第6幕-4
趣味で書いてるので、温かい目で見てね。
「投下航路良し!目標確認!」
サウリの防御魔法を迎撃行動と勘違いした国防空軍第1航空艦隊だったが、ロータルの命により爆撃を強行したのだった。
「元帥閣下…」
「ズサネ…もしもの事があったら、愚かな父を恨むと良い…皆もだ、私の無茶に付き合わせたな!」
[閣下!ここで引くような腰抜け、ここにはいませんよ!]
[編隊長機に続けぇ!]
[劣等種のケツに爆弾ブチ込め!]
「皆…そうだな、やるからには徹底するぞ!この街を世界から消しされぇい!」
既にエスペレンキ中央のラオヴィリンナ城の上空に差し掛かる所で、ズサネは操縦席のロータルへ声を掛けた。その声は敬語でこそあれ明らかに彼の末娘としての声であり、ロータルは父親としての謝罪と部下への言葉を無線に向けて語った。
だが、ロータルの言葉に呼応する無線は勇ましい言葉ばかりであり、彼もそれに鼓舞されると空を切り裂き突き進む編隊へ向けて吠えたのだった。
「全機投下!投下!」
爆撃手が編隊の先導としてエスペレンキの街の残り半分への爆撃開始を指示したのだった。
「まだ来るか!物の怪ども!」
無数の爆撃機がその無尾翼の翼内や胴体から数え切れない程の爆弾を投下する中、魔法により城の外の状態を大まかながらも察知出来るサウリは雨の様に降り注ぐ爆弾に身構えた。それは、彼が爆弾という物を理解した訳でなくとも、爆発の原因である事を理解したからであった。
「うおぉおぉ…おぉ、うっ、うぅ…」
だが、降り注ぐ絨毯爆撃がラオヴィリンナ城の防御壁に着弾した途端にサウリは唸りながら片膝を地につけたのだった。
積雪の多いリリアン大陸は小さな家が多いとはいえ、ラオヴィリンナ城は城と言うだけあって広大な敷地面積であった。その端である城門と外壁1m先までに展開された魔導防御壁に着弾した一発の爆弾で、既にサウリはこの後に自分に降りかかる苦難に身を竦ませたのだった。
「うぅ…うあぁあぁぉあえああ!」
「ちっ、父上!父上、気を確かに!」
「サっ、サウリ王が苦しんでいる…だと!」
「一体、何が起きているのだ!」
魔導防御壁は自身の魔力を魔術を通して壁のように展開するというのが、ヒト族やエルフの理解する所である。それ故に、斬撃や刺突等を防いで消失した魔力を再びその欠けた場所に充填する事で、魔力が尽きない限り壁は形成される。さらに、その魔力の強度によって壁の強度も必然的に上がってゆくのだった。
だが、航空爆弾は元より鉄筋コンクリートの壁400mmを貫通出来るような物ばかりであり、対艦用の徹甲爆弾さえ混ざる始末である。如何に強大で攻城塔や破城槌、爆裂魔法を抑えられるサウリの膨大な魔力から成す魔導防御壁でも、根本的な貫徹力に差があり過ぎた。
それ故に、無数の爆弾の着弾で急激に膨大な魔力を吸い取られたサウリの体には桁外れな悪寒と激痛が走った。彼は生涯感じた事の無い感覚を前にタバコで枯れた声を更に潰す程の絶叫を上げると、白目を剥いて倒れたのだった。
顔面蒼白で駆け寄るミリアやヴァルッテリ、将軍達が駆け寄ったが既にサウリの意識は無く、ただ小刻みに震えるのだった。
「なぁっ!魔導防御壁が消えるだと!」
「ヴァルッテリ!冗談は止めなさい!」
「ミリア、冗談でこんな事言えるか!クソッ、あれか?あんな翼竜見た事…うわぁっ!」
ミリアや将軍達の悲鳴にも似た声を上げる中、サウリの容態からヴァルッテリは急いで部屋の窓へと走った。
戦略会議を行っていた部屋は、爆撃の被害を辛くも避けた城の端にあった。ラオヴィリンナ城は城と言うよりは箱のような形をしていた事で、その部屋の窓からは西から北までの範囲の外を見る事が出来た。その景色には夜闇を照らし街を焼く業火と、城を何とか守ったものの空気へ溶けるように消える薄緑に光る魔導防御壁が見えたのだった。
余りにもの衝撃にただ見たままを叫んだヴァルッテリに、父親を抱きかかえ起こそうとするミリアが叫んだ。その表情は驚愕よりは父親の能力を疑うような発言に対する怒りに聞こえる響きであった。
ミリアの言葉に対してがなるヴァルッテリだったが、窓を開け放ち外を見上げ上空を悠々と飛びながら未だにエスペレンキの東へ向けて絨毯爆撃を続ける無数のヨルムンガンド戦略爆撃機の大編隊を眺めた。だが、その大編隊をよく観察する前に、彼は猛烈な震動と爆風に部屋の中へ吹き飛ばされるのだった。
[軍団本部小隊、こちら第135爆撃航空団。敵城への第二次爆撃完了。損害を与えるも城はまだ健在。追加爆撃を要請する!]
ヴァルッテリの吹き飛ばされた理由は、ロータルの徹底攻勢の意志の現れである第2次攻撃命令が下ったからであった。
ロータルは魔法に対して警戒こそしていたが、防御に徹して迎撃行動を見せなかった事でトドメを刺す事を決めたのだった。彼の命令により、二人乗りの戦闘爆撃機で構成された対地攻撃隊が水平爆撃でありったけの爆弾を放っていった。
だが、一見レンガ造りで爆撃を受ければ一撃で崩落しそうな城も、魔法の力で見た目以上に強度があった。その為に、壁や天井に無数の穴が開いても未だに城の原型を留めていたのだった。
「なっ!マインラート達め、抜け駆けしやがって!俺達も降りるぞ!」
「おい、ルーデル。命令は135までの爆撃航空団だぞ!後ろの俺は止めたからな?」
「うっせぇ、ウッツ!お前はしっかりあの城、狙え!第138、全機突入!」
[なっ、団長!やるんですか?]
