろ。かかれ!」
「かかります!」
塹壕の中で数人の兵士達が小銃を構えると、彼等はオオカミの姿を不思議そうに眺めているのだった。そんな彼等は思い思いの感想を巨大なオオカミに向けるのだった。
そんな歩兵達がオオカミを眺めていると、塹壕にいる彼等の後ろを似たような白い装甲服に身を包んだ男が駆けて来た。その男は迷彩の掛けられた階級章をつけた軍曹の階級章を着けていた。その男の小声ながらもきちんと響く指示を聞くと、12人の兵士達は気怠げながらも手際良く自動小銃に消音器を付けるのだった。
「騎士団長、使い魔からの視界では敵の兵士は全身を白くした甲冑の兵士の様です」
「甲冑?こんな北の地で甲冑を着込んだ兵士が居るだと?凍傷になるぞ、常識を知らんのか?」
「ブリタニアの兵士…とは思えませんな。おかしな女王の改革とかでも、兵をわざわざ苦しませるとは…」
害獣出現に対応しようとする帝国陸軍を前に、彼等を警戒する2匹のオオカミの更に後方300mには、青字に白い迷彩の入った革と金属鎧を継ぎ接ぎした様な特殊な鎧をした無数の群衆が居たのだった。彼等は全員同じ格好をして、激しく連帯感を主張するのだった。
その中で大斧を背負う蒼い全身鎧の大男が、青と白の迷彩柄のローブで目元を纏う魔道士の報告を聞くと、彼の持つ水晶を覗き込みがらその光景に呟いた。
「そもそも、"他国がダークエルフを助けるのか?"と言った所ですな?アーンドルフ騎士団長」
「とはいえ、あんな獣を助けるだけでなく、民間人の区別なく街を大規模魔法で焼くような連中だ。奴等はもう人では無いな」
大男の覗く水晶には雪原を蠢く人影が映り、彼の周りを屯する青い線で装飾された鎧の男達は彼の言葉に同意の言葉を言うと頷くのだった。
騎士団長であるアードルフはオーガを模した鎧越しでも解る程に疑念を示すと、イッカクの様な角を生やした兜を被る男が彼に意見を言った。彼が太めの金髪の眉をひそめて言うその内容に、アードルフも納得した言葉を呟くと魔道士の男にも指先で指示を出したのだった。
「使い魔を前に進ませろ。せめて奴らの顔の1つでも判れば、国の見分けもつこう」
「了解しました。使い魔を前進…なっ!」
「ん?今の音は…おい、どうした」
「おい、クリストフェル。どうした?」
アードルフの指示に従おうとした魔道士の男は、命令を復唱しようとした。だが、その男はローブの下の屈強な顔に苦悶の表情を浮かべると、カエルの潰れた様な声を出してうつ伏せに勢いよく倒れたのだった。
その男が倒れる少し前に、アードルフの耳に弾ける様な男が音が響いた。だが、その音を気にする前に、彼は突然の部下の行動に対して冷静にながらも心配そうに尋ねた。その言葉にも反応しない魔道士の男に、副官のイッカクの様な角を生やした兜を被る男が倒れる男の肩を掴んだ。
だが、ローブのはだけたその顔は苦痛に白目を剥き、口から泡を吐いて気絶していたのだった。短く切り揃えられた金髪が一瞬で吹き出した汗に濡れきった部下の姿を見ると、アードルフは手に持つ背中の大斧に手を伸ばし構えた。
戦闘態勢を取るアードルフに、イッカクの様な角を生やした兜を被る男は前面の装甲を下ろして
長槍を構えると、無数に屯するアードルフの部下達は一瞬で隊列を組むのだった。
「アルトゥル、使い魔がやられたのか?」
「その様…ですな。一挙にまとめて2匹、詠唱も準備段階も無しの遠距離魔法…相当な手練ですよ」
「あの海軍王国が…島に住む田舎者は一生田舎に入れは良いものを…芋騎士共が!」
「騎士団!前進用意!」
「あんな非情な大規模魔術を使う連中だ。負傷した皇帝陛下や、苦しむ民の為にもあの田舎騎士共に天誅を下す!」
アードルフの大斧に填められた宝石が3つ煌き、彼が高らか斧を持ち上げ天に掲げると隊列を組んだ歩兵達が前進を始めた。前衛に盾と宝玉の嵌った槍を持つ歩兵達が横隊を組み、大きな水晶の付けられた杖を持つ魔道士達も後へ続くと数千人の騎士達が塹壕へと相対した。
その隊列の後ろで、アードルフは横に並ぶ副官のアルトゥルに部下の倒れた理由を尋ねた。その言葉に彼は苦々しく怒鳴ると天に上げた斧を塹壕に向けるとその隊列の後ろで、アードルフの横で行進するアルトゥルは戦列に前進を指示した。その言葉に続くように、アードルフが天にも響く様に大声で啖呵を切ると、地響きの様な歩調が塹壕へと進んだのだった。
「帰還命令は良いので?」
「アルトゥル、私は"ここまで来て、あの様な姑息で卑怯な手を使う連中を前に黙れない人間"と解るだろう?」
「将軍殿が怒こりますよ?」
「我が蒼狼騎士団が勝ち戦を運べば首都の皇帝陛下や苦しむ民草も喜ぶはずだ。それが討たれた者達の魔手向けになる。あんな連中に怪我をさせられた妻や家族の為にも…」
「"見事破って、首を取る"ですか?」
その歩調が響く中、アルトゥルが兜の隙間からアードルフを少し見上げて不安そうに尋ねた。その言葉には彼も苦々しい口調から少し砕けた口調に変わって答えた。その口調に安心したアルトゥルも少しだけ軽口を混じらせたが、アードルフが口調を少し暗くするとアルトゥルも真面目な口調で軽口を言った。
「行くぞ、あの獣連中を駆除してやる!」
アードルフの決意の言葉と共に彼の率いる騎士団は素性の解らぬ敵軍である帝国陸軍の戦線へと目指して突き進むのだった。
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