「おい、ゲッツ!俺が"やる"ったら、絶対やるんだ!」
その状況に、爆撃を最後に行った部隊の指揮官であるマインラートと呼ばれる男の声が無線で驚愕の見え隠れする報告をしたのだった。その報告を聞いていたウマ獣人であるルーデルは乗機である広く大きな後退翼にV字の尾翼、翼の付け根中央に吸気口を持つ戦闘爆撃機を斜めにロールさせつつ城の状態を確認した。
そこにはわずかに炎上するも無事な城があり、ルーデルは悪態をつきながら機体を水平に戻すと部隊の全員に叫んだ。それを聞いていた後部座席に収まる悪魔族のウッツは、ルーデルへ呆れながら制止する言葉を掛けつつ降下に備えて酸素マスクをヘルメットへ固定するのだった。
無線からは部下であるゲッツの尋ねる言葉が響いたが、既に爆撃の為の降下体勢に入り始めた隊には今更過ぎる一言であった。
「ルーデル、誘導爆撃で急降下は…」
「爆撃機乗りなら、急降下してナンボだろ!全機、突入!突っ込めぇ!」
[[[[了解!]]]]
電子機器の発展で爆撃の精度が上がった国防空軍では、急降下爆撃は廃れたものであった。それでも、ルーデルは部隊の先頭を切って城へと急降下を始めた。彼の命令に従い部下達も一斉に城へ急降下を開始し、ジェットエンジンの轟音を響かせながら上空から城の中央一点へ目掛けて急降下を始めたのだった。
「目標固定。全弾投下、全弾投下。投下完了」
「投下完了、了解!離脱!」
後部座席に座るウッツがヘッドアップディスプレイでラオヴィリンナ城を爆撃目標として固定すると、翼下のハードポイントに固定された全ての爆弾を放った。
淡々と後部座席の兵装担当として職務を熟したウッツの報告に応答すると、ルーデルは一気に機体の機首を引き上げ外から見ても無理矢理と言えるような急上昇を行った。彼が機体を上昇させる1秒と掛からない間に、着弾の猛烈な振動がルーデルとウッツを襲ったのだった。
[うおぉ…ウッツ!無事か、生きてるか?]
[あ~!馬鹿野郎!2年ぶりに死ぬかと思ったわ!今の何だ、投下高度から100mは下だったぞ!]
["相手の白目が見えるくらいまで接近"!これが必中の法則だ!]
[阿呆!最低高度200mは切ってたぞ!自分の落とした爆発に巻き込まれたらどうすんだ!]
[まぁ、生きてんだから良いじゃんか?って、おい、お前ら!何で先頭切ってた俺達が、一番最後に編隊へ合流すんだ?]
[ルーデル大佐、全員が貴方みたいな不死身だったり無敵神話を持ってないんですよ]
[誘導爆撃なんてのは大型機がするもんなんだよ!]
爆撃の振動を背に受けて一瞬驚くルーデルは、後部座席のウッツへ無事を尋ねた。その言葉に返ってきた彼の言葉は怒りや恐怖を通り越し、呆れと自分の無事に驚いた事によって大声となっていた。
既に上空で編隊を組む部下達の元へと喧嘩をしなが上昇するルーデルは、それについて言い返す部下の言葉を聞くと言い返しながら編隊の戦闘へ戻るのだった。
「ルっ…ルーデル大佐達はなんて無茶を…そもそもSC103爆弾の投下高度は700mだというのに…」
[ブリュンヒルデ少将、敵首都の状況は?送れ]
「はっ、はい!ロータル元帥、我ら艦隊の絨毯爆撃は成功。ほぼ全ての区画に着弾を確認。第2次攻撃の効果も確認。要撃機等は一切反応無しです。送れ」
[了解した。こちらはこのまま本土への帰還航路を取る。残りの爆撃隊やその護衛隊も合流させろ。他の航空艦隊はどうか?送れ]
「はっ、全ての艦隊から作戦成功の連絡がありました。他艦隊は第2次攻撃を含め予定より10分早く任務完了との事です。送れ」
[なら、航路の殿は我々か。了解した、全機に帰投命令を出せ。通信終わり]
「帰投命令、了解しました。通信終わり」
無線で筒抜けとなっていたルーデルの言葉に、空中警戒管制機の中のブリュンヒルデが驚きながら呟いた。
そんな驚愕の覚めないブリュンヒルデにロータルから無線の通信が飛ぶと、彼女は彼の質問に計器や観測データを確認しながら答えたのだった。その報告に満足感の解る声で反応したロータルの帰投命令が出ると、ブリュンヒルデは復唱しつつ安心に肩を落とした。
「演習作戦参加中の第1航空艦隊所属の全ての航空団へ。演習終了!速やかに本国へ帰投せよ!繰り返す、演習終了!速やかに帰投せよ!」
機体下方のカメラで止まらない爆発によって崩落する敵城と自分達の爆撃で燃えていない場所が完全に無いエスペレンキの街を見つつ、ブリュンヒルデは帰投命令を出すと機体内の席に倒れるように座り込んだのだった。
帝国歴2445年1月1日。帝国国防空軍の初陣は、"リリアン大陸に存在するフィントルラント精霊国とノーベル帝国、デルマーク王国とニーノモール王国の全4ヶ国首都へ壊滅的打撃を与え無傷の帰還"と言う奇跡となったのだった。
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